対魔忍RPG ショートトーク 『彼女たちのバレンタイン』おまけ

●井河アサギ
「……はあ、これどうしようかしら。そもそもなんでこんなもの買っちゃったのかしら」
「失礼しまーす。紫先生と一緒に新しい訓練の計画を―――うわっ、お姉ちゃん!? いま何隠したの? まさかまさかバレンタインのチョコ!?」
「!!」
「アサギ様!! 誰ですか!? 誰にそのチョコを渡すつもりなのですか!!」
「バレンタインもう終わってるけどね。ということは、お姉ちゃん誰かにチョコ渡そうとして、勇気が出なくて渡せなかったんだ。く~~~そんな恋に恋する乙女みたいな可愛いことをお姉ちゃんが!」
「そんな……アサギ様が、アサギ様ともあろうお方がそんな……」
「ち、違うのよこれは―――ええと、ちょっとした貰い物で……あっ!」
「はい、影遁の術~~! やっぱりバレンタインのチョコでした。それもすごい高級そうな奴。お姉ちゃんの嘘つき。さてさてアサギ先生はこれを誰に渡すつもりだったのかなあ?」
「アサギ様、仰ってください。誰なのですかその男は!! まさか生徒なのですか!? アサギ様あっ!!」
「ちょ、ちょっと紫、落ち着いて……」
「落ち着いてなどいられません!」
「どうどうムッちゃん。顔も声もヤバいことになってるから」
「だがさくら、お前は気にならないのか! アサギ様がここの生徒に、年下の男に恋い焦がれるなどそんなことが、そんなことがっ……うぐううっ!」
「そんな全力で歯を食いしばって不死覚醒を発動させるほどのことじゃないって。教師と生徒だろうがそういう気持ちになっちゃうことはあるだろうし、私なんか男子に、女子もだけど、ラブ的な視線をしょっちゅう送られてるよ」
「それはお前が甘く見られているからだ。大体それで誰かにチョコを渡したことはあるのか?」
「なはは、それはないけど。そこはやっぱり私は先生だって意識があるし、もし渡すとしたら学校の外でかなあ」
「お前にしてはまともな意見だ」
「ありがと。なのにムッちゃん、あのお姉ちゃんが学校で誰かにチョコを渡そうとしてたんだよ。五車学園始まって以来の大事件だよ」
「ぐむううう~~~~~」
「そんな二人で勝手に盛り上がらないで。別に学校で渡そうと思って持ってきたわけじゃないわ。なんとなく買ってしまったけれど、やっぱりまずいかしらって思ってるうちに鞄にいれてたのよ」
「まあ、そんなとこだろうね。で、誰?」
「誰なのですか、アサギ様!」
「………………」
「お姉ちゃんだんまりだ。あんまり隠すと私も本気だって思っちゃうよ。多分、ふうま君でしょ?」
「なっ? どうして?」
「ん~~~~なんとなく、ふうま君、お姉ちゃんが独立遊撃隊の隊長になんか抜擢したせいで、明らかに本人の力量以上に頑張ってるし、ご褒美にこっそりチョコくらいあげてもいいかなって」
「そう思う?」
「うん思うよ。あと前にムッちゃんが大ショックを受けたテーマパーク結婚式事件のパートナーだったし、にひひ」
「そうだ……あの時もアサギ様の相手はふうま小太郎だった。やはりそうなのか、あの時から、いやもっと以前から二人はそんな関係に……ううううう」
さくらやめて。紫がまた三日は立ち直れなくなるでしょ。違うのよ紫。あの時もそうだし、このチョコもそんな深い意味はないのよ」
「バレンタインで盛り上がってるからなんとなく買っちゃったんだよね。あるある。そういうこと」
「そうなの。ホントにそれだけよ。それだけ」
「はい、信じます。アサギ様……私はアサギ様を信じます……ううう」
「そんな泣くほど……」
「そのチョコどうするの? もうバレンタイン終わっちゃったけど?」
「どうするって今さら渡せないでしょ? 逆に不自然よ」
「高いチョコがもったいないよ。ふうま君、この前ヨミハラで、お姉ちゃんのクローンとなんかやってたみたいだから、その報告を聞くついでにお茶菓子として出したら?」
「生徒からの報告を聞くのにお茶菓子?」
「そこはそれ、誰かからの貰い物とか言ってさ。『一日遅れたけどバレンタインで』って言いたきゃ言ってもいいけど」
「言わないわよ。言うわけないでしょ。……そうね。そうしようかしら」
「オッケー、ムッちゃん、そんなとこで打ちひしがれてないでほら行くよ」
「さくら、それでいいのか? それで本当にいいのか?」
「いいんじゃない? ふうま君って年上好きみたいだし、わりとお姉ちゃんとお似合いだと思うんだけどね。私とだってそうだけど、お姉ちゃんほど脈はないかもなあ」
「ちょっとさくら……」
「そんなこと言うな!」
「はいはい。じゃ、アサギ先生、失礼しましたーー」
「なんだかさくらに乗せられてる気がするけど、まあいいわ。ずっと持っててもしょうがないし。―――こちら校長室。校内放送でふうま小太郎をここに呼び出してくれ」

【制作後記】
非公式トークのおまけです。バレンタインから一日過ぎて、そういえばもう一人いたなあと思い出して勢いで書いてみました。