対魔忍RPG 『二人の魔界騎士』 制作雑感

メインクエスト31章『二人の魔界騎士』はタイトル通り、魔界騎士のリーナとイングリッドにスポットをあてたイベントだ。
リーナを主人公として、今まで語られてこなかった彼女の過去、特に尊敬するイングリッドとの関わりを描いている。
いずれどこかでやりたい話だったので、オフィシャルで担当することができて嬉しい。

 

リーナとイングリッド 、二人の運命的な出会い。それは忘れもしない――おっと焦りすぎだ。まずはリーナの日常からお話は始まる。
これまで私は、『降ったと思えば土砂降り』において、リーナのプライベートでの謎の行動を描いたことがあり、また『魔界騎士と次元の悪魔』では、ヨミハラ全土を揺るがした危機に敢然とブロマイドを差し出すリーナを描いたこともある。

その一方で、普段あの子がヨミハラで何をしているかはまだちゃんと書いていなかった。

ただ、他のイベントなどにちょくちょく出没しては、治安維持のために頑張ったり勘違いしたりずっこけたりしているので、導入としてその仕事ぶりを少し丁寧に見せることにした。

それを通してリーナとヨミハラの住人たちとの関係も描こうという目論みだ。

 

最初に出てくるのは凄腕オーク傭兵のアルフォンス。彼ももうお馴染みだ。
リーナとも知り合いで、他の傭兵にもイングリッドとは少し意味合いが違うが、魔界騎士としてしっかり恐れられている。

以前、アスタロトにあっさりやられたりしているリーナだが、あれは『ファイブスター物語』の一巻でデコースくんが神様トリオにボコられたようなもので、獄炎の女王を相手にしてドリフの爆発オチで済んでいる時点で相当の強者のはずだ。

 

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この変な歌はノマド節。

大正時代に流行した『東京節』またの名を『パイノパイノパイ』の替え歌だ。

トロールのラップも考えたのだが、なにか違う気がしたのでこちらにした。

ちょっと前にはアニメ『大正野球娘。』の中で歌われていたし、昔からロッテのパイの実のCMでやはり替え歌として使われているので、耳にしたことがある人もいるはずだ。

パイノパイノパイは別にオッパイのことではなく、原曲からあるフレーズで、単なる囃子言葉らしく意味はないようだ。ただリーナも脱いだらすごいので、オッパイのことだと考えても差し支えはない。自分で歌うのはどうかと思うが。

一応、ちゃんと歌えるようになっているので、YouTubeから原曲を張っておく。元の歌詞にある「すし、おこし、牛、天ぷら、スリに、乞食に、カッパライ」とカオスな大正時代の東京がヨミハラを思わせなくもない。

 


東京節(パイノパイノパイ)

 

一曲歌い終えると、街中で起こっている喧嘩を発見する。

ここのトラブルはなんでも良かったのだが、まずはドンパチ以外のことにしたかったのと、まだイベントに登場していないキャラを出したかったので、設定ではヨミハラにある中華料理屋の看板娘、陳春桃(チンシュンタオ)が店先で揉めていることにした。
中華は火が命なので、喧嘩の相手は火の用心のためになにかと登場している炎王にお願いした。ヨミハラの安全のため、いつも前のめりで頑張っているという点ではリーナの仲間だ。

 

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その後に出てくるメルシーケイリーナーサラとの絡みは、先に実施された『ある日のヨミハラ 』の内容を受けたものになっている。
あちらは私の担当ではないが、公開時期が近かったので、その後の話ということで取り入れている。
特にケイリーはリーナに傘を貸してもらったというとても良いエピソードであり、それをわざわざ返しにくることでケイリーのキャラも見せられる。アスカという共通の知り合いもいるので話も膨らませやすい。出さない手はない。
『ある日のヨミハラ』では、ケイリーの戦う場面がなかっことだし、せっかくなので飛び入りで戦闘に参加させた。
エレクトリックパンチというストレートすぎるネーミングはアスカ譲りのセンスだろう。感電パンチとかいって、上りと下りがありそうな必殺技を使わないだけマシだ。
そのアスカが持っている対魔忍の男の子の写真とは言うまでもなくふうま君だ。
『怒れる猫と水着のお姉さま』の時と同じく、またしても本人のいないところでふうま君への好意をバラされている。前回の記事でいずれ埋め合わせをと書いたそばからやってしまった。アスカごめん。そのうちな。

 

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そんな感じでパトロールを無事に終えてノマド基地に帰還すると、イングリッドのところにドロレスが来ている。
彼女は『ヨミハラ大納涼祭』以来の登場なので、その時に二人で撮ったイングリッド の写真で盛り上がってもらった。
また出てきたリーナお手製のブロマイド、さらには部屋の大パネルと、さすがの最強の魔界騎士ももう諦めている。
このへんのくだりは書いてて楽しかったが、もちろんこれは繋ぎのワンクッションで、イングリッド組のブレーンのエレーナが飛び込んできて事態は急変する。

ヒュドラの出現だ。

 

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今回の話のメインとなる二人の過去とは別に、現在の方でもヒュドラが出ました、倒しましたではあんまりなので、リーナにとって因縁の相手ということにしている。
憧れのイングリッドと共に最初に戦った相手、しかも己の未熟さのために倒すことができなかった相手だ。そりゃ焦りもする。
画面ではいつもと同じ桜嵐舞闘のドヤ顔をしているが、いつもとは別人のような険しい顔をしているのである。そこは心の目で見てもらいたい。

 

そんなこんなで、リーナが焦って自分の身を傷つけてしまったところから過去シーンへと入っていく。
ここはイングリッドとの出会い、修行時代、再会と三部構成になっている。
書こうと思えばいくらでも書けるが、あまり盛り込むとバランスが悪くなるので、今回は「魔界騎士に私はなる!」というテーマに絞っている。

導入はイングリッドと出会う前、リーナが雑種と呼ばれて蔑まれていた頃からだ。
何気に重い設定だ。この子、設定だけなら普通に主人公をやれる。
実はかつての英雄の子だったとか、すごい隠し能力があったとかでもないので、主人公は主人公でも一昔前のタイプだ。
こういう子の成長譚には敬愛する師匠との別れが鉄板なのだが、それを考えると悲しくなってしまうのでやめておこう。

 

ともかく、リーナが貴族のお屋敷でこき使われていて、意地悪なお嬢様の相手をさせられている境遇にするとして、そのお嬢様をどうしようか迷っていた。
ビジュアル的にはもちろん立ち絵が欲しい。しかし悪役だし、ここ一回の回想のために新キャラを作ってもらうのも気が引ける。
誰かいい人いないかなあと、今までのキャラを端から見ていったら、ぴったりなのがいた。
セルヴィア・ローザマリーだ。
その頃はまだ実装されていなかったが、元名門貴族のお嬢様で、下級貴族の反乱によって家が滅び、一人だけ生き残ってお家再興のために頑張っている努力家。しかもリーナの苦手な犬を連れている。ちゃんと絵にも犬がいる。

素晴らしい。まさにリーナの過去のために作られたようなキャラだ。

 

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セルヴィアが貴族のお嬢様でいられた頃、リーナに色々やっていたことにしよう。
ネームドキャラなので、ただの意地悪なお嬢様というのはやめて、リーナのことを馬鹿にしつつも、内心ちょっと気にしていて、家に転がっていた風の魔剣を与えたりもする。
そして家が滅んで一人になってから、風の噂でリーナが魔界騎士になったことを聞き、あの子には負けられないと努力している――てな感じで、後半は妄想だがリーナの過去に絡めたセルヴィアの話もできそうだった。
特に風の魔剣の出どころをどうするかは悩みどころで、過去シーンで使うリーナの立ち絵では持っているが、そんなものおいそれと手に入れられるはずがないので、セルヴィアの気まぐれでもらったということにできてラッキーだった。
そういうわけで、過去シーンはリーナのモノローグから入り、セルヴィアがあれしろこれしろとわがままを言っている場面に続き、その流れで剣をもらってからリーナの立ち絵が出てくるようになっている。

なお、セルヴィアの口調はこれが過去で、かつ使用人相手ということもあり、現在のそれとはちょっと変えている。

 

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そして、晩餐会。
リーナとイングリッド、運命の出会いだ。
自分を馬鹿にせず、剣の稽古をつけてくれて、今までにない視点と魔力の使い方を教えてくれて、すごい技を見せてくれて、魔界騎士になりたいという願いを認めてくれて、いつか共に戦おうと励ましてくれた。
自分で書いておいてなんだが、てんこ盛りにもほどがある。これで憧れなかったら嘘だろうという大盤振る舞いだ。
もしかしたら、実際はこんなにキラキラしておらず、イングリッドにしてみれば、退屈して外に出てみたら、ちょっと面白い子がいたので、少し相手をしただけなのかもしれない。
しかし、これはリーナの回想なので端から端までイングリッドが光り輝いていていいのだ。
まんが道』で、初めて主人公たちが手塚治虫に会った時も、先生は宇宙まで背負ってキラキラしていたではないか。憧れとはそういうものだ。

 

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回想の二つ目はリーナの武者修行時代だ。
小さな傭兵団の女剣士、荒くれ者どもの中で頑張っている。実力もついて仲間として認められているが、魔界騎士を目指していることは笑われている。いつかイングリッドに再会する日を夢見ている最中、彼女が魔界騎士にあるまじき行動をしたという噂を聞いた。
そんな感じのつなぎの話であるが、ここでもネームドキャラを出したくなった。
さあ誰にしようか。できれば、今まで絡ませたことのない意外な人物がいい。
志を同じくする剣士、ライバルとかでもいいなと探していたら、とんだ盲点のキャラがいた。
リーナと同じく旭氏が作画を担当していて、決戦アリーナのころから氏の二枚看板とも言えるキャラクター、リリス・アーベル・ビンダーナーゲルその人だ。

 

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対魔忍RPGのイベントでもしばしば登場しているが、実はこの二人、まだ本編中で絡んだことがなかった。
そのわりに、なんとなく二人はとても仲良しというイメージがすでにある。一緒にコタツで蜜柑食べてるとか。

私も今さら二人の出会いを書いて、「あなたのお名前なんてえの?」とかソロバン片手にやるのもなあと思っていた。
そこに渡りに船のリーナの過去だ。
もう本編が始まる前からずっと知り合いだったことにしてしまおう。
二人ともまだ未熟だが、リーナは魔界騎士、リリスは偉大なお婆さまの名を次ぐ二台目と、なりたい自分になるために頑張っている。
互いに励まし合う心の友、それでいいじゃないかということで、リリスの登場となった。

それと個人的には、冒頭でリーナを褒めている傭兵団の団長がいぶし銀でちょっと気に入っている。

 

回想の最後はイングリッドとの再会だ。
リーナは傭兵団を出て、リリスとも別れ、一人修行を続けている。
もうこの時点で一線級の実力で、千突きやヴァニッシュといった技を使いこなし、たった一人でならず者たちを蹴散らせるほどだ。
現在のリーナを見ていると、常にノリと勢いで行動しているようだが、今回の過去エピソードで、実は様々な経験を積んでいる百戦錬磨という側面を追加した。
というより、雑種と呼ばれる存在から最強の代名詞である魔界騎士にまでなったのだから、そこらのエリート魔族とは比べ物にならない経験を積んでいるに決まっている。残念ながらそれがあんまり表に出てこないだけだ。

 

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ともあれ、イングリッドとの再会は劇的なものにしたかったので、いきなり自分の技に炎がプラスされるという登場の仕方になった。リーナにとってはまたキラキライングリッドだろう。
彼女と同じくヒュドラを倒しに来たイングリッドに同行して(今と違ってイングリッドが先を歩いてるのがミソだ)、リーナは実戦で初めて見たその強さに感激し、イングリッドもリーナの成長に満足して、二人でヒュドラに挑むものの、頑張りすぎたリーナのミスで撤退を余儀なくされる。このへんはまあオーソドックスな展開だ。

 

このシーンのキモは、イングリッドが魔界騎士としての自分の確たる思いをリーナに告げて、それに感銘を受けたリーナがイングリッドに助けられた後、彼女のそばで自分なりの魔界騎士を目指そうと決意するところなので、ヒュドラは因縁の相手ではあるが完全な脇役だ。

脇役なので、神格級の魔獣という肩書きには申し訳ないが、ラストバトルではヒュドラにあっさりやられてもらった。
だいたい、リーナとイングリッドの二人を相手にしたときも結構苦戦していたのに、その頃より力を増した現在の二人に加えて、エレーナ、ドロレス、その他ノマドの女戦士たちを揃えた精鋭チームに勝てるわけがない。

 

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最後はリーナの見せ場だ。
初めて出会ったあの夜、イングリッドに教えてもらった技を長年かけて必殺技まで昇華させた、名付けてセブンズ・ハリケーンが炸裂する。

上の画像はそのモチーフ、決戦アリーナで最後に実装されたリーナのカード、【七衆の嵐】リーナだ。

イングリッド様直伝の技」という口上から始まって、自分で「超必殺」と言いつつ、とどめはイングリッドに任せるあたり、とてもリーナらしくなったと思う。
次あたりでリーナの新ユニットの奥義にならないだろうか、期待している。

 

エピローグは、セルヴィアが実は死んでおらず、リーナも既にそれを知っていて、これから彼女のお茶会にリリスも来る予定という仲良し関係を示して終わりだ。
そうそう、現在のセルヴィアはいかにもお嬢様っぽい口調で喋っているが、リーナに対してだけは昔と同じように接していると思う。
もちろん内心では、本当に魔界騎士になったリーナを尊敬していて、昔のことも謝りたいが、素直にそれができるような性格ではなく、無理して昔通りわがままに振る舞っている。リーナも別にそれを気にしておらず、今も普通にお嬢様扱いしてくれるので、ますます引っ込みがつかなくなって、謝るタイミングを逃して心の中がグルグル状態。
そんなセルヴィアを想像すると楽しい。

 

最後になるが、今回のリーナイベントでは旭氏による同人誌『対魔忍アサギ設定アリーナ』から色々なネタを使わせてもらっている。ここで感謝の意を示させていただく。


これは素晴らしい本で、風の魔剣の謂れなどそのまんまだ。銘を刻まずに布を巻いたまま使っているという設定など実にいい。
なぜ自分の銘を刻まないのか?
セルヴィアの形見だから。

とても大切な剣なので、彼女が生きていると分かった今でも、もらったそのままの形で使っている。
てな感じで、一本の剣の設定からリーナらしいエピソードができあがった。
この本だけでなく、旭氏のTwitter画像やpixivなどから色々なイメージをもらっている。
このIFリーナなどは最高だ。 

 

ポンコツを捨て、哀しみを背負った黒翼の魔界騎士。

けれどイングリッドはもういない。腰には形見の魔剣ダークフレイム。

てな感じで、大人ゆきかぜの世界に出てきそうだ。

 

そしてとどめのこれ、イベント実装後に素晴らしい絵を描いてくれた。

感無量とはまさにこのことだ。

  

 

しかもこれよく見ると、風の魔剣にもう布を巻いていない。

つまり、

「なに私がやった時のままで使ってるのよ。

 魔界騎士になってもリーナはリーナね。ダメダメなんだから。

 さっさとよこしなさい。しょぼい名前くらい私が刻んであげるわよ」

 で、かつては使えなかった家伝の秘術「ローザ・プリズム」を駆使してそれを刻み、そんなことはおくびにも出さず、さも適当にやったという顔をして、

「ほら、あなたの剣よ。さっさと持っていきなさい」

 と昔は放り投げた剣をちゃんと手渡しする。

「ありがとうございます、お嬢様!

 うわあ、私の名前がこんなに華麗に!!」

 え? ほんと、嬉しい、頑張った甲斐があったわ。

 と顔が緩みそうになるのを無理して堪えて、

「当然でしょ。この私がやってやったんだもの。感謝しなさい。

 あ、あとね……その……昔あなたに色々しちゃって……ご、ごめ……(超小声)」

「え? なんですかお嬢様?」

「な、なんでもないわよっ!」

てな感じのエピソードまで、あの絵だけで想像できるではないか。

実に楽しい。

そんな風にいつもキャラを魅力的に描いてくれる旭氏に改めて感謝しつつ、今回の制作雑感を終えることにする。

ではまた。