「恐れを知らぬ川上音二郎一座」観劇

クリスマスの1日前だったが、久しぶりに芝居を見てきた。
芸術座の跡地に新しくできた日比谷シアタークリエ。
そこのこけらおとしとなる、「恐れを知らぬ川上音二郎一座」である。
脚本演出は、三谷幸喜
主演は、ユースケ・サンタマリア常盤貴子堺正章戸田恵子堺雅人 などなど。

あらすじ
今から108年前の明治32年。役者兼演出家兼プロデューサー兼劇団主催者の川上音二郎8は、妻の貞奴や劇団員を連れてアメリカ巡業の旅に出ます。言葉の通じない異国での公演は悪戦苦闘の連続。挙句に悪徳マネージャーに金を持ち逃げされ、まさに踏んだりけったり。
ボロボロの状態で辿り着いたボストンの街で、音二郎が目にしたのは、イギリスの名優ヘンリー・アーヴィングが演じる「ヴェニスの商人」。大入り満員の客席に、音二郎は決意します。「よし俺たちもこれをやろう!」そして彼らは、なんとたった一晩の稽古で、日本版「ヴェニスの商人」をでっち上げてしまうのです。観客はどうせ外人だからと、台詞もデタラメ。言葉に詰まったら「スチャラカポコポコ」で切り抜けようという、はっきり言って無茶苦茶な公演。音二郎一座、起死回生のこの舞台、果たして成功するのか?
「恐れを知らぬ川上音二郎一座」は、この驚愕のボストン公演(実話です)のエピソードを基に、明治の破天荒な演劇人川上音二郎と、彼の妻で日本の「女優」第一号となった貞との夫婦愛を描く、愛と勇気と喝采の物語です。
(公式サイトより引用)

三谷幸喜らしいコメディで、やはり面白かった。
大勢で何かをしようとするが、予想もしないトラブルが次から次へと起こり、
当人達は真っ当なことをしているつもりなのに、端から見ればどうしようもなくおかしいという、
三谷幸喜お得意の、自分の好きな種類の笑いである。


劇中でもう役者達がもう一つの劇「ヴェニスの商人」を演じるという、
劇中劇というスタイルもまた自分の好みで、
本作では、さらに実際の客席を、劇中劇の客席とも見立てていて、
舞台上だけではなく、客席通路や2階のボックス席を使った演出などもあって、
そのへんの一体感が心地よかった。


主役のユースケ・サンタマリアは、舞台で見るのは初めてだったが、
びっくりするくらいテレビと同じに動いていた。
でもそれが、やることなすこととにかく破天荒だけれども、
なぜか人を惹きつける音二郎というキャラにぴったり合っていた。
上手いキャスティングだ。


一方、その妻の貞を演じた常盤貴子は、個人的にはちょっと微妙だったかも。
たまに途方もなく一本調子に喋ることがあり、
演出でわざとやっているのか、本当に舞台で声を出すのに精一杯なのか分からないことがしばしば。
舞台に慣れていないのは伝わってきたけど。


ただ、貞は元は売れっ子の芸者で、演劇で世の中を変えるという音次郎に惚れ込み、
その妻となって一緒にアメリカまで来て、音次郎と劇団員たちの板挟みで苦労し、
本人も一度だけ舞台に立って、舞台への憧れを感じているが、
音次郎がそれを望んでいないため感情を押しとどめている―――という、本作のキーパーソンなわけで、
演技からそこまでの深みが感じられないのは、やはりちょっと残念であった。


残念といえば、二人を長年支えてきた与之助を演じた、堺正章
劇中劇で一人何役もこなし、冒頭で弁士もやるなど、
まさに獅子奮迅の活躍で、むろん演技は見事と言うほかなく、
大いに笑わせてもらったが、惜しむらくは声が枯れていた。
連れも同じことを言っており、幕間のロビーでそんな声がいくつも聞かれたから、
皆同様に感じていたのだろう。
この舞台、2ヶ月の長丁場で、千秋楽も間近だからしょうがなかったのかもしれないが。


あ……もう一つ残念なことがあった。
芝居でなく、劇場のこと。
劇場のシアタークリエ、できたばかりのわりに居心地があまり良くない。というか、悪い。
例えば、よく利用している新宿のバルト9、これはシネマコンプレックス型の映画館だけれども、
それなどに比べると、かなり劣っていたと言わざるを得ない。


まず、椅子が固くて、狭い。
背もたれをもうちょっと傾けて、生地もふっくらしたのにさせて、
前席や隣席との隙間をもうちょっとで良いからとって欲しかった。
実際、1幕の1時間半ほど座っているだけで、普通に疲れてしまった。


少し休憩しようかとロビーに出れば、ここがまたえらく狭く、
そこに至る廊下も狭いので、そこらじゅう人だらけ。缶詰のアスパラ状態である。
そのロビーには売店があるのだが、座るスペースやテーブルなどはなく、
一方の壁に板を張ったカウンターのごときものがあるだけなので、
その板に人が入れ替わり立ち替わり張り付いては、食ったり飲んだりしている。
立ち食い蕎麦か。
係員が、「休憩時間は場内で飲食可能ですので、ご遠慮なくどうぞ」と、さかんに繰り返してたが、
なんということか、椅子に戻ってもドリンクホルダーは付いていないのである。


そしてトイレ。これも普通に狭かった。
まあね、統一はとれているよ。


銀座に近いこともあり、買ったものを預けておくためだろうか、
無料のロッカーなどがあるのは大変ありがたいのだが、
もうちょっと基本的な部分で居心地を良くしてくれないものかと、しみじみ思った。


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