このマンガがすごい!(つらいクリエイターマンガ編)


宝島社から発行されいる「このマンガがすごい! 2010」
オトコ編第一位は、「バクマン。」だった。


バクマン。 1 (1) (ジャンプコミックス)バクマン。 1 (1) (ジャンプコミックス)
小畑 健

集英社 2009-01-05
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二人の少年、サイコーとシュージンがジャンプで人気漫画家を目指すというストーリー。
確かに面白い。
  バクマン 1巻 感想 「現実とフィクションが交差する現代版まんが道」
登場人物の誰もが才能に溢れていて、とんとん拍子に成功していく。
物を作るって楽しい。夢をかなえるって素晴らしい。
ジャンプはそうでなければいけない。
アニメ化も決定して羨ましい限りだ。


とはいえ、たいして才能に溢れているわけでもなく、日々泥沼であがくように物作りをしている者としては、いまいち共感しづらいのも確かだ。
あいつら、夢に向かって一直線過ぎ。
眩しいにもほどがある。


今日は一つ、マンガやアニメやゲームなどの様々な物作りを題材にしつつ、夢をかなえる素晴らしさよりはそのつらさを前面に押し出しているものを並べてみた。
個人的には、行き詰まっている時に読むと楽しい。
「どうせ皆こんなもんだ。しょうがない。俺もやるか」と、やや後ろ向きだが元気をもらえる。



まんが道 (藤子不二雄Ⓐ)

まんが道 (1) (中公文庫―コミック版)まんが道 (1) (中公文庫―コミック版)

中央公論新社 1996-06
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--クリエイターマンガの基本--
今更にもほどがあるが、これを抜きにしては、「バクマン。」も語れない。
漫画家を目指す二人の少年の姿を描いた、藤子不二雄の自伝的漫画だ。


いいところをあげたらきりがないが、クリエイターの苦しみという点から考えると、まず主人公の満賀道雄(モデルは作者の藤子不二雄Ⓐ氏)が劣等感まみれなところがいい。
学校に行けばチビと馬鹿にされ、運動ができないと馬鹿にされ、学校から帰ったら帰ったで、ちょっと憧れた女の子が大人の男とキスしてるのを目撃するわで、「俺の恋人はマンガや!」と泣きながら満賀が原稿に向かう姿がたまらない。
そんな「自分にはこれしかない!」というマンガでさえ、常に劣等感に苛まれている。
相手は無二の親友で、相棒の才野茂(もちろんモデルは藤子・F・不二雄氏)だ。


こんなエピソードがある。
二人が友達になってすぐの頃、幻灯機で映す作品をお互いに作ってみようということになる。
満賀はずるずるとなにもできなかったあげく、締め切りの前の晩になって、手近にあった本「曲垣平九郎」の挿絵を「才野には分からないだろう」と模写し、さも一から考えたかのように振る舞ってしまう。
それを才野が褒めてくれると、「ほかのものはだめだけど時代劇だけは得意なんだ」とか、「これなんかマンガとは言えないね、少しかたくなりすぎて挿絵みたいになって失敗したよ」とか、調子に乗りまくり。
そこで満賀ははっと気づく
ぱくった本が才野の本棚にもある。
もう冷や汗だらだらだ。
そんな満賀に才野が見せたのが、「天空魔」という話も絵もオリジナル、空飛ぶ軍艦のために設計図は引くわモデルは作るわ、「お前やりすぎだろ」っていうくらいの作品。
「まいりました。この勝負、おれの負けだ」と、満賀はうちひしがれるわけだ。



このみっともなさ、あるある感がいい。
これは○○のパクリ
誰も気づいていないけれど、自分では分かっているその部分が変に受けて、なんとなく自分一人でやったような気になってしまう、みっともない自己欺瞞
すげー分かる。
分かっちゃ駄目なんだけどね


一事が万事の調子で、満賀は劣等感とみっともなさを全開にしながら、それでも「俺にはマンガしかない」と努力していく。
その努力も、夢に向かって一直線っというわけではなく、目先の色恋や、ちょっとした怠け心、本当に漫画家になれるのか? といった現実的な考えの狭間で、行ったり来たり、右往左往する。
そこがいい。


すぐ漫画家にもならない。
藤子不二雄Ⓐ氏がそうであったように、満賀も漫画家への夢を抱きつつ、一度は新聞社に入ってサラリーマンになる。
新聞の仕事にやりがいを感じ始め、漫画への情熱が薄れていく満賀と、職に就かずにひたすら漫画家を目指している才野との気持ちのすれ違いは、屈指の名場面だ。
結局、満賀は新聞社を辞めて後のない状態で漫画家を目指すわけだが、そのあたりの「生活がかかっている」ことへの悩みは、同じように仕事をやめて創作業界に入った者としては、共感するところが大きい。


文庫で全14巻完結。
続編といえる「愛…しりそめし頃に…―満賀道雄の青春」もおすすめだ。
愛…しりそめし頃に…―満賀道雄の青春 (1) (Big comics special)愛…しりそめし頃に…―満賀道雄の青春 (1) (Big comics special)

小学館 1997-03
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アニメがお仕事!  (石田敦子

アニメがお仕事! 1巻 (ヤングキングコミックス)アニメがお仕事! 1巻 (ヤングキングコミックス)

少年画報社 2004-08-27
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--かなった夢はただの現実--
さて、マンガの次はアニメ。
タイトルも「アニメがお仕事!」とド直球だ。


作者の石田敦子氏は、漫画家であると同時に、現在は第一線を退いているものの、れっきとしたアニメーターであり、動画、原画はもちろんのこと、『伝説の勇者ダ・ガーン』では作画監督、『勇者特急マイトガイン』ではキャラクターデザインをつとめている。
その経験をいかんなく発揮して作られた本作は、アニメ業界の生々しい話がもう目白押しだ。


ところで、作画監督とは聞き慣れない言葉かもしれない。
京都アニメーション発行の「アニメーション制作の手引き〜作画編〜」によると、作画監督とはこう説明されている。

 現在、日本の商業アニメーションで作画監督が行う作業は、「絵コンテをもとに、演出の考えに沿った形で、レイアウトと原画をチェックすること」です。
 よく間違われるのですが、「絵柄の修正」がその役割ではありません。”作画”監督の名の通り、作画全体に関わること(物語を生み出すキャラクターの芝居、動き、表情など)をチェックすることが本来の仕事です。
 作品全体のイメージを統一するために、個々の作画スタッフの絵柄の違いや、技量の差を調整します。
 作画監督となる人は、十分にアニメーションの仕組みを理解し、確かな知識と技術を持っていなければなりません。

現場におけるアニメーターのある種の到達点、アニメーターを志す者なら誰もがなりたいポジションなのだと思う。


作者の石田氏はそこまでいったわけだが、本作の主人公、福山イチ乃はまだ動画、アニメーターとしてスタートしたばかり。
もちろん、アニメーターとしての技術はまるで足りていない。
未熟もいいところである。


そんなイチ乃に、「夢」を仕事にしてしまった者への「現実」が、後から後から津波のように襲ってくる。
思ったように絵が描けないという現実。
何をどう描けばいいか分からないという現実。
頑張っても早く描けないという現実。
そしてそれ以前の問題。
誰かに頼らないと生活すらしていけないという現実。


そんな現実に負けないために、イチ乃に何ができるか?
自分の技術が拠り所にならない以上、「アニメが好き、アニメが作りたい」という情熱にすがるしかない。
しかし、イチ乃からすれば志が低い(ように見える)アニメーターも業界には当然いて、でもそのアニメーターは自分よりずっと技術があって、そんなアニメを馬鹿にしているような人間よりも自分は役立たずで、だけどどうやって上手くなればいいかも分からなくて、そんな諸々の答えを出す間もないままに、目の前の仕事をこなさなければならなくて――と、延々続いていく。
もうなんというか、一冊まとめて読むのが辛くなる。
色々と共感できすぎて。


第一話からこれだ。
高校生の頃、一緒にガンダムにはまった友達みんなに「まだアニメなんて言ってるの? やめてよ、恥ずかしい」と笑われてまったイチ乃の後ろ姿である。

このマンガ、こんなのばっかり。
だから元気になる。ちょいと劇薬だが。
ちなみに、創作と恋愛の関係についてもかなりキツい描かれ方をしている。それもまたいい。
  「アニメがお仕事」第5巻 感想
  「アニメがお仕事」第5巻 再購入
   アニメがお仕事! 完結
全7巻完結。





東京トイボックス & 大東京トイボックス (うめ 小沢高広/妹尾朝子)

東京トイボックス 1 新装版 (バーズコミックス)東京トイボックス 1 新装版 (バーズコミックス)

幻冬舎コミックス 2007-09-22
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大東京トイボックス 1 (バーズコミックス)大東京トイボックス 1 (バーズコミックス)

幻冬舎 2007-03-24
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--迷走するゲーム制作--
マンガ、アニメときて、ゲームだ。
だんだんと自分の仕事に近づいてきて、共感できるとか言っている場合じゃなくなってきたが、それはともかくクリエイターマンガとして今、一番注目しているのが本作、東京トイボックス、その続編の大東京トイボックスだ。
後者は、雑誌『コミックバーズ』で現在も連載中。ちなみに、「だいとうきょう」ではなく、「ぎがとうきょう」読む。つい最近まで知らなかった。


主人公、天川太陽はゲームプランナーである。
決め台詞は、「仕様を一部変更する!!」
うわあ、実際にゲームを作ってる者からすると、寒気のする台詞だ。


ゲームプランナー。
ゲームの制作に多少なりとも興味を持っていれば、雑誌などでこの言葉を見たことがあるかもしれない。
他に、企画、ディレクター、ゲームデザイナーなどと言い、それぞれ微妙に違うのだが、ゲーム制作を仕切る中心人物と思って間違いない。
その割には、実際の現場で何をやっているのかあまり理解されていない仕事でもある。


ゲームのアイデアを考える人、シナリオや設定を作る人、ゲームショーや雑誌に出る人、アフレコで声優さんに指示を出す人、自分の好きなゲームを作れる仕事、うわあなんか楽しそう!
そんなわきゃない。
そういうハレの仕事はゲームプランナーのごくごくごく一部である。
大半は地道で根気のいる、それこそ目に見えない重いコンダラを延々引いて歩くような仕事だ。
下手をすると、華やかな表舞台に立っているプランナーと、実際に現場を仕切っているプランナーは別ということもありうる。
主人公の太陽はもちろん裏方の方。


さて、警察でも地球防衛軍でもウイッチ隊でもなんでもいいが、ある特殊な集団を説明するために外からの異物を使うというのは物語のセオリーだ。
本作でも、東京トイボックスでは社外から出向してきた月山星乃を、大東京トイボックスでは未経験の新米プランナー百田モモを配置している。
月山といい、百田といい一筋縄ではいかないキャラクターで、実に現場をかき回してくれる。
しかし、本作でもっとも制作を迷走させているのは、太陽その人だったりする。


太陽は、かつてソードクロニクル三部作という、作品世界ではドラクエ、FFに匹敵する名作を仕上げたプランナーだった。
しかし、ソードクロニクルの4製作において、スタッフや上層部との確執により降板、会社を辞めた上に、自分が手がけたものとは全く違うものが「4」として発売され、今もシリーズとして続いているという過去に苦しめられている。


途中で企画がポシャるとか、降板するとか、自分にも覚えがあるがそりゃ嫌なものである。
かつての相棒、今は太陽と袂を分かった仙水というキャラが言っている。
「太陽はね、まだ作り続けてるんですよ。完成しなかった幻のソードクロニクル4を」
思い入れが強ければ強いほど、「いつか見てやがれコンチクショー」と、何らかの形で完成させないとすっきりしない。
その気持ち、よーく分かる。
が、それにつきあわされるスタッフはたまったものじゃない。
ソードクロニクル4に端を発した太陽の迷走は徐々に拡大していき、ついには身内であるスタッフからも見限られそうになる。

最新刊5巻で、スタッフとの感情のこじれは解消されたように見えるのだが、これからどうなることやら。
共同開発している別会社との確執、ソードクロニクルを擁する最大手の動向など不安要素は山積みだ。
だからこそ、この先が楽しみでしょうがない。
東京トイボックスは新装版で全2巻。
大東京トイボックスは現5巻で、以下続巻。
おすすめである。


おっともう一つ、この作品は実在するゲーム会社で、『天誅』や『侍道』などのシリーズで知られる『株式会社アクワイア』が取材協力をしている。
これに関連して、『侍道』シリーズの第1作、『侍』の制作ドキュメンタリーが『ゲーム開発最前線『侍』はこうして作られた―アクワイア制作2課の660日戦争』という本にまとめられている。
これは読めば、迷走するゲーム制作、例えばプログラマーの逃亡などが、ノンフィクションだけに本当に洒落にならない状況で起こっていたのが分かる。
どうも絶版のようなのだが、マンガの副読本として、ゲーム制作の実情を知る手がかりとしてこれもおすすめだ。マンガじゃないけど。
ゲーム開発最前線『侍』はこうして作られた―アクワイア制作2課の660日戦争ゲーム開発最前線『侍』はこうして作られた―アクワイア制作2課の660日戦争

新紀元社 2002-06
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ヤサシイワタシ (ひぐちアサ

ヤサシイワタシ 1 (アフタヌーンKC)ヤサシイワタシ 1 (アフタヌーンKC)

講談社 2001-06
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--まだ本気じゃない--
仕様変更とか書いてたら胃が痛くなってきたので、お次は自分とあまり関係ない「写真」といこう。
これなら心おきなく紹介できる。
と軽く扱うには、痛いマンガなんだけどな。
アニメ化もされた高校野球マンガ「おおきく振りかぶって」の作者、ひぐちアサ氏による「ヤサシイワタシ」だ。


大学の写真サークルを舞台にしたこのお話、主人公の芹生弘隆とつきあうことになる唐須弥恵がとにかくもう痛い。
一言で言えばサークルのトラブルメーカーで、この弥恵をめぐる恋愛問題でサークル内はつねに不穏な雰囲気をたたえていて、本作は言うところのサークルクラッシャー物としても白眉である。


クリエイター物として見てみると、弥恵の頑張らなさ加減が痛い。
この点が、今まで語ってきたマンガの登場人物たちと大きく異なる。
とにかく頑張ってない。
いや、弥恵本人は「将来は写真で食っていきたい」など公言し、頑張っているつもりなのだろう。
だが見ていると、つねにあらかじめ「逃げ」をうっている。


カメラレンズの手入れを怠り、現像作業はいい加減にすまし、コンクールの締め切り当日になって慌てて作品をでっちあげる。
なぜそんな「逃げ」をうつのかははっきりしている。
自分の実力と向き合うのが怖いからである。
こう言いかえてもいい。

まだ本気じゃない。本気をだしたら私はもっとすごい

他人にそう思ってもらいたいから。
それ以上に、自分がそう思いたいから。
その結果、
『あたし、広告も興味あんだよね。なんでもいいから広告つくって応募すんの。遊園地とかお菓子とかブランドとかなんでもいーの』
と言って、サークルのメンバーや恋人を巻き込んで作った作品があっさり落選すると、
『あたしがホントにやりたいのって、ファッション関係なんだよね』
などと恥ずかしげもなく口にしてしまう。
暗に、「本気でやった作品じゃないから、落ちても別にかまわない」と言いたいんだよなあ。


が、どんな事情があろうが、それを見る人には関係ない。
できあがった物が実力。それだけ。
そうすんなり納得できれば苦労はない。本当にね。
自分のことを思い出し、痛くて見ていられない。


広告じゃなくてファッションなどと言い出したように、興味の対象をころころと変えていくのも弥恵に特徴的だ。
一つのことに打ち込んでしまった結果、自分の実力――実力のなさが明らかになるのを避けようとしている。
そういった逃げの姿勢は写真のことだけではなく生活にもおよび、やがて弥恵はサークルはおろか大学にも来なくってしまう。
芹生に向かって『そんなにガッコーすきかねェ』などとしたり顔で語り、わずかばかり社会を経験しただけで偉そうに放つセリフがこれだ。

こんな嫌な顔のヒロイン見たことねえ。
この嫌な顔を見るために、何度も読み返してしまう。
本気になることを避け続ける弥恵はやがて一つの決断をするのだが、それは読んでのお楽しみ。
全2巻。
痛いヒロインとキツい結末が待っているがおすすめだ。




キャノン先生トばしすぎ (ゴージャス宝田

キャノン先生トばしすぎ (OKS COMIX)キャノン先生トばしすぎ (OKS COMIX)

オークス 2008-01
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--次は絶対いい作品を描きますから--
さて、どん尻に控えしはエロマンガだ。
やはりエロがないとね。


あらかじめ断っておくが、クリエイターがテーマといっても、登場人物がセックスのシチュエーションやプレイを創作するために苦しむとかそういう話ではない。
確かに、このマンガは
 テレビの枠を頭に被せた男の目の前で、女の子がキリンのぬいぐるみを肛門からひりだすプレイとか、
 女の子の肛門に放尿してから手提げバッグに入れて持ち運び、喫茶店の前で取り出して中にお客がいるウインドウめがけてオシッコを噴出させるプレイとか、
 女の子の両親と一緒に一家団欒の象徴であるホームビデオを見ながら、その両親にバレないようにセックスするプレイとか、
エロクリエイティブ溢れるシーンばかりなのだが、ひとまずそれは置いておこう。


大事なのは、これはエロマンガを書いている人の話だということ。
主人公のルンペン貧太はデビュー5年ながら、筆が遅すぎるためバイトで食いつないでいるエロマンガ家。
ヒロインの大砲キャノン(本名:剣峰百合子)にいたっては処女単行本が30万部の大ヒット、資産家の一人娘でありながら頭がエロ妄想でいっぱいの超人気エロマンガである。なんと若干12歳。やばいって。


物語は、キャノン先生のアシスタントになった貧太が、自分より遙かに年下でありながらプロとしての確たる信念を持っている彼女に刺激され、同時に自分とは比べものにならない才能に打ちのめされて、悩み、苦しみながらマンガ家として一皮剥けるまでが描かれる。
こう書くと、全然エロマンガっぽくない。だが、本当にこうなのだ。


貧太も描けなくて苦しんでる。
理由は色々あるのだろうが、読んでいて感じたのは、作品を完成させるのを怖れているということだ。
もっといいアイデアがあるのではないか、もっと別のやりかたがあるのではないか、そうやって修正を繰り返したあげく、結局は完成できないまま終わってしまう。


その気持ちは分かる。
「完成」と自分のなかでケリをつける。その後はなにもできない。
完成品の評価を待つだけ、容赦なく発売され、人の目に晒される。
仕事なら当たり前だ。
さっきも書いたが、作り手にどんな事情があろうが、それを受け取る側には関係ない。
面白いか、つまらないか。それだけだ。
それ以前の、全く無反応ということもあり得る。
これで怖くなかったら嘘だ。


その怖さを乗り越えないとプロとしてはやっていけない。
いや、乗り越えるは無理か。
ずっと不安にかられながら、作り続ける。
そうするしかないんだよなあ。
本作でも、貧太に向かって、ベテラン編集長がこんな檄を飛ばしている。

迷う心に突き刺さるようないい台詞だ。
他にも、創作者の魂がほとばしり出るような、キャノン先生の名台詞は必見だ。
もちろん、エロさは折紙付。
全1巻。
今日の最後のおすすめだ。