対魔忍RPG 『怒れる猫と水着のお姉さま』  制作雑感

『怒れる猫と水着のお姉さま』は、2020年の水着イベントの第二弾だ。

第一弾の『渚の魔女と小さな騎士』はちょっと切なくていい話だったが、こちらは切なくもなんともない与太話になっている。

さくらとのアルバイト、それを監視している時子、その周りで色々と事件が起きて、ラスボスはクラクルという軸は決まっていたので、他に誰を出して何を起こすかを考えていった。

 

「誰」については、まず新しい水着キャラはとにかく出すことにした。

ラクル、時子、エレーナ、レーベ・サフリーの4人だ。

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※左から、クラクル、時子、エレーナ、レーベ・サフリー

さらに、プレイアブルになっているが、まだイベントに登場していない水着キャラも登場させると決めた。

制作時期が同じくらいだったため、水着イベント第一弾のキャラは被らないように除外することにして、アイナ・ウィンチェスターは『危ないサマービーチ』で出ているのでこれも除き、残っているのはイングリッド 、ドナ・バロウズ、由利翡翠の3人だった。

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※左から、イングリッド、ドナ・バロウズ、由利翡翠

水着キャラ総勢7人。

おっと、さくらも水着になるから8人。これは豪華だ。

後は適当にキャラを組み合わせて、話を作っていくだけだ。

 

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まずは、米連繋がりでドナ・バロウズとレーベ・サフリー。

ドナは『勇者(エインフェリア)の憂鬱』でふうま君ともう会っているので、新キャラのレーベとの仲立ちを頼むことにする。知り合いがいると話が早い。

ドナとレーベのペアについては、ドナは生真面目、レーベは戦闘狂と性格は全く違うが、二人とも兵士として己を高めようとしている点が共通しているので、気の合う者同士として登場してもらった。偶然だが、二人とも水着なのに武器を持っているので見た目も揃っている。

だから、この二人が出てくる時の敵は、己を高めようとしていない米連のバカ兵士になった。

鬼神乙女イベントからの流れで、ドナにはその後のことや、アスカへのバレンタインのお返しについて話してもらった。

先のエピローグでは、ふうまのお返しに文句を言おうとしていたアスカだが、実はドナには自慢していたり、その箱まで大切にとっているのがバレている。

そういうアスカは可愛いと思うが、もうちょっと素直になった方がいいと思う。

 

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エレーナとイングリッドは、もちろんノマド繋がりだ。

この二人だけで海に泳ぎにくるという状況はちょっと考えられなかったので、ノマドの慰安旅行で来ているということにした。

『魔界騎士と次元の悪魔』で、ノマドの少なくともイングリッド組はそんなことをしてもおかしくなさそうなフレンドリーな軍団に描いておいたのが役に立った。

もっとも、連中がどうやって海に来たのかは気になるところだ。

みんなで電車に乗ったのか、誰かが運転するマイクロバスでも使ったのか、どっちにしても妙な絵面だ。

そのせいか今回、イングリッドも妙に気が抜けた感じで、生徒同士の旅行になぜかついてきている先生のようになってしまった。

 

エレーナをどう扱うかだが、コミカルイベントだし、敵としてふうま君やさくらと直に戦うような展開は避けたかった。

ただ、海で偶然に出会って、そこに誰かが絡んできて共闘というのはドナとレーベでやったばかりだ。それとは違う形にしたいところだ。

そこで、エレーナは魔界で仲間と逸れていたのをノマドに救われたという過去から、一人ぼっちになるのを恐れているという設定を使った。

ちょうど羊の浮き輪を持っている絵だったので、海でプカプカ遊んでいたら流されてしまい、気がついたら一人でパニックになって、つい召喚魔法を使ってしまったという流れになった。

モンスターが現れた原因ではあるが、敵にはならない、むしろ助ける相手という落とし所だ。

もっとも、せっかくSDキャラがあるので、三番目の相手として戦闘場面には出てもらっている。

 

エレーナが呼び出すモンスターは、使い回しの雑魚であれば何でもよかったのだが、今回どこかで海らしい敵を出したかったので、異次元クラゲ事件で接点のあった魚とイカを使うことにした。

それでさらにパニックに陥るエレーナを助けるのが、やはり異次元クラゲ事件で出会ったキャラ、つまりさくらだ。若い方だが。

一人ぼっちでいるところに見覚えのある人が現れれば、エレーナが思わず泣きついてもおかしくない。

イベントの蓄積があると、本当に話が作りやすい。

 

エレーナを助けた後、ふうま君とさくらとで仲間のところに連れていくことになるわけだが、ノマドのみんなで来ていることにしたので、イングリッド先生の他に誰か出したくなった。

引きこもりのドロレスは海になど来ないだろうし、ここはやはりリーナの出番だ。

しかし水着がない。

私服っぽいのは、【a.k.a 嵐騎】リーナのみだ。

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a.k.a.嵐騎】リーナ

これは、すーぱーそに子コラボ『そに子、対魔忍になりまうs♪』の時に使わなかった素材だ。つまりイベント初登場となる。

なんという幸運、フレーバーセリフでラップがどうのこうのと言ってるから、浜辺のラップ大会にでも出てることにするか。

なんて軽く考えたのが運の尽き。おかげでえらい目にあった。その話は後ほど。

 

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一方、ふうま君とさくらが色々とトラブルに巻き込まれている後ろで、その二人を監視していた時子もナンパ男に絡まれている。

監視に夢中の時子が無意識にナンパ男を倒していたからという理由だが、そいつらにどんな絵を使うかが悩みどころだった。

ここも既存のモンスターを使い回すとして、水着イベント第一弾でタツヤ先輩という金髪、日焼け、サングラスのいかにもなナンパ男が出てきたので、それと同じような見た目にはしたくない。

お馴染みのチンピラでも使うか、でももう少し面白い素材がないかなと探していたら、『対魔忍アサギ~決戦アリーナ~』に【南の島】忍熊という、忍熊が麦わら帽子とアロハを付けているという愉快なキャラがいた。これはいい。

そこで似たような感じで、オークみたいなナンパ男、トロールみたいなナンパ男と差分キャラを作ってもらった。

 

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※左から、クマオ、ケンジ、ジュンヤ

この差分三人組も含め、シナリオ中ではナンパ男たちに対して、忍熊、オーク、トロールといった言葉は一度も使っていない。そこは気を使った。

元になった忍熊のクマオも「浜で一番毛深い男」と自慢するだけだ。

もっとも、人間とも言及していないが。

 

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残った水着キャラは翡翠とクラクルだ。

ラクルは毎回のセクションでちょこちょこ登場していて、ラストで大きく絡ませるつもりなので、ここで翡翠とのペアでは出せない。

しかし、翡翠はもともと一人でいることが多いという設定なので、一人で出しても全く問題ない。いやありがたい。

敵をどうするかだが、ドナとレーベは人間、エレーナは海の生き物、時子はモンスターみたいなナンパ男ときて、この後のクラクルは猫軍団と決めていたので、なんでもいいから違う見た目にしたかった。

翡翠の設定を見ると、森で野鳥と戯れるのが好きとある。イベント初登場なのでもちろんこのネタは使ってない。

じゃあヒッチコックの「鳥」みたいにバサバサ出そうかと思ったら、肝心の鳥素材がない。

それっぽいものと言えばハーピーだけだ。

というわけで、怪しい鳥笛でハーピー大襲来という展開となった。

 

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ラストはクラクルの出番だ。

最初はライフセーバーのバイトとして、ビーチの平和を守るため、ふうま君たちの前に立ち塞がるだけだった。

それがドタバタの締めということで、猫仲間のカノンとメルシーが助っ人に現れ、『鋼鉄の魔女アンネローゼ』からの流用で猫又もやってきて、時子とナンパ男たちも乱入し、戦闘画面では戦うがストーリー上はふうま君たちそっちのけで大乱闘になるというオチに決まった。

 

こんな感じで、使える水着キャラを全部出すという素材先行のコンセプトで始めたが、今までの蓄積やら、たまたまのキャラ設定やらを使ってなんとか一つの流れにしている。

ただ、色んな水着キャラが次から次へと出てきてドタバタするだけだと物足りないので、もう一本軸を作ることにした。

 

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それがふうま君とさくらの仲の良い光景だ。

海の家で一緒に働いているシーンから始まって、タイマファイブごっこでふざけあったり、イングリッドの水着を喜ぶふうま君にプンスカしたり、ケバブを食べ歩きしたりと、ごく自然に仲良くしている。

時子が「二人だけにしたら過ちがあるのでは?」と不安になるのも無理はない。

 

このあたりのイチャイチャ、半分くらいはプロットで決めていたが、後の半分はシナリオの時に即興で書いた。

先日、"「ゲームシナリオライターはプロットをガチガチに指定されているから自由に書けない」のは本当か? - Togetter”という記事がちょっと話題になり、私もレスを入れたが、このさくらとのやりとりのように本筋にあまり関係ない部分はシナリオで自由に書きやすい。

プロットで脇の話を細かく書きすぎると本筋の流れが見えにくくなるので、プロットではわざとさらっと書いておいてシナリオで詳しく書くこともあるし、プロットのちょっとした一文をシナリオの時にアドリブで膨らませることもある。

例えば食べ歩きの場面、プロットでは「そのへんの屋台で串焼きなど買って囓りながら帰る」としか決めていなかったのだが、楽しいやりとりになりそうだったので、そこまで書いてきたノリでシナリオにした。

もともと私は食事のシーンが好きで、なにを食べるか、どう食べるかでそのキャラらしさが出せると思っている。

対魔忍RPGでも、稲毛屋のアイスをはじめとして、おにぎり*1、おはぎ*2ハンバーガ*3と色々出してきたし、以前このブログで公開した七瀬舞のSSでもホットケーキを食べている。

ここでも、さくらから一口ちょうだいと言いだし、ふうま君の食べかけを普通に齧り、お返しにふうま君も食べさせてもらい、もうそれでいちいち間接キスだの言い出したりしない今の二人の関係がいい感じで描けたと思う。

ちなみに、蛇子だったらやっぱり気にしないが内心ではちょっと喜び、ゆきかぜだったら食べる前に一言文句を言い、きららだったら「そんなの気にしないのが大人の女」と無理をして後で赤面し、アスカだったら食べてから「私と間接キスできて嬉しい?」と回りくどくアピールするといった反応になるだろうか。

 

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最後に、リーナのラップについて述べておこう。

今回、水着キャラがメインなので、リーナはチョイ役、エレーナをイングリッドのところに連れていったら、ちょうどラップ大会で鐘一つになっていたという展開だ。

だから、それっぽいフレーズが一言二言あればいいかくらいに考えていた。

ところが、あらすじを見てもらったところ、「ラップを収録して流しましょう」という反応がきた。

えらいことになった。

収録するからには、一言二言ではどうしようもない。ある程度の量がなければダメだ。

ラップなど今まで作ったことはないが、自分から振ったのでやるしかない。

YouTubeでラップを探して聞いてみたり、歌詞の作り方のABCを調べたり、泥縄で夏のビーチっぽいラップを一つ二つ作ってみた。

しかし、どうもしっくりこない。

多分、下手くそなラップになっているのだろうが、それはリーナが作ったということでいいとして、全体的にちっともリーナっぽくない。なにか違う。

さあて困った。

「リーナっぽいラップ」がなんなのか分からない。

どうしようかと考えながら、そのころ気分転換に最初から見直していた『勇者王ガオガイガー』をぼんやり眺めていたら、「ガガガ・ガガガ・ガオガイガー!」とオープニングで連呼していた。

あ、そうか、これでいけばいいんだ。

リーナに魔界騎士である自分のことを歌わせればいい。

どんなラップになろうが、それは間違いなくリーナらしい。

今までのフレーバーから聴き慣れたセリフを持ってきて、必殺技も連呼して、強引だろうがなんだろうが無理やりラップぽく繋げてみよう。

てな感じで生まれたのが、この『魔界騎士だぜヘイチェッケラ!』だ。

 

  ヨー、魔界騎士、ヤバイ意思
  嵐騎のパッション、本気のアクション
  たぎる衝動、唸る戦場
  どんな敵でもイェイ上等
  とくと拝みな、桜嵐舞闘(ろうらんぶとう)
  バシュッと鞘走るサウザントバニッシュ
  ステルス暗ますブロッサムステップ
  ひらりひらり躱してチェリーフラーリィ
  やつらにカマすぜサクラにアラシ
  今の限界
  越えてオーライ
  無理なんてない
  飛べフライハイ
  イェイ華麗に、イェイ軽やかに
  サクラブロッサムで道を開く
  魔界騎士だぜヘイチェケラ

 

 

こんな妙なものを歌ってくれたリーナ役の烏丸そらさんには本当に感謝している。

リーナにもイベント中で全部歌わせてあげられなくて悪いことをしたので、この後日談フェンリルと一緒に思い切り歌ってもらった。

 

ということで、今回はこの辺で。

 

*1:ジューンブレイド狂想曲

*2:勇者(エインフェリア)の憂鬱

*3:コーデリアのふたり姫

対魔忍RPGショートストーリー『魔界騎士とラップと大きな犬』

「ヨー魔界騎士、ヤバイ意思か……はぁ」
 魔界騎士リーナ、またの名を【a.k.a.嵐騎】リーナは、夕闇迫る地上の川のほとりで一人ため息をついていた。
 ここはノマドの日本支部がある地下都市ヨミハラからもほど近く、リーナの故郷である魔界のレーヌ川に雰囲気が似ていなくもないので、色々と失敗したり落ち込んだときに気持ちを慰めるのにちょうどいいのだった。
「まさか鐘一つとは。イングリッド様も期待してくださっていたのに。なんという不覚、うう」
 先日、ノマドの面々と海水浴に行った際、リーナは浜のラップ大会に出場したのだが、とっておきのラップ『魔界騎士だぜヘイチェッケラ!』があろうことか鐘一つという結果に終わってしまった。
 魔術師のエレーナはもちろん、他の仲間たち、それから敬愛するイングリッドも頑張ったと言ってくれた。
 けれど、ひょっとして優勝してデビューしてしまうかもしれない、そしたらジャケ写はこんなポーズにしようとか、いや待て自分は誇りある魔界騎士だ、趣味ならばともかくプロのラッパーになるわけにはいかないとか、あれこれ色々考えていただけに、まさかの鐘一つは本当に本当にショックなのだった。
 リーナはこんな時に似合う仕草、つまりしゃがんで川に石を放り投げながら、なぜ駄目だったのかを考えていた。
「やっぱり私自身を歌ったのが良くなかったのか? 確かに凛々しくてカッコいいイングリッド様を称える歌なら優勝は間違いなしだったろうが、魔界騎士としてイングリッド様に遠く及ばぬ私がそれを歌うというのは……うう、駄目だ。そんな恥知らずなことはとてもできない。イングリッド様に呆れられてしまう。ああっ、私がもっと魔界騎士として勇名を馳せていればっ、私自分が情けないっ、くそおおお!!」
 とまあ、リーナが悶えながらやたらめったら石を投げていると、
「ぐるるる……」
 うるせえなあという感じの低い唸り声がすぐそばでした。
「はっ!!」
 リーナの身体が強張った。
 この嫌な声はまさか、まさか……。
 声がした方に恐る恐る顔を向けると、

「うわあああ! すごく大きな犬っ!!」
 身の丈10メートルはあろうかという巨大な犬がそこに居座っていた。
 銀色の身体のあちこちに太い鎖を絡みつかせた凶悪極まりない顔つきの犬だ。
 なにが嫌いと言って、犬ほどリーナの嫌いなものはない。
 イングリッドに出会うずっと前、今よりずっとずっと弱かったリーナはある高位魔族の家でメイドをしていた。
 そこにはとても意地悪で凶暴な犬がいて、そいつに吠えかけられた恐ろしさ、何もできなかった悔しさが身体に染みついてしまった。
 だから犬などより遙かに強くなった今でも、その姿を見るだけで、その声を聞くだけで身体が竦んでしまう。
 まして、いつのまにかそばにいたそいつは、 今まで見たことのないような巨大な犬だ。
「わっわっわあああああああ!!」
 リーナはアタフタと立ち上がろうとするが、みっともなく足を絡ませ、その場にべたんと尻餅をついてしまう。
 大きな犬はそんなリーナにのっそりと近づいてきた。
 吠えられる! 噛まれる!
 怖い怖い怖い!!
「うわああああ、来るな、来るなああああっ!」
 だけと、そいつは吠えもしないし、噛みもしなかった。
 ジタバタするリーナに前足をちょこんと伸ばすと、背中をポンと押して身体を起こしてくれた。
「ふえっ?」
 リーナはキョトンとした。
 こんな大きくて凶悪そうな犬がこんなことをしてくれるなんて信じられない。
「ぐるる……」
 そいつは「驚かせてごめんな」という感じの唸り声を出して、リーナから離れていった。
 そして、さっきまでの彼女と同じように川辺にぺたんと座り込んだ。
 その横顔と背中がなんとなく寂しげだ。尻尾もだらんと力なく垂れている。見れば、右の前足を怪我していた。爪のあたりに包帯が巻かれている。
「お、おい、そこの犬、お前、もしかして落ち込んでいるのか? それとも足の傷が痛むのか? だ、大丈夫か?」
 リーナはその大きな犬に恐る恐る声をかけてみた。
 犬は苦手だが、苦しんでいる者を助けるのは魔界騎士の務めだからだ。
 もちろんそばまで寄ることはできないので、遠巻きからそっとという感じだったが。
「ぐる?」
 大きな犬は座ったまま顔だけこちらに向けた。やはり悲しそうな顔をしている気がする。
 少なくとも、リーナがただ道を歩いているだけで通りの向こう側から激しく吠えかけてくるような、まったく意味の分からないそこらの犬とは違う――と思う。
 とはいえ相手は犬だ。なにをするか分からない。
 急に凶悪な本性を現しても逃げられるように、刺激しないように言葉を選んで、穏やかに話しかける。
「ここは私のお気に入りの場所だが、し、しばらくならそこにいてもいいぞ、うん」
「くーん」
 通じたのか通じないのか分からないが、大きな犬はやはりちょっと元気のない声で返事をした。
「そっちも元気ないの?」と聞かれた気がした。
「わ、私か? 私はラップ大会で尊敬するお方の期待に応えることができずに、まあ落ち込んでいたんだ。ちょっとだけだけどな」
「ぐるる?」
 犬の声の調子が少し変わった。
 リーナは反射的にビクッとしたが、別に噛みつこうとかしたわけではないようだった。
 なんとなくだが、ラップについて詳しく聞きたがっているようだ。
「私自身を歌ったラップなんだ。自信作だったけど、大会ではあえなく鐘一つだった。情けない限りだ」
「ぐる、ぐるるる?」
「なんだ? もしかして聞きたいのか?」
 リーナが尋ねると犬はこくんと頷いた。どうやら人語を解するようだ。
 確かにこれだけの大きさ、銀色の見事な毛並み、身体に巻かれた曰くありげな鎖、なにより犬とは思えない気配り、ただの犬ではなさそうだ。
「よ、よし、ここで会ったのも何かの縁だ。歌ってやろう。心して聞くんだぞ」
 リーナはスーッと息を吸って、大会では最後まで歌うことのできなかった曲を歌い始めた。
「ヨー、魔界騎士! ヤバイ意思っ!
 嵐騎のパッション! 本気のアクション!
 たぎる衝動っ! 唸る戦場っ!
 どんな敵でもイェイ上等!
 とくと拝みな、桜嵐舞闘イェーイ!」
「ぐるっ、ぐるっ、ぐるぐるぐるっ」
 犬は大きな身体でリズムをとり始めた。萎れていた尻尾もツンと立って、右に左に心地よさそうに揺れ出す。
 喜んでいるらしい。
 リーナは嬉しくなった。
「なんだお前、私のラップが分かるのか? 犬にしては見上げたやつだな。よーし、私についてこいっ!」
 リーナは大きな犬に言うと、全身でフロウを決め、ライムを刻み始めた。
「バシュッと鞘走るサウザントバニッシュ!
 ステルス暗ますブロッサムステップっ!
 ひらりひらり躱してチェリーフラーリィ!
 やつらにカマすぜサクラにアラシっ、わお!!」
「ぐるぐるくーん! くくんくーんっ!」
 大きな犬も身体をフリフリ、尻尾をぶんぶん、すっかりノリノリだ。
「今の限界、越えてオーライっ!
 無理なんてない、飛べフライハイっ!
 イェイ華麗にっ! イェイ軽やかにっ!
 サクラブロッサムで道を開くっ!
 魔界騎士だぜヘイチェケラ!
 いぇーい!!」
「きゃうんきゃうきゃうん!」
 大きな犬はいきなり身体をぐりぐりとリーナに擦り付けてきた。
「うわわわわわわっ!」
 反射的に身体が竦んでしまうが、この犬が楽しくてじゃれついているのはさすがに分かる。
「は、はは……そ、そうか、そんなに気にいってくれたか。う、うん、私も嬉しいぞ。せっかくだから身体を撫でてやろう、よ、よしよし」
 リーナは恐々とだが、生まれて初めて犬を、その大きな犬を撫でてやったのだった。
 ごわごわしてるように見えた銀色の毛はまるで絨毯のように柔らかで、今まで嗅いだことのない優しい匂いがした。

 

 いつのまにか夜の帳が降りていた。
 けれど落ち込んでいたリーナの気持ちはすっかり晴れていた。
 この大きな犬と一緒に思いっきり歌ったおかげだ。
 向こうもどうやら元気になったようだった。
 今はリラックスした様子で大きな身体をリーナのそばに横たえている
 彼女のラップがよほど気に入ったらしく、尻尾がまだフリフリとリズムを刻んでいた。
「よし、そろそろ帰るか!」
 リーナはすっくと立ち上がった。
「くーん?」
 大きな犬は「もう帰るの?」と言いたげなちょっと甘えた顔をしたが、
「お前にもその包帯を巻いてくれた主人がちゃんといるのだろう。帰るのが遅くなって心配させてはいけないぞ。私も戻ってイングリッド様に改めて私のラップを聞いていただくつもりだ。観客などイングリッド様お一人で十分だからな!」
「くくーん、わん!」
 大きな犬も分かってくれたようだ。最後に一声鳴くと、ビュンと風のようにどこかへ走り去っていった。
 さっき嗅いだ不思議な匂いがしばらくの間、川のほとりに残っていた。

 

「あっ、リーナさん……おかえりなさい」
 ヨミハラの闇の宮殿に戻ると、なんだか騒がしい。
 大部屋のテーブルに山のような服を置き、姿見をずらりと並べて、大勢で服をとっかえひっかえワイワイ騒いでいる。
「エレーナ、これは何事だ?」
「こ、衣替えです」
 魔術師のエレーナがなんだか疲れたような顔で言った。
「衣替え?」
「な、夏で暑いというので、みんなで衣替えしようと……わ、私も着せ替え人形にされて……すごく疲れました」
「でも、それはいつもと同じ服だな」
 そう指摘すると、エレーナはビクッとして一歩後ずさった。
「こ、これはしょうがないんです……魔術師のローブはそれ自体、魔力を高めるためのものですから……あ、暑いからといって、その……着替えるわけには……」
「うむ。それは私も同じだ。というか、心頭滅却すれば火もまた涼し。魔界騎士たる者、暑いからといってチャラチャラ衣替えなどするわけにはいかないからな」
 リーナは今日も自分でコーディネートした魔界騎士らしい格好だ。
 白いブラウスに赤いチェックのミニスカート、黒のガーディガンは彼女の魔力を具現化したものだ。
 太ももとおへその露出はもちろんイングリッドのセクシーでカッコいい姿を意識している。誰も気づいてくれないが。
「はあ……そうですか」
 エレーナは頷いたが、ふいに「あれっ?」という顔になった。
「リーナさん、その守りはどうしたんですか?」
「守り? なんのことだ?」
「い、いえ……リーナさん、不思議なオーラで守られてます。ちょっと失礼しますね」
 エレーナはリーナに向かってちょいちょいと杖を振った。なにかを調べているようだ。
「やっぱりリーナさん、守られてますね……魔法じゃないみたいですけど……多分、しばらくの間、リーナさんとその周りにいる人を……ええと石化から守ってくれるはずです……なにかあったんですか?」
 エレーナは不思議そうだ。
 だが、リーナにはまるで心当たりはない。
 もしかしたら、あの大きな犬と一緒にラップを歌ったせいだろうか? そんなことがあるのか?
「あっ、リーナ! どこ行っていたの? あなたにもお洒落な夏服を用意してたんだから。ほらこれ可愛いでしょ、ねえ着てみて!」
 衣替えに夢中だった仲間たちがリーナに気付いてやってきた。両手にいっぱい服を抱えている。
「な、なんだこの服は? こんなが、がーりーな服を私が着れるわけがないだろう、私は魔界騎士だぞ!」
「いいからいいから。ほら、着替えさせてあげる。みんな手伝って!」
「ひゃっ、なにをする?? わわわっ、やめろーーーーっ!!」
 リーナはノマドの女子軍団にズルズルと引きずられていった。
「リーナさん、頑張ってください……」
 さっきまで彼女たちの玩具になっていたエレーナは同情するように言った。
「あれ?」
 リーナがいた場所にキラキラした細いものが落ちている。それを拾った。強い魔力を感じる。
「これは……もしかしてフェンリルの毛? じゃああの守りも?」
「ど、どうせ着るならイングリッド様みたいにしてくれ! 私はクールでスタイリッシュな服が好きなんだ! うわわわわわわ!」
 詳しく尋ねようにも、リーナは揉みくちゃにされて着せ替えの真っ最中だ。
 石化を防いでくれる守りも着替えからは守ってくれないのだった。

 

(了)

 

【制作後記】

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【サマーストーム】リーナが実装された。

ガーリーなポニーテールがとんでもなく可愛いのだが、それだけではなく「部隊全体の石化耐性」という驚くべき能力を備えている。

「リーナがなぜそんな能力を?」という疑問から思いついたショートストーリーだ。

イベント「勇者の憂鬱」と「怒れる猫と水着のお姉様」の後日談でもあり、とばっちりで酷い目にあわせてしまったフェンリルと、ラップ大会で鐘一つにしてしまったリーナへのちょっとしたお詫びだ。

前にアップした舞のショートストーリーと比べると量もずっと少ないし、ワンアイデアの小品なので、軽い気持ちで読んでもらえると嬉しい。

ではまた。

 

【追記】

旭氏がこんな素晴らしい絵をアップしてくれた。感無量。ありがとうございます。

 

 

対魔忍RPG 『勇者(エインフェリア)の憂鬱』 制作雑感

 

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『勇者の憂鬱』は、鬼神乙女(ワルキューレ)のブリュンヒルドが初登場となるイベントだ。

彼女は決戦アリーナでも実装されていて、この異形の変身ヒーローみたいな姿がそのまま全裸という、デザイン面でトップクラスに突き抜けているキャラだ。

それでいて決戦アリーナでは結構な人気者であり、対魔忍RPGでも初登場にしてガチャSRキャラとなった。

私は決戦アリーナでは担当していなかったが、ずいぶんと昔にルネソフトの『戦乙女ヴァルキリー2「主よ、淫らな私をお許しください…」』に関わったことがあり、久しぶりのワルキューレを楽しく書かせてもらった。

 

今回、イベントを設計するにあたって、このブリュンヒルドと、報酬キャラのドナ・バロウズを出す以外に一つ要件があった。

それは、自分より強い男としか生殖しない種族のブリュンヒルドがふうまの子種を狙ってくるような展開にして欲しいということだった。

 

エロゲではよくある話だが、これはなかなか難しい。

なにしろ、ふうま君とブリュンヒルドはまだ出会ってもいない。

知り合いのゆきかぜやアスカあたりだったら、呪いとかの適当な理由で「自分が一番強いと思う男の子種を手に入れなければならない」という強制ミッションでも与えて、とっとと子種争奪戦を始めることができる。

ふうま君はとんちで戦うタイプなので、単純な戦闘力だけならふうま君を圧倒しているヒロインが「自分とは違う強さを持っている男」と認識していてもおかしくない。

というか、今のところそういう流れで、ふうま君は人脈をやたらと広げている。

 

この流れでいくと、ブリュンヒルドも出会ってしばらくはふうま君のことを弱いと思い、イベントの出来事を通して自分にはない強さをもった男であることに気付き、その子種を欲しくなるという展開が一番オーソドックスだ。

ただそれだと「子種を狙ってくるような展開」ではなく、その前段階の「結果、子種を狙うことになる展開」になってしまう。

せっかく、子種を求めて三千里という内容なのでもう少しはっちゃけたい。

 

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そこで、出会いとか認識の変化とか面倒くさいことはやめて、ふうま君にはいきなり「子種男」になってもらった。それはそれでエロゲらしい。

鬼神乙女が天帝の言うことにはよく従うという設定が役に立った。

神様のお告げならしょうがない。

ということで、100年に一度の勇者(エインフェリア)という設定をいきなり作った。

また、鬼神乙女という種族からして初登場なので、ブリュンヒルドだけでなく、他の鬼神乙女にもわんさか出てもらって、そういう変わった連中だとまず示すことにした。

決戦アリーナで普通の鬼神乙女のイラストがあったのが助かった。

さすがに絵なしでは間がもたないし、やったとしても男に免疫のない女学生みたいな鬼神乙女たちがワイワイやっている面白さは半減してしまったろう。

 

ついでに、あるキャラを立てるには、そのキャラが所属するグループの中ではちょっと変わっていることを示すのがてっとり早い。

チーム物で言うと、「俺はまだお前をリーダーと認めたわけじゃねえ」みたいなニヒルな奴だ。

てなわけで、予想外のお告げに議論百出な鬼神乙女たちに対して、ブリュンヒルドが一人だけ違うことを言い出すという導入になった。

 

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このプロローグ、元々は鬼神乙女たちが弱い人間を普通に嫌がっていて、ブリュンヒルドだけが冷静にその資質を見極めようとしているニュアンスのつもりで書いた。

ところが、全体を仕上げてから見直したら、最初から子種ゲットする気満々の鬼神乙女たちが、人間だからとケチをつけることで抜け駆けしようとしているのを、ブリュンヒルドが一人だけ空気を読めていないみたいな印象に変わっていた。

調子に乗って鬼神乙女をキャピキャピに書きすぎたせいだ。

予定外だったが、ブリュンヒルドがみんなと違うことが示さればいいし、かえって面白かったのでそのままにしておいた。

 

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場面変わって、合同訓練のシーンになる。

出てくるのはドナ、アスカ、奈々華だ。

ドナは今までドナ・バロウズ【ビーチウォリアー】とユニット化されていたが、【試験兵装】として初めてのイベント登場となる。

彼女もふうま君とは初対面なので、その仲立ちとしてアンドロイドアーム繋がりのアスカに出てもらった。

以前に、アスカが主役となる『降ったと思えば土砂降り』で、ドナをちょっと出しておいたのが役に立った。

せっかくなので、アスカには今までイベントでは使っていなかった【支援型兵装】の絵を使い、続く模擬戦でも後方からの支援に徹してもらっている。

 

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同じ理由で、『不死の兵士』で既にアスカと知り合っている奈々華も参加している。

今回、アスカのバレンタイン話にもけりをつけるつもりだったので、ドナにはアスカが愚痴っているだろうし(だからふうま君に教えている)、奈々華もその件は知っているので、説明の手間が省けてちょうどいい。

むろんそれはこっちの事情で、物語的にはアスカが「もう一人くらい対魔忍に参加して欲しいわね。じゃあこの前会ったあの子にしよっと」てな感じで呼んだのだろう。

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このバレンタインのお返し話については、別に今回のイベントでなくとも、ふうま君がアスカと再会したときにやろうと思っていた。

だから今回やったのは偶然なのだが、ちょうど恋愛関係で直球すきる鬼神乙女たちが出てきたので、逆に周りくどすぎるアスカといい対比になっている。

このタイミングで子種ゲットという馬鹿馬鹿しい恋愛イベント要件があってラッキーだった

 

オチに使ってしまってアスカには悪いことをしたが、二人の関係からすると今さらメル友というのは悪くない。

アスカにとってのふうま君は米連の仲間とも、戦いとは関係ない学校の普通の友達とも違う相手だ。

「鋼鉄の対魔忍」という自分の正体を知っていて、だからといって特別扱いもせず、そんなにしょっちゅう会うわけでもない、それでいてなんか気を許せる異性だ。

だから、他の人とはしにくい話がふうま君とだけはできて、それを続けるうちに、気がついたらお互いのことをすごく深く知っていた。あとはもう既成事実だけというルートが狙えるかもしれない。

そうなるといいな。頑張れアスカ。

 

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一方、アスカが「何にも考えてない」と評したように、お返しをアスカと同じ店で買うのはふうま君らしい適当さだが、その選択は大正解ではないが、大失敗でもないと思う。

そういう店では大抵、ホワイトデーフェアと称して期間限定品を売っているし、「一番好きな店」というアスカの台詞を忘れなかったのはえらい。変に工夫を凝らしてガッカリされるよりはマシだ。

アスカも口では文句を言いつつ、「あいつ、あの店までわざわざ行ってくれたんだ。えへへ」とか内心でニヤついてるに違いない。

ちょうどこれの次の担当イベント『怒れる猫と水着のお姉さま』で、水着キャラということでまたドナを出せたので、そのへんの後日談を語らせている。

 

本筋に話を戻して、ふうま君が戦っているのをもう少し見たいという鬼神乙女たちの希望により、フェンリルパピーがけしかけられる。
もちろん、そんな希望は叶えさせたくはないので、ふうま君はドナを連れてとっとと逃げ出す。

アスカと奈々華にはそろそろ退場してもらって、ドナと二人っきりにするためでもある。
ドナの試験兵装がその名の通りまだ完全ではない、すぐオーバーヒートするという設定が役に立った。
ドナがまだ動けないから、残る三人で一番戦闘力の低いふうま君が安全な場所に連れて行く。実に自然だ。
それでいて、事情を知らない鬼神乙女たちからは「なんだあいつ!?」ということになる。
ついでに、初登場のドナにお姫様抱っこというサービスもしてあげられる。

いいこと尽くめだ。

もっとも、アスカはふうま君に抱き抱えられてるドナを見て内心ビキビキしていただろう。

 

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そこからは鬼神乙女たちの独壇場だ。
まずは決闘を申し込んでわざと負ける女だ。
ふうま君が一対一で鬼神乙女と戦うという展開は最初から考えていたが、それをどう処理するかはちょっと悩んでいた。
叶うわけがないのは最初から分かっている。

しかし、とんちでなんとかするのは早い。
まだ中盤。ここで別の強さをアピールしてもらっては困る。

 

そもそも子種云々はともかく、自分より強い相手としか付き合わないというヒロインはそれほど珍しくない。
また例が古いが、私にとっては『サクラ大戦』の桐島カンナ、『to Heart』の来栖川綾香あたりだ。
ただ、このへんのちゃんと勝負をするイメージに引っ張られていたらしく、ふうま君にどうさせるかではなく、鬼神乙女が「しきたりは守らないといけないので、わざと負ける」というのを思いつくまで少し時間がかかった。
とてもバカバカしい展開で、これでイベントの方向性がばっちり決まった。

そのお礼の意味で、彼女にはオペラ『ワルキューレ』のメインキャラ、ジークムントの妹にして妻でもあるジークリンデの名前をプレゼントした。
ついでに、抜け駆けをするなと乱入するもう一人の鬼神乙女テューレは、北欧神話の軍神テュールをもじっている。勇敢な神だそうだ。

 

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抜け駆けコンビから逃れ、ふうま君とドナはひとまず洞窟に隠れる。

仲間と連絡もとれないし、ここで二人をちょっと良いムードにする手もあったのだが、もうお姫様抱っこで照れさせているし、まだそれほどの仲ではない。

というわけで、ふうま君が冷静にドナと話していると、横でこっそり聞いていたブリュンヒルドが我慢できなくなって勝手に出てくるという展開にした。

自分で書いておいてなんだが、こいつ全然理知的じゃない。困ったもんだ。
後は私も私もと鬼神乙女がゾロゾロ出てきて、ふうま君とフェンリルとが一騎打ちをする羽目になる。

 

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このフェンリルは今回のイベントで一番可哀想な役回りだ。全然悪くない。

こんなことになったのも、鬼神乙女たちをよくあるワルキューレ像からちょっとずらしたためで、それに合わせてフェンリルもデザインからバトルの展開までオーソドックスなものをあえて外している。

作画担当の三澤螢氏のデザインは絶妙で、精悍なフェンリルがちょこんとお座りしているポーズといい、なんとなく切なそうな目付きといい、実にいい味を出している。

そこから繰り出される、やる気の無い前足の攻撃も愉快だ。

戦闘シーンの攻撃エフェクトは私も実装されるまで分からないことが多いので、いつも楽しみにしている。

 

ところでフェンリルの登場に前後して、鬼神乙女たちのふうま君に対する気持ちが変化している。

鬼神乙女の名前の由来から、一族を残したい気持ちに応えてやりたい云々というあたりだ。

当事者ではないドナが「お前いい奴だな」と口に出して言い、鬼神乙女たちは胸キュンのあまりしばし無言、天帝に決められた子種男だからではなく、乙女回路が動き出して、そこからいきなり名前と技のアピールを始めるという描写にしたのだが、少し伝わりにくかったようだ。

 

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今考えると、これは『鉄道員(ぽっぽや)』で高倉健が雪の中で一分くらい無言で突っ立ってるみたいに、人物をじっと見せても間がもつ実写映画とかのやり方で、フレームも変わらずに同じ絵がずーっと出ているゲームでは合っていなかった。

ここはもっとオーバーに、

 

鬼神乙女「なにこの感じ? なんだか胸が締め付けられる」

鬼神乙女「私もだ。戦いの緊張とは違う。違うぞ!」

鬼神乙女「こんな感覚初めて。でも嫌じゃない」

鬼神乙女「ああ駄目、勇者の顔を見ていられない。恥ずかしい」

ブリュンヒルド「これが勇者の力……トキメキ!」

  (BGM:君の神話 ~ アクエリオン第二章) 

 

てな感じに、盛り上がる鬼神乙女たち、鈍感太郎のふうま君はポカーン、呆れるドナとかの方が良かったように思う。そこが少し心残りだ。

とはいえ、みんなでふうま君を応援して、気持ちも伝えてスッキリしたので、一緒に仲良く帰っていく鬼神乙女たちは絵面も妙だし、とても可愛くできたので満足している。

 

この連中、ブリュンヒルドはもちろん、一人一人がものすごい能力をもっているので、シリアス話にちょっと出しづらいのだが、またの登場を期待したいところだ。

 

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対魔忍RPG 「ジューンブライド・アゲイン」 制作雑感

突然だが、少し前からブログのタイトルを変更した。

はてなダイアリー」から 「はてなブログ」に移行して、「エロゲシナリオライターそのだまさきのエロゲとエロゲ以外」というやたら長いタイトルに、さらに(続)を付けていたのだが、それもいい加減いいだろうということで変えてみた。

「まんたん」は「子宮がザーメンでまんたんになっちゃう!」とかではなく、子供の頃の渾名で、いくつかそのペンネームで書いたこともある。私にとっては馴染みのあるものだ。

初心を思い出して頑張ろうということで、ひとつよろしく。

 

さて、イベントの実施からずいぶんと遅れてしまったが『ジューンブライド・アゲイン』の四方山話を始めるとしよう。

これは昨年の6月に実施された『ジューンブライド狂想曲』の「また来年」を受けて作ったものだ。

その間にあった『早く来い来いお正月』を入れると、性悪女神のジュノが出てくる三つ目のイベントとなる。

映画でも三部作というのはキリがいいので、ジュノシリーズに一応の区切りをつけるつもりで書いた。

といっても、最初に「また来年」とやったのは話にオチをつけるためで、その時点では「運が良ければやれるかな」くらいのつもりだった。
翌年の6月にウェディングドレスキャラが実装されなければ意味がないし、仮にされたとして私がイベントを担当するとは限らない。

 

それでも、自分でやれたらいいなということで、そんなイベントをやるのかも、どんなキャラが出るかも分からないうちから勝手にネタを考えてはいた。
そこで思いついたのが、今まで迷惑をかけられっぱなしだったジュノを助けに行く話だ。神に恩を売ってハッピーエンド。いいじゃないか。

それには新しい敵がいる。今までジュノもバステトも倒せなかったので、今度はちゃんと倒せるようなやつがいい。

助けに行くのが神なので、敵は科学でマッドサイエンティストにでもするかと考えていたら本当に科学ボスで発注がきた。

「ユーレカ!」だ。

ジュノが怪しい科学に捕まってしまう。ふうまたちに助けを求めるが、そのせいでまたしても大変な目にあう――とストーリーの骨子は一発で決まった。

 

マッドサイエンティストというと、やはりこの人を思い出さずにはいられない。
バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクター・エメット・ブラウン。通称ドクだ。
今回のボスのドクター・サイクロプスの元ネタはもちろんこのドクだ。

 

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だからこのパート1の若いドクのように、ドクター・サイクロプスも頭に変てこな帽子を被っているし、 オリジナルは「そいつはヘビー」ときたら「重力は関係ない」ので、こっちは重力を操る。ついでにこの年まで女性に縁がない。
こっちのドクがここまで拗らせてしまったのは、きっとマーティみたいな相棒がいなかったからだろう。


ドクター・サイクロプスという名前は神話に関係がありそうで、アメコミにいそうなキャラということで考えた。

ただ後で知ったのだが、そのものずばり「ドクター・サイクロプス」というアメリカ映画があったそうだ。

なんと昭和15年の作品だ。やたら古いものをもってくる私もさすがに知らない。

 

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日本では公開されておらず、当時の日米関係を反映してか、このパッケージ絵を見れば分かるように、マッドサイエンティストのドクター・サイクロプス東条英機をモデルにしているらしい。

せっかくなので取り寄せて見てみたが、確かに生物を小さくする怪しい実験をしているものの、別にそれで悪事を企んでいるわけではなく、主人公たちの方がドクターの研究を普通に盗もうとするろくでなしだった。

しかも、それを見つかって小さくされた仕返しに、ドクターが寝ている間にメガネを壊し、その予備まで隠すという、近視の人に絶対やってはいけない卑劣な攻撃をしかけてきて、ちょっとドクターがかわいそうになってしまった。

ちなみに、ドクターを演じていたアルバート・デッカーは「エデンの東」や「ワイルドバンチ」に出演した名優であるだけでなく、アメリカ民主党の下院議員でもあり、赤狩りを公然と批判したという気骨のある人物だが、気骨がありすぎたのか、自宅のシャワー室で手錠、目隠し、猿ぐつわを付け、口紅で卑猥な言葉を身体に書いて、セルフSMの窒息プレイ中に死亡したらしい。

イベントには全く関係ないのだが、それをきっかけにえらいことを知ってしまったということで、ここにも書いておく。

 

話を戻して、用意されていたウェディングドレスのキャラは、お色直ししてまた登場のアンジェ、満を持してのゆきかぜ、そして災禍と翡翠だった。
続き物なのでアンジェはもちろん出すとして、残りの3人にも全員出番を与えてあげたかったのだが、さすがに手に負えなくなりそうなので、目玉SRキャラのゆきかぜだけにした。

 

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そして、ふうま君と同じように、ゆきかぜもいきなりロクでもないトラブルに見舞われることに決めた。
すでに新しいゆきかぜの絵は色付きでできていて、ウェディングドレス姿のゆきかぜはそりゃもう可愛かった。
このゆきかぜを見たら誰だってプロポーズしたくなるだろう? 誰だってそーする。俺もそーする。
ということで、誰かれ構わずプロポーズされまくることになった。

 

だから、ふうま君はその反対、女の子全てに殺されそうになる。
最近、自覚なくモテまくっていることだし、そのペナルティとして、ついでに結婚は人生の墓場とも言うのでちょうどいい。

そんなことになった理由は、ジュノの神様パワーが重力のせいで間違って届いたからということにしているが、あの女神が人の好き嫌いを操る話など今まで一度もやってないので相当に無理やりだ。
まあ、神様のやることだからと、このジュノシリーズは基本的にどれもこれも強引な展開にしている。

 

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物語はジュノがドクター・サイクロプスに捕まっているところから始まる。
神を捕まえるほどの力を持つドクターご自慢の科学魔法陣の名はギャラルホルンだ。
最近は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に出てくる組織の名で知られているが、元々は北欧神話で神々の黄昏ラグナロクの到来を告げる角笛のことを指す。
そりゃジュノも縁起が悪いと嫌がるだろう。その割に神殺しの古代龍のベリリクとは仲がいいのが謎だ。
ジュノは人妻、いや神妻なので「ジュピターのやつ浮気ばっかりして超ムカつくからもう殺しちゃってよ」とか愚痴ってるのかもしれない。

 

そんなジュノが適当な感じに神様パワーを放出して、視点はゆきかぜに変わる。
今まで一度も書いたことがなかったので、ゲーム実況をやっている場面からだ。

「次回もあなたのハートにバッキューン」という決め台詞は書いていて妙に恥ずかしくなったが*1、せっかくなので言わせた。ボイスがないのが残念だ。

そしてウェディングドレスが出現し、ゆきかぜがフォームチェンジする。

自分の姿に見惚れてしまうゆきかぜや、それを眩しそうに見ているクリアやカラスが女の子していて可愛い。
「自分史上で一番綺麗な自分」という言い回しは『それが声優!』で、主人公の双葉がジャケット撮影のためにドレスアップした時のセリフからもらっている。
原作の声優、浅野真澄さんの実体験から出た言葉だろうか? 私からはなかなか出てこない言い回しで気に入っている。

 

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そうやって喜んでいたのもつかの間、ウェディングドレスが脱げなくなり、そのままの格好で学校に行って、男どもからプロポーズ攻撃を受けることになる。
最初にプロポーズする大役は鹿之助にした。
こういうのはどう考えても絶対にしそうにない人物でないと意味がない。
鹿之助ならぴったりだ。せっかくなので、そのまま戦闘場面にも出てもらった。

 

一方、ふうまを殺そうとする女子を誰にするかは少し迷った。
こちらもネームドキャラを使って戦闘場面に出したいところだ。
ただ、ふうま君への好意が一定以上だとなんだが冗談にならない気がするので、蛇子とか、きらら先輩はやめておく。
学校なのでそもそも出ないが、若さくらや紅もダメだろう。
行き遅れが懸念されている先生トリオもなし。強すぎて本当に殺してしまう。
紫水という手もあったが、設定上ちょっと難しいところがあるので避けておく。

かといって、ふうま君とあまり接点がない相手にやらせても、普段との差異を出せないので面白くない。

 

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そんなわけで、篠原まりと七瀬舞の仲良しコンビに出てもらった。
まりは淡い恋愛感情くらいだし、舞はそれを応援したい立場だ。
それでいて二人とも『期末試験とうさぎの対魔忍』でチームを組んでいるので、そのほどほどの距離感がぴったりだ。
ちょうどいいので、そのチームでやった任務の報告書の書き直しをするために、まりが舞と二人でやってきたということにした。
まりの変な報告書については、「ドジでおっちょこちょい」という設定を思いきり膨らませて書いてみた。

このイベントの少し前にエイプリルフールの新聞ネタがあったが、仮にリリムとミナサキが邪魔しなくても、おかしな新聞が出来上がっていたはずである。

 

そして豹変した二人とのバトルを挟んで、ふうま君とゆきがぜが合流した途端、ジュノとドクターのいる迷宮まで飛ばされてしまう。
話を五車町から始めた以上、どうにかして二人を現地まで行かせないとまずいが、ジュノの仕業だと分かって、居場所が判明して、二人でそこを目指すとかまどろっこしいので、もういきなりワープさせた。
正月のときもジュノがウェディングドレス3人をどっかから召喚しているので、それと同じ神様パワーによる仕業だ。

 

ダンジョンについてすぐ、ふうま君とゆきがぜが言い争いを始める。最近あまりやっていなかったので、なんだか久しぶりだ。
とはいえ、すでに痴話喧嘩じみているし、すぐ後で手を繋ぐの繋がないのとイチャイチャしている。おまえらいい加減にしろ。
迷宮の主のドクター・サイクロプスが怒るのも当然だし、ウェディングドレスのゆきかぜを見た蛇子が「ふうまちゃんに見せるの?」とか聞きたくなるのも無理はない。
蛇子はただでさえ幼馴染で負けルートに入りやすいのに、最近は一歩引いて待つ女が似合い始めているので、もうちょっと頑張って欲しいところだ。

 

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二人の侵入はジュノが何も考えずに喋ったことで、あっさりドクター・サイクロプスにバレてしまい、さっそく討伐隊が出される。
ここで鬼火だのガーゴイルだのといった使い回しの雑魚モンスター以外に、また誰かネームドキャラを出したくなった。
今回のイベントに合う適当なキャラはいないかと考えて、ちょうど正月に出すのやめたウェディングドレス娘がいるのを思い出した。
そう、ミナサキだ。あいつなら脈絡なく敵として出てきても問題ない。バトルの後であっさり味方についても問題ない。なんと便利なキャラだろうか。
ついでに、面倒なジュノとドクター・サイクロプスの説明もミナサキにやってもらった。正月に無理やり出さないで正解だった。

 

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ミナサキを加えて、三人でうろうろ迷宮をさまよったり隠し通路を見つけたりと、「コントラ・デクストラ・アベニュー」の元ネタのWizardry的な展開を挟んで、ドクター・サイクロプスとのご対面となる。
迷宮の主として色々言いたかったドクターには悪いが、まず始まるのはジュノとの言い争いだ。シリーズの看板なのでしょうがない。
やっとドクターが喋る番になっても、あの年になるまで女に縁がなかったという可哀想な過去が明かされるだけだ。
そのあげく、暴走したギャラルホルンに飲み込まれて、ボス名まで取られてしまう。
まさに踏んだり蹴ったり。ふうま君の言うように、ジュノを閉じ込めてもいいことなんか一つも無いことになっている。
さすがに哀れだったので、最後に根性でギャラルホルンの制御を奪い返して逆襲を試みさせた。もっとも、やることは婚姻の誓いの妨害なのだが。

 

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婚姻の誓いについては、三部作のラストということで最初からやると決めていた。
本当に結婚するわけにはいかないので、お芝居くらいが精一杯だ。ゆきかぜとアンジェの二人分の好意を合わせて、ぎりぎり祝福分くらいにはなったのだろう。

ジュノも「いい感じー」とか楽しそうだ。性悪性悪と言われていて、実際そうなのだが、なんだかんだいってカップルが仲良くしているのを見るのは好きなのだろう。でないと祝福係なんてやってられない。

 

結局、そのジューンブライドの祝福を得て勝利するわけだが、そのあたりのくだりについては「幸せいっぱいの神の力」とか「巨大な婚姻エネルギー」とか、ふうま君主観の分かったような分からないようなふわっとした言葉ですませている。
イベント中で起こってるいることについても同様だ。

前回の時間停止といい、今回のブラッホールといい、よく考えると人類存亡レベルの危機なのだが、あくまで軽く書いて軽く終わらせた。

ドタバタイベントだし所詮は人事、ではない神事だ。

 

今回、アンジェの登場がちょっと遅い。

一年前のジューンブライドの時には主役だったので、今回はゆきかぜに出番を譲ってもらった形だ。
ちょうど『お色直し』という言葉がキャラ名に入っていたので、登場時に自分で言っている。
登場が遅れた分、グラビティモンスターを瞬殺したり、ブラックホールに吸い込まれるのを防いだり、婚姻の誓いを躊躇うことなく承知したりと、ジューンブライド経験者の余裕を見せている。
アンジェがふうま君のことをどこまで好きかはなんとも言えないが、本人はあれで本当に結婚しても構わないと思っていそうだ。
ゆきかぜは「ちゃんと恋愛してから結婚! それは絶対!」という考えだろうが、アンジェは「縁のあった相手と結婚してからゆっくり愛情を育んでもそれはそれでいい」というタイプな気がする。
だから五車町に戻ったあと、ちょっと不満そうにしている。決してウェディングドレスだけのことではない。ふうま君はいい加減気づいた方がいい。

 

クライマックスでミナサキが突然現れて蹴りを決めるのは、もう少し出番をあげたくなったので、あの姿の通常攻撃のエフェクトから思いついた。
脈絡がなさすぎるが、『スター・ウォーズ』のエピソード4でもハン・ソロがいきなり現れたりしているので、まあよくある話だ。
ミナサキはヤタガラス族という、実は神と縁がありそうな種族なので、本人の意思とはまるで関係なく、ジュノのピンチに世界のバランスを保とうとする不思議な力っぽいものが働いて、たまたまあの位置に落ちてきたのかもしれない。

そのあたりの神が関わることによる訳のわからない都合の良さは、『夜桜四重奏 〜ヨザクラカルテット〜』が興味深い。ボスの動機が情けないのも似ている。

 

最後は「本当に三人で結婚しちゃう?」という珍しく好意的なジュノの誘いをふうま君があっさり断って、ゆきかぜがツンデレたり、アンジェが文句を言ったりしておしまいだ。
お芝居とはいえ、ジュノの前でちゃんと婚姻の誓いもしたし、三部作の締めとしてはこんなものだろう。

この先、またジュノが出てきて、私が担当することがあるとしても、できれば違った毛色の話にしたいところだ。さすがにまだ全然考えてない。
バック・トゥ・ザ・フューチャー』のラストの言葉を借りるとすれば、「未来はまだ白紙。なにも決まっていない」というわけだ。

いや、もちろん、イベントのストックはいくつかあるので、まるきり白紙というわけではない。念のため。

 

ではまた。

 

 

*1:その時は気づかなかったが「堀江由衣の天使のたまご」の丸パクリである

対魔忍RPG 「不死の兵士」 制作雑感

『不死の兵士』はアイナ・ウィンチェスターが主役となり、対魔忍の仲森奈々華と共闘するイベントだ。

アイナは『早く来い来いお正月』のときにウェディングドレス姿でちょっと出てもらったが、イベントの主役として書くのは初めてだ。決戦アリーナも含めてエロシーンは一つも担当していない。もう一人の奈々華はそれこそ何も書いたことがない。

せっかくなので、今回はこの二人をしっかり描写しようと、今までよくやったように既存のキャラが色々と出てくるのではなく、基本的に二人だけで話が進んでいく構成にした。

 

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また今回はアイナの武器パワーアップ回でもあった。

新しい武器に新しい必殺技。当然それをクライマックスで使いたいところだ。

昔のロボットアニメとかではこの手のパワーアップ話がよくあった。

たいてい番組が始まってすぐピンチになって一時撤退。それを見て視聴者は「今回はパワーアップ話だな」と分かるわけだ。

で、武器を開発したり、訓練をしたり、ふとしたきっかけで閃いたりと、なんやかんやあってパワーアップし、それでリベンジするという流れになる。

毎度毎度、例えが古くて申し訳ないが、『超電磁ロボ コン・バトラーV』で、主題歌でも言っている超電磁ヨーヨーが出てくる話がそうだったはずだ。

 

今回もそれでいこうかと思ったのだが、このアイナというキャラクター、始まってすぐピンチになるための普通の服がない。

持っている服はウェディングドレスと水着とサンタ服だけだ。

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パワーアップ用の新デザインなのに、アイナにとっては初めての普通の服という、ちょっと変わった実装ラインナップになっている。

そこで冒頭からこの新デザインで登場してもらって、肝心のパワーアップ武器はまだ使えないという話を、始まってすぐの訓練シーンの回想でやることにした。

訓練ではうまくいかないが、実戦では成功というのも山ほどあるパターンだ。

少しだけ例えが新しくなって、『勇者王ガオガイガー』で、氷竜と炎竜が初めて超竜神にシンメトリカルドッキングする回がそうだった。確かアバンタイトルで失敗していた記憶がある。

 

単に回想で訓練をやっても面白くないので、前にアイナが出てきたイベント『あぶないサマービーチ』の出来事に基づいた戦闘シミュレーションということにして、新しい武器の説明をしながら、リリムムオー改をまた出したりしている。半分はお遊びだがエピローグでの女子トークのための前ふりでもある。

ちょうど復刻イベント『リリムミーティア』で初代リリムムオーが出ているので、新旧ロボそろい踏みのようなことになっていてちょっとおかしい。

 

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新兵器の『タイプゼロ』は、イベント作成時にはまだデザインが決まっていなかったのだが、とりあえず名前がなかったのでシナリオのときに命名した。

タイプゼロといえば『機動警察パトレイバー』の零式。それと同じく魔族の目を使うアイナにも暴走しかねない危うい存在というイメージがあった。

その流れで、フルバーストが使えないのは、アイナがその魔族の目を恐れているからということにした。

今まで、目の力を使うと血を吸われて貧血になるという設定はあったものの、魔族の力への恐れ云々といった話は全く出てきていないのだが、異形をその身に宿して戦うヒーローには必須不可欠だろうと入れさせてもらった。

そのうち「力が欲しいか?」とか語りかけてきたり、その力が全身に広がって魔族モードになったりするかもしれない。

 

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奈々華はイベントでは初めての登場だ。

前にも書いたことがあるが、キャラを初登場させるときは一番そのキャラらしさを発揮できる場面で出すのが手っ取り早い。消防士なら火事場だ。

奈々華は不死覚醒の紫ほどではないが、耐久力と回復力に優れているキャラだ。

というわけで、ちょっとかわいそうだが、その能力を見せやすいように、いきなり捕まっていてカプセルの中にいる場面からの登場となった。ある意味、対魔忍らしいとは言える。

そして装置を切った途端、中から素手でカプセルをぶち破り、その直後に現れる敵を防御無視で粉砕する展開になる。

 

本当はカプセルの中にエッチな格好で浮かんでいて、色んなところに正体不明のコードとかが繋がっていて欲しかったのだが、見せる絵もないのに文章だけそう書くのも悲しいのでやめておいた。

とか思っていたら、作画の西條サトル氏がこんな素晴らしい絵をアップしてくれた。ありがとうございます。

じゃあ、こういうことで。

 

アイナと奈々華はにわかコンビだが、魔物ハンターの経験を生かしてテクニカルな戦い方をする遠距離攻撃主体のアイナと、猪突猛進気味だが接近戦では絶大な攻撃力を発揮する奈々華はなかなか相性がいい。

二人がかりで出てくる敵をポンポンと倒してもらって、ボスからレアエネミーに格落ちしたXPS-11Aボーンもすでに旧式で弱点を知っているということで、アイナが動きを止め、奈々華がとどめをさす連係で速攻撃破している。

ただ、アイナの新必殺のゼロレンジフルバーストはその名の通り超至近距離からの攻撃だ。

そのお披露目としては、接近戦のスペシャリストの奈々華が失敗してからの方が映えるので、またかわいそうだが奈々華にはラスボス戦の途中で気絶してもらった。ごめん。

 

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そのラスボスはマッドサイエンティスト軍人のヴィクター大佐だ。

元ネタは、『不死の兵士』というサブタイトルで分かる人もいるだろうが、『フランケンシュタイン』のヴィクター・フランケンシュタインだ。元々は怪物の名前ではなく、それを作り出した博士(ではなく原作小説ではただの大学生)の名前だ。

老いさらばえた兵士がかつての力を求めて人体実験云々というのは、さっきの「力が欲しいか?」の『ARMS』に出てきた元軍人の爺さんたちと同じだ。主婦にやられた情けない連中だ。その爺さんたちと同じように、ヴィクター大佐もやはり使い捨てにされている。

 

ヴィクター大佐はアイナと奈々華の二人がかりの攻撃にも耐える強者だが、悲しいかな中身はただのボケ老人だ。

それだけだとあんまりなので、ボケる前に彼が不死の兵士などという狂気に走った理由らしきものを、死ぬ間際にちょっとだけ言わせている。

悪人にもそれなりの理由があったというのは、キャラクターに深みを与える上で重要なのだが、それをあんまりやると「そういう相手を倒すのってどうなの? 」という面倒くさい問題が生じ、下手をすると主人公と敵の不幸な過去くらべになっていきかねないので難しいところだ。

今回はヴィクター大佐が勝手に喋っているだけだし、彼がそう思っているだけで、そんな過去が本当にあったのかどうかも分からないのだが。

 

ところで、ヴィクター大佐の属性は超人で、色々やっているが人間だ。

魔物ハンターをやっているアイナからすれば異色の相手だろう。

そうなった理由は単純で、超人属性のラスボスにするというのがストーリーの要件だったからだ。

そういう話にするのはいいとして、両親を殺した魔族を追いかけているアイナからすると、どんな悪であれ、魔族ではないただの超人というのは敵として少し絡ませにくい。

ふうま君の場合は、今日は魔族の討伐で、明日は着ぐるみの中の人、こちら対魔忍の何でも屋、ふうまゼネラルカンパニーみたいなことになっているが、アイナは初めての主役なので、もう少し強い動機付けが欲しいところだ。

 

そこで、アイナは孤児院の出身であり子供好きのお姉さんという、今までのアイナシナリオで何度となく描写されていた設定を使わせてもらった。

自分と同じ孤児が拐われて人体実験に使われていると知ったら、それは任務と関係なく飛び出すだろうし、相手が人間だろうがなんだろうが、怒りの炎が燃え上がるに決まっている。

それでプッツンすれば、心にセーブがかかっていてそれまで使えなかった新必殺技も「俺のこの目が光って唸る!」と大炸裂するというものだ。さすがにそのセリフはやめておいたが。

  

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エピローグは、アイナをこっそり助けていたアスカが現れて、諸々の事情の説明と、ふうま君をネタにした女子トークとなる。

別にここでアスカを出さないでも話を作ることはできたのだが、キャラ同士の繋がりをもう少し作っておきたかったからだ。

イベントの数も増えて、ふうま君もあっちこっちに知り合いができているので、当人がいないところで知り合い同士が顔合わせするこんなシチュエーションもやれるのが楽しい。

バレンタインのお返し話については、『やっぱり対魔忍のバレンタインは厳しい 』のときのアスカがちょい役で、ラストの「義理」のフォローもなかったので、せっかくだからと入れてみた。

もう一回くらいかけて、この本筋に全く関わりない話にもけりをつけてあげたいところだ。

 

では今回はこのへんで。

 

対魔忍RPG 「魔界騎士と次元の悪魔」 制作雑感

『魔界騎士と次元の悪魔』は、ゲームでは対魔忍の宿敵だったが、今まであまりスポットが当てられることのなかった吸血鬼エドィン・ブラック率いるノマドのストーリーだ。

主役は魔界騎士イングリッド

決まっていたのは、ノマド側の話にすること、イングリッドの新フォームを出すこと、そして大人のさくらと共闘することだった。

初めての敵サイドに焦点があてられるとあって、今までイベントに出てこなかったキャラが色々と出てきたり、イングリッドとさくらだけでなく、ボスも変身したりと色々と趣向を凝らしている。

 

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イングリッドの初登場は2008年。
対魔忍シリーズの5作目、外伝となる『対魔忍ムラサキ ~くノ一傀儡奴隷に堕つ~』からで、シリーズにおける代表的な敵キャラだ。
対魔忍ワールドでは比較的珍しい黒肌で、敵だが堂々たる武人、堅物なのにやたらと露出度の高い服ときて、代表的なくっころキャラのポジションも確保している。
そのおかげか、『魔界騎士イングリッド』のタイトルで、アニメにも実写AVにもなっている人気者だ。

 

対魔忍RPGでは、イベントでの出番は少ないものの、ローンチから登場している優秀なアタッカー&サポーターであり、魔剣ダークフレイムで道を切り開いているところをしかと見たことのないプレイヤーはいないだろう。

このダークフレイムという名称、もともとは『対魔忍アサギ3 』を書いていたとき、剣になにか名前が欲しくて仮につけておいたものだが、そのまま採用されて現在に至っている。
今どき小学生でもつけないような安直な名前が、逆にネーミングセンスに難ありというイングリッドのキャラ立てに一役買っていてちょっと面白い。

 

そんなイングリッドだが、改めて考えてみると、私はそれほど書いていない。
『対魔忍ムラサキ』には参加していないし、『対魔忍アサギ3』のときはノマド内のちょっとした会話の他は、朧との内輪もめバトルと、仮面の対魔忍との戦闘シーンくらいで、エロシーンはまったくやっていない。

『決戦アリーナ』では、ゲーム開始直後に選べる『イングリッド』のくっころ即堕ちシーン、飛影の邪王炎殺拳みたいな姿になる『【邪龍召喚】イングリッド*1、デレデレに酔っ払ってキャラが完全に崩れている『【新春美女】イングリッド』くらいだ。

 

こうやって並べてみると分かるが、アサギとイングリッドが絡んでいるシーンがない。

私が書いていないだけでなく、今までにそういう場面があまりなかった。

おかげで今回、アサギのライバルという表現に違和感を覚えた方もいたようだ。

実際、『公式設定資料集 対魔忍Saga』のキャラ相関図を見ても、アサギとイングリッドの線が結ばれていない。ブラックや朧はちゃんと宿敵となっているから、知り合いではないかのようだ。

 

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私としては、ゲーム世界はさておき、対魔忍RPGではボスのブラックが表に出てこない分、ノマドの魔界騎士として何度も対決している(であろう)イングリッドがアサギのライバルに相応しい気がしている。

マジンガーZ』で例えるなら、アサギが兜甲児、ブラックがDr.ヘルで、イングリッドあしゅら男爵と言ったところか。ものすごい忠誠心があるところも似ている。毎回「お許しください、ブラック様」と言っているかどうかは知らないが。

 

それはさておき、イベントの目玉はイングリッドの新フォームだ。

これは決戦アリーナの『【邪龍召喚】イングリッド』の流れをくむもので、クライマックスで格好よく変身して、必殺の邪王炎殺黒龍波――じゃなかった邪炎ノ龍爪剣でラスボスにとどめを指している。

今回、まず考えたのがこのラスボス、というより敵を何にするかだ。
普段は敵味方のキャラを共闘させるには、まったく別の敵が脈絡なく現れるのが定番だ。要するに劇場版だ。

ところがイングリッドとさくらは強い。そりゃもう強い。

さくらは結構ドジっているが、あれは聖闘士星矢でいえば牡牛座のアルデバランのような役がまわってくるからで、基本的には作品世界で最強クラスだ。
少しばかり強い敵を出しても、それぞれ勝手に倒してしまう。
ましてノマドサイドの話をやるなら、イングリッドには仲間がいるはずだ。いきなりさくらと手を組むわけがない。

 

そこでヨミハラを謎の天変地異が襲い、イングリッドの仲間が軒並みダウンしてしまい、ラスボスも一人では倒せないという展開を考えた。そうすれば共闘のチャンスも生まれる。

ただ、始まっていきなり大異変が起こっているのも唐突だし、まずノマドサイドの話をしっかりやりたかったので、セクション1を少し多めに使って、イングリッドたちが偽のラスボスを倒してしまったことで、本当の危機が始まるという導入にしている。

 

イングリッド以外でノマドの誰を出すかについては悩みどころだった。
まず消去法で、ストーリーの根幹に関わりそうなブラックは出せない。
今回やりたい「イングリッドと愉快な仲間たち」としては使いにくいフュルストフェリシアもやめておく。

あと誰か残っていただろうか?
手持ちの資料で「ノマド」と検索をかけると……何人かいた。

 

まず魔女のエレーナ
そうは見えないが、ノマドに所属している。
小心者という設定は使いやすそうで、今までイベントに出てきていないのもいい。採用。

ユーリヤはその込み入った設定から、話の本筋にはちょっと絡ませにくいが、エピローグで出すのにちょうどいい。

イングリッドの遠縁で引きこもりのドロレスにも出てもらう。本人は嫌がるだろうが、部屋から引っ張り出す。

我らが魔界騎士のリーナはもちろん登場する。ついに訪れたイングリッドとの共演の機会だ。リーナが逃すわけがない。

 

物語はノマド地震が起こり、デモンズ・アリーナが異世界に繋がるところから始まる。

ここの元ネタは『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』で、だからこっちと向こうとで重力の方向がズレている。

この異世界がどことは明記していないが、背景はすべて以前手がけた『装甲騎女イリス*2から異星人の娼館のものを使っている。同じゲームの絵なので統一感もあるはずだ。

 

イングリッドたちの異世界探索は少し丁寧に描いている。

探索のメンバーは、イングリッド以下、リーナ、エレーナ、絵なし名なし台詞なしのモブキャラたちだ。
どっちの方向に行くか相談して決めたり、何もない部屋でああだこうだと話し合ったりと、本来の意味でのRPGっぽいやりとりをしている。

それにしても、リーナはイングリッドのお供ができる嬉しさでいつにも増して前のめりだし、エレーナはいつもどおり臆病で消極的で、この二人を率いるイングリッドは大変そうだ。

 

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もちろん二人ともイングリッドが頼りにする人材なのは間違いなく、特にリーナは斬り込み役として大活躍している。

前に手がけた『降ったと思えば土砂降り』のときもそうだが、リーナは基本がポンコツな分、戦いではなるべく有能にしている。でないとバランスがとれない。
アスタロトなどの最強クラスには及ばないものの、魔界騎士として相当に強く*3イングリッドの右腕という風に書いている。
いつまで経っても印象が変わらないのは、いくらレベルを上げてもポンコツのスキルまで一緒に上がっているからだろう。

 

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エレーナは偶然だが眠りの魔法を得意としている。メイジはとりあえずKATINO。Wizardryの基本だ。

彼女にはイングリッドのブレインとしても活躍してもらっている。
普段は戦闘であてにならないので、むしろそっちで頼りにしているような書き方になった。

ノマドの仕事以外に「安眠屋」をやっているという設定は面白いので、またどこかで使ってあげたい。

そして、一見ラスボスに見えるクラゲをあっさり倒してプロローグが終わる。

 

ラスボスがなぜクラゲかというと、もともと雑魚モンスターのストックにイカと魚がいて、今回のイベントにどうかと提案され、気持ち悪いデザインで確かにぴったりだったので、それに合わせてボスをクラゲにした。

その姿はともかく、平面に潜んでいるラスボスをさくらが影で見つけるという展開は頭にあったので、ペラペラになる海洋生物としてクラゲを選んだというわけだ。

デザインを一工夫して、偽物は綺麗な色で、本物はグロテスクな色にしてもらった。アメリカの食べる気がなくなるどぎつい色のケーキをイメージしている。

 

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ところで、イベントでは連中がなんなのか、なぜ施設が封鎖されていたのか、まったく説明をしていない。

メ・デューズ、カナロア、スィールといった名前も戦闘画面には出てくるものの、イングリッドたちは知り得ないままだ。
一応考えてはいて、あそこは『装甲騎女イリス』と同じく各種異星人のための娼館で、ずらりと並んだ部屋は奴隷娼婦のための個室、連中はマニアックな客のために作り出された調教用生物だったが、あるとき悪質な呪いをもたらすクラゲが生まれ、管理者の手に負えなくなって娼館まるごと異空間に閉鎖されたが、実は中で共食いしながら生き残っていたという設定だ。

しかし、どことも知れない異世界に行って、いきなりそんな事情が分かるのも妙なのでぜんぶ省いている。

 

セクション2が始まると、リーナはもう寝たきりだ。
ちょっとかわいそうだが、ここでイングリッドに励まされるという重要な役は他のキャラにはできない。生来の魔力が弱いという設定もまさに使いどころだ。

今回、このリーナとの場面もそうだが、イングリッドがエレーナに魔女としての判断を求めたり、弱気になる魔界医を力づけたり、一人になってから感情を爆発させたりと、上に立つ者としての姿を色々と描けたのは良かった。ノマドサイドのストーリーならではだ。

 

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そしてドロレスが登場して、異変の原因が呪いであることが判明する。
イングリッドにとっては「ようやく」だが、シナリオでは「簡単に」分かっている。
ドロレスも「ペイン」という呪いを使うからという強引な理由だが、情報収集にあまりシナリオを割く余裕はないので、続くさくらのシーンでも手っ取り早く済ませている。

 

このドロレス、決戦アリーナで最初期に作ったキャラで、いつになっても実装されないのでお蔵入りになっていたと諦めていたら、忘れた頃にいきなり登場したという経緯があり、対魔忍RPGにもローンチからいる。
既存の誰かの関係者にしておけば、イベントとかにも出しやすいだろうという小細工で、イングリッドの遠縁にしておいたのだが、やっとその設定を生かす機会が訪れた。
実は決戦アリーナには、実装されなかった幻のチャプター11があって、そこでもドロレスを書いていたので感慨もひとしおだ。

 

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イングリッドが再び異世界に赴くと、ようやくさくらのターンになる。
イベントの報酬キャラでの登場だ。対魔忍には見えないが、先生にも見えない。しかし怪しい酒場には合っている。
酒場のオヤジは、『対魔忍アサギ外伝 サマーデイズ[』から、ブッカの絵を流用している。そっちでは陵辱役だが、気の良いオッサン風の表情差分があったので登場してもらった。
それにしても、新しい街に来たらとりあえず酒場で情報収集とか、今回はつくづく懐かしのRPGじみている。

 

さくらにも早く呪いのことを伝え、とっととイングリッドと合流させたいのだが、街に入ってすぐに重要なことを教えてくれる便利キャラに誰を使うかが問題だ。
例によって「呪い」で検索をかけると、「メリィ」、「カテジナ」、「ナドラ」と三人の候補が見つかった。
メリィはオドオドキャラがエレーナと被っているのでやめておく。
カテジナとナドラは、二人とも能力のために人目を避けている境遇だが、魔眼でなんでも見えてしまうというナドラは色々と都合が良い。よし、ナドラにしよう。

 

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ただ、人目を避けて暮らしているナドラがいきなりさくらに会いに来るのはおかしい。
そこで、ナドラの魔眼の能力を示すついでに、彼女の知り合いということで、謎の人徳の持ち主、歴戦のオーク傭兵のおっさんにまた登場してもらった。
若さくらとは知り合いだが、大人さくらとは初対面というポジションも掛け合いがやりやすい。

若さくらには「孕ませてみたいな~!」とかエロい軽口を叩いていたおっさんが、大人さくらに「私のこと口説いてる?」と聞かれて、こちらはぶっきらぼうに返す反応の違いも書けて楽しい。もちろん、おっさんが女として意識しているのは大人さくらの方だ。

 

ところでこのおっさん、何度も出ているわりには名前がなかったので、試しに「アルフォンス」と付けたら、そのまま通ってしまった。
ということで、おっさんの名前はアルフォンス。犬や猫やレイバーだったり、鎧だったりするアルフォンスだ。
シティーハンター』の海坊主の本名が伊集院隼人であるように、いかついおっさんの本名がお洒落というのはお約束だ。

 

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さくらがノマドに到着すると、向こうの世界から海洋軍団が溢れ出している。応戦するノマドは呪いのために劣勢だ。
そのピンチに思わず飛び出してしまうところはさくらの面目躍如だが、このシーンの見せ場はやはりリーナによる仲間の説得だ。
もともと、この役目はリーナにするつもりだったが、ここで『降ったと思えば土砂降り』で、リーナ、アスカ、黒田巴を共闘させていたことが役に立った。

そういう過去がちゃんとイベントとしてあれば、セリフにも説得力が出てくるというものだ。
ついでに、リーナが「なかなかの人物」と評価している巴の正体をプレイヤーだけは知っているという状況も、真面目なシーンなのに妙なおかしさを醸し出してくれた。

 

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そんなこんなで、イングリッドとさくらが合流してからはボスまで一直線だ。
一応、雑魚を蹴散らしているが、それはおまけでメインは二人のかけ合いだ。
堅物のイングリッドと能天気なさくらの会話はとても書きやすい。アサギではこうはいかない。
しかも、リーナがとっておきのアイテムで二人をうまく繋げてくれた。これも『降ったと思えば土砂降り』の副産物だ。まさかこんな風に使うとは思ってもみなかったが。

 

そして、いよいよラスボスとの戦いとなる。
イングリッドを信じてその身を託すさくら。
そんなさくらの心意気に応えて、新フォームに変身するイングリッド

満を持してという感じだ。カガミ氏によるポーズも実に格好いい。

 

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一方、ここのさくらは珍しくシリアスにしている。
前にも書いたことがあるが、普段のおちゃらけたさくらは半ば演技で、こっちが素顔という気がしている。

スタンドやテリトリーのように、対魔忍の忍術も本人の性格に影響を受けるとすれば、影に潜むというさくらの能力は、あの軽いキャラクターに合っていない。

能力から言えば、アサギや紫よりさくらの方が間違いなく暗殺に向いている。「接近での暗殺こそ影遁の独壇場」と言うわけだ。人に言いたくない汚れた任務も山ほどこなしてきたに違いない。

スパイダーマンが恐怖を堪えるために軽口を叩きながら戦うように、さくらも対魔忍としての闇を隠すために普段はおちゃらけている。
最初は演技でやっていたが、やがてそれが本人にとっても自然になって、だがふとしたときにふっと素顔が出てしまう。そんな風に考えた方が私にとっては魅力的だ。

今回、ナドラとの会話で「いい女は胸の内は誰にも見せないのさ」と言っているが、見せられる誰かができることを願わずにはいられない。

 

さて、隠れていたラスボスを引っ張り出したら、戦闘画面ではちゃんと戦うことになるが、シナリオではごくあっさり倒している。ここで引っ張ってもしょうがない。
その後は、イングリッドが倒れ、目覚めてからのリーナたちとのやりとりを挟んで、さくらとの二人だけの会話になる。
「一度だけ手を貸してやる」という約束、定番中の定番だがやはり良いものだ。
それをどういう形で出すかはまだ考えていない。私がやるかどうかも分からないが、もしやるならせっかくの伏線、うまく使いたいものだ。


最後はユーリヤを出して終わりだ。

ほんのちょい役だが、ブラックの直属というキャラがキャラだけに、良い感じにストーリーを締めてくれた。

ユーリヤ本来の「お仕事」の話もやってみたいのだが、なかなか扱いの難しいキャラなので悩みどころだ。

 

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ということで、今回は対魔忍の敵であるノマドのお話となった。
あまり敵を魅力的に書くと、いざ主人公サイドとの決戦になったとき色々と辛いのだが、特にこんな絵を描いてもらったりすると……ほんとにもう、素晴らしすぎる。旭さん、ありがとうございます。ではまた。

 



 

*1:これはキャラ発注から自分でやった。詳細はこの記事

*2:13年も前に記事を書いていた

*3:魔界騎士はその数自体が少なく、そうと認められている時点で実力者

対魔忍RPG 「奪われた石切兼光」 制作雑感

メインクエスト22章『奪われた石切兼光』が実装された。
主役は凜子先輩、ふうま君が全く出てこない完全な外伝イベントだ
最近、ふうま君が主役でないメインクエストが続いているが、別にその流れで作ったわけではなく、これはそもそもストック用に考えたイベントだからだ。

 

作ったのは去年の中頃。けっこう前のことだ。

メインクエストでいえば、18章『アミダハラ監獄』のシナリオを手掛けた後くらいで、これより後に書いた諸々のメインクエスト、そして『早く来い来いお正月』、『ファイアー&ペーパー』、『そに子、対魔忍になりまうs♪』などの担当イベントが先に実施されて、ようやく公開となった。

 

ストック用なのでなんでもいいからという依頼で、報酬はこのキャラだとか、脇役としてこのキャラを出すとか、そういう条件も一切なかったため、なんでもいいならと趣味全開で作ったらこんな話になった。

 

凜子が主役なのは『五車の夏休み』や『アミダハラ監獄』で戦闘の切り札として登場してはいたものの、それ以外では活躍の機会があまりなかったからだ。
次世代の対魔忍のエースと言われ、ゲームではゆきかぜとコンビを組んでいたのに、ふうま君と同学年ではないという理由からか、対魔忍RPGでは今ひとつ出番がない。
その一方で、対魔忍一の頭対魔忍とかAV女優とか散々な言われようで、その責任の一端は、対魔忍ユキカゼ1、2を書いた私にあるような気がしないでもないのだが、「凜子って馬鹿みたいだけど実はものすごく強いんですよ」と名誉挽回させてあげたくなった。

 

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私にとって凜子とは、ずばり対魔忍最強の剣士だ。
というわけで、凜子が扱う逸刀流にまつわる話になっている。
サブタイトルも『奪われた石切兼光』とした。
愛用の武器が使えなくなるのも、同門同士の争いというのも良くある展開なので、以前シナリオを手がけてキャラを良く知っている『鋼鉄の魔女アンネローゼ 』の連中をゲストとして出して彩りを添えている。
こういうことが出来るのも今までの蓄積のおかげだ。

 

今回、凜子の敵になるのは、強さを求めるあまりに逸刀流を破門になったかつての兄弟子、村雲源之助。そして源之助に付き従う女、陽炎。
二人の名前は、対魔忍シリーズの元ネタ中の元ネタともいえる山田風太郎の小説『甲賀忍法帖』、それをアニメ化した『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』からもらっている。

 

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剣豪としての源之助のイメージは黒澤明の映画『椿三十郎』に出てくる三船敏郎だ。
妖刀「落椿村正」の名前もそこからとっている。
現実にはそんな刀は存在せず、椿の花がコトリと落ちるように一度抜いたら首を落とさずにはいられないという逸話は完全な創作だが、適当に作った割にはそれっぽくて気に入っている。

 

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陽炎は『甲賀忍法帖』の陽炎がそうであったように報われぬ恋に生きる哀しき女だ。
元の陽炎が、毒を使うために想い人とは決してセックスできない身体だったのに対し、こっちの陽炎はその逆で、想い人の病を癒すために「回春の術」というセックスの技を使うが、それで身体は満たされても心は決して満たされないという、完全に私の趣味のキャラになっている。
絵をどうするか最初は決めていなかったのだが、ありがたいことに新規にデザインしてもらった。幸薄そうな顔が実にいい。ポイントは泣き黒子だ。

 

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物語は石切兼光を研ぎに出すところから始まる。
研師の老人は、制作に少しだけ関わった『ネコノヒメ』から絵を借りている。
そちらでは空手の達人だったが、そういう求道者的な設定のせいか、使い回しの絵のわりにはイメージに合っていると思う。
リリス作品にこういう和服の爺さんはあまり出てこないか、出てきても立ち絵がなかったりするので、こんな絵があってラッキーだった。爺さんにとっては絵があったばかりに殺されてしまってアンラッキーなのだが。

 

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妖刀・落椿村正を受け取った帰り、凜子はさっそく刺客に襲われる。定番の展開だ。
この逸刀流同士のバトルはちょっと工夫を凝らしている。
いつもは「ザシュッッ!」とか適当な擬音ですませている剣戟を、相手がこうきたのでこう躱した、そしてこう切り返したという風に、剣と忍術を組み合わせた逸刀流ならではの戦いを少し詳しめに描写している。
というのもこの逸刀流、これまで名前だけはよく出てきていたが、その実態が今ひとつはっきりしていなかったからだ。
魔を滅するための対魔忍の剣術という、ぼんやりとした設定があるだけだった。

 

その使い手としては凜子を始めとして、今回も登場した獅子神自斎、酔えば酔うほど強くなる上月佐那、これを作ったときにはまだいなかった死々村孤路などがいる 。
しかし、そういったネームドキャラは逸刀流でも破格の強さで、それぞれ忍術もまるっきり違うので、ごく普通の逸刀流剣士がどんなものかよく分からなかった。

 

そこでオープニング直後の刺客として、普通の逸刀流剣士三人に登場してもらった。
それぞれ対魔忍としては一般的な風遁、土遁、火遁の使い手で、凜子にはあっさりやられたが、大抵のモブ対魔忍よりは強いはずだ。
その戦闘スタイルは炎をぶつけたり、かまいたちを放ったりと、忍術を単体の大技として使うのではなく、基本は剣術で、要所要所で地味に忍術を使って、確実に敵を倒すというものだ。
あるいは逸刀流とは、もともとの忍術の素質が劣っている対魔忍がそれでも一線級の戦闘力を得るために編み出されたものかもしれないと、浦波、炎蛇、地走りといった地味めの技も考えてみた。
剣だけと思わせておいてこっそり忍術を使うという、ある意味卑怯なやり方は弱い者が必死に工夫した成果といえる。
その極地が触れたものは何でも切れるという、地味だが反則以外の何者でもない凜子の胡蝶獄門という訳だ。

 

一方、三人の刺客の後に現れる村雲源之助はいきなり衝撃波を飛ばしてきて、ネームドキャラに相応しい破格の逸刀流剣士であることをまず示している。
凜子が柔とすれば、源之助は剛だ。
正面から全てを斬り伏せる剣で、病気でなかったら凜子と互角くらいと考えていた。
源之助自身はもちろん自分が上だと思っていたわけだが、避けられるつもりの胡蝶獄門を避けそこねたことで、考えていた以上に弱くなっていることに気づき、魔術で身体を強くしてもらうというチート技に手を出すことになる。
その時点で逸刀流剣士としては負けているのだが、それに気づかない、あるいは気づかないフリをしているあたりが強さのみに執着した男の悲しさだろう。
凜子は逸刀流剣士として源之助と決着をつけることを決意し、五車の里には戻らずに、そのままアミダハラへと向かうことになる。

 

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次のシーンは、アサギと自斎の場面からだ。
殺された研師の斬り口から凜子が犯人だと疑われてしまう。
源之助に石切兼光を奪わせたのはこれが理由で、五車の里からも追われる展開にするためだ。これもよくある流れだろう。
最初は追手にゆきかぜなどを入れて、凜子との戦いになる展開、あるいは凜子がいったん五車に戻って拘束されて、決着をつけるために見張りを倒して出奔する展開なども考えたのだが、それをやると長くなるのと、いつものメンバーが出てくると逸刀流の話という感じがしなくなるのでやめておいた。

 

同じ理由で追手も逸刀流と決めて、これを作った時点では佐那と自斎がいたのだが、明るい酔いどれ剣士と、味方にも恐れられる神遁の術使いとでは、やはり後者の方が今回の雰囲気に合っていたので、そちらに決めた。
とはいえ、凜子と自斎が戦うという展開はもう考えていなかったので、アサギの命令だから行くが、追手としてではなく、ことの真相を確かめるつもりといった態度を自斎にとらせている。

 

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視点を凜子に戻すと、観光客に混じってアミダハラに潜入しているところだ。
ここで私服の絵が役に立った。
両手を合わせたフェミニンなポーズといい、良いところのお嬢さん風の凜子が可愛い。
まさに『【高嶺の花】秋山凜子』で、さすがの葵渚氏のデザインだ。

 

ここから『鋼鉄の魔女アンネローゼ』のキャラが続々と登場する。
まずは、キーパーソンでもあった音無美樹だ。
セーラー服と機関銃』というもろに薬師丸ひろ子なデザインは単に私の趣味だ。
アンネローゼ当時の設定書を読むと、イメージキャラは『BLOOD+』の小夜とあったが、そんな面影はどこにもない。実際に作ったら違ってしまうのはよくある話だ。
ゲームでは行方不明の兄を探しにアミダハラにやってきたものの、その兄はすでに怪物にされ、美樹本人も実は人造人間だったというのが分かるのだが、対魔忍RPGでどうするかは今のところ未定だ。とりあえず異世界同位体には違いない。

 

その後、いつもの武装難民に襲われる。アミダハラではもはやお約束だ。
ここでの戦闘、最初は凜子が空間転移の泡をポコポコ投げつけて、Gセルフフォトン・トルピートのように武装難民を景気良く消滅させていたのだが、空遁の術が便利すぎるとのことで今のような形になった。
この技、『対魔忍ユキカゼ2』で使っていた夢幻泡影なのだが、こっちの凜子はまだそこまで使えないのかなと思っていたら、アクション対魔忍では普通に使っていた。しかもドラム缶や隕石まで落としていた。そんなドリフみたいなキャラではないのだが。

それはともかく、最初の案だと自分よりはるかに弱い相手をポコポコ虐殺しているだけなので、空遁で弾を防いでいたら敵が怯えて逃げていった今の方がスマートだろう。

 

武装難民たちとの闘いが終わると、一方その頃という感じで、源之助と陽炎の話になる。
今回のイベント、この二人のいずれかが全てのチャプターで登場していて、そこで語られる内容はユーザーには伝えられるが、凜子は最後まで知り得ないことも多く含まれていて、そういう意味ではもう一方の主役といえる。


この場面、苦しむ源之助に対して、陽炎がなにかをしようとして止められるが、「回春」という怪しげな言葉だけで具体的には語っていない。
ばらしてしまうと病身の相手と自ら交わることで子宮内で血肉の薬を生み出す「回春の術」を使おうとしていた。
源之助の「もう回春も効かぬ」というセリフは、今までそれで病気の進行を抑えてきたが、もはやそれも叶わないという意味だ。
ちなみに、回春の術の使いすぎで陽炎の子宮は変容を起こしていて、もはや通常の妊娠は望めないという酷い設定があるのだが、そのあたりも含めて説明しすぎると興醒めなのでぼんやり匂わせる程度にしている。

 

チャプターが進むと、アミダハラ観光ツアー的なパートが始まる。
これは『アミダハラ監獄』ではタイトル通り監獄に直行だったので、遅まきながら普通の街の様子を描写しておきたかったからだ。
朝から夫婦げんかでドンパチというのはアンネローゼ本編でもやっているネタだ。
凜子はすでに任務で来ているので、今さら街の様子に「へー」とか驚くのはよく考えたらおかしいのだが、アミダハラの住人である美樹に案内されているので、その時とはまた違った風景が見えているのだろう。

 

美樹の知り合いのゴロツキにナンパされたりした後、ようやくアンネローゼの事務所に行くが留守だ。
凜子を追ってきた自斎の方に行っていると後で分かるのだが、仮にそのネタを使わなくても、凜子とアンネローゼはあまり絡ませなかっただろう。
アサギと同じで、ゲームの主役をはるだけに、アンネローゼは強すぎるし、目立ちすぎる。ここはチョイ役で我慢してもらいたい。

 

アンネローゼがいないので、二人はアミダハラで一番の魔女であるノイのところに行く。
作ったのはこのイベントより後だが、先に実施された『早く来い来いお正月』でノイのことにちょっと触れたのは、いずれやるのを見越してのことだ。
AKIRA』のミヤコ様のようでも、『魔界都市<新宿>』のガレーン・ヌーレンブルクのようでもある、このおばあちゃんのフルネームはノイ・イーズレーン。

 

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と書いてなにかピンと来るのはキャラを作った私だけだろう。
実はノイおばあちゃん、私が『鋼鉄の魔女アンネローゼ』より前に手掛けた『彷徨う淫らなルナティクス~月の姫お伽草子~』に出てきたノイ本人だ。
作画は対魔忍RPGではナーサラちゃんを手掛けているSASAYUKi氏。とても可愛い。
 

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イーズレーンの名は同作の主人公とヒロインであった兄妹と同じで、その二人の名前をもらって、ずっと生きているというわけだ。
髪の色が同じなのはそのせいだが、この同一人物設定、アンネローゼ本編でも特に触れていないし、オフシャルでもなんでもない。
単にそういう複雑な過去があった方が、アンネローゼで老ノイのセリフを作りやすかったので、私がこっそりリンクさせていただけだ。でもいい機会なのでここに書いておく。
普段、魔力を押さえているノイおばあちゃんがその力を全開にすると、この若い頃の姿になったらとても嬉しい。

 

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源之助視点に移ると、アンネローゼ本編のラスボスであるバルド・バルドが登場する。ろくでもない魔術師役としてとても便利なキャラだ。
今回も源之助を興味本位で改造するのだが、先行して『忘れられた書斎』で初登場していたのがとても役に立った。

ストーリー上、源之助には人間をやめてもらいたいし、死に勝る苦しみにもがく源之助と、その傍らで祈る陽炎というシーンは入れたいが、実際にそれがどんな魔術によるものであるかは本筋とあまり関係ないのでくどくど書きたくない。
それっぽい魔術の呪文とかはいくらでも考えられるが、なにか違う気がする。
もっと分かりやすい形はないかと考えて、『忘れられた書斎』でバルドが作ったドラウグル・オーガストという、心臓がやたらと丈夫なガーディアンが出ていたのを思い出した。
似たような不死者の心臓を埋め込むというのはグロテスクで分かりやすい。そうしよう。
最初はドラウグル・オーガストの二号ということで同じ絵を使ったのだが、分かりにくいからかNGが出て現状の女の絵になった。
女に変わったのであまり深く考えずに、自分で心臓を取り出すときに性的な快感を抱いているように描写してみたが、報われぬ恋のために身を挺するという意味で、やってることは陽炎の回春の術と変わらないので、いい対比になっていると今気づいた。

 

源之助がどうなったかは明かさないまま凜子視点に戻ると、バルドからのメッセンジャーの使い魔がやってくる。
ここでの見せ場はもちろん、凜子が私服から一瞬で対魔忍スーツになる場面だ。
私服絵が作られたときから、いつかやりたいと思っていた。
ずっと下に着ていたのかとか、細かいことは言いっこなしだ。

 

血の決闘状が届いて、いよいよ阿弥陀城での決戦となる。
城について早々、お約束の武装難民が現れるが、もうこんな雑魚と戦っている暇はないので、アンネローゼが自斎を連れて登場して、連中はあっさりと逃げ出していく。
凜子とアンネローゼの会話は一言二言。
自斎も大方の事態を把握していて、すぐに凜子に合流する。
クライマックス直前なのだ。ガンガンいかないといけない。
とか言いつつ、残ったアンネローゼといきなり出てきたミチコとの会話になる。

 

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一応、モノローグで、アンネローゼと契約した悪魔云々と書いてあるが、アンネローゼ本編をプレイしていないと何のことやら分からないだろう。しかし本筋に関係ないので、それ以上細かいことは書かなかった。

このミチコは対魔忍RPGにおける魔族とは全く違う正真正銘の悪魔で、要するに異次元からきた存在であり、この姿も仮のものだ。
このイベントでの二人の役割は凜子には知られない形で、源之助が余命幾ばくもなかったということをユーザーに明かすことだ。
そのための掛け合いなのだが、こいつらのセリフは本当に書きやすくて、かなり久しぶりに書いたのに「らしい」言い回しがポンポンと出てきて楽しかった。

 

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源之助が待つ決闘場に向かう凜子の行く手を遮るように陽炎が現れる。
ここでもあえて多くは語らないが、魔性と化した源之助に陽炎は捨てられている。
源之助にもわずかに人間の心が残っていたのか、単に足手まといだからかは結局のところ分からない。

実は私も決めてない。そういうものだ。
同様に、ここに陽炎が現れた理由もはっきりとはさせていない。
源之助と凜子の戦いを止めたかったのか、源之助を殺さないように頼むつもりだったのか、叶わぬまでも一太刀浴びせて源之助の力になりたかったのか、とにかく来ずにはいられなかったというのが本当のところだろう。

 

ただ一つ、陽炎が激昂して斬りかかった理由ははっきりしている。嫉妬だ。
実はプロットでは陽炎はこれほど感情的にならずに凜子に戦いを挑んでいた。
しかし、ここまでシナリオを書いてきて二人の掛け合いを始めたら、陽炎にもっと悲壮なニュアンスが出てきた。
そして凜子が落椿村正を抜いたとたん、陽炎は一目で分かるよなと気づき、凜子は二人の事情など知らないので、石切兼光は源之助に奪われたと答えるし、そうなると陽炎は勝手に二人の強い結びつきを感じて嫉妬に狂うだろうと、今のような形になった次第だ。

自分でプロットを書いていても、こういうことはよくある。
単にプロットの作りが甘かったとも言えるが、実際にシナリオを書いているうちに、キャラに当初考えていたよりも複雑、あるいはより相応しい行動をさせてしまって、もはやその場面でプロット通りのキャラの感情では辻褄があわないというケースだ。
そういう時に限って、ヒロインが主人公に告白するとか、逆に別れを告げるとか、物語上で極めて重要な出来事をしでかしたりする。
それはプロット通りにやらないわけにはいかないので、 当初より複雑になってしまったキャラの気持ちをなんとかコントロールして、今までの展開から考えても無理のない形で、一見プロット通りになるようにシナリオにまとめるわけだ。
そのへんの予定外の苦労もライターの醍醐味ではある。まあ、最初にもっとよく考えておけって話なのだが。

 

今回はそれほどややこしくない。
捨てられてもなお慕う源之助のためにとやって来たら、自分にはない源之助との絆を凜子に見せられて、女の情念が爆発しただけだ。
ただそのせいで、陽炎はプロットではもうちょっと凜子とまともに戦えていたのに、シナリオではもうまるで戦いにならない。
陽炎の立ち位置を考えたら、その方がふさわしいだろう。気がついて良かった。
なお、陽炎の技「朧斬り」の元ネタは、『カムイ伝』の「変移抜刀霞斬り」、あるいはそれが元ネタの『ファイブスター物語』の「飛燕剣」だ。両方ともまだ完結してないのがやばい。
いずれにしろ、凜子と陽炎はサシでやりあって欲しかったので、雑魚の相手は自斎がしている。このためのギリギリでの合流だ。
しかも、この後の決闘には邪魔なので、陽炎の自害を防ぐためという名目で、自斎にはすぐ退場してもらった。ごめん。

 

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そして、凜子と源之助との決闘だ。
この戦いもいつもよりしっかりめに書いた。
源之助が破門されるきっかけとなった死霊傀儡の術。
傀儡ではなくそれを操る念糸を切る凜子。
魔性となった源之助の悪霊散弾。
それを凜子が空遁を使った九字護法で忍者らしく防ぐ。
などなど、二人のキャラを見せながら色々とやっている。
これらの攻防は全部シナリオ時に考えている。
オープニングの三人の刺客との戦いもそうだが、プロットでそんな細かいことまで考えていない。
面倒くさいし、そこまで決めたら、シナリオを書くときの楽しみがなくなってしまう。
それ以前にプロットであまり細かいことを書きすぎると全体構造が見えなくなる。

決めていたのは、源之助が強くはなっているが、その剣はさらに乱れてしまったこと。
源之助が落椿村正を奪うものの、凜子は動ぜず無刀で彼を仕留めるというラストだけだ。
バガボンドの超有名なセリフ「我が剣は天地とひとつ。故に剣は無くともよいのです」というアレだ。
それが剣への執着の果て、己の身を魔性にまでも変えてしまった源之助の結末に相応しい。

 

そして、源之助は最期に穏やかな心を取り戻して死んでいく。もうお約束だ。
石切兼光を凜子に返し、落椿村正を陽炎に渡してくれと頼む。
源之助なりの誠意なのだろうが、単なる呪いのアイテムである。つくづく陽炎がかわいそうになる。
一方で、源之助は凜子に対しても何かしらの想いがあったようなのだが、それは匂わすだけではっきり語らせてはいない。
このへんの元ネタはいくらでもあるのだが、ここは源之助の最後の技、二刀断己相殺剣の元ネタでもある『北斗の拳』から、妖星のユダがレイの腕の中で死んでいく場面をあげておく。

あのナルシストな性格はさておき、レイの強さと美しさに羨望と嫉妬を抱き続けていたという設定は実にいい。
源之助もきっとそうだったのだろうが、こちらでは肝心の凜子がAV女優でなくても、デフォルトで達郎LOVEな困った人なので、今回も達郎がいない方が話が綺麗にまとまるという結論になってしまう。
ますます達郎の行く末、というか存在の有無が案じられる。大丈夫か、達郎?

 

というわけで、とってつけたように達郎の心配をして、今回の記事を終えることにする。
ではまた。