flutter of birds 〜鳥達の羽ばたき〜 その2



仕事は淡々と進んでいて、特筆すべきこともないので、ちょっと前に書いた「flutter of birds」のよもやま話の続き。


二人目は、神楽琴羽(かぐらことは)嬢。
どんなゲームにもたいていいる「黒髪で大人しい女の子」だ。
シナリオ自体は、前回の美浜つばさよりも先に仕上げたので、こっちが初めて担当した自キャラということになる。
ゲームの舞台は病院なので(なのでという言い方も変だが)、この子も病気を持っている。
確か、誰がどんな病気になるかライター同士ですりあわせをやったときに、一人くらいは心の病気を入れようということになって、「じゃ私がやります」と自分から言ったはずだ。


その病気が過食症
エロゲでトラウマ少女というのは昔も今もよくあるが、過食症はあまりやらないと思う。
この過食症という病気――琴羽のは正確には過食嘔吐だが――大量に喰って、大量に吐く。吐くときは口に指をつっこんで吐く。水をがぶ飲みして吐く。はっは、そんなもん、普通は美少女にやらせないよな。
ただ、つばさの時もそうだが、病気物をやるならちゃんとやる。キツいシーンもやる。そう決めていた。
で、どうせやるならインパクトが欲しかったので、最初はただ身体の弱い女の子として出てきて、しばらくしていきなり過食の現場を目撃する流れになっている。


夜中、食堂から明かりが漏れていて、そこに行くと、開きっぱなしの冷蔵庫の扉の前で、うつろな目をした琴羽がバクバク喰っている。呆然としている主人公の前でげぇげぇ吐く。これはキツい。


もちろん、ここはイベント絵。
原画の竹井正樹氏ともかなりつっこんだやりとりをして、見た目からしてかなりなシーンになっている。
ちなみにこの場面、食べてる姿はイベント絵だが、吐いてる姿は普通の立ち絵だ。
これは、見ている人に「過食」という部分にまず注目して欲しかったからで、話は「どうしてそんなに食べるんだ?」「なんで食べるのを止められないんだ?」という視点から琴羽の心に迫っていく。
そして、主人公といい仲になり、症状も治まったと思われたのだが、そのことが逆に裏で症状を悪化させていて、やがて本当に注目すべきだったのは「食べる」ことではなく、「吐く」ことの方だと分かる。


――吐くために食べていた。


これが、琴羽ストーリーのミソ。
その原因も含め、当時は知恵を絞りに絞って考えたのが、さっきWikipedia過食嘔吐の欄を調べたら、しっかり「実際には嘔吐するために過食をする場合の方が多い」と書いている。最近は、こういう情報まで手に入るからやりにくいなあ。


ともあれ、サブキャラの久美ちゃんの関わり方、途中で治ったと思ったらそうでなくて実は悪化している展開、道具としての食べ物の使い方、昔話と対比させたクライマックスの流れなど、琴羽はストーリー構成にかなり心を砕いている。
おかげで、ハリウッド映画風のオーソドックスな展開で、たいていの人がとりあえず納得できる話になっているはずだ。


当時、同僚の女性が、「キャラは好きじゃないけど、ストーリーは一番面白かった」と、微妙な褒め方をしてくれたのを今でも覚えている。


関連エントリー
制作雑感・flutter of birds 〜鳥達の羽ばたき〜 その3
制作雑感・flutter of birds 〜鳥達の羽ばたき〜 その1
制作雑感・肉体転移 〜男女五人の視点でプレイ〜


Flutter of Birds ~鳥達の羽ばたき~Flutter of Birds ~鳥達の羽ばたき~

シルキーズ 2001-02-23
売り上げランキング : 10611

Amazonで詳しく見る
by G-Tools