対魔忍RPG 『勇者(エインフェリア)の憂鬱』 制作雑感

 

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『勇者の憂鬱』は、鬼神乙女(ワルキューレ)のブリュンヒルドが初登場となるイベントだ。

彼女は決戦アリーナでも実装されていて、この異形の変身ヒーローみたいな姿がそのまま全裸という、デザイン面でトップクラスに突き抜けているキャラだ。

それでいて決戦アリーナでは結構な人気者であり、対魔忍RPGでも初登場にしてガチャSRキャラとなった。

私は決戦アリーナでは担当していなかったが、ずいぶんと昔にルネソフトの『戦乙女ヴァルキリー2「主よ、淫らな私をお許しください…」』に関わったことがあり、久しぶりのワルキューレを楽しく書かせてもらった。

 

今回、イベントを設計するにあたって、このブリュンヒルドと、報酬キャラのドナ・バロウズを出す以外に一つ要件があった。

それは、自分より強い男としか生殖しない種族のブリュンヒルドがふうまの子種を狙ってくるような展開にして欲しいということだった。

 

エロゲではよくある話だが、これはなかなか難しい。

なにしろ、ふうま君とブリュンヒルドはまだ出会ってもいない。

知り合いのゆきかぜやアスカあたりだったら、呪いとかの適当な理由で「自分が一番強いと思う男の子種を手に入れなければならない」という強制ミッションでも与えて、とっとと子種争奪戦を始めることができる。

ふうま君はとんちで戦うタイプなので、単純な戦闘力だけならふうま君を圧倒しているヒロインが「自分とは違う強さを持っている男」と認識していてもおかしくない。

というか、今のところそういう流れで、ふうま君は人脈をやたらと広げている。

 

この流れでいくと、ブリュンヒルドも出会ってしばらくはふうま君のことを弱いと思い、イベントの出来事を通して自分にはない強さをもった男であることに気付き、その子種を欲しくなるという展開が一番オーソドックスだ。

ただそれだと「子種を狙ってくるような展開」ではなく、その前段階の「結果、子種を狙うことになる展開」になってしまう。

せっかく、子種を求めて三千里という内容なのでもう少しはっちゃけたい。

 

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そこで、出会いとか認識の変化とか面倒くさいことはやめて、ふうま君にはいきなり「子種男」になってもらった。それはそれでエロゲらしい。

鬼神乙女が天帝の言うことにはよく従うという設定が役に立った。

神様のお告げならしょうがない。

ということで、100年に一度の勇者(エインフェリア)という設定をいきなり作った。

また、鬼神乙女という種族からして初登場なので、ブリュンヒルドだけでなく、他の鬼神乙女にもわんさか出てもらって、そういう変わった連中だとまず示すことにした。

決戦アリーナで普通の鬼神乙女のイラストがあったのが助かった。

さすがに絵なしでは間がもたないし、やったとしても男に免疫のない女学生みたいな鬼神乙女たちがワイワイやっている面白さは半減してしまったろう。

 

ついでに、あるキャラを立てるには、そのキャラが所属するグループの中ではちょっと変わっていることを示すのがてっとり早い。

チーム物で言うと、「俺はまだお前をリーダーと認めたわけじゃねえ」みたいなニヒルな奴だ。

てなわけで、予想外のお告げに議論百出な鬼神乙女たちに対して、ブリュンヒルドが一人だけ違うことを言い出すという導入になった。

 

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このプロローグ、元々は鬼神乙女たちが弱い人間を普通に嫌がっていて、ブリュンヒルドだけが冷静にその資質を見極めようとしているニュアンスのつもりで書いた。

ところが、全体を仕上げてから見直したら、最初から子種ゲットする気満々の鬼神乙女たちが、人間だからとケチをつけることで抜け駆けしようとしているのを、ブリュンヒルドが一人だけ空気を読めていないみたいな印象に変わっていた。

調子に乗って鬼神乙女をキャピキャピに書きすぎたせいだ。

予定外だったが、ブリュンヒルドがみんなと違うことが示さればいいし、かえって面白かったのでそのままにしておいた。

 

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場面変わって、合同訓練のシーンになる。

出てくるのはドナ、アスカ、奈々華だ。

ドナは今までドナ・バロウズ【ビーチウォリアー】とユニット化されていたが、【試験兵装】として初めてのイベント登場となる。

彼女もふうま君とは初対面なので、その仲立ちとしてアンドロイドアーム繋がりのアスカに出てもらった。

以前に、アスカが主役となる『降ったと思えば土砂降り』で、ドナをちょっと出しておいたのが役に立った。

せっかくなので、アスカには今までイベントでは使っていなかった【支援型兵装】の絵を使い、続く模擬戦でも後方からの支援に徹してもらっている。

 

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同じ理由で、『不死の兵士』で既にアスカと知り合っている奈々華も参加している。

今回、アスカのバレンタイン話にもけりをつけるつもりだったので、ドナにはアスカが愚痴っているだろうし(だからふうま君に教えている)、奈々華もその件は知っているので、説明の手間が省けてちょうどいい。

むろんそれはこっちの事情で、物語的にはアスカが「もう一人くらい対魔忍に参加して欲しいわね。じゃあこの前会ったあの子にしよっと」てな感じで呼んだのだろう。

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このバレンタインのお返し話については、別に今回のイベントでなくとも、ふうま君がアスカと再会したときにやろうと思っていた。

だから今回やったのは偶然なのだが、ちょうど恋愛関係で直球すきる鬼神乙女たちが出てきたので、逆に周りくどすぎるアスカといい対比になっている。

このタイミングで子種ゲットという馬鹿馬鹿しい恋愛イベント要件があってラッキーだった

 

オチに使ってしまってアスカには悪いことをしたが、二人の関係からすると今さらメル友というのは悪くない。

アスカにとってのふうま君は米連の仲間とも、戦いとは関係ない学校の普通の友達とも違う相手だ。

「鋼鉄の対魔忍」という自分の正体を知っていて、だからといって特別扱いもせず、そんなにしょっちゅう会うわけでもない、それでいてなんか気を許せる異性だ。

だから、他の人とはしにくい話がふうま君とだけはできて、それを続けるうちに、気がついたらお互いのことをすごく深く知っていた。あとはもう既成事実だけというルートが狙えるかもしれない。

そうなるといいな。頑張れアスカ。

 

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一方、アスカが「何にも考えてない」と評したように、お返しをアスカと同じ店で買うのはふうま君らしい適当さだが、その選択は大正解ではないが、大失敗でもないと思う。

そういう店では大抵、ホワイトデーフェアと称して期間限定品を売っているし、「一番好きな店」というアスカの台詞を忘れなかったのはえらい。変に工夫を凝らしてガッカリされるよりはマシだ。

アスカも口では文句を言いつつ、「あいつ、あの店までわざわざ行ってくれたんだ。えへへ」とか内心でニヤついてるに違いない。

ちょうどこれの次の担当イベント『怒れる猫と水着のお姉さま』で、水着キャラということでまたドナを出せたので、そのへんの後日談を語らせている。

 

本筋に話を戻して、ふうま君が戦っているのをもう少し見たいという鬼神乙女たちの希望により、フェンリルパピーがけしかけられる。
もちろん、そんな希望は叶えさせたくはないので、ふうま君はドナを連れてとっとと逃げ出す。

アスカと奈々華にはそろそろ退場してもらって、ドナと二人っきりにするためでもある。
ドナの試験兵装がその名の通りまだ完全ではない、すぐオーバーヒートするという設定が役に立った。
ドナがまだ動けないから、残る三人で一番戦闘力の低いふうま君が安全な場所に連れて行く。実に自然だ。
それでいて、事情を知らない鬼神乙女たちからは「なんだあいつ!?」ということになる。
ついでに、初登場のドナにお姫様抱っこというサービスもしてあげられる。

いいこと尽くめだ。

もっとも、アスカはふうま君に抱き抱えられてるドナを見て内心ビキビキしていただろう。

 

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そこからは鬼神乙女たちの独壇場だ。
まずは決闘を申し込んでわざと負ける女だ。
ふうま君が一対一で鬼神乙女と戦うという展開は最初から考えていたが、それをどう処理するかはちょっと悩んでいた。
叶うわけがないのは最初から分かっている。

しかし、とんちでなんとかするのは早い。
まだ中盤。ここで別の強さをアピールしてもらっては困る。

 

そもそも子種云々はともかく、自分より強い相手としか付き合わないというヒロインはそれほど珍しくない。
また例が古いが、私にとっては『サクラ大戦』の桐島カンナ、『to Heart』の来栖川綾香あたりだ。
ただ、このへんのちゃんと勝負をするイメージに引っ張られていたらしく、ふうま君にどうさせるかではなく、鬼神乙女が「しきたりは守らないといけないので、わざと負ける」というのを思いつくまで少し時間がかかった。
とてもバカバカしい展開で、これでイベントの方向性がばっちり決まった。

そのお礼の意味で、彼女にはオペラ『ワルキューレ』のメインキャラ、ジークムントの妹にして妻でもあるジークリンデの名前をプレゼントした。
ついでに、抜け駆けをするなと乱入するもう一人の鬼神乙女テューレは、北欧神話の軍神テュールをもじっている。勇敢な神だそうだ。

 

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抜け駆けコンビから逃れ、ふうま君とドナはひとまず洞窟に隠れる。

仲間と連絡もとれないし、ここで二人をちょっと良いムードにする手もあったのだが、もうお姫様抱っこで照れさせているし、まだそれほどの仲ではない。

というわけで、ふうま君が冷静にドナと話していると、横でこっそり聞いていたブリュンヒルドが我慢できなくなって勝手に出てくるという展開にした。

自分で書いておいてなんだが、こいつ全然理知的じゃない。困ったもんだ。
後は私も私もと鬼神乙女がゾロゾロ出てきて、ふうま君とフェンリルとが一騎打ちをする羽目になる。

 

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このフェンリルは今回のイベントで一番可哀想な役回りだ。全然悪くない。

こんなことになったのも、鬼神乙女たちをよくあるワルキューレ像からちょっとずらしたためで、それに合わせてフェンリルもデザインからバトルの展開までオーソドックスなものをあえて外している。

作画担当の三澤螢氏のデザインは絶妙で、精悍なフェンリルがちょこんとお座りしているポーズといい、なんとなく切なそうな目付きといい、実にいい味を出している。

そこから繰り出される、やる気の無い前足の攻撃も愉快だ。

戦闘シーンの攻撃エフェクトは私も実装されるまで分からないことが多いので、いつも楽しみにしている。

 

ところでフェンリルの登場に前後して、鬼神乙女たちのふうま君に対する気持ちが変化している。

鬼神乙女の名前の由来から、一族を残したい気持ちに応えてやりたい云々というあたりだ。

当事者ではないドナが「お前いい奴だな」と口に出して言い、鬼神乙女たちは胸キュンのあまりしばし無言、天帝に決められた子種男だからではなく、乙女回路が動き出して、そこからいきなり名前と技のアピールを始めるという描写にしたのだが、少し伝わりにくかったようだ。

 

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今考えると、これは『鉄道員(ぽっぽや)』で高倉健が雪の中で一分くらい無言で突っ立ってるみたいに、人物をじっと見せても間がもつ実写映画とかのやり方で、フレームも変わらずに同じ絵がずーっと出ているゲームでは合っていなかった。

ここはもっとオーバーに、

 

鬼神乙女「なにこの感じ? なんだか胸が締め付けられる」

鬼神乙女「私もだ。戦いの緊張とは違う。違うぞ!」

鬼神乙女「こんな感覚初めて。でも嫌じゃない」

鬼神乙女「ああ駄目、勇者の顔を見ていられない。恥ずかしい」

ブリュンヒルド「これが勇者の力……トキメキ!」

  (BGM:君の神話 ~ アクエリオン第二章) 

 

てな感じに、盛り上がる鬼神乙女たち、鈍感太郎のふうま君はポカーン、呆れるドナとかの方が良かったように思う。そこが少し心残りだ。

とはいえ、みんなでふうま君を応援して、気持ちも伝えてスッキリしたので、一緒に仲良く帰っていく鬼神乙女たちは絵面も妙だし、とても可愛くできたので満足している。

 

この連中、ブリュンヒルドはもちろん、一人一人がものすごい能力をもっているので、シリアス話にちょっと出しづらいのだが、またの登場を期待したいところだ。

 

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