対魔忍RPG ショートトーク 『彼女たちのバレンタイン』


●井河さくら(若)
「ふああ~~~。ふうま君、おはよ~~~」
「おはよう、今日は早いな」
「なんか変な時間に目が覚めてゲームしてたら朝になっちゃった。はいこれ」
「なんだ?」
「チョコだよチョコ。今日なんの日か忘れてない? ザ・恋する乙女が切ない想いを伝える日~~♪ なんちて」
「……ああ、バレンタインか。くれるの初めてだな。どういう心境の変化だ」
「むっふっふ♪ 実はふうま君への気持ちがじゃじゃーん! 突然ライクからラブに変わった――とかじゃないんだ。にひひ♪」
「じゃあなんなんだよ?」
「んーーーなんとなく。そういえば今まであげてなかったなーってふと思っただけ。コンビニで買ってきただけで、全然手作りとかじゃないし、ふうまくん今年はまた沢山もらえるだろうけど、これもそれに加えといてって、まあそんな感じ」
「加えるもなにも今年はこれが初めてだ。ありがとうな」
「どういたしまして。ふぁあ~~、やっぱりもうちょっと寝よかな。んじゃ、おやすみー」


●出雲鶴
「ご主人様、おはようござ――ぬあっ!? その手に持っているのはもしやバレンタインのチョコ? こんな朝早くからそのような真似をするとは一体何者!?」
「そこでさくらからもらった。今年はなんかくれる気になったらしい」
「さくらさんが!? そうですか……さくらさんが……」
「どうした?」
「いえ……ご主人様の専属メイドとして、最初にバレンタインのチョコをお渡しすることができず申し訳ございません。どうぞこちらをお受け取り下さいませ。私からの溢れる気持ちにございます」
「おお、二つもか」
「こちらはトリュフチョコです。生クリームを使っておりますのでお早めにお召し上がりください。こちらはご主人様のお好きなオランジェットです。小分けにして真空パックしていますのでこのままでも一ヶ月、冷凍して頂ければもっと長く保つと思います。どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」
「ありがとう。そういえばライブラリーにも渡したりするのか?」
「ち、父上にですか? 用意はしております。亡き母には及びませんが、父上はボンボンショコラが好きとのことですので……」
「喜んでくれると良いな」
「はい、私もそう願っております」


●相州蛇子
「おはよう。ふうまちゃん。今年は学校がある日のバレンタインで良かったね。また結構もらえるかもって期待してるんじゃない?」
「まあ、ちょっとだけな」
「やっぱり。もらえるといいね。蛇子はそういうのとは関係なく今年もちゃ~んとふうまちゃんにあげるけどね。はい、ハッピーバレンタイン♪」
「ありがとう。毎年感謝してる。蛇子様々だな」
「どういたしまして。今年のはちゃんとタコ墨入りだよ」
「お、おう……そうか」
「もーー、そんな顔しなくても大丈夫だよ。前にふうまちゃんから美味しい墨入りクッキーお返しにもらったでしょ? だから蛇子もタコ墨を入れても、ううんタコ墨を入れたからこそ美味しくなるように工夫を凝らしてみたんだ。期待してて」
「タコ墨を入れないって方向性はないのか? 前にそういうのもくれただろう?」
「だってそれだとただ美味しいだけで、食べた瞬間にこれ蛇子のだって分かんないでしょ? やっぱりそれはつまんないなあって。今回は美味しいから大丈夫だよ。タコ墨だけじゃなく蛇子の気持ちもい~~っぱいこもってるし」
「分かった。本気で味に期待するぞ」
「うんっ、あとで感想聞かせてね」


●水城ゆきかぜ
「はい、バレンタインのチョコ。お返しよろしくね。今年も期待してるから」
「いきなりお返しの催促からか。まあ頑張ってみるよ。ありがとう。しかし箱がデカいな。それに重いぞ。これケーキか?」
「ブラウニー。ちょっと作ってみたんだ。二種類入ってるから。チョコだけのオーソドックスな方はまあ普通のブラウニーで、ドライフルーツ入りのは自信作。ずっしり濃厚甘々って感じだから、濃いコーヒーとかと一緒に食べるといいかも。すぐに食べきれないようなら冷凍して。一ヶ月くらいもつから」
「分かった。しかしゆきかぜもケーキなんか作るんだな」
「なにその私はケーキなんか作りそうにないのにこれはおかしいぞってすごいイラッとする顔は?」
「悪く取り過ぎだ。前にお菓子作りはチマチマ計量しないといけないから面倒とか言ってたろ?」
「言ったっけ? そうだけど最近クリアがお菓子作り始めてて、それで私が横でなんにもできないってイヤじゃない? だからちょっとね」
「お姉さんとしては辛いところだな」
「そうなのよねー。クリアはカラスとチョコクッキー作ってた。後で別に渡すって。ちゃんともらってあげてね」


●マヤ・コーデリア
「あの……フーマ、私もバレンタインのチョコというのを用意してみました。私の世界にはそういう風習はないのですが、寮でみんながすごく盛り上がってましたし、フーマはきっと私からのチョコを期待してると言われたので……そうでしたか?」
「まあ期待というか、マヤ様からもらえたら嬉しいなとは思ってました。もらえるんですか。ありがとうございます」
「よかった。郷に入れば郷に従えと言いますものね。チョコに気持ちを託すというのはとても素敵ですし。……あ、でも勘違いしないでください。これを渡したからと言ってあなたが好きだとかそういうわけではありませんから。いえ、あなたが嫌いというわけではなく、好きか嫌いかで言ったら……それはその好きですが、男女の恋愛的な意味ではなく、つまりなんというか、いつも私に色々尽くしてくれているあなたへの感謝、そう感謝の気持ちを込めてのチョコです。そこは勘違いしないように。いいですね」
「もちろん分かってます」
「よろしい。こっちでいつの間にかあなたと恋仲になってたりしたら、姫姉さまになんて言われるかわかりませんもの」
「え? そういう心配をするってことは可能性はあるってことですか?」
「か、可能性の問題ではありません。主と従者とはある意味、恋人以上、夫婦以上に親密な関係になるのですから、私たちもお互いに節度を守りましょうとそういうことです。あなたいつも一言多いです。もう。黙って受け取りなさい」


●篠原まり
「……ふ、ふうま君、ちょっといいかな?」
「おっ、まりか? もしかしてバレンタインのチョコか?」
「うわっ、すごい勢いで来た。……う、うん。また私たち三人も用意してみたんだ。よかったら受け取ってくれるかな?」
「もちろんありがたく受け取るが、私たち三人って?」
「ふぇっ? あっ、舞ちゃんも卯奈ちゃんもいない!? なんで!? あーーーあんなとこに隠れてる! なんでえ??」
「やっぱり一人ずつ渡そうってことなんじゃないのか? どちらかといえば俺もそっちの方が嬉しいしな」
「え? そう? 一人ずつの方がいい?」
「なんかバレンタインって感じがするだろ。今にも告白しそうな感じで」
「ふぇええ? ここ告白? わ、私、今ここでふうま君に告白とか無理無理無理。いきなりそんなことできないよ~~」
「いや、告白しろとかではなくてだな。そういう雰囲気があっていいなという話だ」
「あ、ふいんきふいんきね。そうだね。そういうのはいいよね。じゃ、じゃあ……はい、ふうま君! 私からのえとえと……き、気持ちですっ!」
「ありがとう」
「私も受け取ってくれてありがと! それじゃねっ! も~~~~、舞ちゃん、卯奈ちゃん、いきなりいなくなるなんてひどいよーーーー!!」


●七瀬舞 & 望月卯奈
「ふうまさん、お待たせしました。私からのほんの気持ちです」
「ふうま君、私からもこれ気持ち。いつも色々ありがとねっ!」
「二人ともありがとう。なんかまりが向こうで怒ってるがいいのか?」
「いいんです。そんなことより、まりちゃん先輩、ふうまさんにチョコを渡すときになにか言いましたか?」
「うんうん、それ私も聞きたい。まりちゃんふうま君になんて言ったの? なんてなんて?」
「いや、普通に私からの気持ちって」
「あちゃ~~~~~」
「まりちゃん先輩、相変わらずですね」
「でもでも、まりちゃんにしてはすごく頑張ってた。それ伝わってきた。その『私からの気持ち』にきっとすごい気持ちがこもってたと思うな。だよね、ふうま君?」
「う、うん? そうなのか?」
「こっちもだ~~~」
「こういう人ですから」
「しょうがないか。……あ、そうだ、ふうま君、私があげたチョコ餅、あんまり日持ちしないんだって。できれば今日中に食べて。ごめんね」
「分かった。チョコ餅とは卯奈らしいな」
「でしょ? すっごく美味しいよ」
「私のはカカオ100%のダークチョコレートです。買ってきたものですから日持ちします」
「そりゃまた苦そうだな」
「と思うでしょうが、これは甘くてなめらかです。きっと気にいると思います」
「舞ちゃん、本屋に行く回数も減らして、色んなお店でチョコ探してたもんね」
「そ、それはせっかくあげるのですから美味しい方がいいですし。では、失礼します。お返しはまた京千代紙でお願いします」
「舞ちゃん、お返しのリクエストするんだ。すごいね。じゃあ私はお餅を使ったお菓子がいいな。ふうま君、よろしくねっ!」


●神村舞華
「よう、ふうま。ここにいたのか。なんか色んな奴からチョコもらってるみてえじゃねえか。お前もなかなかやるな。俺も持ってきたぜ。お前には筆頭の件やらなにやらですげえ世話になったからな。今年はちょいと気合入れたぜ」
「気合って自分の炎で料理するとかしたのか?」
「しねえよそんなこと。普通に東京の銀座に行ってチョコの専門店で買ってきたんだよ」
「そういう話か。銀座のチョコの専門店とか高かったんじゃないのか。悪いな」
「いいってことよ。俺も一度行ってみたかったからよ。ものすげえゴージャスな店で俺としたことがちょっと中に入るのに躊躇っちまったよ」
「そんなにか。舞華もそういう店にはやっぱり可愛い格好で行くのか?」
「うるせえな。俺だって場所柄くらいは考えるよ。……ちっ、可愛いとか余計なことを。鉄志の兄貴に言われたこと思い出しちまったじゃねえか」
「鉄志さんがどうかしたのか?」
「いいからちょっと黙ってろ。今から渡すからよ。すーーはーーすーーはーーー、『ふうま君、これ私の気持ち、受け取って♪』」
「熱でもあるのか?」
「ねえよ! バレンタインのチョコ渡すときくらい普通の女の子みてえにしたらどうだって言われたんだよ。こんなの全然俺らしくねえよ。いいからもらっとけ!」


●磯咲伊紀
「ふ、ふうま君っっ!! ちょっといいかしら?」
「磯咲か。なんだ? もしかして今年もバレンタインのチョコか?」
「え、ええ、そうなの。またふうま君にもらってもらおうかと思って。私もみんなみたいにバレンタインの気分を味わってみたいし、でも別にそんなに好きじゃない人に渡して勘違いされたらイヤだし……あ、違うの。ふうま君のことが別にそんなに好きじゃないとかじゃ全然なくて、ふうま君はそういう私の気持ちを汲んで普通に受け取ってくれるから、つい甘えちゃって。ごめんなさいね。私の勝手にいつも付き合ってもらって」
「いやいや、チョコをくれるだけで嬉しいよ。いつも立派なのをありがとう」
「う、ううん、私ちょっと加減が分からないところがあるから、いつも張り切り過ぎちゃって、今回もこんなになってしまったわ。大げさすぎたらごめんなさい。はい、ふうま君、受け取ってください」
「ありがとう。お返しはちゃんとするから」
「い、いいのよ。私が勝手にあげてるだけなんだから。そんなに気を遣わないで。でもありがとう。ふうま君。それじゃ」
(今年もちゃんと渡せたわ。言葉は普通だったけど、表情と仕草で私の溢れる想いを精一杯込めることができたわ。彼に群がる有象無象のメスブタたちとは絶対に違うはずよ。そうに決まってるわ)


●速水心寧
(わあ、磯咲さんもふうま君にチョコあげるんだ。いつも渡してたみたい。すごいなあ。全然気づかなかった。ふうま君の前ではあんな顔するんだ磯咲さん。私も頑張らなきゃ。去年は家のそばまで行ったのに勇気がでなくて帰っちゃったし。今年はみんな渡してるから逆に目立たなくていいよね)
「ふうま君、いつもありがとう。これ私の気落ちです。受けとってください。――うん、いけるいける」
「……あ、あの……ふ、ふうま君? ちょっといいですか?」
「おお、心寧か、どうした?」
「え……あのその……きょ、今日はバレンタインだから……私も……ふうま君にあげようかなって……」
「え? くれるのか?」
「は、はい……イヤじゃなければですけど。受けとってもらえますか?」
「イヤなんてとんでもない。もちろん受け取るよ」
「ああよかった。じゃあこれ。ふうま君。いつもありがとう。私の気持ちです。受け取ってください」
「うん。ありがとう」
「ど、どういたしまして。そ、それじゃあ、ふうま君。またね」
(やった。私ちゃんと渡せた。ふうま君も受け取ってくれた。すごく意外そうな顔してたけど、全然そういう対象じゃないのかな私? ううん、そこは気にしない気にしない。これが最初の一歩なんだから。磯咲さんを見習ってもっと頑張らなきゃ)


●鬼崎きらら & 死々村孤路
「なんか知らないけど、アイツ次から次へとチョコもらってるわね。意外とモテるんじゃないの。拍子抜けしちゃった。これどうしようかな」
「(きらら、こんなとこで何してるの?)」
「うわっ!? 幽霊みたいにいきなり背後に現れないでよ。べ、別になにもしてないわよ」
「(今さっと隠したのはふうま君にあげるチョコ?)」
「なんだっていいでしょ。っていうかなんであげる相手がふうまなのよ?」
「(他にいるの? それは知らなかった。意外。誰?)」
「他にって、そりゃいないけど、これはふうまにあげようかなって持ってきたけど……コロこそこんなとこに何しに来たのよ?」
「(私? ふうま君にチョコをあげにきた)」
「えっ? あげるの?」
「(何度かあげてる。ふうま君すごく喜んでくれるし、私も普通にあげたいから)」
「そうなんだ。まさか本命? 違うわよね? 義理でしょ?」
「(ふふ、本命だったらどうする?)」
「べ、別にどうもしやしないけど、すごいビックリするわよ。コロがふうまになんて想像もしてないし」
「(そうなんだ。じゃあもっと驚かせようかな。実はね、私とふうま君、かなり前から付き合ってるの。みんなには内緒だけど)」
「うそ……」
「(くすくす、冗談。だったら面白いかもって今思っただけ。驚いた?)」
「ちょっとあんたねえ!!」
「あれ? きらら先輩にコロ先輩!?」
「ふうまっ!?」
「(あーあ、見つかっちゃった。そのチョコどうするの?)
「渡すわよ。これで持って帰ったら馬鹿みたいでしょ。ふうま、はいこれ、バレンタインのチョコ!」
「え? ありがとうごさいます。きらら先輩からチョコもらえるなんて嬉しいです」
「言っとくけど義理よ。あとクリスマスの時とか色々話聞いてくれたからそのお礼!」
「(クリスマスの時の話ってなに?)」
「な、なんだっていいでしょ!」
「コロ先輩、すいません。それは俺ときらら先輩の秘密なんです」
「ちょ、ちょっと。そんな秘密とか言わなくていいって」
「(ふふ、そうなんだ。二人だけの秘密。すごくいいと思う。じゃあ私からもこれ。きららほどインパクトはないけど)」
「そんなことありません。ありがとうございます。コロ先輩」
「(それと放課後、図書室に行ってあげてね)」
「ああ、わかりました」
「なんで図書室?」
「(それは私とふうま君ともう一人の秘密)」


●天宮紫水
「お館くん、待ってたよ」
「これはチョコを期待してもいいのかな?」
「もちろん。今日わざわざ呼び出しておいて違う用事だったら、お館くんガッカリでしょ?」
「そりゃなあ」
「じゃあこれ。ハッピー・バレンタイン♪ 手作りとかじゃなくてゴメンね。これもコロに買ってきてって頼んだものだし。でもどんなチョコにするかは自分で選んだよ」
「ありがとう。前もって言ってくれれば実体化するのを手伝ったのに」
「んーーーー。でもそしたらお館くん、私がどこになにしに行くか気になるでしょ? 一緒に買いに行くのも変だし。前は偶然そうなったけど」
「そうだったな」
「でも、お館くんちょっと変わったね」
「なにが?」
「今日のこの姿。バレンタインなのにエッチな格好じゃない。今日はお館くんにどんな格好させられるかドキドキしてたのに」
「あのな。今までだってああいう格好にさせたかったわけじゃない。たまたまフッと頭に浮かんだだけだ」
「うふふ、そういうことにしておいてあげる。いつかお館くんの力を借りずに実体化できるようになったら、お館くんの溢れるエッチな妄想――じゃなかった、たまたまフッと頭に浮かぶのに頼らずに、私が自分でそういう格好してあげる」


●覚醒リリム
「おーやびーん、学校お疲れさまーー。どうだった? チョコいっぱいもらえた?」
「まあ、結構もらえたよ」
「やるじゃん。最近のおやびんモテモテだね。ではいよいよ、おやびんガチラブ勢第一位のリリムちゃんがおやびんのために準備したとっておきのチョコを――」
「『私を食べて』とかいうのはいらんぞ」
「えーーーーー? そっちの方がよかった? しまったーー。私、普通にチョコ持って来ちゃったよ。ごめんねおやびん、今すぐ裸リボンになって、おやびんに食べられるからね。脱ぎ脱ぎ~~」
「しなくていいと言ってるんだ。やめんか」
「あっ、そうだった。ざーんねん。じゃこれ。私が普通に手作りしたチョコ。おやびん、受け取って」
「ありがとう。へえ、手作りか」
「みんながやってたみたいに、売ってたチョコ溶かして固めただけだけどね。でもでも聞いて聞いておやびん。私ね、それやってるとき、すっごいドキドキしちゃった。みんながバレンタインで盛り上がるのなんか分かった。もしかしたら淫魔でこんな気持ちを味わったのは私が最初かもしんない」
「そりゃまあ、淫魔は簡単に相手を誘惑できるからなあ」
「そうなのそうなの。だからおやびんありがとね。私をこんな気持ちにさせてくれて。てへへっ」


●クリア・ローベル & カラス
「ふうま、はーぴーばれんたいん。はい、わたしたちのチョコ、今年もあげる」
「……♪ ……♪」
「ありがとう。今年は二人でチョコクッキー作ったそうだな。ゆきかぜに聞いたぞ。頑張ったな」
「頑張った。ね、カラスちゃん?」
「……! ……!」
「最近、お菓子作りを始めたんだって?」
「うん。ゆきかぜが今年はふうまにブラウニーつくるって。だからわたしとカラスちゃんも」
「ん? 先にお菓子作り始めたのはゆきかぜなのか?」
「そう、なんで?」
「いや、それならそれでいいんだ」
「……? ……?」
「ふうま、今ここでたべてみて」
「いいのか?」
「うん」
「じゃあ遠慮なく。綺麗にラッピングされてるな。これも大変だったろう。いただきます。……うん、美味い。すごく上手にできてるぞ」
「いっぱい練習した。何回もつくった」
「………! ……!」」
「二人ともありがとうな。……ん? 中になんか入ってる」
「それ、ふぉーちゅんくっきー。カラスちゃんのアイデア
「おお、すごいなカラス」
「……♪ ……♪」
「なんのマーク? ハートが大あたり。星がちょっとあたり。○がふつう。×がハズレ」
「ハズレはいらなくないか?」
「ゆきかぜがそういうのはハズレも入れないとダメだって」
「全くあいつは。こういうのに限って……ほら、ハズレだ」
「いきなりそれ。びっくり」
「~~~~」
「なあ?」
「じゃあ、これで埋め合わせ。カラスちゃんと一緒に……ほっぺにちゅ♪」
「……♪」


●甲河アスカ
「ふうま、遅いじゃない。なにやってたのよ」
「なにって学校行ってたんだが。今日うちに来るなんて言ってたか?」
「言ってないけど、今日はバレンタインデーよ。私、去年は直にチョコ持ってきてあげたんだから、言わなくたって今年も私が来るかなとか思わない?」
「また無茶なことを。頼むから前もって教えてくれよ。ちゃんと待ってるから。いつかの義理チョコの時といい、なんでいつも言葉足らずなんだ」
「うるさいわね。私も昨日までずっと潜入任務だったし、今朝急に『あ、今日バレンタインだ』って思い出したんだもの」
「あのなあ」
「もういいって。せっかくのオフなのにこんなとこまで来てずっと待ってて悔しかったから、ちょっと文句言ってみただけ。はい、バレンタインの義理チョコ」
「ありがとう。この紙袋は前にもくれたすごい美味くてすごい高いチョコだな。フランス製とかいう」
「あ、覚えてた? そう、私の一番好きな店。せっかくあげるんだもの。たとえ義理でも一番いいものを食べてもらいたいじゃない?」
「そうか、ありがたく頂くよ」
「って言いつつ、お返しになにあげたらいいかプレッシャーがすごいって顔してる。別にそんな頑張らなくてもいいって。ふうまの懐事情はよーく分かってるし。それに去年くれた箱にリスの絵が描いてるクッキー。あれ可愛くてすごくよかった。今も小物入れに使ってる。ああいう気の利いたのがいいな。また私のために色々考えてね。期待してるからっ」


●ドロレス
「わ、私、ドロレス。ふうま、バ、バレンタインのチョコ、ちゃ、ちゃんと届いた?」
「ああ、届いたよ。ありがとう。今ちょうど電話入れようとしてたところだ」
「そ、そうなんだ。今ちょうど? ぐ、偶然通じ合う二人のハートみたいな? ウェヒヒ♪ ほ、ほんとはね、そっちに直接持っていこうと思ったんだけど、さすがにそれはヤバげな気がしたし、ド、ドローンで運ぶことも考えたんだけど、なんか五車町に入る前に撃墜されそうだったし、普通に宅配で。と、届いてよかった」
「ああ、さすがにドローンは撃墜されてたな」
「やっぱり? あ、あのね、私、人間界で暮らすようになってわりと長いけど、バ、バレンタインのチョコって、は、初めてあげた。ノマドの他の子たちはい、いつも盛り上がってたけど、私そんな相手いなかったし、バ、バレンタインって非モテお断りの凶悪イベントじゃん。だ、だから今回、チョコあげれてすごく嬉しい。ふうまが私の初めての人。ウェヒヒ♪」
「そりゃ光栄だな。ホワイトデーのお返しはちゃんとするよ」
「うえっ!? お、お返し? くれるの!? 私に? マジで? す、すごい嬉しい! またこっち来るの?」
「できれば直に渡したいが、俺がノマドに行くのは無理だよなあ。かといって家に行くのも」
「お、お姉ちゃんに見つかったらヤバすぎ。じゃ、じゃあ待ち合わせしてど、どっかで二人で会わない? ね? ね? 約束しよっ!」


●心願寺紅
(小太郎、どうして何も連絡してこないんだ? チョコが届いてないのか? 受け取り完了のメールは来たのに。私にはありがとうを言う必要もないということか? いや、小太郎はそんな男ではない。また任務とかアルバイトだろうか? いつも頑張ってるからな。でもそうするといつ返事がくるか分からないな。いっそ私から小太郎に電話して……ダメだ。『チョコを受け取ったか?』なんてことはとても聞けない)
「紅様、今日はバレンタインデーですね」
「それがどうした?」
「さっきからソワソワしてらっしゃいますが、若様からのお返事をお待ちですか?」
「別に待ってはいない」
「嘘を仰ってはいけませんわ。『ちゃんとチョコを受け取ったんだろうか? なんで何も言ってこないんだろうか?』 さっきからお気持ちがダダ漏れですわ」
「紅様! ついに若様にチョコをお渡しになったんですね! それは一歩前進ですね!」
「一歩どころか十歩も二十歩も前進よ。できれば直接お渡しになって欲しかったけど。メッセージはお付けになったんですか?」
「メッセージ?」
「若様への溢れる想いを刻んだメッセージですわ。例えばそうですね。『瀬を早み岩にせかるる滝川の……』」
「それは崇徳院の歌じゃないか!」
「あやめ様、どういう意味です?」
「『瀬が早くて岩に遮られる滝川のように』といった意味よ」
「よく分かりません」
「その後に若様がこう続けるの。『われても末にあはむとぞ思ふ』 今は二人別れているけれどきっとまた会おう。再会を誓う恋人の歌ね」
「うわあ! ロマンチックですね!! 紅様! そんな素敵なメッセージを!」
「付けるわけがない。普通にハッピーバレンタインだ」
「あらあら」
「なんだ残念です」
「なにを二人で勝手に盛り上がってるんだ」
プルルルル♪
「っ!? わ、私だ。チョコは? そうか。受け取ってくれたか。うん。よかった。いや、礼には及ばないぞ。ただの気持ちだ。え? いま話? も、もちろんOKだ。久しぶりに少し話そう。今日はバレンタインだからなっ」

 

 

【制作後記】

対魔忍RPGの物語開始時点ではバレンタインに縁などなかったふうま君だが、サザエさん時空で何回もそれを経験した結果、今では結構な数のチョコレートをもらえるようになっている。
昨2022年、私が担当したバレンタインイベント『From Your Valentine』では、“たまたま”学校が休みの日だったので、その前年のバレンタインイベント『チョコとキラー』ほどチョコをもらえなくて残念ということになっている。
しかし、実はたまたまでもなんでもなく、メインストーリーが過去のバレンタインに甲河の里で起こった出来事なので、その生き残りのアスカから直にチョコをもらったのをきっかけにして回想シーンに移りたかったというシナリオ上の理由である。ふうま君には悪いことをした。
さて、現在実施中のイベント『サイボーグ探偵とバレンタイン』もヨミハラでの事件ということもあって、ふうま君が五車の女の子たちからチョコを受け取るような場面はない。
2年連続でこれでは可哀想なので、せっかくだから一人一人書いてみることにした。きりのいいところで20人。例によって非公式である。
ご覧になったとおり、セリフだけの応酬で二言三言喋っているだけだが、それが20人ともなるとそこそこの量になった。それぞれの反応の違いを楽しんでもらえれば嬉しい。