肉体転移 〜男女五人の視点でプレイ〜

女性視点のシナリオが好きだ。
書いていてとても楽しい。
男性視点、女性視点に限らず、シナリオを書くときは、「彼はこういう風に感じている」「この娘の本心はこうだから次のセリフはこう」と、場面場面でキャラの気持ちを考えることが大切だ。
[「始めに気持ちがあって言葉と動きがある」と言ったのは北島マヤだ。さすがに良いことを言う。
その通り。キャラ同士の感じ方、考え方の違いで衝突が起こり、その衝突からドラマが生まれる。
そこで問題になるのが、エロゲのシナリオの多くは男性視点だということ。
ノローグとして、気持ちを直に書けるのは男性側になる。
女性の方は、セリフや仕草から想像してもらうしかない。
視点を女性にすれば、女性の気持ちも直に書ける。当たり前だ。
当たり前だが、女性――ヒロインが何を考えているのか、どう感じているのか、より深く、より詳しく描写することができ、さらには自分で自分に嘘を吐かせたり、気持ちを誤魔化したりといったことも書けてしまう。
エロゲにおいて、基本的に萌えもしくは欲望の対象であるヒロインにそういうことができるのは楽しい。実に楽しい。


シルキーズの肉体転移は、その女性視点のシナリオを初めて書いたゲームだ。
初めて採用された自分の企画であり、初めてゲームデザインをやることになり、もちろんプロットもやりシナリオもやり、素晴らしく楽しかったが、制作中はおおむね生き地獄で、疲れすぎて彼女と電話中に寝て、怒られるどころか「可哀想」と本気で心配され、実際1週間ほど倒れた上、倒れている間もバグ報告は来続けたゲームとして印象深い。


どんなゲームかというと――

学園は淫らな交錯祭儀へと姿を変えていった。
長期休暇中の学園は穏やかに静まり返っていた。
しかし不気味な風格の発掘物が考古学部へと送られてきたことにより、運命は狂い始めるのだった。
突然、発掘物から放たれた光は悪魔の如く仲間達の「心」と「肉体」を入れ替える。親しい仲間の秘められた肉体へと転移したあなたは「淫行」と「虚言」の世界へ導かれていく。
幾度となく繰り返される奇怪な現象。果たして無事に元の世界へと戻ることはできるのだろうか……。


この奇妙な現象に巻き込まれた貴方。
初回プレイでは、「青島健一」を主人公としてプレイすることになるが、エンディング条件によって男女5人の主人公がプレイ可能となっていく。
この不可解な現象により知る、秘められた肉体と心。5人の視点によりパラレル的に絡まるストーリー。
そして幾重にも絡まるエンディングの数々。
不思議な力に導かれ、どの主人公としていかなる結末を迎えるのか?全ては貴方の運命にかかっている……。
(シルキーズ公式サイトより引用)

男性の視点が二つ、青島健一と相馬隆人。
女性の視点が二つ、秋山美帆と倉橋淑美と坂条ひかる。
男女五つの視点で、物語とキャラクターを色々な方向から楽しんでもらうのを狙った。
黒澤明の「羅生門」が好きなのでね。


最初にプレイする健一から見ると、美帆は勝ち気な幼馴染みで、淑美は頼れるお姉さん的存在で、ひかるは真面目な女の子で、隆人はただのカッコつけ。
性格もストーリーもあえて典型的なものにしてある。


健一をプレイし終わると、その結果によって他キャラの視点でプレイできる。
そこで初めて分かること。
美帆は恋愛に奥手な少女だったり、淑美は美帆と健一の間で恋心を揺らしていたり、ひかるは強烈な嫉妬心と性衝動を抱えていたり、隆人は優しいがシスコンだったり、まあ色々だ。


人は相手によって対応を変える。キャラが違えば、サブキャラも別の一面を見せてくれる。
その結果、女性視点でプレイした時だけのエンディングも生まれた。
中でも、淑美と雪乃、ひかるとみみ、女性同士二組の恋愛は、トゥルーエンドとして考えに考えて作ったので個人的にも気に入っている。
この記事を書こうと思ったきっかけも、定期巡回しているサイトでそれらのエンディングを褒めて頂き、懐かしくも嬉しくなったからだ。
とはいえ、そのサイト「みやきち日記」は女性視点で書かれ……っていうか、みやきちさんは女性で、男の自分が「こうだったら楽しいな♪」と妄想全開で書いた女性視点のお話を、ホントに女性に読まれてしまうというのは実に、そう実に恥ずかしい。
自分の妄想全開のエロ文章を見られるのは、別に恥ずかしくないのだけどね。


もう一つの特徴である心と体の入れ替わりについては、またそのうち。
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