対魔忍RPG 殺人鬼ソニア & 稲毛屋のアイス 制作雑感

「殺人鬼ソニア」の復刻イベントが開始された。

これも記事を書くなら開催中だろうと、さっくりとまとめてみた。

いつもより少し短いのと、作ったのが同じ時期なので、今回は「稲毛屋のアイス」と二本立てでお送りする。

 

同じ時期と書いたが、以前紹介した「雷撃の対魔忍」、それから「殺人鬼ソニア」と「稲毛屋のアイス」は一ヶ月くらいの間に続けて作っている。

2018年の初め頃、まだまだ制作の初期でなにをしていいのか、なにをしてはいけないのか、今ひとつはっきりしないまま話を作っていたころだ。


ということで、今回もメインクエストと矛盾が起きないように、まだ出ていないキャラを出さない、行ってない場所に行かないという方針でやっている。
別にクライアントからそういう指示が出ていたわけではない。単にそう決めた方が余計な不安がなくて私が楽だからだ。

 

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まず「殺人鬼ソニア」は、メインクエスト7章までクリア済み、ボスがNo.16ソニア*1と言う条件で、ストーリーの方はおまかせだった。


「雷撃の対魔忍」は3章までだったので、4章で出てきた高坂静流が出せるようになったのがありがたい。
対魔忍ユキカゼ2で書いているのでキャラは把握しているし、ちょうどソニアが殺人鬼なので、その抑え役として登場させている。

 

物語は、アサギに呼ばれた主人公がソニアと任務に行くことを命じられて、こいつは死んだはずの殺人鬼云々と語り出すところから始まる。

今だから言うが、これあまり上手くない導入だ。
シナリオのテクニックでいうと、「聞いたか坊主」と呼ばれるもので、例えば、

 

「ねえ聞いた聞いた? 今度越してきたあそこの奥さん、元対魔忍なんだって」
「えっ? 対魔忍ってあの感度3000倍の?」
「そうそう。いやよね、そんな人が近くにいるなんて、子供の教育に良くないわ」
「どうりで引越しの挨拶してきたとき、妙にいやらしい感じだったわ。元対魔忍じゃあね」

 

こんな感じで、噂話の形でキャラの設定をだーっと説明してしまう。

聞いたか坊主の由来は、歌舞伎で幕あきに「聞いたか聞いたか」「聞いたぞ聞いたぞ」と言い合いながら登場し、やはり色々と説明してくれる小坊主からきている。
見たことはないのだが、「道成寺」とか「鳴神」で出てくるらしい。

 

歌舞伎は演目の約束として決まっているからいいが、普通は「消防士を出すならまず火事を起こせ」という鉄則どおり、キャラの設定はだらだら説明するのではなく、出来事で具体的に描写したいところだ。特に登場場面は。

 

例えば、「踊る大捜査線」は、主人公の青島が「昔の刑事ドラマ」まるだしの取り調べをするところから始まっている。
しかも取り調べの練習とすぐにわかり、犯人役をしていたヤクザ顔の先輩刑事に駄目出しされる。
青島のキャラをこれ以上ないくらい分りやすく描写するとともに、 これはそういうメタ視点を含んだギャクもあるドラマですよと、作品の方向性も一発で示す、実にうまい導入だ。

 

こう考えると、ソニアが殺人鬼ぶりを発揮しているところから始めたい。
ただ、手持ちのサンプルは基本的にふうま君視点のみで、それ以外の視点はごくたまに、ふうま君があれこれしていた裏でこのキャラは―――くらいの描写だったので、いきなりソニア視点の虐殺シーンから始めるのもどうかと思ったので、ここは聞いたか坊主で始めている。

 

それでも、冒頭の打ち合わせでソニアが出てきてしまうと、「なんだこいつ普通に話ができるじゃないか」と殺人鬼のインパクトが薄れるので、登場は現地に行ってからにして、出たらすぐにヤクザの事務所に乗り込んで理不尽な殺しを始める展開にしている。
ちょっと遅れたが、噂通りの殺人鬼ぶりをまずアピールしてもらったわけだ。

 

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このヤクザ皆殺し場面を冒頭に持ってきて、「俺がなぜこの殺人鬼と一緒にいるかというと」と回想を挿入することもできなくはなかったが、これはこれでよくある始まり方だし、静流が登場したメインクエスト4章でやったばかりなのでやめた。


ちなみに、後に毒使いの柳六穂が出る「毒も過ぎれば薬となる!?」という話を作っているが、このときは対魔忍RPGのサービスが開始していて、主人公以外の視点もOKとわかっていたので*2、六穂が単独でターゲットを毒殺するところから始まり、毒使いという紹介もすんたので、その後の主人公とアサギとの打ち合わせにも参加している。

 

ヤクザを皆殺しにして噂通りの殺人鬼とわかったあとは、主人公との触れ合いを通して、それだけではないソニアの別の一面が明らかになっていく。
といっても、人を傷つけるだけでなく、自分が傷つけられる痛みも好きな変態、さらに気に入った男とは殺し殺されるの関係になりたいド変態というのが分かるのだが。

 

殺し殺されるの関係については、ソニアをボスにするという条件からだ。
任務を通して主人公と仲良くなるのはいいとして、それからどうやってボスにするかで悩んでいた。


最初は体内に埋め込まれていたなにかで米連に操られて、やむを得ず戦うことになり、
「あんたは私が初めて気に入った男なんだ。そのあんたを殺したくない」
とか、ソニアらしくないセリフを言う展開を考えたりもしたが、殺人鬼というキャラにちょっと合っていない気がした。

 

そこで、本気で気に入ったので、単に楽しみのために殺すだけでなく、より楽しむために自分も殺される関係に格上げということに相成った。

快楽心中とでも言うのだろうか。
正直、意味が分からないし、ふうま君にとってはいい迷惑なのだが。

 

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ソニアはエロシーンは担当していないが、気に入っているキャラだし、他にいないタイプで使いやすいので、前述した「毒も過ぎれば薬となる!?」でゲスト出演している。
同じくそちらでゲスト出演した歴戦のオーク傭兵のおっさんとの関係が気になるところだ。
ちなみに、このおっさんの名前をいまだに知らない。

 

 

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次は「稲毛屋のアイス」についてだが、これもストーリーはおまかせで、ラスボスがクリア・ローベルという依頼だった。

ゆきかぜ、ソニア、クリアと、三つ続けてそのイベントのヒロインがラスボスでそろそろ話を作るのがキツくなってきたのを覚えている。

 

ところで、このイベント、私はプロットしか担当していない。シナリオは飯田和彦氏の担当だ。

それでいてプロットを作ったのは「殺人鬼ソニア」より前という、ややこしいことになっている。
プロットを作って、さあシナリオにかかろうという段になって、先にソニアの方をやって欲しいということになり、それが終わったらまた別の急ぎの依頼が来てとやっているうちに、シナリオまでやれずじまいになってしまった。

 

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とはいえ、クリアの愛称じぽちゃんの元になったこのセリフなど、私の言語感覚からはまず出てこなかったし、

 

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クライマックスでのふうま君のこのセリフも、プロットではもっと冷静な感じにしていたので、ここまでウェットに変えてきたシナリオを見て、「うまい! やられた!」と思っている。

 

また、このイベント、アイデアは「殺人鬼ソニア」と並行して考えていたので、ちょうど裏表のような関係になっている。

あっちは恐ろしい殺人鬼だと思っていたソニアが実は……というパターンで、*3
こっちは可愛らしい女の子と思っていたクリアが実は……というパターンだ。

 

実は恐ろしい刺客というのはありがちだが、ソニアが最初から最後まで血生臭いので、クリアは真相が分かるまでぼのぼの路線、ストーリーの展開よりも、一緒にアイスを食べたり、フリスビーで遊んだりと、 とにかくクリアを可愛らしく描写することに力を注いでいる。それでいいのだ。

 

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それにしても、ロリキャラと仲良く原っぱで遊ぶとか、私にとっては、「Flutter of birds~鳥達の羽ばたき~」の美浜つばさ以来だ。シナリオライターとして最初にキャラを考え、プロットを作り、シナリオを書いたキャラ*4である。

発売はなんと2001年。その後しばらくして制作雑感を書いていたが、それすら10年以上前だ。時の経つのが早すぎる。

 

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分かる人には一発で分かる特徴的なこの絵は、ストーリー重視のエロゲーの元祖ともいえる「同級生」シリーズを手がけた竹井正樹氏によるものだ。

私にとっては初めて会った、そして仕事をさせてもらったプロの絵描きで、とにかく早くて上手い人で、その両輪においていまだに竹井氏を超える人に会ったことがない。

 

さて、エピローグでクリアはゆきかぜの家に引き取られることになる。

これ最初はふうま君の家ということにしていた。
しかし、単発のイベントでそれをやると、影響が大きすぎるということで変更になったのだが、それでも影響は十分すぎるほどあった。


クリアはレギュラーのゆきかぜにくっついて、その後も色々なイベント、さらにメインクエストでも顔を出すようになったのだ。

対魔忍ワールドでロリキャラは珍しいので、マスコット的なポジションを確保したようだ。
また、ゆきかぜが意外と面倒見がいいこと、しっかりお姉さん役をやっていることなど、クリアを通してゆきかぜの新たな個性も表現できた。いや、めでたい。

 

私も、アンジェが主役の「ジューンブライド狂想曲」でクリアを登場させて、ようやくセリフを書くことができた。

 

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ふうま君は鈍感なのでスルーしてしまっているが、いつの間にか決め台詞が変わってるところがポイントだ。

 

カラスちゃんという相棒もでき、このカラスちゃんが決戦アリーナのような進化を遂げてからのことも楽しみだ。

ミナサキと同じくヤタガラス族の困った本性を発揮しはじめた元カラスちゃんが、クリアとだけは昔と変わらず仲良し。そんな関係を期待している。

 

最後に、そろそろクリアに私服を与えてやりたい。

鉄板のガーリーなワンピースとかも捨てがたいが、ここはあえてボーイッシュなサロペットデニムを推しておく。そして頭には可愛く結んだバンダナ。

 

*1:ナンバー付きが正式名称

*2:「まりの大冒険 闇の町の怪紳士」がその形式

*3:「実は優しい心の持ち主」とかではないのだが

*4:物語上のハッピーエンドで死なせたおそらく唯一のキャラでもある。当時は泣きゲー全盛期だった