ピクシーゲイル 絵買いで当たり


ピクシーゲイル (1)ピクシーゲイル (1)
宮下 未紀

富士見書房 2006-12-01
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わたしの肉を深く裂いて
その奥に埋められた『彼』
わたしの中で脈打つ『彼』を
たしかめようとする指先
それから唇
それは胸の傷よりも熱かった

金髪で裸に包帯のロリ少女と、銀髪で猫耳のクーデレ風少女が抱き合ってる表紙にビビッと来て購入。
角川の雑誌「ドラゴンエイジ」で連載している作品で、作者は宮下未紀氏。女性だ。
だからという訳でもないだろうが、登場人物の多くが女性。どの娘も、過去や内面の深さを感じさせる印象的な目をしている。そういう目の娘はいい。
いい目をする娘の筆頭、主人公の度会りかの。
生まれつき重い心臓病で、身よりもなく、病院の壁だけを見て暮らしてきた。
心臓移植手術の対象者に選ばれ、たった一つの夢であった「病院の外に出たい」という願いが叶えられるも、その心臓は神の末裔と言われる魔法使いのもので、りかのはその地位と能力を否応なく受け継ぐことになる。
そんなりかの彼女の元に、心臓の持ち主であったゲイルの弟子・楊雷震(ヤンローレイ)が現れ、さらにゲイルの腕を移植された謎の少女に命を狙われる羽目になる。少女の狙いは、りかのの心臓だった。
あらすじはそんな感じ。
偶然、異形の力を手に入れてしまい、その力を巡る戦いに巻き込まれるというのは定番中の定番だ。
ただ、本作が印象的なのは、力を手に入れたりかのが自分のことを醒めきった目で見つめていること。

退院は嬉しいけど……わたし孤児だから
恵んでもらう以外にものを貰ったことないから
よくらからない――かな


いらないとは云えないのがつらかった
(拒んでいては生きていけない)


どんなにいい物もそれは元々他人のもので
いつだって初めから
わたしのものなんてひとつもなかった

不幸しか知らず、不幸であることが当然になってしまった少女。
そんなりかのの心の震えが切ない。


特に、楊雷震(ヤンローレイ)との出会いの場面は素晴らしかった。
街に出たばかりのりかのは、突然、謎の少女に襲われるが、現れた雷震によって窮地を救われる。
しかし、雷震がそうしたのは雷震の師匠であり、心臓の提供者であるゲイルの遺言だからで、りかの本人ではなく、身体にある心臓を守ることが目的だった。
そこまで分かっていてなお、りかのは「無事でよかった」と雷震に抱きしめられた時に、病院の中にはなかった小さな幸せを感じる。

この瞬間、雷震が抱きしめているのは私でなく
私の中の心臓だった
それは私にとって痛みを伴う感情で
まのあたりにすれば苦しいと感じるのに
それでも――
うれしいと思った
それは私の気持ちではなく
胸の中の彼の気持ちだったのかも
しれないけれど

りかのは、雷震を躊躇いがちに抱きしめる。
その目がまた素晴しかった。
今後に期待。