対魔忍RPGショートストーリー『ある日の魔界騎士と大きな犬』

「悪を断つのが魔界騎士ならば~。
 わたしのポンコツ、なぜ断てぬ~。
 花の刃をキラリとかざし~。
 いつか咲かすぞ、ノマド華(ばな) ~」
 ある日の夕暮れ、リーナは多魔川のほとりを自作の歌を口ずさみながら歩いていた。
 久しぶりに地上に出ての帰り道だ。
 今度、ちょっと長い夏休みをもらえることになって、魔界にいるアデルハイトの所に遊びに行く約束をしたので、そのお土産を買いに出かけたのだ。
 初めて会った時、リーナが行動食として持っていたリンツのチョコレート「リンドール」を美味しい美味しいと喜んでいたので、表参道にある店まで行ってギフトボックスを買ってきたところだ。9種類50個も入っているので長く楽しめるだろう。もちろん自分用のも量り売りで適当に買ってきた。
 あとは彼女の師匠であり、真の魔界騎士の試練ではリーナも大変世話になったベオウルフ様へのお土産だが、イングリッド様によると辛子明太子が大の好物だという。あれはあまり日持ちしないので、出かける間際になって冷蔵されているのを買うつもりだった。
 夕暮れの多摩川には爽やかな風が吹いている。澄んだ水の香りがなんとも心地よく、リーナの歌声もいい感じに弾んだ。
 多摩川の名の由来は魔界に一番近い街ヨミハラがすぐ近くにあるから――とかではなく、古来より霊力を持つ川として霊(タマ)から来ているとも、美しいものを意味する玉(タマ)から来ているとも言われている。
 そんな万葉の昔から知られた川でリーナが歌声を響かせていると、いつか見たような光景が飛び込んできた。
「むむっ、また大きな犬がいるぞ」


 丸子橋のたもとに遠目に見てもスケールがおかしい、遠近感が狂いそうな大きな犬が座っていた。
 キラキラ光る銀色の毛並みで、その身体に鎖を巻いていて、前にリーナが海のラップ大会で鐘一つで落ち込んでいた時、この川で出会った大きな犬に似ている。
 あの時は向こうも足を怪我してしょんぼりしていて、リーナのラップで励ましたらとても喜んでくれた。なかなか見上げた犬だった。
「あの時と同じ犬だろうか?」
 大きな身体で岸にちょこんと座って、ぼんやり川を眺めている寂しげなポーズが以前の記憶と重なる。
 また何かで落ち込んでいるのなら唯一の犬の友達として元気付けてやりたいが、あの犬かどうかちょっと自信がない。
 大体、リーナは犬の顔の違いがよく分からない。苦手なので普段あまりちゃんと見ていないのだ。じっと見ようとするとなぜか吠えられる。吠える犬は怖い。吠えなくても怖い。
 もしかしたら、あの時の大きな犬と良く似た別の大きな犬かもしれない。だったら近づきたくはない。
「うーん、どうしよう」
 思い切って声をかけてみるか、見なかったことにするか迷っていたリーナだが、
「あっ、いいことを思いついたぞ」
 あの時のラップをさりげなく口ずさんで遠くからゆっくり近づいてみよう。同じ犬だったらきっと気づいてくれるはずだ。気づかなかったら別の犬だ。
「ふっふっふ、我ながら素晴らしいアイデアだ。魔術師のエレーナでもきっと思いつかないだろうな」
 自画自賛してから、もしあれが別の犬で、いきなり吠えかかられても大丈夫なようにしっかり距離をとって、いつもより少しだけ抑えた声で、『魔界騎士だぜヘイチェケラ!』を歌い始めた。
「ヨ、ヨー、魔界騎士、ヤバイ意思っ、嵐騎のパッション、本気のアクション――」
 と、そこまでライムを刻んだところで、大きな犬がぴくっとこちらを振り返った。そして次の瞬間、
「わんわんわんわん!」
 ものすごい大きな鳴き声と共にこちらに猛然と向かってきた。
「うわああああああ!」
 思わず悲鳴をあげてしまう。
 反射的に剣に手がかかったが、あの時と同じ人懐っこい顔になんとか抜くのを堪える。
 果たして大きな犬はリーナのそばまでやってくると、その巨体を親しげに擦り付けてきた。ふさふさした銀色の毛からは、覚えのある不思議な匂いがした。同じ大きな犬だ。
「そ、そうか。やっぱりお前はあの時の犬だったんだな。久しぶりだな。しかしいきなりあんダッシュは良くないぞ。お前はすごく大きいんだからな。普通は驚いてしまう。私は魔界騎士だから平気だけどな」
 大きな犬をこわごわ撫でてやりながらリーナは言う。
「くーん」
 大きな犬はその恐ろしい見かけとは裏腹に甘えた声を出した。
「今日はどうしたんだ。なんだかまた落ち込んでいたようだったぞ。悩みがあるならこの魔界騎士リーナが聞いてやろう」
 そう言うと、大きな犬はまたくーんと鳴いて、首輪のあたりをモゾモゾとまさぐった。そしてそこに挟んでいたタブレットを取り出し、それをリーナの腕ほどもある大きな爪で器用に弄り始める。
「なんだ? 犬語の翻訳アプリか?」
 大きな犬はふるふると首を振り、「ちょっとこれを見て」という感じで、一つの動画を再生させた。

 現れたのは厳つい甲冑を身に纏った女戦士 たちだ。数が多い。10人以上いる。みんなカメラの方を見てざわついている。
「もう始まってるのか? それで録画とかいうのをしてるのか?」
「そのようだ。人間の機械はよく分からないが」
「おい、そんなに押すな」
「ここじゃ私が映らないかもしれないいだろう」
「そしたら私が見えなくなる。ダーリン! 見てる? 私、ジークリンデ」
「一人で先に挨拶するな。抜け駆けはなしと決めたはずだ」
「お前はいつもそうだ」
「今の罰としてそこをどけ」
「やれるものならやってみろ」
 妙にかしましい女戦士たちはカメラに映る一番いい位置を争ってゴチャゴチャやり始めた。そしたらブツッと動画が切れ、またすぐに始まった。
 今度はちゃんと並んでいる。カットされた位置決めのシーンで一悶着あったらしく、真ん中にいる戦士は嬉しそうで、端に追いやられた戦士はちょっと残念そうだったが、それでも全員で仲良く声を揃えて言った。
「ダーリン! 今日は私たち鬼神乙女(ワルキューレ)がダーリンのために開発した新しい技を見せますっ! 誰が一番すごかったか教えてねっ! お願い、ダーリンっ!」
 女戦士たちの言葉にリーナは驚く。
「鬼神乙女(ワルキューレ)? 魔界の最果てに住むあの伝説の女戦士たちか? なんだかイメージと違うな」
 そんな戸惑いをよそに鬼神乙女たちはそのダーリンのために開発した技とやらを披露し始めた。
「一番手は私、テューレだ。私の新しい技は『Anger of the wife(妻の怒り)』だ。だが勘違いするなよ。妻の私は勇者(エインフェリア)のお前に決して怒ったりしない。私たちの仲を引き裂こうとする悪しき者への怒りがあるのみだ。……あ、いや待て、伝説の夫婦喧嘩と言うものにはすごく憧れている。結婚したら是非やろう。……うるさいな。少しくらいダーリンに喋らせろ」
 テューレというその鬼神乙女は「前置きが長い」という周りの声に文句を言ってから、剣をキリリと構えた。
「ダーリン! とくと見ろ! Anger of the wife!」
 どかああああああん!
 テューレが剣を振り下ろすと、天が割れたかと思うほどの雷が落ちてきた。画面が一瞬真っ白になり、それが晴れると地面に大穴が空いていて、あたりの空気がバチバチ鳴っている。すごい威力だ。
 それを皮切りに、鬼神乙女たちは一人一人順番に技を披露し始めた。
 あたり一面を灼熱の業火で包み込んだり、逆にそれを一瞬で凍結させたり、大竜巻や大津波を起こしたり、空間そのものを切り裂いたりと、伝説の鬼神乙女の名に違わぬ技を見せてくれたが、誰も彼もがそのついでに、交換日記に憧れてるだの、学校帰りに二人で寄り道したいだの、初めてのキスは観覧車の中がいいだの、夫婦でも隠し事を作ってみたいだの、はたまた嫁姑戦争を楽しみにしてるだのと変なことを言っている。
 ともかく13人分のアピールが終わると、鬼神乙女たちはまた整列して、
「ダーリン! 早く私たちと子作りしようね! みんな待ってるからねー!」
 満面の笑みで手を振って動画は終わった。

「なんなんだこれは?」
「くぅん?」
 大きな犬は自分もよく分からないと言いたげに首を傾げた。
「要するにお前は彼女らが言ってるダーリンとやらに今の動画を届けるように頼まれたのだな?」
「わん」
「でもここでボンヤリしていたということは行きたくないのか?」
「ぐるるぅ」
 大きな犬は低い声で唸ってから、ペタンと地面に伏せた。よくわからない仕草だが嫌がっているようだ。
「しかし主人のお使いはちゃんとやらないと駄目だろう。お前を信頼して託したのだからな。変なビデオメールだが」
 リーナの正論に大きな犬は「でも嫌なんだもん」と言いたげに巨体をモゾモゾと揺すった。
「そんな大きな身体をしてしょうがない奴だな。チョコでも食べるか? 嫌な気分の時には甘い物だぞ。ん? 犬はチョコはダメなんだったか?」
 さっき自分用に買ってきたリンツのリンドールを取り出しながら尋ねると、大きな犬は「平気平気」という顔で舌をハフハフさせた。
「そうか。お前もただの大きな犬ではなさそうだしな。チョコくらい食べるか。でも少しにしておけ」
「くーんくーん」
 リーナが三つほど分けてやると、大きな犬は嬉しそうに喉を鳴らして、その身体からすれば豆粒よりも小さいチョコを一つ一つじっくり味わっている。違いのわかる犬だ。
 リーナは自分もポイッと一つ口に入れた。ミルク味だ。とっても甘い。
「もぐもぐ。ひょっとしてあれか? ダーリンとかいう奴が苦手なのか?」
「わん」
 大きな犬は頷いた。どうもそうらしい。
「あれだけの力を持つ鬼神乙女に好かれているのだ。よほどの力を持った男だろうな」
「ぐるる?」
 大きな犬はそうかなあと言いたげにまた首を傾げる。
「そうでもないのか?」
「わん」
「そうか。ならばお前自身がそのダーリンと戦って、力を確かめてみたらどうだ。お前はただの大きな犬ではなく、鬼神乙女たちに仕えるひとかどの大きな犬のようだ。ならばその資格は十分にある」
「くうん?」
「私もアデルハイトという親友でライバルがいる。今度遊びに行くのだが、まずはひと勝負して互いの力を確かめるつもりだ。本気でぶつからなければ分からないことはある。ダーリンが苦手というお前の気持ちも変わるかもしれないぞ。主人のためにもその方がいいと私は思う」

https://twitter.com/kamio96/status/1544663096324931585より引用

 大きな犬はしばらく考えていたが、やがて納得したらしく尻尾をぷるぷると振った。
「わんわんわん」
「そうかそうか。では迷いのなくなったお前のためにまた一つ歌ってやろう。聞きたいか?」
「わん!」
 リーナは自分のスマホを操作してYouTubeから伴奏を流し始めた。

 


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 大きな犬はリズムに合わせて右に左に体を揺する。リーナは高らかに『魔界騎士ヨミハラ』を歌い出した。

「悪を断つのが魔界騎士ならば
 わたしのポンコツなぜ断てぬ
 花の刃をキラリとかざし
 いつか咲かすぞ、ノマド華(ばな)

 昨日闇討ち、明日は刺客
 狙い狙われ、剣林弾雨(けんりんだんう)
 なんの負けるな、桜のハート
 今日もヨミハラ、嵐吹く

 倒(こ)けつ、転(まろ)びつ、鍛えた力
 かかげた剣(つるぎ)に、迷いなく
 主人(あるじ)、ライバル、仲間がいれば
 怖い野良犬、怖くない

 夢に描くは、あの日の翼
 斬るも歌うも、全力勝負
 泣いて笑って、疾風(かぜ)より速く
 いざや進まん、魔界騎士」

 リーナが四番までしっかり歌い上げると、大きな犬はもうじっとしていられないという様子でブルブル身体を震わせ、夕日に向かって「わおーーーん」と見事な声を響かせた。野生の狼のようだ。
 銀色の身体から勇猛果敢なオーラが溢れている。なにか感じとってくれたらしい。やはりこの大きな犬とは相通ずるものがある。
「よし行け! 大きな犬! 見事役目を果たすのだぞ! お前の行手に幸あれ!」
「わんっ!」
 リーナがなんとなく夕日を指差すと、大きな犬は弾かれたように夕日に向かって駆け出したが、すぐに「おっと間違えた」という感じで右に方向転換し、風のように走り去っていった。
「そうか。ダーリンがいるのはそっちだったか。そういうこともあるな。ではまた会おう」
 小さくなっていく大きな犬に手を振って、リーナもヨミハラに足を向ける。
「主人(あるじ)、ダーリン、仲間とともに〜、いざや進めや、大きな犬〜〜」
 ちょっと歌詞を変えた歌声が夕暮れの多摩川をわりと適当に流れていった。

 こうして、五車の対魔忍ふうま小太郎は、大きな犬フェンリルと『決戦』することになったのだった。
 めでたしめでたし。


(了)


【制作後記】
 またリーナとフェンリルの小話を作ってみた。
 最近、いきなり決戦にフェンリルが登場したので、その理由をちょいと考えてみたかったのと、勝手に挿絵に使わせてもらった神尾96氏のフェンリルが可愛かったのと、チアルの話のときにリーナの歌を勢いで四番まで作ってしまったので、せっかくだから全部フェンリルに聞かせたかったからだ。
 もちろん非公式の与太話だ。そもそも『決戦』なんて出来事は作中で起こってない。
 『魔界騎士ヨミハラ』という曲名は、ヨミハラという名の魔界騎士がいるみたいで妙な感じだが、リンクにも張っている通り、元ネタが『侍ニッポン』という曲なので、それと字面を合わせたらこうなった。
 徳山璉による1931年の歌だ。当時、10万枚も売れたヒット曲だそうだ。
 さすがに知らない人がほとんどだろうが、アニメ『侍ジャイアンツ』で主人公の番場蛮が「球を打つのが野球屋ならば、あの子のハートがなぜ打てぬ」と替え歌を口ずさんでいたのを覚えている人はいるかもしれない。私もそっちが先だ。
 歌より先に郡司次郎正による同名の小説があり、なんと5回も映画化されている。
 その小説はAmazonで今でも普通に買えたが、映画で見ることができたのは5回目の監督:岡本喜八、主演:三船敏郎の『』だけだった。
 同監督の『独立愚連隊』とかが好きな人はかなり楽しめると思う。
 では、えらく久しぶりの更新となってしまったが、今回はこのへんで。
 

対魔忍RPG リーナイベント制作雑感 その2『魔界騎士の資格』

『魔界騎士の資格』は【百花繚嵐】リーナのお披露目回だ。
ふうま君視点から話が始まり、リーナ視点の話になり、またふうま君視点に戻って、それぞれが合流するというオーソドックスな作りだ。
そして、それぞれ初登場のキャラと行動を共にしている。
ふうま君のパートナーはリノア・セリング。この子はイベント報酬キャラなので順当だ。
一方、リーナは彼女と同じように魔界騎士を目指しているアデルハイト、通称ハイジが相棒となる。

 

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アデルハイトはずっと出したかったリーナのライバルキャラだ。
リーナにはリリス、ドロレス、エレーナ、セルヴィアといった魔族の友人がいるが、全員が魔術師系で戦闘では後ろからサポートする係だ。
イングリッドは同じ魔界騎士だが、今度はリーナがサポートする側になってしまう。むしろ自分から喜んでそうしている。
肩を並べて戦う対等な相手が欲しかったので、イングリッドの親友ベオウルフという新たな魔界騎士登場の前振りとして、こちらのイベントで先に出てもらった。

 

最初からリーナのライバルとして考えたので、リーナとは正反対の属性を色々と持たせている。
つまり名門貴族の生まれで、生まれつきの魔力も強く、正統派の剣術を使うが、実戦経験はそれほど多くない、性格は堅物で、友達を作るのは苦手、そして胸が小さいといった具合だ。
剣を左手に持たせたのは作画担当の羽倉ぼう氏だ。
確かに、サウスポーの方が二人で並んだときに映える。
プリキュアのブラックとホワイトだって、並んだときに大抵別々の手で左右対称になるようにポーズを決めている。  
こういうのをピンポイントで入れてくるセンスには脱帽する。


当初、このアデルハイトはもっとクールなキャラにするつもりだった。
しかし、自分からアザンの館に乗り込んでいったリーナが突入前にちゃんと様子を伺っていたのに対し、後からやって来たアデルハイトがあっさり犬の罠にひっかかり、これ幸いと共闘しようとしたリーナに剣を向けたあたりで、もうすでにポンコツフィールドの影響を受けてたらしく、終わりまで書いたら凸凹コンビっぽくなっていた。
もっとも、『戦姫絶唱シンフォギア』の風鳴翼とかがそうであるように、この手の真面目キャラがちょっとズレているのもお約束ではある。
実際、キャラデザの時に考えたセリフですでにこんなことを言っていた。
「は、恥を忍んで伺います。あの……どうやったらその……む、胸がそのように大きくなるのでしょうか? わたくし、こんな胸では魔界騎士に相応しくないのではないかと……」

 

そんなアデルハイト(Adelheid)の名前は、ドイツ語で「気高い姿」といった意味だ。
名は体を表すそのままの命名で、愛称のハイジはアルプスの少女と同じだ。
そうすると役割的にリーナはクララになるわけだが、ドイツ語のクララは「光り輝く、著明な、立派な」といった意味だそうだ。はっはっは。
まあ、リーナも最初の頃よりは光り輝いてるし、キャラ的には「立った立った、リーナが立った」なので良しとしよう。

 

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一方、ふうま君と組むリノアは対魔忍でも魔族でもサイボーグでもない普通の人間、しかし天才という、対魔忍RPGでは珍らしめのキャラだ。
ラプラスという変なロボットを使うが、ルネのようにそれに乗り込んだりはせず、魔法的な事象を分析し、予測し、再現するという、よく分からない超技術を使う。やってることは全然違うが、藤崎竜版『封神演義』の普賢にちょっと似ている。
執筆時にあった資料は設定書、フレーバーセリフ、それとエロシーンくらいだったが、そこではふうま君ともうだいぶ仲良くなっていたため、このイベントではそれよりも抑えめな描写にしている。
リノアは私が考えたキャラではなく、たまたまこのタイミングでこういう設定の子が実装されることになったので、それをイベントストーリーに組み込んだ形だ。
とりあえず初登場なので、まずラプラスを使った彼女の能力を紹介している。当然、クライマックスで使うためだ。
こういう能力がありますと文字だけで説明するのは上手くないので、ユーザーと同じく、ふうま君とも初対面ということにして、ちょうど桐生の助手になっていたので、いきなりラプラスで桐生に雷をぶつけ、行動予測して手玉に取るという登場シーンにしてみた。
この結果、クールキャラのわりに自分からグイグイ動いてくれるという、実に使いやすいキャラになった。
彼女はこのイベントの少し後のメインクエスト『失われたもの』にも出ていて、若さくらとSFの話題で盛り上がったりしている。若さくらは変な映画が好きだし、二人で『不思議惑星キン・ザ・ザ』とか見ている気がする。この映画、つい最近『クー!キン・ザザ』というアニメになっていたそうだ。知らんかった。

 

さて、リーナと探偵チームとの会話とか、アデルハイトとのポンコツな掛け合いとか、語りたいことは色々とあるのだが、今回は目玉である【百花繚嵐】リーナの登場シーンに焦点を当てることにする。
カッコよくて可愛いリーナの新フォームだ。
やはりここは、【不滅の邪炎】イングリッドのお披露目となった『魔界騎士と次元の悪魔』の時のようにラストバトルでババーンと出したい。

 

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設定書によると、あの衣装はノマドの面々にデザインしてもらったものだそうで、アジトセリフでもそう言っている。
確かに『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のように、決戦の前に新しいコスチュームを作るというのはなかなか燃えるが、今回はラストバトルで真の力を引き出したら、いきなりあの姿に変わったということにした。
設定と違う? いや、デザインしてもらったと言っているだけで、作ってもらったとは言っていない。
きっと剣に合わせたデザイン画を描いてもらっていて、「これはかっこいいな、こんな姿になりたいな」とずっと頭にあったので、その姿に変身してしまったのだろう。そうに違いない。

 

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リーナを変身させた魔剣サクラブロッサムが魔界の聖魔桜と繋がっていて云々というのはもちろん後付けだ。
しかし、その後付設定をリーナがバトル中にいきなり「このサクラブロッサムには真の力がある。それを引き出すことができれば」とか言い出すのはさすがに不自然だ。
そこでリーナは本当に知らなかったことにして、同じ唐突な説明ならばと、新キャラのアデルハイトに「そういえば聞いたことがあります」ってな感じでやってもらった。
魔界の知識に色々と詳しそうだし、この先も後付けで色々やるときに便利そうな子だ。
同じく初登場のリノアは科学方面のいい解説役であり、すでに『失われたもの』や『五車決戦』などで活躍してくれているので、アデルハイトにも頑張ってもらいたい。
この「木と同期している剣」の元ネタは、『スレイヤーズ』の祝福の剣(ブレス・ブレード)だ。
リナでもガウリイでもゼルガディスでもアメリアでもない、ランツというアニメには出ていないキャラが小説で使っていて、その特性を利用して自分よりはるかに格上の魔族を倒している。地味だがわりと好きな戦いだ。

 

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そのサクラブロッサムの真の力を引き出すにあたっては、アデルハイトだけではなく、リノアにも活躍してもらった。
それでこそ、リーナとふうま君をそれぞれ新キャラと組ませてから、二つのストーリーを合流させた意味がある。
リノアの色々と分析するのが得意という、たまたまの設定をここで使っている。
それがなくとも、リノアにはクライマックスで何かやってもらうつもりだったが、こういう偶然をストーリーに組み込むのは作っていて楽しい。

 

そして仲立ちをするのはふうま君だ。
ドロレスの新しい友達で、リーナが作ったイングリッドのブロマイドもあげている相手、きっと『ニートにメイド』の後に色々と話を聞いていたのだろう、そんな人物のアドバイスだからこそ、リーナも信用するという展開になっている。
つまり、ピンチに陥ったことによる感情の爆発(イヤボーン)とか、日常のちょっとした出来事がヒントになって気づきを得る(エヴァの熱膨張)とかではく、友達と友達の輪で窮地を脱したわけだ。
その方がふうま君とリーナが共闘するイベントにふさわしい。

 

ただ、ふうま君の出番はそれくらいだ。
アザンの最初の音波攻撃を防御したのはリーナだし、2度目はリノアが勝手に無効化したし、頭に血が上ったリーナの尻を叩くのも、最後の時間稼ぎもアデルハイトの役目だ。
真の力の引き出し方のアドバイスをするくらいで、ふうま君には脇役に徹してもらった。
リーナには、まだ顔も覚えてられてなかったようなのでしょうがない。
ふうま君は「そんなに印象に残らない顔なのかな?」とか言っていたが、前に2回出会った時は立ち絵がまだ存在しておらず、そもそも顔がなかったのだ。覚えているはずがない。

 

サクラブロッサムで九頭龍閃をやるみたいな真の力の引き出し方は、別に私が『るろうに剣心』を好きだからとかではなく、ちゃんと設定書にあった技のアクションにのっとっている。
それによると、スキル2は「桜の花びらが一枚舞い降り、目で追えない高速で刀を振るうと、花びらが『米』の字に切れて、同じ形の桜色の剣閃が敵を斬り裂く」という技らしい。えらいかっこいいな。
米印なので突きを加えて9連撃。
イメージは、サクラブロッサムで作り出した桜色のエネルギーフィールドにリーナが突っ込んで変身する感じだ。仮面ライダーのフォームチェンジを想像して欲しい。
先に述べたように、衣装替えではなく変身にしたのは場面を盛り上げるためだが、今までのリーナの絵もまだまだ使いたいので、そちらの方がなにかと都合がいいという理由もある。

 

それはさておき、サクラブロッサムの真の力が解放されると、アデルハイトが「すごい魔力」と言ってるようにリーナの魔力がブーストされる。
つまりこういうことなんだろう。
イングリッドは生まれつきの魔力が少ないリーナのことを思ってそういう剣を与えた。
しかしリーナを慢心させないために、その隠し能力のことはあえて教えなかった。
そして『二人の魔界騎士』のとき、かつて自分が教えた技セブンスハリケーンを自分以上に見事に放ったリーナに、サクラブロッサムの真の力を使う資格があるとみなし、9連撃にしたらどうだとヒントを与えた。
おお、まるで最初からそう考えていたかのように、うまいこと話が繋がったではないか。

 

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そんなこんなでリーナがアザンを倒し、エピローグではアデルハイトがイングリッドの親友の魔界騎士ベオウルフの弟子であることが明かされる。
そして、私たちもあの二人のようになろうと誓い合って、お話は『黒翼の魔界騎士』へと続いていく。
そちらの話は制作雑感その1で。
ではまた。

対魔忍RPG リーナイベント制作雑感 その1『黒翼の魔界騎士』

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リーナがSRユニットになった。
嵐を呼び桜が舞いラップを刻みガーリーファッションも身につけたリーナがついに桜色の剣気を輝かせる。
その名も【百花繚嵐】リーナ。可愛いね。
などと思っていたら、実装から半年も経ってしまった。
だいぶ機を逸した感があるが、それはそれでリーナらしい気がするので、最近の事なども織り交ぜつつ、またとりとめなく書き連ねてみる。

 

この5人目のリーナが登場したのは、レイドイベント『魔界騎士の資格』だ。
その直後に実装されたメインクエスト『黒翼の魔界騎士』でも主役になっている。
当然、シナリオは同時期に続けて書いたわけだが、そもそものストーリーを考えたのは後発の『黒翼の魔界騎士』の方が先だ。
そこで、制作雑感その1ではこの『黒翼の魔界騎士』について述べ、『魔界騎士の資格』についてはその2で別に語ることにする。

 

さて、この話はそれよりだいぶ前のイベントを制作していたころ、「そのうちリーナがSRキャラになるのでメインクエストの主役でなにかよろしく」という依頼があり、「リーナが主役!? ウラーーー!」ってな感じで、そのうちとか関係なくすぐさま考えてしまったストーリーが大本になっている。
その後、『魔界騎士の資格』を先に実装することになったので多少変更を加えたが、大筋はその時に勢いで作ったそのままだ。
ちょうどそのころ、リーナがSRキャラになるかとか関係なく、やりたいことがあったので、それを元にストーリーを組み立てている。
やりたいこととは以下の三つだ。
・自称魔界騎士問題の解消
・他の魔界騎士を出したい
・ライバルを出したい

 

まずは自称魔界騎士問題の解消だ。
リーナはことあるごとに私は魔界騎士、私は魔界騎士と言ってるが、「それは勝手に言ってるだけじゃないの?」という疑問が常にあった。魔界騎士詐称疑惑だ。
というのも、魔界騎士とは魔界を支配する連合にのみ仕える存在云々という設定があったからだ。
公式設定資料集 対魔忍Saga』にも、ほらこの通りちゃんと書いている。

 

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キャプションにあるように、魔界騎士の代表であるイングリッドはいきなりそれに背いている困り者なわけだが、少なくとも一度は魔界で正式に任命されているはずだ。
一方、リーナは『決戦アリーナ』でどうだったのかは不明だが、少なくとも『対魔忍RPG』では『二人の魔界騎士』で書いたように、武者修行の途中でイングリッドについて行ったのだから、正式に任命などされていないだろう。
つまり、ただの自称魔界騎士か、せいぜいイングリッドに名乗るのを許されたくらいである。
これまではそのあたりを曖昧にしておいたが、そろそろはっきりさせておきたい。
というよりも、リーナを本物の魔界騎士にしてあげたい。

 

さて、どうするか。
まず考えたのが、『リーナちゃん、魔界騎士の試験を受けに行く』という話だ。これは盛り上がりそうだ。
NARUTO -ナルト-』の中忍試験といい、『HUNTER×HUNTER』のハンター試験と言い、この手の話はたいてい面白くなる。
なにしろリーナは魔界では雑種と呼ばれる存在で、連合を裏切ったイングリッドに仕えていて、しかもポンコツというマイナスが三つもあるポジションだ。
そのリーナが魔界騎士の試験に単身赴き、誇り高きエリートや、お高くとまった嫌なやつや、常にナンバー2の努力家や、名家の出身だが自分に自信のない子や、リーナ以上に天然の天才といったお約束な連中とぶつかり合いながら魔界騎士を目指す。
しかし、その裏には彼女たちの知らない恐るべき陰謀が――ってなことをやり始めたらえらい楽しくなりそうなのだがメインクエストひとつではとても終わらない。新しい絵素材も山ほどいる。ということで断念。

 

次に考えたのが、『リーナちゃんの魔界騎士めぐり』。
つまり連合から正式に魔界騎士と認められるわけではないが、他の魔界騎士たちによって略式に認められるという話だ。
ファイブスター物語』でいうところの、騎士級の見届け人が三人以上いれば、正式なお披露目でなくても、略式的にファティマのマスターと認められるというアレである。
認め人を三人とすると、イングリッドの他にあと二人、魔界騎士がいればいい。
まずリーナの本気を示すためにイングリッドと立ち会わさせ、それから二人の魔界騎士に会いに行くという展開ではどうだろう。
これなら新しい魔界騎士をストーリーに沿った形で出すことができそうだ。
新しいと言っても、『対魔忍アサギ 決戦アリーナ』に何人か魔界騎士がいたので、素材はそいつらを使い回せばいい。
ついでに、どちらかの魔界騎士の弟子にリーナのライバルキャラを設定して、その子と勝負させよう。もちろんリーナとは正反対の子だ。

 

ただ、やはり最後にはラスボス的な相手との戦いが欲しい。
それに自称よりましとはいえ、せっかく主役を張ってもらうのに、その結果が略式の魔界騎士ではリーナに申し訳ない。
というわけで、三人の認め人のアイデアをもう一歩進めて、今ではもう知られていないが“原初の魔界騎士の試練”というものがあり、本来はそれを乗り越えた者だけが魔界騎士と呼ばれていたという設定を思いついた。
これなら9貴族も連合も関係なく、リーナを本物の魔界騎士にできるし、イングリッドがいまだに魔界騎士を名乗っている理由にもなる。

 

その試練で戦う相手は、これはもう自分自身しかあり得ない。自分の弱い心が生み出した影というお約束のパターンだ。
元ネタは山ほどあるが、ここは『ハートキャッチプリキュア』の37話「強くなります!試練はプリキュア対プリキュア!!」をあげておこう。
リーナが主役のメインクエストで、彼女の弱い心が生み出した理想の自分、完全無欠のリーナがラスボスとして出てくる。実に私好みだ。新しいリーナも作画してもらえるしね。
そんな感じでアイデアをまとめたら、めでたくOKをもらえた。

 

リーナの心が生み出した影、そのイメージもすでにあった。
旭さんが以前描かれたこのカッコいいリーナだ。

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このキリッとした姿と、憧れている伝説の黒鳥と、尊敬するイングリッドの姿とをミックスした感じでデザインしてもらった。
リーナが考えた理想の自分なので、首と片足に包帯を巻いていたりする。旭さんのデザイン画の注釈には「中二感」とあった。

 

そして二人の新たな魔界騎士のうち、カルメラは使い回しだが、もう一人はベオウルフという新キャラ、その弟子のアデルハイトも新たに作画してもらえることになった。
ベオウルフはすでに設定があったので、アデルハイトは彼女と同じ魔眼使いとし、先行するイベント『魔界騎士の資格』で登場させることにした。
ベオウルフとアデルハイトという新キャラがいきなり二人出てきて、一人はイングリッドのライバル、もう一人リーナのライバルと慌ただしく紹介するよりも、こないだ知り合った子と再会して、その師匠が新キャラという流れの方がスムーズだからだ。

 

ストーリーはお馴染みのリーナのパトロールから始まっている。
以前、リーナが主人公となった『二人の魔界騎士』では、リーナとヨミハラの普通の人々との触れ合いを描いた。
また同じことをやってもつまらないので、今回は同じノマドの人たち、朧やフュルスト、それから実はブラックの配下のユーリヤを訪ねることにした。
同じノマドと言っても、イングリッド組は治安維持、朧組はショーパブで踊ったり取り立てをしたりの小商い、フュルスト組はとにかく外で悪巧みと、それぞれ全く別のことをしているので、今までストーリー上でほとんど接点がない。
まあ、普通の会社でもよく知っているのは同じ課の人たちと同じフロアにいる人と同期くらいで、部署や階が違う人とはろくに話したこともなかったりするので、リアルと言えばリアルである。

 

リーナがイングリッドの手紙を渡しに行くだけだが、違う部署の長であるフュルストや朧とどんな風に接しているのか考えるのは面白かった。
リーナはいつも通りでいいとして、朧やフュルストは魔界騎士としての実力は認めた上で、リーナをわりと苦手にしているという風に書いている。
どちらも細かく策略を巡らせるタイプなので、良くも悪くもそれをまるきり無視して、物理的にも精神的にもひょいと懐に飛び込んできてしまうリーナのようなタイプはやりにくいはずだ。
そんなわけで、朧は一番間の悪いときに来られて焦っているし、フュルストもせっかくかけた迷いの結界をなんとなく突破されてしかめっ面で出てくる。

 

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ただ、朧に関してはその後の『ヨミハラサイドストーリー』で、実は最弱の半妖であったという話が出てきたので、『DRAGON QUEST -ダイの大冒険』のミストバーンのように、自分と似たような境遇から努力で強くなったリーナのことは、苦手ではあるがわりと気に入っているのではないかと個人的には思っている。

 

そして、お使いの帰り道に刺客に襲われる。
ここからが本題、今回のストーリーにおけるリーナの動機付けの場面だ。
なにしろ今まで堂々と魔界騎士を名乗っていたリーナが改めて正式な試練を受けに行くのだから、それなりの理由が必要だ。
どうするか色々と考えたが、リーナは自分自身が何が言われるのは気にしないので、自分の存在がイングリッドを蔑めることになるかもしれないのが一番嫌だろうとああいう形になった。
ヨミハラは生まれや過去にこだわらない、現在の実力だけが全ての、はみ出し者にとってはとても居心地のいい場所だ。
お使いの場面で描いたように、魔族としては遙かに格上の朧やフェルストもリーナを普通に認めている。
そのヨミハラ感覚に馴染みすぎたリーナが、久しぶりに魔界の常識という悪意にあてられ、思わぬショックを受けるという流れだ。
例によって画面ではいつもと同じ顔をしているが、きっとこの旭さんの同人誌「対魔忍アサギ設定アリーナ」に描かれているようにしょんぼりしているに違いない。泣き顔もいいね。

 

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しかし、リーナが落ち込んでしまったため、その後に始まるせっかくのお茶会ではみんなに心配されるだけになってしまった。
あの連中がお茶とお菓子を楽しみながら、本当にどうでもいい話をするだけのシーンとかとても書きたかったが、それでは話が進まない。
結局、あの話し下手なドロレスのとりなしで、イングリッドから魔界騎士の本来の姿と、その試練について語られることになる。
それにしても、まだ考えてなかったからというこちらの事情はともかく、今回のことといい、サクラブロッサムの真の力のことといい、「魔界騎士は黙ってヨミハラビール」じゃあるまいし、イングリッドはそういうことをもっとちゃんとリーナに言ってやれという気はしている。

 

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その後のリーナとイングリッドとの対決は前々から書きたかったシーンだ。
イメージは、『北斗の拳』のケンシロウとトキとの対決、あるいは『るろうに剣心』最終回の青年弥彦と剣心との対決だ。
だから勝負はただの一撃、ついにリーナがイングリッドと互角の技を放ち、その覚悟を伝えるというお約束な展開になっている。
このイベントとは全く関係なく、この二人のこういうシーンをやれたらいいなと考えていたので実に嬉しい。
ちなみに、互角の一撃を放てるようになったからといって、トータルでの実力まで互角になったわけではない。念のため。
イングリッドの右腕なので、立場的にはフュルストの腹心であるヴィネア、シームルグ、ニールセン、オロバスといった連中と同じだが、フュルストがヴィネアに油断するなと警告しているし、あいつらは『五車決戦』であまり役に立たないことが判明したので、それよりは強いと思いたい。

 

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ともあれ、リーナは試練を受けるため魔界騎士に会いに行くことになる。
ただその前にちょっと寄り道してもらった。
セルヴィアの過去についてもう少し膨らませておきたかったこともあり、二人でかつての領地を訪ねている。
もちろん、セルヴィアはリーナが心配だから魔界についていったのであり、仇の一人を倒した報告というのはその口実だ。
『幻影不知火』の時に、黒斗の散歩のシーンでセルヴィアが仇討ちに出かける所をなんとなく入れておいたのが役に立った。
しかし墓参りをすませると、リーナについていく理由がなくなってしまった。ツンデレはやめておけという見本だ。
セルヴィアについては、グラハムという仇の名前も分かったし、その後の『ヨミハラサイドストーリー』で死霊卿という大仰な二つ名のわりにフットワークの軽いテウタテスが一枚噛んできたので、もう少し話が膨らみそうな気がしている。

 

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セルヴィアと別れたリーナはまず魔界騎士カルメラを尋ねる。
顔のついた変な盾を二つ持っているのが特徴で、『双貌』という異名は今回考えた。
この人は『対魔忍アサギ 決戦アリーナ』にも出ていて、エロ絵2枚のユニットが一つだ。
イベントの登場はたった一回だが、そこでリーナに偶然出会って憧れられたり、その後で対決したりと、似たようなことをやっている。
もっとも、そちらではカルメライングリッドを倒して自分が最強の座に座ろうとしているし、リーナはすでにイングリッドの元から離れていたりしているのだが。

 

それはさておき、こっちでリーナが何をするかというと掃除の手伝いだ。
ドラゴンボール』の牛乳配達、『ベスト・キッド』の「ワックスかける、ワックスとる」を例に出すまでもなく、修行とかテストで一風変ったことをさせられるのはお約束だ。
また、このシーンではまっとうな魔界騎士から見たリーナを示すため、カルメラの心の声を多く使っている。
そして、リーナの『強さ』だけを評価するのではないという展開にした。これはイングリッドやベオウルフでも同じだ。
魔界騎士として強いのは大前提。今更それを認めさせてもしょうがない。
結局、ちっとも魔界騎士らしくないし、そもそも魔族らしくもないという、リーナの面白みで合格ということになった。

 

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次はイングリッドの親友のベオウルフだ。
領地に引きこもって隠遁生活をしているという設定だったので、いきなりその本人に会うのではなく、リーナが街の噂を聞く場面から始めている。
以前もこのブログで書いたように、そういう聞いたか坊主的な説明は好きじゃないのだが、ベオウルフがいきなり「私は隠遁生活をしていてね」とか自分の設定を話し始めるよりはいい。
そのしなければならない説明をしつつ、ここではリーナが酒場にいた連中にしろ使えない門番にしろ、まず低く見られるという描写を入れている。


おそらくそれが魔界騎士になっても変わらないリーナの魔界でのポジションだ。よほど弱そうに見えるのだろう。
実は結構目をかけていたセルヴィアや、エリート貴族なのにそういう偏見がないアデルハイトはかなりの例外のはずだ。
リーナはというと、相手が自分より弱そうに見えても基本的には油断しない。相手が自分より強そうなのはいつものことだし、そもそも『強い』の基準がイングリッドなので、犬以外は別に恐れないといったスタンスのはずだ。
そのあたりのリーナらしさを、ベオウルフが武器を持って現れたときのアデルハイトとの反応の違いで示してみた。ベオウルフはそのリアクションと、アデルハイトを成長させたと言う点で彼女を認めることになる。
アデルハイトについては、制作雑感その2で詳しく述べる。
それにしても「どんな強い相手もおそれない。同時に弱い相手もみくびらない」というのは、映画『ドラえもん』屈指の悪役ギラーミンと同じなのだが、なんでこうもイメージが違うのだろうか。

 

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三人の魔界騎士認めてもらった後は、いよいよ試練の山に向かう。
ここまで戦闘シーンはさらっと済ませてきたので、ここでの連戦は少ししっかりめに書いた。
「うなれダークフレイム!」とかやってれば大抵事足りてしまうイングリッドと違って、リーナには今ままでの経験や勘に基づいて、瞬間瞬間で細かく判断し、色々な技を駆使して戦ってもらっている。このへんの描写は『降ったと思えば土砂降り』や『二人の魔界騎士』のころからわりと意識している。
苦手な犬ともちゃんと戦えている。以前はただ逃げ回っていたことを考えると確実に成長している。
それでもブレスを使う犬の軍団には苦戦してもらった。イングリッドと互角の一撃を放てるようになっても、ドズルの言うとおりやはり戦いは数だ。『ウィザードリィ』なんかでも、一匹では大して強くないヘルハウンド部隊の不意打ちを食らってブレスで死人続出、即リセットとかよくある話だ。
そして、今度こそ本当に犬に惨殺されそうになったところで、お約束の展開でセルヴィアやリリスが駆けつける。

 

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リリスとの対面は『二人の魔界騎士』の回想シーン以来となる。
この二人は、もちろんあの後も普通に会っているはずだが、現在の物語上で顔を合わせるのはこの回が初めてだ。
せっかく今まで会わせずにいられたので、どうせならピンチにいきなり現れてもらおうと、リリスにはお茶会にも欠席してもらった。
日頃疎遠でも難儀の時にこそひょっこり現れ、救いの手を差し伸べるという、『花の慶次』でいう奥村助右衛門のような登場の仕方だ。きっと徳川家康もほっこりしてくれるだろう。

 

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そして原初の魔界騎士の試練。
影リーナとの対決はこんな場面を想像して書いた。
心が折れかけ、うずくまるリーナ。
それを黒い翼を広げた影リーナが上空から傲然と見下ろしている。
リーナは挫けそうになりながらも、風の魔剣を大地にしっかりと構え、勇気を振り絞って立ち上がる。
つまり、この『超重神グラヴィオンZwei』のオープニングみたいな絵面だ。

 

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アニメだったら間違いなくリーナのテーマソングが鳴り出すところだ。
しかし、今のところ使える曲は『魔界騎士だぜヘイチェッケラ!』と『ノマド節』、そして、ようやくほぼ全部歌うことができた『魔界騎士リーナ』しかない。
どの曲にしろ始まった途端、いつものポンコツな場面になってしまう。なんてことだ。
いや待てよ、『サクラにアラシ』という曲があった。よしそれでいこう。


曲も決まったので、影リーナとのバトルについてもう少し語ることにする。
相手は自分の弱い心が生み出した影なので、聞きたくないことを聞かされる精神攻撃がメインとなる。
リーナはそれに理屈ではなく心の強さで打ち勝つのだが、このバトルをもっとロジカルにすることも考えてはいた。
例えば、相手は理想の自分なので、自分が思い描いた通りの攻撃をしてくる。だからその攻撃を完全に読み切って、理想の自分の100の力を利用し、ちっぽけな今の自分の1の力を上乗せして勝つ。
あるいは、相手は確かに理想の自分だが、それは試練が始まった瞬間のものだ。リーナはこの試練の間もより高い自分を目指して成長しているから、そんな過去の理想に負けたりしないといった風にだ。
しかし、この手の試練でそういう理屈を前面に押し出すのも違う気がしたので、とにかくもう気持ちの強さだけで勝ってしまうことにした。
個人的には、ここでリーナを象徴する「ポンコツ」というカッコ悪い言葉を使えたことに満足している。
『雷神の対魔忍』でアルサールにとどめを刺すときの「俺たちは対魔忍だ」もそうだが、ここぞというタイミングでカッコよく聞こえる言葉が私は好きだ。

 

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そうそう、影リーナが持っている剣がセルヴィアからもらった風の魔剣というのは旭さんのアイデアだ。
デザイン発注の際に「なにか伝説の風の魔剣っぽいもの」とお願いしたらこうなった。
そりゃそうだ。リーナの理想の姿なんだから、そこらにある伝説の魔剣なんかより、ちゃんと自分の名を刻んだ風の魔剣を持ちたいに決まっている。なぜ発注時にそこに気づかなかったか。不覚。
私も当初からラストバトルでは【楼嵐武闘】でも【百花繚嵐】でもない、ただのリーナの絵を使いたかったので、まず見た目に良い対比になった。
そして、周りにはセルヴィアからもらった剣だからそのまま使っていると言い、それも本心ではあるだろうが、その一方で剣に名前を刻む自信がなかった、つまり自分が魔界騎士と言い切る自信がなかったリーナが、ちゃんとした剣を持った理想の自分に勝ち、自分が魔界騎士であることを確信して、名前を剣に刻んでもらうというイベントのテーマにそった美しい流れができあがった。
剣のデザインひとつでこれだ。旭さん流石だ。

 

こうしてリーナは正式な魔界騎士になった。
よかったよかった。
お祝いに『魔界騎士リーナ』の歌詞を載せて、この記事を終わることにする。メロディは『ひょっこりひょうたん島』である。
アデルハイトが出てくる『魔界騎士の資格』については、制作雑感その2で。
ではまた。

 

『魔界騎士リーナ』

 風をびゅんびゅんびゅんびゅん切り裂いて
 嵐をぶんぶんぶんぶん巻き起こし
 魔界騎士はどこへゆく
 ラップを決めてどこへゆく
 深いノマドの地下宮殿に
 仲間がみんなが待っている
 ずっこけることもあるだろさ
 ポンコツることもあるだろさ
 だけど私はくじけない
 楼嵐武闘だヘイチェケラ!
 進め
 魔界騎士リーナ
 魔界騎士リーナ
 魔界騎士リーナ

 

 

対魔忍RPGショートストーリー『舞とふうまと本屋の町』

 週明けの月曜日。
 午前中の授業が終わると、七瀬舞は鞄から紙袋を二つ取り出して席を立った。
「舞ちゃん、今日は学食?」
 いつも一緒にお昼を食べている篠原まり――同じクラスだが対魔忍としては先輩なので、舞はまりちゃん先輩と呼んでいる――が聞いてくる。
「お弁当。ちょっと用があるから先に食べてて」
「うんわかった」
 廊下には学食に向かう生徒や、外でお弁当を食べる生徒がぞろぞろと出てきている。
 そこにいないのを確かめてから、隣の教室の扉から中を覗き込むと、ふうま小太郎がいた。
 いつもの三人、水城ゆきかぜ、相州蛇子、上原鹿之助と机をくっつけてお弁当を広げている。
 なんだかずいぶん大きなお弁当箱だと思ってよく見たら、なんと二段重ねのお重だ。
 そういえば、少し前に専属メイド(すごい言葉!)になった出雲鶴先輩が毎日のお弁当を作っているそうだ。それであの豪華なお弁当。一人だけ教室でお花見みたいだ。
「ふうまさん、ちょっといいですか?」
 教室の入り口から声をかけると、ふうまが立ち上がってこっちに来た。
「よう、昨日はどうも」
「どうもです。これありがとうございました。とっても良かったです」
 一つ目の紙袋から岩波文庫の『西遊記』を三冊、それと別にもう一冊取り出す」
「汚すといけないのでブックカバーつけてます。いらなかったらとっちゃってください」
「なんか一冊増えてるな」
「それはおまけの西遊記です。面白かったんで貸します。良かったら読んでみてください」
「ありがとう」
「岩波西遊記は久しぶりだったから、勢いで全部読んじゃいました」
「全部? そりゃすごいな」
 岩波文庫西遊記は全十巻、舞にとってはなんてことはないが、普通は一気に読んだりしない。
「買ってきた本も読んだから、さすがにちょっと寝不足です」
「俺も寝不足。午前中は半分寝てた」
「いつもと同じですね」
「ぐわ、キツイな」
 おどけるふうまに舞は笑って、リボンで飾りをつけたもう一つの紙袋を差し出す。
「こっちはお裾分けですが『麻布かりんと』です」
「そりゃわざわざどうも。ありがとう」
「はい、それじゃまた」
 ペコリと頭を下げ、ちょっぴり弾んだ気持ちで教室に戻ろうとすると、
「見たぞ見たぞー」
 後ろで変な声がして振り返ったら、購買パンを持った綴木みことが面白いものを見つけたぞというムフフ顔をしていた。
「なになに? ふうまセンパイにプレゼント? 手作りのクッキーとか? 『ふうまさん、これ私の気持ちです、食べてください』みたいな。舞ちゃんついにふうまセンパイにグイグイいき始めたの?」
 と自分がグイグイ迫ってくる。
 そういう話ほんと好きだなあと思いつつ、
「違うよ。ただのお裾分け。本を貸してくれたお礼」
「またまた。舞ちゃん、ふうまセンパイと本の貸し借りなんでよくしてるじゃん。それが今日はなぜかプレゼント付き。これは特別なことがあった証拠と見た。みことちゃんのラブセンサーがぴきーんと反応した」
「別にそんな特別とかじゃなくて、昨日ふうまさんが買った本を私が先に読ませてもらったから、そのお礼をちょっとしただけ」
「えっ? それって舞ちゃん、昨日ふうまセンパイと一緒だったってこと?」
 みことがグイッと身を乗り出してきた。
 あ、まずいこと言っちゃたかなと思いつつ、舞はこう答えた。
「一緒だったっていうか、古本市で会ったんだけど……あっ、もちろん約束してたとかデートとかじゃ全然なくて、本当にたまたま」
 みことは最後まで聞いていなかった。途中でこうしちゃいられないという顔になって、あっと思ったときには身を翻し、舞の教室に向かっている。
「待って、みことちゃん、違うから!」
 これから何をするつもりかすごく予想できた。慌てて追いかけたが遅かった。
「まりちゃん! 大ニュース大ニュース! 舞ちゃん、昨日ふうまセンパイとデートだったんだって!」
「え……?」
 あちゃー、やっぱりだ。
 みことちゃんの大ニュースに、お昼を食べていたまりが箸を床に落としていた。
「舞ちゃんがふうまさんとデート……」
「それ違うから。デートじゃなくて、ふうまさんとはたまたま会っただけだから!」
 舞はすぐ否定したが、まりは箸を拾って拭きながら、「でもふうまさんと会ったってどういうこと?」という顔をしている。
 まずい、これはちゃんと説明しないとと思っていると、
「まりちゃん、ふうま君とデートだったの? どこいったの? なにしたの?」と望月兎奈までぴょんぴょん近寄ってきた。
「ねー、興味あるよね。舞ちゃんとまりちゃんと兎奈ちゃん、三人でふうまさんにバレンタインのチョコあげたんでしょ? なのに舞ちゃんが抜け駆けだよ、抜け駆け!」
 みことちゃんがそれに油を注ぐ。ああもう。
「だからそうじゃないの。あのね――」


 日曜日。
 舞は早くから、東京の神保町に来ていた。古書市があるからだ。
 神保町では年末に町をあげて大々的に開催される『神田古本まつり』が有名で、時事ネタとしてニュースで紹介されたりもする。
 もちろん、舞は毎年かかさず行っているのだが、それとは別に月に何回かの割合で小規模な古書市が開かれている。
 場所は古本街のメインストリートから少し外れた所にある東京古書会館
 そこの教室一つ分くらいの小さな会場で行われ、本好き以外にはあまり知られてはいないが、ちょっとした掘り出し物が見つかることがあって、舞はできるだけ足を運ぶようにしていた。
 その日は最終日で終わる時間も早い。あんまりいい本は残ってないかもしれない。それほど期待はせずに、ちょっとしたものがあるといいなくらいのつもりで出かけていった。
 地下鉄、神保町駅の階段を登り、そのうち行こうかなと思いつつ、まだ一度も入ったことがない映画館、岩波ホールのどれも全然知らない映画の広告を見ながら地上に出る。
 そこは靖国通りと白山通りの交差点だ。
 すぐ目につく本屋は四隅の一つにある廣文館書店だけだけれど、そこを一歩離れると大小合わせて200近い本屋がずらりと軒を並べている。
 紙気使いの舞ですら、その全てを把握しきれてはいない。それが世界有数の本の町、神保町だ。
 それほど久しぶりでもなかったが、また来たなあと気持ちが盛り上がってくる。
 もう夏の盛りも過ぎて、透き通った空は秋を感じさせるが、寒いというほどでもなく、本屋街を回るにはぴったりの季節だ。
 時刻は十時半、もう古書市は始まっている。
 すぐに古書会館に行ってもよかったのだが、なんとなくいつもの習慣で、交差点のすぐ横にある神田古書センターに足を向けた。
 そこは町のシンボルとも言えるビルで、一階は創業明治八年の老舗、髙山本店
 その上は古書センターの名の通り古本屋ばかり――と思わせておいて、いきなり老舗のカレー屋さんがあったりする愉快な場所だ。
 神保町はカレーの町としても有名で、共栄堂エチオピアガヴィアルなんかが舞の好きな店だ。
 古書センターの二階にあるのはボンディ、いつ行ってもずらりと人が並んでいる。今日も開店前なのにもう人がいた。
 ここのカレーは半年ほど前、眞田焔が神保町に行ったことがないというので案内したときに一緒に食べたっきり。ぷうんと漂ってくる匂いにとても心惹かれたが、
「うん、やめとこう」
 まだお昼には早いし、一人でカレーというのも寂しい。
 それにあそこはカレーの前に美味しいジャガバターが出てくるので、つい食べ過ぎてお腹が重くなってしまう。
 二階の漫画専門店、夢野書店をざっと見て回り、三階にある鳥海書房でハヤカワ文庫の『地上から消えた動物』というのが200円と安かったので買って、それから五階のみわ書房もちょっと覗いてみた。
 ここは児童書専門店で子供向けの絵本や童話、雑誌、児童文学の評論などに詳しい。
 特になにを探すというのでもなく、今日はどんな本があるかなと棚を流し見していたら、見覚えのある人が本をめくっていた。
「ふうまさん」
 思わず声に出すと、こっちを見て目を丸くする。
「舞? うわ、すごい偶然だな。ひょっとして古書市?」
「はい、そうです」
 いきなり会って向こうも驚いていたが、来た理由は同じだった。


「えーー? ほんと? ほんとに偶然そこで会ったの? 実は約束してたとかじゃなく?」
 みことが素っ頓狂な声を出した。すごく疑っている顔だ。
「してないしてない。約束とかじゃ全然なくて、古書市があったから二人ともその日に行ってただけ」
「でもでも、そこで偶然ふうまセンパイと出逢っちゃうとか、やっぱりなにか――」
「ないない。たまたま。ほんとにたまたま」
 舞が重ねて否定すると、まりが偶然は信じるけど、ふうまと一緒だったのはちょっと気になるという顔で聞いてきた。
「それで舞ちゃん、ふうまさんと一緒にその古書市に行ったの?」
「それは、うん、まあ……」
 舞は頷いて、話を続けた。


西遊記ですか?」
 みわ書房でふうまが手にしていた本だ。児童文学全集の一冊という感じで、かなり古そうなものだった。
「ああ、でも探してたのとは違うみたいだ」
 そう言ってあっさり棚に戻す。
「古書会館にはもう行った?」
「まだです。そろそろ行こうかなって」
「俺もまだ。じゃあ一緒に行く?」
「え? ……あ、はい」
 わっ、これって誘われたことになるのかな? でもふうまさんだし、そういうこと考えずに普通に言った感じかな。
 それでもちょっと嬉しくなって、一緒にみわ書房を出て、古書センターの狭い階段を降りて行く。先を歩くふうまが言った。
「本当はすぐ古書会館に行くつもりだったんだけど、なんとなく習慣でここに来てた。神保町の起点だからな」
「私もそうです。もう一冊買っちゃいました」
「早いな。なに?」
「『地上から消えた動物』、ドードーとかリョコウバトとか絶滅した動物の本みたいです」
「面白そうだな。俺も一冊買った」
 ふうまはデイバッグをごそごそやって、その本を見せてくれた。
それがし乞食にあらず
 リアルなタッチで描かれた浪人風の侍が薪を背負っている絵が表紙の漫画だ。
平田弘史ですね」
「知ってるのか」
 ふうまは嬉しそうに言った。普通は知らないというニュアンスだ。
 確かにハードな絵柄といい、情け容赦のない話といい、あまり女の子向けではない。
「『首代引受人』とか好きですよ」
「お、いいねえ」
 ふうまはますます嬉しそうな顔になって、いきなりその表情を歪めたかと思うと、舞に掌を差し出してみせた。
「『ま、待ってくれ。銭で頼む!』」
 首代とは戦場で命を助けてもらう代わりに差し出す手形のことで、この作品は取り立てに行く引受人と、取り立てられる者、その周りの人間たちの壮絶な生き様を圧倒的な画力で描いている。「銭で頼む」というのはそのお決まりのフレーズだ。
 舞は自分も腕組みして重々しい顔をしてみせ、命乞いするふうまに言ってあげた。
「『よかろう。では500貫』」
「『高い! そりゃ高い!』」
「『なにい!?』」
 そこまでやって二人で笑い出す。
「今日はノリがいいな」
「それはもう神保町ですから」
「だよな」
 ふうまは本をデイバッグに戻して、ひょいと肩に掛けた。
 大きくて丈夫そうなデイバッグだ。本がたくさん入る。この町には相応しい。
 服はグレーのポロシャツにネイビーのスラックス、そしてスニーカー。
 清潔感はあるがオシャレ感はあんまりない。男の子が普通に外に行く時の格好という感じだ。
 もっとも、舞も今日は動きやすさを重視して、グリーンのニットにデニムのパンツ、ぺったんこのパンプスというラフな装いだからあんまり人のことは言えない。
 もしもだけど、今日ここで二人で待ち合わせとかだったら、もっとちゃんとした格好にするけど、偶然なのでしょうがない。
 見られて恥ずかしいほどではないし、二人とも地味なスタイルなので、神保町に合っている気がする。
 なんて思っていたら、今日の舞の姿を見てふうまが言った。
「なんかいつもと感じが違うな」
「そうですか? 今日は紙の服じゃないからかな。髪も後ろでまとめてますし」
 舞はふうまにちょっと背中を向けて、お団子ポニーテールを見せてあげた。
「ああ、それでか。邪魔だから?」
「はい、いつものだと周りに当たっちゃって、ここ狭い本屋さん多いですしね」
 納得したように頷くふうまを見ながら、それで「似合ってる」とは続かないんだろうな、注意力はあるけど、そういうことに気の回る人じゃないし、と思っていたら、
「神保町っぽくていいんじゃないか。似合ってるよ」
「あはっ、そうですか? ありがとうございます」
 来ないと思っていた言葉に、ついお礼を言いながら笑い出してしまう。
「え? 笑うとこ?」
「そんなことないです。嬉しいです。ふうまさんも神保町っぽくていいですよ」
 気の回らない人だなんて思ってごめんなさいと心の中で謝りながら、カップルっぽく並んで歩いていく。
 靖国通りを小川町の方に向かう。古書会館までは十分もかからない。その間にひしめく本屋に捕まらなければだが。
 だから大雲堂一誠堂といった、今入ると絶対に出られなくなりそうな老舗は素通りして、書泉グランデの店先に貼ってある新刊情報を軽くチェックしながら、三省堂の横の交差点までたどり着いた。ここを渡ればすぐだ。
 信号待ちをしていると、ふうまが聞いてきた。
「そのバッグ小さいな。今日はあまり買わないつもりとか? いや、そんなわけないよな」
 舞のポシェットを見て不思議そうな顔をしている。
「はい、そんなわけないです。これは私が作った紙のバッグです。折り紙構造になっていて中身に合わせて何段階かで大きくできるんです。最後はキャリーカートになりますよ」
「キャリーカートって便利すぎだろ」
「でしょう?」
 信号が青に変わった。交差点を渡りながら今度は舞が尋ねた。
「今日はなにか目当ての本とかあるんですか?」
「特にないな。なんか良いのがないかなって」
「私もです。さっきの西遊記は? なにか探してましたけど」
「小さい頃に持ってたのをずーっと探してるんだけど、作者も出版社も全然覚えてなくてさ」
「子供の頃ってそうですよね。普通に西遊記ですし」
「そうそう。子供向けに一冊か上下巻くらいにまとまったやつで、八戒を仲間にするときに、悟空が八戒の耳を指で引っ張ってる挿絵があったんだよ。それ見ればこれだって分かるんだけど」
「それで挿絵があるかチェックしてたんですね。でもそれはなかなか探すの難しいですね」
「それっぽい本をこまめにチェックしてるんだけどな。最近は挿絵の記憶もちょっと疑ってる。なにせ小さかったからなあ」
 ふうまは頭ではもう半分諦めている、でも気持ちでは諦めきれないという顔で首を捻った。
「元の西遊記はなんでなくしちゃったんですか?」
「昔、ふうまの屋敷が丸ごと焼けたときにね。西遊記だけじゃなく、そんときになくした本をコツコツ集め直してるんだ」
「そうなんですか……なるほど」
 悲惨な過去をさらっと口にする。いきなりでドキッとして『なるほど』とか変な反応をしてしまった。ふうまは別に気にした風もなく、
「舞はそういうのある? ずっと探してる本とか」
「あります。私も前に持ってた本で、少女マンガなんですけど、大矢ちきの『回転木馬』って、さすがに知らないですよね?」
「うーん、全然知らない。作者の名前も聞いたことない。ごめん」
「しょうがないです。絵もお話もすごく繊細で綺麗な作品を描く漫画家さんなんですが、本はあんまり出てないですし……あ、でもあれは見たことあるかな? 『アルジャーノンに花束を』って読んだことあります? ダニエル・キイスの」
「ああ、もちろん」
「その本の表紙の花束……ええとこれです。これを描いた人です」
 舞はスマホでそれを検索してふうまに見せた。
「あー、見たことある見たことある。へえ、これを描いた人なんだ」
 ふうまはひどく感心したように頷いている。
「『回転木馬』は1970年代の作品で、元々は『りぼん』に載ってたんです。でもずーっと単行本にならなくて、40年くらいたってやっと復刻されたんです。本になったのはその1回だけ」
「そりゃプレミアがつきそうだな」
「はい、すごく。私それ持ってたんですが、焔さんに見せたらとても気に入ってくれて、誕生日のプレゼントにあげちゃったんですよね。雑誌のコピーはありましたし、別にいいかなって」
「でも、やっぱり手元に置いておきたくなったんだ。あるある」
 笑い出すふうまに、舞は溜息混じりで、
「さすがに返してくださいとは言えませんし」
「そりゃそうだ」
「あげるの違うのにすればよかったです」
 思わず愚痴ってしまう舞に、ふうまがまた笑いながら、「見つかるといいな」と励ましてくれたところで、古書会館にたどり着いた。
「それじゃ」
「はい」
 地下一階の会場に入り、ふうまとはそこで別れる。


「待って待って? 『それじゃ』ってなに? まさかそこでふうまセンパイと別行動?」
 みことがビックリした顔で聞いてきた。
「そうだよ」
「なんでなんで? デートなのに」
「だからデートじゃないって。みことちゃんしつこい」
「でもでも、そこまで二人で一緒に歩いて来たんでしょ? なんか話もすごく盛り上がってたし、なんでそこで別れちゃうの? それっておかしいよー」
「でも見たい本は二人とも違うし、お互いのペースがあるし、逆にふうまさんに『一緒に見て回ろう』とか言われたら、ちょっと嫌かな」
「嫌とまで言う。舞ちゃん、超マイペース」
 ものすごく不思議そうな顔をされた。そんなに変かな?
「舞ちゃんらしいよね。私だったらドキドキしちゃって、そんなこととてもできないけど」
 舞のことをよく知っているまりがそう言ってくれた。
「それはまりちゃんがふうま君のこと大好きだからだよね!」
 兎奈ちゃんがいきなり言った。からかってるのではなく、「そういうのすごく素敵だな!」と思っている顔だった。
「ふえっ!?」
 変な声を出すまりに、みことちゃんがすかさず食いつく。
「やっぱりそうなんだ! まりちゃん、ふうまセンパイにラブなの? ラブ?」
「ち、違くて。私はふうまさんのこと尊敬してるっていうか、ただ憧れてるっていうか。ラブとかそういうんじゃなくて!」
「えーホントかなあ」
 みことは疑わしそうな声を出す。そのへんは舞も同感だ。
 もう思い切って告白しちゃえばいいのに。ふうまさんそっち方面ものすごい鈍感だから、言わないと絶対気づいてくれないよ。でもできないんだろうな、まりちゃん先輩。
「私のことはいいから、今日は舞ちゃんの話でしょ? 続き聞こう続き。その後、ふうまさんとどうしたの?」
 あ、ずるい、逃げたと思ったが、みことにグイグイ攻められてちょっとかわいそうなので、舞は昨日の話を続けた。

 と言っても、古書市では本当に別行動だった。
 それほど広くない会場で本を探している後ろ姿を見かけては、「あ、いた」と思うくらいで、別に声をかけたりはしない。
 もちろんお互い無視しているわけではなく、本を探す合間合間にちょっとだけ話すことはあった。
「なんかいいの見つかった?」
「一つ見つけました」
 舞はエドワード・ウインパーの『アルプス登攀記』を見せた。
エドワード・ウインパー。聞いたことあるな、誰だっけ?」
マッターホルンを初登頂した登山家みたいです。これはその記録ですね。面白そうですし、挿絵が素敵なので」
 舞は本を広げていくつかの挿絵を見せた。
木版画か。いいね。いくら?」
「300円です」
「安い。俺はこれ。1500円」
 ふうまが見せたのは、『江戸時代 砲術家の生活』。わ、面白そう。
「買うかどうか迷ったけど、今は保留にしておいて、また後でとかやるともうないんだよな」
「あるあるですね」
 話すことはそれくらいで、すぐまたそれぞれ勝手に本を探し始める。
「あ、西遊記
 舞はこども名作全集という赤い装丁の本を見つけた。
 念のため、耳を引っ張られている八戒の挿絵があるかチェックしてみたがダメだった。
 そんな簡単に見つかったら苦労はない。
 舞が探している『回転木馬』もなし。もっとも後でコミックの専門店に行くつもりなので、ここでは期待していない。
 そんな感じで、お互いたまに姿を見かけたり、時々話したりしていたら、なんとなく会計のタイミングも一緒になった。別にそういう約束をしてたとかじゃない。
 ちょうどお昼時だったので、古書会館を出て、そのまま食事をする流れになった。
「ふうまさん、なに食べます?」
「久しぶりの神保町だから『ボンディ』とか行きたいけどな」
「すごく混んでますよね」
「だよな。あそこまで戻るのも面倒くさいし、このへんまだ見て回りたいし、三省堂の2階のカフェとかどう?」
「あ、いいですね。後で三省堂も行きたいですし」
 そこにあるのはUCCカフェ。日本で初めて缶コーヒーを開発したあのUCCだ。
 もちろんお店で出すのは缶コーヒーではなくて、ちゃんとしたサイフォン式。
 カウンターにずらりと並んだサイフォンがポコポコ鳴っている眺めは楽しいし、女の子一人でも入りやすい店なので、舞はよく利用していた。なにより三省堂に直結しているのが嬉しい。
 お昼だけど、ちょっと甘いものが食べたかったので、舞はフルーツワッフル、ふうまは焼きカレーを頼んでいた。
 そして、どちらからともなくさっき買った本の見せ合いが始まった。
 二人ともかなり買っている。ふうまのデイバッグはもうだいぶ膨らんでいるし、舞のポシェットはトートバッグサイズに変っていた。
「今日の掘り出し物はこれですね」
 舞が取り出したのは、柏書房の『聖徳太子事典』だ。
聖徳太子事典? 事典? 聖徳太子だけの?」
「そうです」
「すごいな。そんなものが成り立つんだ。しかもかなり分厚い。いくら?」
「5000円でした」
「おお、結構するな。聖徳太子事典」
「でも絶版ですし、ネットの通販では1万円くらいするのでラッキーでした」
「ちょっと見せてくれる?」
「いいですよ、どうぞ」
 ふうまはカフェの手ぬぐいでちゃんと手を拭ってから、本を開いて目についた項目を読み始めた。
「ええと、『勝鬘経義疏私鈔、しょうまんぎょうぎしょししょう。聖徳太子勝鬘経義疏に対する唐代明空の末注、6巻より構成される。勝鬘経義疏等の三径義疏が真撰であるかどうかについて』云々かんぬんと。うん、聖徳太子以外、一つも分からない」
 ふうまはあっさり匙を投げると舞に本を返してきた。
勝鬘経(しょうまんぎょう)は、お釈迦様の前で勝鬘夫人って人が教えを説いて、それをお釈迦様が認めるって筋書きの……要するに一般向けに分かりやすく書いた経典ですね。義疏(ぎしょ)は聖徳太子が書いたその注釈書で、私鈔(ししょう)はさらにその注釈みたいですね。へー、そんなのがあるんだ」
「読んだことは?」
「最初の勝鬘経だけはあります。現代語訳されたのですけど」
「さすが。俺はこれを買ってきた。探してた挿絵の奴じゃないけど『西遊記』」
 ふうまが取り出したのは岩波文庫の『西遊記』だった。基本も基本だ。それを一巻から三巻。
岩波文庫ですか? ふうまさんならとっくに読んでそうですけど、それも最初の三冊だけ?」
 読み直すにしても変な買い方だ。わざわざ古書市で買わなくても、この町なら十巻セットがそこらで簡単に安く手に入る。
 舞が首を傾げると、ふうまはちょっと得意げな顔になって、
「翻訳者が違う」
「小野忍? あれ? ……あ、そうか。思い出しました。岩波文庫西遊記の翻訳は元々この人が始めたんですよね」
「そうそう。でも途中で亡くなっちゃって、その後を中野美代子が引き継いたんだよな。で、小野忍で出していた三冊も改めて翻訳しなおして、今はそれでひとまとめってことになってる。小野忍の方は絶版。それがこれ。少し高かったけど前々から気になってたから」
「分かります。私も前書きを読んで気になってました。あ、いいな。読みたいな」
「じゃあ貸そうか?」
 ふうまは買ったばかりの本を差し出した。舞はびっくりして、
「え? いいんですか? せっかく手に入れたのに、ふうまさんが先に読まなくて?」
「今日は色々買う予定だから、なるべく本を減らしておきたいんだよな。すでに結構重くてさ。そのバッグまだキャリーカートに変形するんだろ。三冊だけどよろしく」
「あっ、ひどい。私に荷物持ちさせるとか。わかりました。ふうまさんの代わりに大切に持って帰ります」
 舞はちょっと怒った顔をしてみせて、ふうまから本をありがたく受け取った。


「舞ちゃんとふうまさん、すごい楽しそう。デートみたい」
 まりがぼそっと言った。目つきがどんよりしている。
「ちがうちがう。普通に本の話してただけ。図書室とかでもよくしてるでしょ。それと同じ。デートとかじゃ全然ないから」
「そうかなあ」
「だよねー、学校の中じゃなくて外で二人っきりだもんね。普通に話しててもラブ度がすごいよね。ムフフフフ」
 みことがまた余計なことを言う。どうあっても舞とふうまをそういうことにしたいようだ。
「舞ちゃん、それでそれで? 一緒にご飯食べて、お喋りして、それからどうしたの?」
 兎奈も身体を前後に揺すりながら興味津々で聞いてくる。
「それから? 普通に三省堂で別れたけど」
「別れた! なんで!?」
 みことがまた信じられないという顔をした。
「だから見たい本が違うし、本屋は一人で回りたいの。もうこれでおしまい。ほらチャイム鳴ってる」
 もう昼休みも終わりだ。
 みことはなぜか残念そうな顔で、兎奈はすごく面白かったという顔で、まりはなんとなくまだ納得してないような顔で去っていった。
 ようやく三人から解放され、舞は少しだけほっとした。
 ふうまとの話、実はまだちょっと続きがあったのだ。


「そろそろ帰ろうかな」
 舞がいつも寄っている老舗の和紙店、山形屋紙店の外に出ると、通りはだいぶ暗くなっていた。
 時刻はもうすぐ夜の7時。
 この町の夜は早い。
 三省堂東京堂書泉グランデなどの大型書店はもうちょっと開いているけれど、古本屋は5時くらいから店じまいを始めてしまう。
 行きたいところは大体回ったし、思いがけないものが色々と手に入った 。
 特に萩尾望都の自伝『一度きりの大泉の話』の初版本を買えたのが嬉しい。増刷されたものはもちろん持っているけれど、やっぱり初版本を手元に置いておきたい。
 それだけでは萩尾望都成分が足りなくて、大好きな短編が載っている『半神 自選短編作品集』の美品があったので、これも持っているのにまた買ってしまった。予備にしよう。
 それから『怪傑黒頭巾』や『豹(ジャガー)の眼』など、第二次世界大戦前後に活躍した高垣眸がその晩年に手がけた『熱血小説 宇宙戦艦ヤマト
 タイトルに「熱血」とあるように、オリジナルのアニメとはかなり雰囲気が違うらしい。話には聞いていたが、実物を見たのは初めてだ。箱付きで状態も良かった。
 他には、東洋文庫の『鏡の国の孫悟空』。これはワゴンの安売りだ。全然知らない本だが、ふうまから西遊記を借りていたのと、ルイス・キャロルの『アリス』が好きなのでタイトルを見た瞬間、ピピっときて買ってしまった。読んで面白かったら、お返しにふうまに貸してあげようかな。
 その他にもたくさん買った。『回転木馬』が見つからなかったのは残念だけど、それはまた今度の楽しみにしよう。
 舞は今日の獲物が詰まったキャリーカートを引きながら、神保町駅までの道をのんびりと歩き始めた。
 少し前に甘味処の大丸やき茶房で名物の大丸やきを食べたので、まだお腹は空いていない。今から五車町に帰れば、ちょっと遅い夕食に間に合うはずだ。
 帰りの電車で買ったばかりの本を読むのが楽しみだ。どれから読もうかなと考えていると、スマホに着信があった。
 ふうまからだ。なんだろう?
 お昼の後、別れたきり会っていない。まだ神保町にいるのだろうか? まさか待ってるから一緒に帰ろう―――なんてことは絶対に言わない。
「もしもし、七瀬です」
「ふうまだけど、まだ神保町?」
「これから帰るところです」
「よかった。あのさ、探してた本って、確か大矢ちきの――」
「あったんですか!」
 ふうまが全部言うより早く、舞はスマホに噛みつきそうな勢いで尋ねていた。
「ああ、回転木馬でいいんだよな? メリーゴーラウンドの馬の後ろに人が二人並んでる表紙の」
「それですそれです! ふうまさんどこですか? なんて店ですか?」
喇嘛舎(らましゃ)、場所分かる?」
「分かります。すぐ行きます! それキープしておいてくだい! お願いします!」
 舞は電話を切り、喇嘛舎まで走り出そうとして、はっと時間を確かめた。
 6時50分。
 喇嘛舎は明治大学のすぐそば、ここからだと交差点を二つ渡らなければいけない。
 閉店は確か7時。
 信号待ちでぐずぐずしていたら間に合わないかもしれない。
 ならば方法は一つ。
 舞はキャリーカートをまた変形させて背負うと、こんなこともあろうかと持ってきていた忍法用の紙束をパンプスの裏に素早く張った。
「紙気・跳躍脚っ!! たあああっっ!!」
 大きく身を沈めてから、思い切りジャンプする。足裏に束ねた紙がバネのように反発して、舞の身体は勢いよく宙に舞い上がった。
「はっ! はっっ! はあっ!」
 そのまま左右のビル壁を次々と蹴飛ばし、下にいる人が「なんだあれは!?」とか言っているが、それは気にしないことにして、舞は喇嘛舎まで全速力でぶっ跳んでいった。


「ふうまさん、ありがとうございます。ほんとにありがとうございます! うわあ、嬉しい! やっとまた買えました!」
 閉店にはギリギリで間に合い、舞は念願の『回転木馬』を手に入れることができた。
「なにも空飛んで来なくても」
 忍法でいきなり店の前に降りてきた舞にふうまは呆れていた。
「空は飛んでません。飛び跳ねてきただけです」
スパイダーマンか」
「むしろバネ足ジャックですね」
「そりゃ怪人だよ」
 そう言って笑うふうまは、そのスパイダーマンの小説を喇嘛舎で買っていた。
 それもマーベル・シネマティック・ユニバースが流行する遙か前、1980年に翻訳された『驚異のスパイダーマン』というハヤカワ文庫だ。原題の『アメイジングスパイダーマン』をそのまま訳した題名が妙におかしい。今度読ませてもらおう。
 そんなことがあったので、彼とはそのまま一緒に帰ることになった。
 それがあの三人には言わなかったこと。
 でも、別にそれで帰り道ずっとお喋りしてたとかではなく、逆に電車の中では二人とも買ってきた本を黙々と読んでいた。
 話をしたのは乗り換えの時と、二人ともお腹が空いてしまって、そこのホームの立ち食い蕎麦屋に寄った時、そして五車町の駅でさよならする時くらいだ。
 ロマンチックな雰囲気は全然なくて、あっても困ってしまいそうだし、むしろふうまとのそれくらいの距離感が舞にはとても心地良かった。
 また神保町で会えたらいいな、今度は一緒に行かないかと誘ってみようかなとか考えなくもなかったが、それはもうデートになってしまう。
 嫌ではないけれど、神保町はやっぱり自分のペースで歩きたい。でもデートで別行動って、さすがにちょっと変かなあと思う今の舞だった。
 ところで、舞が神保町で飛び跳ねた件はどこをどう伝わったのか、アサギ先生にしっかり知られることになり、後で大目玉を食らうことになった。

 

 

(了)

 

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【制作後記】

 また舞とふうまの本の話を作ってみた。
 特に敵は出てこない。本編の外伝とかにも多分なっていない。単に神保町で楽しく過ごすだけの話だ。まあ、こういうのは本編ではできないしね。
 舞は盛んにデートじゃない発言をしているが普通にデートだろう。そろそろまりちゃん先輩に謝ったほうがいい。
 それはさておき、本屋を自分のペースで回りたいのは分かる。私だってそうだ。
 しかし、二人でああだこうだ言いながら一緒に見て回るのは、また別の楽しみがある。別行動したくなったら、適当に時間を決めて落ちあって、お互いに買った本を見せあえばいい。その時になんでもいいから1冊、相手にあげる本を選んでくるなんて遊びもできる。
 なにしろ、こっちの世界ではコロナのせいで、毎年今ごろにやっている神田古本まつりが2年続けて中止になってしまった。あっちの世界ではやっているだろうから、この二人にはぜひ一緒に行ってもらいたい。もちろん、こっちでも早くまた開催できることを願っている。
 なお今回、作中に登場した書店や本は全て実在している。せっかくなので書店は神保町オフィシャルサイトの各書店のページに、本は各出版社やAmazonの該当ページにリンクを張ってみた。
 対魔忍RPGは未来の話なので、その頃には神保町も今と変っているだろうが、そういうことは気にしない。
 そうそう、ふうま君が探している「悟空が八戒の耳を摘んでいる挿絵のある西遊記」もちゃんと存在している。春陽堂少年少女文庫の『西遊記』である。
 実はこの本、私自身がずっとその挿絵の記憶だけを頼りに探していて、この後記で「ご存知の方はご一報を」とやって締めるつもりだったのだが、ちょうど話を書き上げて、よしアップしようかというあたりで、いきなり見つかってしまった。そういう偶然はある。
 ふうま君が手に入れるはずだった本を異世界からぶんどってしまったような気がちょっとしている。

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対魔忍RPGショートストーリー『魔界騎士にメイド』

「ドロレス? おーいドロレスー!? どこだー? うーんダメだ。はぐれてしまった。困ったな」
 ノマドの魔界騎士のリーナ、今日はチェックの入ったピンクのワンピースに黒の重ねスカート、手首には黒いバングルをはめ、髪は高めのポニーテールにして、ピンクのポシェットをエレーナから借りてと、普段よりもずっとガーリーな見た目になった彼女は一人途方に暮れていた。
 ここは地下都市ヨミハラではなく、地上のとある街だ。そこで行われているゲームショウ、東京・エンターテイメント・フェスティバル、通称TES(テス)の会場に彼女はいるのだった。
 大のゲーム好きのドロレスに「一人じゃ怖いから一緒に来て」と頼まれたからだが、会場のあまりの広さ、あまりの人の多さに気がついたら離れ離れになっていた。
 一人じゃ怖いなどと言っていたわりには、ドロレスはあれが見たいこれが見たいと、どんどん先に行ってしまった。どうも置いていかれたようだ。
 ドロレスによれば世界三大ゲームショウの一つだとかで、周りはとにかく人、人、人、そしてゲーム、ゲーム、ゲーム、そればかりだ。
 普段ゲームなどしないリーナには完全アウェイで、なにがなんだかさっぱり分からない。自分がどこにいるかも分からない。つまり迷子だった。
「そうだ、スマホで連絡を――だめだ、電源が落ちてる」
 借り物のポシェットからスマホを取り出したが、いつのまにかバッテリーが切れていた。モバイルバッテリーも入れ忘れている。
 これではこっちから連絡が取れない。ドロレスからかかってきても受けられない。
 ちょうどポシェットに入るので“風の魔剣”は持ってきていたが、さしあたり役には立たない。
「困ったな。それにしてもやたらと蒸し暑いな。人混みで酔いそうだ」
 ゲームには詳しくないが、ここの熱気はものすごいものがある。ちょっと異様なほどだ。
 ゲーム好きのドロレスは妙にテンションが上がっていたが、そうでないリーナは居心地が悪い。あまりの人いきれで押しつぶされそうだ。
「はあ、どうしよう……」
 ちょっとクラクラしてきて、リーナはすぐ近くの壁に寄りかかった。そこら中で点滅しているゲーム画面のチカチカも気になるので、目を閉じる。
 周りが騒がしい分、なんだか寂しくなってしまう。元気のでる歌を小さく口ずさむ。
「ずっこけることもあるだろさ……ポンコツることもあるだろさ……だけど私はくじけない……楼嵐武闘だヘイチェケラ」
「あの、大丈夫ですか?」
「わあ」
 突然声をかけられて目を開けると、一人のメイドが心配そうな顔をしていた。
 紺のワンピース、フリルの付いた白いエプロン、頭には同じくフリルのついたカチューチャ、白い手袋に長いブーツ、どこからどう見てもメイドだ。涼やかな声と表情が印象的な少女だ。
「だ、大丈夫だ。あまりこういう場所に慣れていなくてな。暑くて人が多くてちょっと酔ってしまった」
「分かります。私もそうですから。ちょうど今、冷たい物を持ってきています。麦茶ですがよかったらどうぞ」
 親切なメイドは水筒を取り出して、 カップに麦茶を注いでくれた。
「ありがとう」
 リーナは遠慮なく飲ませてもらった。きんと冷えた麦茶が火照った身体に心地いい。
「美味しかった。ごちそうさま」
「お粗末様でした」
 メイドは穏やかに微笑んで水筒をしまった。
「さて、ドロレスを探さないとな」
「誰かをお探しなのですか?」
「一緒に来た友達だ。いつの間にかはぐれてしまった。スマホの電源も切れてしまって連絡できなくて困っている」
 メイドは少し驚いた顔をした。
「まあ、実は私もご主人様とはぐれてしまって」
「なんだそっちもか」
「はい、私のスマホは大丈夫なのですが、どうもここは電波が繋がりにくいようで、どうしても連絡がつきません。やむを得ず歩き回って探しております。このお方ですが、どこかで見かけませんでしたか?」
 彼女はスマホを取り出して、 探しているという主人の写真を見せてくれた。
 男にしては髪が長めで、なぜか右目を閉じていること以外はこれといって特徴のない顔だ。以前、どこかで見たような気もするが気のせいだろう。
「いや、見ていないな。すまない」
「そうですか。ゲーム好きなお方ですから一人であちこち回っていると思うのですが、私はあまりゲームのことには詳しくないので」
「私もだ。いつの間にか置いてきぼりだ。お互い付き添いなのにしょうがないな」
「ええ、本当に」
 リーナはメイドと顔を見合わせて笑った。
「そうだ。よかったら少し一緒に探さないか?」
 彼女はそう言われるとは思っていなかったような顔で、
「それはかまいせんが、私はそちらが探している方のお顔が分かりません」
「かまわない。正直、誰か話し相手が欲しいんだ。ここは完全アウェイで、一人だと自分がどこにいるかもよく分からなくて不安なんだ。同じ境遇の相手がいると落ち着く。どうだ?」
「分かりました。ではご一緒にまいりましょう。申し遅れました。私、出雲鶴と申します」
 彼女はスカートを両手で摘んで挨拶した。
「私はリーナだ。ノマ――」
 ノマドの魔界騎士と言おうとしたリーナはそこでハッとした。
 出かける前、イングリッドに「地上ではあまり大っぴらに正体を明かさないようにな」と言われていたのを思い出したのだ。
「のま?」
 鶴が首を傾げている。
「あ、いや……のま、のま、飲ませてくれてありがとう、麦茶を」
「あ、はい。どういたしまして」
「それでだな。探している友達はドロレスというんだ。フリフリのピンクのワンピースを着ていて、左右の髪をこうリボンで結んでいて、背丈はこれくらい、身体もすごく細くて、私よりずっと幼い感じだ」
 リーナは身振り手振りを交えてドロレスの特徴を伝えた。
「分かりました。そのような方を見たらお伝えします」
「頼む。では行こう」
「はい」
 こうしてリーナは偶然会ったメイド、出雲鶴と行動を共にすることになった。
「リーナさんはドロレスさんが行く場所に心当たりとかはありますか? 見たがっていたゲームのタイトルとか?」
「うーん、色々言っていたんだが、あんまり興味がないから覚えてないんだ」
「私もです。なんとかZという名前を口になさっていたのですが、なんとかの部分を忘れてしまいました」
「あれじゃないか? 『超スパルタンZ シルビアの逆襲』」
 リーナはふと目に入ったブースの看板を指さした。カンフー姿の男がチャイナドレス姿の女と戦っている絵が描いてある。
 他と同じように、そのブースにもお試しプレイ用のゲームが何台か置かれていて、マニアたちがガチャガチャと凄い勢いでレバーを動かしていた。
「そんな逆襲とかは付いてなかったと思いますが……」
 鶴はちょっと首を傾げつつも、集まっているゲーマーたちの顔を確認している。
「いないようです」
「ドロレスもいないな」
 二人はそこを離れ、次のブースを確認する。そこもいない。その次、またその次と見ていく。
 どこもやたらと人が集まっている上、みんなゲームに夢中なので、いるかいないか確かめるだけでも一苦労だ。
 ただリーナもそうだが、鶴も決して人とぶつかったりはしない。人混みのなかをスルスルと流れるように動く。見事な身のこなしだ。それにあの手足はもしかして、
「聞いてもいいか?」
「なんでしょう?」
「その手足は機械なのか?」
 鶴ははっと驚いたような顔をした。
「……よくお分かりですね」
「そういう知り合いが何人かいるんだ。皆、見事な腕前の持ち主だった。鶴もそうだ。隙のない綺麗な動きだ。かなりの心得があるようだな」
「…………」
 いきなりそんなことを言い出され、鶴は少しだけ警戒したようだ。顔には出さないようにしているが、その機械の手足を含む身体が、もしリーナがなにかをしてきても対応できる態勢をとっている。
 けれどリーナに他意はない。そのあたりの魔族らしからぬ素直さは、イングリッドにもよく言われるが、彼女の長所でもあり短所でもある。
 鶴もすぐにそれが分かったらしく、あっさりと警戒をといた。
「おみそれしました。ご主人様のために戦うこともメイドの勤めですから、いささが心得がございます」
「それは立派なことだな」
「ありがとうございます。そちらも並のお方ではないとお見受けします」
「もちろんだ。私はまか――」
「まか?」
「い、いや……まか、まか、任せてくれ。私も主人と決めたお方のために日々精進しているんだ。今日はこんな格好をしてるけどな」
 危ない危ない。今度は魔界騎士と言いそうになった。なにしろリーナにとって一番の誇りだ。つい口に出てしまう。
 鶴はくすりと笑って、
「素晴らしいことです。でもその格好もよく似合っておいでです。とても可愛らしいですわ」
「そうか? こういうのあんまり着ないからな。妙に顔が熱くなってしまう。うーん、ほんとに似合ってるのかな?」
 などと首を傾げつつ、意味もなくその場でくるっと回ってみたりした。鶴が小さく拍手してくれた。
 それはいいのだが、周りからもちょっと声が上がっていた。
 自分では気づいていないが、スカートをひらりとひるがえすリーナの姿は確かに愛らしかった。
 しかもすぐ横にはメイドがいる。人目を引かないわけがない。 スマホを取り出す不届き者さえ現れた。
「な、なんか注目されてるな。恥ずかしいぞ」
「そ、そうですね、行きましょう」
 リーナと鶴はそそくさとその場を立ち去る。その姿もお嬢様とお付きのメイドという感じでやはり目立っていた。
 そんなこんなで、二人して会場をぐるぐる回ったが、探し人は見つからない。人はますます増えてくる。
「これは時間がかかってしょうがないな」
「全部見ていたらショウが終わってしまいますね」
 さすがにうんざりしながら、また次のブースに行こうとしたところで、
「あっ」
 鶴が驚いたような声を出した。
「いたのか?」
「いえ、そうではないのですが、あれがちょっと気になったもので……」
 戸惑っているような顔をして、そのあれを指さす。
「スーパーアクション対魔忍7DX?」
「対魔忍のゲームのようです。そんな物もあるんですね」
「へえ、面白いな」
 リーナは感心した。対魔忍をゲームにするとは人間は妙なことを考える。
 そこは今までで一番大きいブースで大勢の人が集まっていた。かなりの人気らしい。
 広いブースの真ん中には直径5メートルほどのプレイエリアがあって、プレイヤー以外は入れないように柵で囲われている。
 なぜか柵の中だけ街中のようになっていて、そこで対魔忍の格好をした小太りの男がオーク相手に刀を振り回していた。
「なんか戦っているな」
「自分の身体を使って遊ぶゲームのようですね」
「ああ、そんなのもあるとドロレスも言っていたな。最近の流行りだそうだ」
「そうなのですか」
 よく見ると、男が戦っているのは本物のオークではなく、ホログラムで作り出されたものだった。結構リアルな映像のオークが空間に浮かび上がっている。
 男が手にしている刀、着ている対魔忍服、街中の風景もみんなホログラムだった。その中で実際に身体を動かすための、あの広いプレイエリアのようだ。
「ずいぶんと大掛かりなゲームだな」
「遊園地のアトラクションのようですね」
 プレイエリアの周りにはモニタがいくつも並んでいて、中で戦っている様子を色々な方向から映し出していた。順番待ちの人はそれを見ながらあれやこれやと話している。
「しかしへっぴり腰だな」
「そうですね」
「あ、やられた」
 小太りの対魔忍がオークの一撃を食らっていた。棍棒が男の頭に振り下ろされている。
 現実なら即死だが、ゲームなので別にどうということはない。
 男の対魔忍服が消えてなくなり、『GAME OVER』という文字が空間に表示された。
 やられてしまった男は悔しそうに、だがとても楽しんだという顔でプレイエリアから出てきた。
「どうする? ここも探してみるか?」
「人気ゲームのようですし、まあ一応」
 しかし順番待ちの列がずらりと並んでいて、それに混じる形でないと人探しもできない。しょうがないので最後尾につく。
 列の前の方にいないか背伸びをしたり、後から並んだのではないかと何度も振り返ってみたり、今プレイしているのではないかとモニタを見上げてたりと、最後の一つ以外は結構周りの邪魔になりながらしばらく探していたら、
「お待たせしました。こちらお二人様ですか?」
 係の女性が二人に聞いてきた。いつの間にか順番が来てしまったようだ。
 リーナと鶴は顔を見合わせた。この楽しんでいってくださいねというニコニコ顔、今更ゲームをする気などなかったとは言いにくい。
「ちょっとだけ試してみるか?」
「そうですね、ではちょっとだけ……」
 二人はプレイエリアの中に入った。さて何が始まるのだろう。
 周りが一瞬暗くなったかと思うと、 目の前に『スーパーアクション対魔忍7DX』というロゴが浮かび、じゃんじゃかと派手な音楽が流れ出した。そしてホログラムの女対魔忍がパッと現れる。
『対魔忍参上! 君が新しい対魔忍だね。期待してるよ。さて君はどんな忍法の使い手なのかな? 今から私が調べちゃうよ! 対魔忍サーチ!』
 その対魔忍はやたらと軽いノリで話しかけてくる。
 井河さくらみたいだな。
 顔も声も違うのだが、前に異次元クラゲ事件で助けてもらった対魔忍のことを思い出す。
「……さくら先生?」
 横で鶴もその名を口にしていた。驚いているような呆れているような顔だ。
「先生?」
「い、いえ、知り合いの方にちょっと雰囲気が似ていたものですから、お気になさらずに」
 鶴はそう誤魔化していたが、もしかしたら本当に井河さくらの生徒で、本物の対魔忍なのかもしれない。だとすれば手足が機械なのも、かなりの心得がありそうなのも頷ける。
 とか思ってるうちに、その対魔忍はビシッとリーナを指差した。
『よし決まった! 君は風遁の術の使い手だ! 風を自在に操っちゃうよ!」
「だろうな」
 実際、リーナは風を良く使う。本当になにか判定していたのか、たまたま同じになったのかは分からない。
 鶴も決まったようだ。
『おっ、君は金遁の術使いだね! 栗きんとんじゃないよ。金属を操れるんだ!」
「……金遁、まあ別にかまいませんが」
 ボソッと呟いている。かまいませんと言いつつ、ちょっと不満そうな顔だ。
 次は武器と対魔忍服を選べと言われた。
 武器は刀、小太刀、薙刀といった近接武器から、クナイ、弓矢、拳銃といった飛び道具まで色々あり、攻撃力だの防御力だのとややこしい数値が表示されていたが、まるで分からないので一番最初に出てきた刀にする。
 右手を握ると、その刀を持っているようにホログラムが映し出される。当たり前だが、刀を持った感じも重さもない。
 服も武器と同じで、形や色を好きに選べるらしい。
 もしかしてイングリッドのようなカッコいい服がないかと一通り見てみたがなかった。リーナが普段着ているようなものもない。
 いくらゲームとはいえ魔界騎士の自分が対魔忍の格好をするのはなにか違う気がする。
「服はこのままでいい」
 試しにそう言ってみたら、
『対魔忍スーツを着ないんだね。やるねえ。そんな君にはたまに敵を一撃で倒しちゃうスーパークリティカルのスキルをプレゼントするよ!』
 なんのことだか分からない。
「私も服はこのままでお願いします」
 鶴もメイドの姿のままだ。
 武器は手甲剣と呼ばれるガントレットと小剣が一体化したようなものを右手につけていた。
 小剣を手に持つより威力を乗せやすいが、リーチが短いので接近戦主体にならざるを得ず、手首も全く使えないので扱いが難しい武器だ。
「それが得意なのか?」
「ゲームですからなんでもいいのですけれど」
 鶴は少し照れくさそうな顔をして、実体のない手甲剣を軽く振ってみたりしている。
『まずは対魔忍の基本的な戦い方を教えちゃうね!』
 チュートリアルが始まった。人形ドローンのホログラムが表示されて、言われた通りに攻撃していくのだ。
 手応えは全くないが、グラフィックの刀でグラフィックのドローンを斬るとちゃんと斬った感じに変化する。ちょっと面白い。
『赤く光ってるところは敵の急所だよ。うまく当てて大ダメージを狙っちゃおう!』
 言われたのでやってみると、なるほど、ドローンがボカンと爆発した。
「敵がわざわざ急所を教えてくれるのか」
「実戦ではそんな親切な敵はいませんね」
「そうだな」
『次は連続攻撃だ!』
「こうか?」
 これも指示通り、右、左と袈裟懸けに切り込んでから真ん中に突きを入れてみる。
 そうするとダメージが大きくなるらしい。他にも決まったコンビネーションがあるようだ。
「連続攻撃というのは敵の動きに合わせて入れるもので、ただ決まった順番で攻撃するのではないと思うが」
「そこはゲームだからでしょう」
「そういうものか。なんか剣が光り出したぞ。別になにもしていないが」
「こちらもです。なんでしょうね」
 その答えはホログラムの対魔忍が教えてくれた。
『よし! 対魔忍ゲージが溜まったよ! 君の必殺忍法で敵を一網打尽だ!』
「必殺忍法? なんだそれ?」
「さっき決まったあれではないでしょうか?」
「私は“風遁の術”だったな」
 リーナは思わず呟いただけだが、その言葉が忍法発動のキーワードになっていたようだ。
 ぶおおおおおおお!!
 突然、目の前に竜巻が巻き起こりドローンがバラバラになった。
「あ、なんか出た」
 リーナはキョトンとした。自分で技を放っていないので、実感がまるでない。
「では私も。金遁の術」
 ぐさぐさぐさぐさ!!
 今度は地面から無数の槍が突然現れて、敵を一瞬にして串刺しにしていた。
「今のが金遁の術のようです。こんな簡単に技が出たら楽ですね」
「まったくだ」
  その後も、攻撃の躱し方――これは実際に身体を動かして避ける。防御の仕方――これは武器の腹を敵に向けて立てると一定時間だけ対魔バリアが張れる、とかを教わっていった。
『これで訓練はおしまい。後は実戦でガンガン鍛えていこう。あっ、ちょうど街中でオークの群れが暴れてるよ。さあ対魔忍出動だ!』
 周囲の画面がパッとどこかの街中に変わった。確かにオークの群れがそこで暴れている。
「ちょうどにもほどがあるな」
「そうですね」
 鶴は笑っていた。リーナと同じでちょっと面白くなってきたらしい。とりあえず二体のオークがこちらに気づいた。
「ぐああああああ!」
 リーナに近づいてきたオークは棍棒をぶんと振り下ろしてきた。見た目と声は派手だがさすがに殺気はこもっていない。
「ふうん」
 リーナは左にひょいと避けつつ、棍棒を持った手首を試しに斬ってみた。ズバッという音がして、派手に血が吹き出した。もちろんそういう映像だ。
 手首はちゃんと切断されたが、なぜかそこに『258』という数字が浮かび上がる。
「なんだこれ?」
 よくわからないが、そのまま死角に踏み込んで首をぽんと刎ねる。
 今度の数字は『386』、それと『CRITICAL』という文字も出てきた。
 首を切られたオークは前のめりに倒れた。死んだらしい。その死体はすぐに消える。
「映像と音だけですが基本はよくある戦闘シミュレーターと似ていますね」
 鶴も自分のオークをあっさり倒していた。あちらは横なぐりの棍棒を頭を下げて躱し、内懐に踏み込んで心臓を一突きにしたようだ。
「戦闘シミュレーター?」
「似たような装置で戦闘訓練をしたことがあります。もっと実践的なものですが」
「私はこんなのは初めてだ。結構面白いな」
 二体の仲間をやられ、向こうで暴れていた残りのオークがどっと押し寄せてくる。
「あれも倒せばいいのかな?」
「だと思います」
「じゃあ倒すか」
「はい」
 リーナと鶴は群がるオークを次々に倒し始めた。
 それで分かって来たが、攻撃すると出る変な数字はダメージを数値化したものらしい。
 リーナの感覚とはかなり違うものの、しっかり斬れば大きなダメージになり、軽く斬れば小さなダメージになる。小さなダメージでも頭や心臓の急所に当てればちゃんと倒せる。
 だから、チュートリアルで教えられた光っている弱点や、順番が決まっている連続攻撃、それから必殺忍法のことなどは気にせず、自分のペースで普通に戦っていた。
 なにしろゲームのオークはどれも似たような動きで、似たような攻撃をしてくる。避けるのも当てるのも簡単だ。
 たまに手や足をちょっと斬られただけで死ぬのもいた。それが敵を一撃で倒すスーパークリティカルらしい。勝手にそういうことをされるとペースが狂う。
「ん?」
 何体か倒したところで、リーナの左斜め前あたりにまた別の数字がプカプカ浮かんでいるのに気づいた。
「12?」
 なんだろうと思いながら、また一人斬ると『13』になった。
「あ、増えた」
「どうも攻撃した回数みたいですね」
「それを数えてどうするんだ?」
「さあ?」
 それはこの手のゲームによくある連続ヒットのコンボ数だった。二人ともただの一度も空振りしないので、その数は増えていくばかりだ。
 積み重なるコンボ。今までのプレイヤーとは明らかに違う、その道の達人を思わせる身のこなし。
 しかも一人はポニーテール、一人はメイドと、まるで格闘ゲームから抜け出てきたような美少女コンビだ。
 リーナが刀を振ればポニーテールがリズミカルに揺れ、スカートもいい感じにひるがえる。
 対する鶴はどれだけ激しく動いても、メイドのスカートが見えそうで見えない鉄壁の構えを誇示する。
 周りで見ていたギャラリーが色んな意味で沸き立ち始めた。
「なんかまた注目されているな」
「みたいですね。これでご主人様が見つけてくださるといいのですか」
 などと言いながら、二人で三十体ほどのオークを倒すと、突然ブーブーブーと警告音が鳴り出した。
「なんだ?」
「なんでしょう?」
 『WARNING』という文字が点滅し、これまでより二回りほど大きなオークが現れた。
 大袈裟な甲冑を身に纏い、両手持ちの大斧を手にしている。
 『BOSS オークソルジャー』
「あれがボスか」
 と文字が出ているからにはそうなのだろうが、見た目がちょっと違うだけで、数多くの配下を従えるボスの存在感はない。
「ごあああああああああああ!!」
 オークソルジャーはやはり声だけといった雄叫びを上げた。
 異変が生じたのはその時だった。
「なんだ?」
 薄らとした黒いもやのようなものがプレイエリアの外、会場全体から集まり、オークソルジャーに吸い込まれていく。微かだが邪気を感じる。それが会場の至る所から湧き上がり、ここで一つに集まって凝り固まっていく。
「グアアアアアアアアアアア!!」
 オークソルジャーが再び吠えた。
 リーナのうなじのあたりがゾワっと逆立った。
 さっきまでとは違う。ただの映像ではない。はっきりと存在感がある。なにかいる。あそこに。
「なにか取り憑いたようですね」
 鶴が言った。その横顔がきりりと引き締まっている。
「ここは人が多くて妙な熱気に満ちているからな。ああいう邪気の類が集まりやすいんだ。普通ならどうということはないが、あのオークが依代にちょうどよかったのか、私たちに引き寄せられてきたのか、そこら中から集まって力をつけている」
「つまり良くないものですね。倒しましょう」
「その方がいい」
 二人の敵意を邪気が感じ取ったのか、元からゲームで戦うことになっていたからか、オークソルジャーが猛然と向かってきた。狙いはリーナだ。
「ぐごああああああ!!」
 その叫びにはっきりとした殺気が篭っている。こちらを殺そうとしてくる本物の敵だ。
「来いっ!」
 リーナに臆するところはない。
 突進してくる敵にあえて自分から向かっていく。
 慣れないゲームに戸惑っていた気持ちが消え、動きが本来のキレのあるもの、魔界騎士のそれに戻っている。
 鶴が思わず「疾い」と瞠目するほどのものだ。
 オークソルジャーはリーナを迎え撃たんと立ち止まり、怒号と共に大斧を振り下ろしてきた。だが遅い。
 リーナはそれを左斜め前にさらに踏み出して避けつつ、敵の懐に入って、がら空きになった胴に一撃を――
「リーナさん、刀!」
「え?」
 あっ、しまった。これはゲームの刀だ。邪気が取り憑いたオークがこれで斬れるのか? ええい、ままよ。
「たあっ!」
 そのままゲームの刀で胴を撫で斬りにしてみる。
「ぐっっ!」
 オークソルジャーが呻き、その動きが止まった。効いたのか?
「がああっ!!」
 敵は大斧を激しく振り払ってきた。駄目だ。中の邪気には効いていない。さっと後ろに引いてそれを躱す。
「てやあああっ!!」
 リーナと入れ替わるように、逆サイドから鶴が飛び込んで、オークソルジャーの腹に右の蹴りを入れていた。
 ズンという重い踏み込みの力を全て乗せた見事な突き蹴りだ。本当に得意なのは足技らしい。
 オークソルジャーの巨体が派手に吹っ飛び、ホログラムの映像がぶんっと一瞬乱れたが、
「駄目です。おかしな話ですがゲームの鎧が邪魔をしています」
「こちらもだ。オークには攻撃が当たったが、中の邪気にはゲームの刀が素通りだ。当たり前だけどな」
「双方の性質を持っているというわけですか」
「そうなるな」
 ゲームの武器では本体にダメージを与えられず、現実の攻撃ではゲームの鎧が邪魔をする。
 思ったよりもやっかいな相手だ。さて、どう攻めるか。
 斧を頭上でブンブンと振り回しているオークソルジャーから距離をとりつつ、次の出方を考えていると、
「鎧! 鎧! 剥がして鎧!」
「弱点! 弱点! 鎧!」
 周りのギャラリーから一斉に声が上がった。オークソルジャーを指差して叫んでいる。
「なんだ?」
「弱点を突いて鎧を剥がせということでしょうか?」
 大勢があっちこっちでワーワー言ってるので分かりにくいが、そういうことらしい。
 確かに、オークソルジャーが着込んだ鎧のあちこちが例の弱点の赤色に光っている。
「よし、やってみよう。私たちはゲームには不慣れだ」
「分かりました。ならば鎧の弱点の方はお任せできますか? 私よりリーナさんの方が動きが早いです」
「任せろ。鶴はまた足で攻撃するのか? 武器はないのか?」
「ございます。これを使わせて頂きます」
 鶴はスカートの裾を持って一礼すると、編み上げブーツで床をタタンと打ち鳴らした。
 その途端、ブーツもタイツもまとめて両足がキュンと鋭いブレード状に変形した。アンドロイドレッグの武器化だ。
 その様を見てギャラリーがどっと歓声をあげる。
「かっこいいな。ではいくぞ!」
「はい!」
 リーナが再び先陣を切る。
 オークソルジャーの怒気が膨れ上がっている。その内に潜む邪気が放つ怒気だ。
「ぐああああああああ!!」
 オークソルジャーは頭上で旋回させていた斧を間合いのはるか外からぐいと突き出してきた。
 その先端からどす黒い邪気の塊が火球のように打ち出される。
「むっ」
 あれを避けるのは簡単だ。
 でも、そうしたら後ろで見ているギャラリーに邪気球が当たってしまうかもしれない。
 プレイエリアの外までは攻撃が届かないかもしれないが、そんなリスクは犯せない。
 リーナは左手をポシェットに突っ込み、“風の魔剣”をスラリと引き抜いた。
「サマーストーム!」
 繰り出したその刃が渦巻く風を生み出し、邪気球を一瞬で相殺した。
「うおおおおおおおおお!」
 ギャラリーがものすごい勢いで湧いた。
 ちょっと驚いたが、リーナは右手にゲームの刀、左手に風の魔剣を持ってオークソルジャーにさらに肉薄する。
 今度は直接斬ろうとオークソルジャーが大斧を高く振り上げたときには、リーナはもう敵の懐に入っていた。
 意思のないゲームキャラであるはずのオークソルジャーの目が驚愕に大きく見開かれる。
 鎧の弱点は五箇所、左の肩口、右の脇腹、左の太もも、右の膝、そして鳩尾、そこだけがまだゲームらしく赤々と光っていた。
「食らえ、ヴァニッシュ!!」
 今度は右手のゲームの刀を連続して弱点に突き立てた。
 鎧全体にパッと細かい亀裂が入り、パァーンという派手な音がして砕け散った。
「そいやっ!」
 素早く身を翻しつつ、まだ斧を掲げたままの籠手のなくなった両腕を左手の風の魔剣でついでに薙ぎ払う。
 何かを斬った確かな手応えがあり、両腕の映像はなにも変わらなかったが動きが止まった。
「紅鶴飛翔脚っ!!」
 そのタイミングで鶴が跳躍している。あっちも別人のようなキレのある動きでブレードに変えた右脚を鋭く突き出した。
 鶴というより獲物を狙う鷹を思わせるその跳び蹴りは、すれ違いざまの一瞬にオークソルジャーの鳩尾、心臓、そして脳天を貫いた。
「グガアアアアアアアア!!」
 苦悶の咆哮と共にオークソルジャーの体から邪気がぶわっと飛び出し、散り散りになって消えていった。よし倒した。
 と思ったのだが、
「あれ?」
 オークソルジャーがまだ動いている。しかもさっき斬ったはずの腕で斧をまたブンブン振り回している。なんでだ?
 ギャラリーが「とどめ!」「とどめ!」と叫んでいる。
「あ、そうか」
「ゲームの敵をまだ倒していませんね」
 二人同時にそれに気付いた。
 なんとなく顔を見合わせて笑ってしまう。
「では、とどめはご一緒に」
「うんいくぞ、せーの」
 息を合わせ、リーナは右から、鶴は左から、オークソルジャーの身体を同時に深く突き刺した。もちろんゲームの武器で。
「ぐがあああああああああ!」
 さっきと似たような、だがもうただの音でしかない断末魔の声を発して、オークソルジャーはようやく倒れて消えた。
『GAME CLEAR』
 二人の前にはそう映し出されていた。
 直後、すごい歓声が二人を包み込んだ。ギャラリーは大興奮だ。「ポニテちゃん!」「メイドちゃん!」などという声も聞こえる。
 あまりこういう経験はないのでどんな顔をすればいいか困る。無視するのも悪い気がしたので、なんとなく手を振ったら、歓声は一層大きくなった。
「大騒ぎだな」
「こんなことをするつもりはなかったのですが」
 足を元に戻した鶴も困ったような顔をしていたが、ここでずっと声援を浴びているわけにもいかないので、二人ともプレイエリアから出ることにする。
「あ、あのっ、ちょ、ちょっとすいません! ま、待ってください!!」
 ブースの後ろの方から眼鏡をかけた男がどたばたと現れた。ゲームのロゴの入ったシャツを着ている。関係者のようだ。やけに慌てている。あ、転んだ。すぐさま立ち上がり、ずれた眼鏡もそのままに二人に話しかけてきた。
「わ、私はこれを開発したシモンズと言います。今、お二人はなにをしたんですか? オークソルジャーがあんな挙動をするなんてありえない。絶対にありえない。それにあなたのさっきのあの技! サ、サマーストームですか? 一体なにをどうやったんです? この場でプログラムに介入したんですか? そんなことが可能なんですか? もしかして著名なプログラマーの方ですか?」
 マシンガンのように畳み掛けてくる。圧がすごい。
「あ、ええと、いや私は……」
 なんて答えたらいいだろう。
 ノマドの魔界騎士という正体は明かせない。面倒くさいから逃げてしまおうか。
「お嬢様はかの天才プログラマー、リーザン・イレベッグのお孫様です」
「え?」
 突然、鶴がよく分からないことを言い出した。だが男はすごい反応を示す。
「あの! あのリーザンの! お孫さんがいたんですか! それであんなすごいことを!」
 どんどん声が大きくなっていく男を鶴はやんわりと手で制して、
「申し訳ありませんが内密に願います。お嬢様がこちらに参ったのは極秘ですので。お嬢様、いきなり人のゲームに介入するのは無礼にございます。お控えくださいませ」
「あ、うん、分かった。すまなかったな」
 まるで分からないが、そう合わせておく。
「と、とんでもありません! 参考になりました。必ずアップデートに取り入れます。ありがとうございました!」
「う、うん、頑張ってくれ」
「失礼いたします」
 すごい勢いで頭をさげている男を背に、まだどよめいているギャラリーの注目を浴びながら、二人は対魔忍ゲームのブースを離れていった。
「リーザンなんとかって誰だ?」
 小声で聞くリーナに鶴もひそひそ声で返してくる。
「私もよくは知らないのですが、この界隈では有名な方のようです。勝手に申し訳ありません」
「いや、困ってたから助かった」
 思いもかけず注目を浴びてしまった二人だったが、それも人の多さと賑わいですぐに紛れてしまう。
 ゲームショウはあいかわらず盛り上がっている。
「これからどうするかな」
「こうやって探していても埒があきませんね」
 当てもなく歩きながら二人でちょっと途方に暮れていると、リーナを呼ぶ声が聞こえてきた。
「あっ! リーナさん! リーナさん! ドロレスさんが探してましたよ。リーナさーん!」
 かつて魔界の小さな傭兵団で共に時を過ごした友人のリリスがチアガール姿でポンポンを振っている。使い魔のベリリクも一緒だ。
「なんだ来てたのか。今日はここで修行してるんだな。あれはひょっとして犬のゲームか。うーん、犬かあ」
「お知り合いの方ですか?」
「古い友達だ。ドロレスと会っていたみたいだ」
「そのようですね。良かったですわ。では私はここで失礼させていただきます。ご主人様を探さねばなりませんので」
「そうか、ありがとう。なんか変なことになってしまったが、一緒に戦えて楽しかったぞ」
 リーナはごく自然に右手を差し出した。
「私も思いもかけず楽しい時を過ごさせて頂きました。ありがとうございます」
 鶴は朗らかに微笑んで手袋を外した。
 握ったその手はアンドロイドアームの硬い手だったが、握手を受けたその仕草は最初に声をかけてくれた時と同じで、優しい気遣いに溢れていた。

 その後、『スーパーアクション対魔忍7DX』は様々な改良を施された後、大型ゲームセンターやアミューズメントパークに置かれるようになった。
 ゲーム中、特定の条件を満たすと色々なヘルプキャラが現れるのだが、なかでもポニーテールの魔法剣士とカンフー使いのメイドのアクションの出来が際立っていて、ゲーマーたちの人気を博したという。

 

 

【制作後記】

 『ニートにメイド』は引きこもり魔族のドロレスと、押しかけメイドの出雲鶴にスポットが当たることになったイベントだ。
 本作は、イベントでは出番の少なかったリーナがドロレスとはぐれている間に、やはりふうま君とはぐれている出雲鶴と出会っていたらという非公式のお話だ。
 二人ともゲームのことをよく知らないので、せっかくだから一緒にゲームを楽しんでもらうことにした。
 そのゲームの元ネタはもちろん『アクション対魔忍』だが、ゲームセンターで宇宙戦争パイロットを探していた懐かしのSF映画スター・ファイター』のように、 こんなのを使って対魔忍候補を探していたりすると面白い。

 ハイスコアを出したあなたの所にある日突然、Y-kazeXちゃんが訪ねてくるのだ。
「キミ、対魔忍の素質あるかもよ?」

 ゆめゆめついていってはいけない。

 男なら十中八九モブ死だし、女ならアヘ顔一直線だ。

 

【追記】

リーナ作画担当の旭さんがイラストを描いてくれました。

ふにゃふにゃのリーナとクールな鶴。いいですね-。 

 

 他にも、この話をアップする以前に『ニートにメイド』の裏であったであろう、リーナとリリスの対面の絵を描かれていたので、これ幸いとラストで場面を合わせています。二人とも本当に表情が豊かで可愛い。ありがとうございます。

 

対魔忍RPG 未来IFショートトーク 『恋人たち』

二人の週末

「たっだいまー!」
「って誰もいないけどね。おかえりなさーい。とりあえずお風呂、お風呂!」

 シャワシャワ~~~

「いまのキミは~~ピカピカに光って~~♪ 呆れかえるほど~~ふふふん♪」

「ふう、さっぱりした」
「さてさて、今日の私のスタイルはっと……ん? んん? ちょっーとお腹が……いや、出てない出てない、気のせい気のせい」
「でもお風呂上がりのビールはやめとこ。ここは普通に炭酸水で――ごくごくごくごく、ぷはーっ、美味し。お水が一番」

「さってと、ご飯どうしよっかな。今日はもう作るのめんどいし、なんかあったかな? 」

「冷凍チャーハンみーっけ。これと……唐揚げも発見。残り4個か。じゃ全部食べちゃおっと。あとなんか野菜野菜……洋風野菜パックは……んーないか。また買っとかなきゃ。じゃインゲンのおひたしでいっか」

 ちーん

「できたできた。それとわかめスープでいいかな。いっただっきまーす」
「もぐもぐ、もぐもぐ、うん上出来、最近は冷凍チャーハンもほんと美味しくなったよね。唐揚げもジューシー」

 ブーブーブー

「あ、なんかメール来てる。……えっ? 『今からそっち行く』 嘘! 帰るの明日って言ったじゃん。まずいまずい。えとえと『コンビニに寄ってなんか新しいスイーツ買ってきて。あと悪いけどナプキンもお願い。羽付きで夜用のやつ。ごめんね』 はい送信」
「これで少しは時間稼ぎができるはず。男がコンビニで生理用品買うとか普通はできないもんね、にひひ」

 ブーブーブー

「うわっ、もう返信きた。『これだっけ?』 ちょっ、なんで私が使ってるやつ知ってんの? もうドン引きだよ。『それでおねがい、ありがと』  ああもうどうしよどうしよ。もろすっぴんだし、お化粧してる時間なんかないし、とりあえず服替えなきゃ服、このダサい下着も!」

 ぴんぽーん

「はいはいはい」
「よう、来ちゃった」
「来ちゃったじゃないよ。約束は明日だったでしょ。来るなら来るって先に言ってよ」
「悪い悪い。任務が意外と早く終わってさ。これお土産。『濃厚なクリームで仕立てずっしりプリン』 こんなんで良かったか?」
「あっ、なんかおいしそ。ありがと」
「あとこれも。急に始まっちゃったのか?」
「違うよ。予備がなくなりそうだったから念のため頼んだの。ありがとね。そっちの包みは?」
「牛丼。飯まだでさ。俺の分、用意してないだろうし」
「してないよ。明日買い物に行くつもりだったんだから。まあいいから入って」
「おじゃまします。なんだそっちも飯の最中か」
「食べてたとこ」
「じゃあちょうど良かったな」
「お茶入れる? お味噌汁とかの方がいい? インスタントだけど」
「お茶がいいな。緑茶」
「了解」
「さて、そっちの夕飯はと、冷凍のチャーハンにこれも冷凍の唐揚げか。ははは、女子力ゼロって感じだな」
「影遁ぱーんち!」

 ぼかっ

「痛いって」
「いきなり来といてそういうこと言う? 言う? 今日は作るのめんどくさかったの」
「せめて野菜くらいはつけろよな。健康のために」
「ついてるじゃん。ほらそこ。インゲンのおひたし」
「これっぽっちじゃな。俺なんか生野菜付きだぞ」
「牛丼屋のサラダくらいで偉そうに。はいお茶!」
「サンキュー。じゃ食べようぜ。いっただっきまーす」
「いただきます」
「ぐぁっ、ぐぁっ、くうぅ美味い。やっぱ一仕事終えた後の牛丼は最高だよな」
「そんなものばっか食べてるとメタボになるよ。任務の方はどうだったの? 今回はアスカちゃんと一緒だったんだっけ?」
「そうそう、現場で会うのは久しぶりでさ、任務自体は問題なく終わったんだけど、あいつも俺も今や先生だからな。そのへんの苦労話でなんか盛り上がったよ」
「ふふん、ようやくチミもあの頃の私の苦労がわかったようだね。ただお気楽極楽でやってたわけじゃないんだよ、先生は」
「今更ながら感謝してます」
「にひひ、素直で結構」
「でも半分くらいは地だったろ?」
「あはは、まあねー。私はいくら頑張っても『最強』にはなれないからね。その分開き直ってたとこはあるかな。でも嬉しいな。やっと私と同じ立場になってくれて」
「そんなに気にしてたんだ?」
「するよー。するに決まってるよ。やっぱりほら教師と生徒ってとのは一線を越えちゃった感あるし、さすがの私でもちょっとは体裁とか考えるし、まあ秘密の恋って感じであれはあれでドキドキしたけど、オープンにできる今の方がやっぱり楽」
「そうか」
「後はあれだね、そろそろ私が引退できるようなちゃんとした理由が欲しいかなーって」
「俺に一人前の先生になれと?」
「まあそれもあるけどお」
「けど?」
「もうわかってるくせに」
「いや分からないなあ」
「嘘ばっかり。じゃあ身体で分からせちゃおっと。一日早く来たってことはそういうつもりなんでしょ? 私だって今日明日はばっちり危ない日なんだからね。むふふふふ」

 

 

髪を切った彼女

「ごめんなさい、待った?」
「いや、俺も今来たとこ。ってその髪型?」
「ちょっとね。イメチェンしてみたんだ。どうかな?」
「……ああ、似合ってるよ」
「そう? よかった。思い切ってやってみて」
「…………」
「どうしたの? なんか変な顔してる。そんなビックリした? やっぱりイメージ違いすぎ?」
「いや、そういうことじゃなくてな」
「ん?」
「懐かしいなって」
「なにそれ? ショートにしたの初めてだけど?」
「ああ、でもそんな感じのお前を見たのは初めてじゃない」
「???」
「そうだな。もう言ってもいいか。実はな――」

 

「ふうん、そんなことがあったんだ」
「あんまり驚いてないな」
「そりゃね。私たち今まで何度も何度も訳の分からないトラブルに巻き込まれてきたし」
「そりゃそうだ」
「でもそれで一つ納得した」
「なにが?」
「あのころ、あなたが私を見る目がなんか変だった理由。気を遣ってるっていうか、どう接したらいいか迷ってるっていうか、ひょっとして告白でもしてくれるのかなって思ってたけど、別にそんなことなくて、いつの間にか普通に戻ってたじゃない?」
「じゃないと言われても、そうだったか?」
「すごくそうだった。まああの頃は色々と大変だったし、またなんかあったんだろうなって、私なりに気を利かせて気づかないふりしてたけど」
「そりゃ、どうもありがとう」
「どういたしまして。そっかー。別世界の未来の私かあ、そんなに似てる? 今の私と?」
「ああそっくりだ、と言いたいところだが、よく見るとやっぱりちょっと違うな」
「まさかそっちの私の方が胸がおっきかったとかなんとか」
「ははは、そこは同じだな。もうまったく――」
「はぁ!?」
「いや、なんでもない。そういうことじゃなくてな。彼女はもっとこう厳しい表情をしてたよ」
「そりゃそうでしょ。今聞いた話だと、なんかすごい絶望的な未来からやってきたんでしょ。こっちの過去を変えるために。そりゃ厳しい顔にもなるわよ」
「それもあったろうけどな、自分の素直な気持ちを無理に抑えつけてるって、そんな気がしたよ。時々、一人ですごく寂しそうな顔してたしな、彼女」
「彼女、ふーん、そうなんだ、へー」
「なんか言いたげだな?」
「その彼女となんかあったでしょ?」
「いや、なんにもないよ」
「うそ! 今一瞬、目逸らした。なにがあったその未来の私と! さあ白状しろ!」
「な、なにもしてないって!」
「じゃあ、あっちがしたのね! そうでしょ!」
「な、なんでそんなことわかるんだ!?」
「分かるわよ! だってそれ私だもん!  そんな悲しい気持ちをひた隠しにして、未来ではずっと前に死んでたあなたに会いに来て、なんにもしないで帰るわけないでしょ! 私なら絶対しない! 押し倒すくらいのことはするわ!」
「そ、そこまではされてない。ただ、帰り際にちょっと、な」
「ちょっとなに!?」
「だ、たからその、さよならってキスをな。いや、勘違いするなよ。俺からしたわけじゃないぞ。気がついたらされてたんだからな。ほんとだ。嘘じゃない」
「むっふーーー、さよならのキスとかほんとにもうその私は。私が知らないと思って!」
「そんなに怒るなよ。もうずいぶん昔の話だし」
「昔とか今とか関係ないわ! あっ、ちょっと待って! ってことはなに? 私よりその私と先にキスしたってこと? そうでしょ? だってその頃私たちまだ付き合ってなかったし、そうなんでしょ!」
「ま、まあそういうことになるかな、ははは」
「はははじゃないわよ! なんなのよそれ、信じらんない!」
「そ、そんなに興奮するな。今日はそういう話をしようと思って来たわけじゃない。その髪型を見てふと思い出しただけだ。すまん。ちょっと気持ちを切り替えてだな、これ受け取って欲しいんだが……」
「はあ? なによ? 物なんかで釣られなんだからね! ……えっ? 嘘、それって。え? 待って待って、今日ってそれで呼び出したの?」
「まあ、その、そういうことだ。なんか変なタイミングになっちゃったが、受け取ってくれるか?」
「……うん。ありがと。付けてみてもいい?」
「もちろん」
「うわあ、素敵。嬉しい。すごく嬉しい。ありがとう」
「そうか。よかった」
「あっ」
「どうした?」
「えっと、えっとね。別にこれくれたから言うわけじゃないし、私も変なタイミングになっちゃったんだけど、一つサプライズいいかな?」
「なんだ?」
「今日ね、午前中ね、ちょっと時間があったからお医者さん行ってきたんだけど、その……3ヶ月だって」

 

 

TEN YEARS AFTER

「なんかこういうの久しぶりね」
「直に会うのは半年ぶりくらいか」
「そのくらいかな? モニタ越しにはちょくちょく顔合わせてるから、あんまり会ってないって感じはしないけど」
「お互い現場にはあんまり出なくなったしな」
「そっちはそうだろうけど、私は結構現場に出てるわよ。『鋼鉄』の二つ名は未だ健在ってとこね」
「その二つ名もそろそろレトロになってきたがな」
「ちょっと。人のこと旧式のロートルみたいに言わないでよ」
「でもDSOでも開発のメインはニューロノイドだろ?」
「そうだけど、こっちだってまだまだ現役なんだから。アップデートもしてるし、やっぱり今までの蓄積ってものがあるもの。そうだ聞いてよ。こないだ養成機関を首席で卒業した新人三人がうちに来たのよ」
「その噂なら聞いたよ。鼻っ柱をへし折ってやったんだろ?」
「あっ知ってた? そうそう、うわべは丁寧だけど人のこと旧式の御局様って思ってる生意気な態度がぷんぷんだったから、挨拶代わりに三対一の模擬戦でかるーく捻ってやったわ」
「いい薬になったろう。しかし普通に意地悪な御局様だな」
「いいの。こっちは時間もお金もかけて訓練してるんだから、あれくらいで調子に乗って、現場ですぐにやられたらたまったもんじゃないわ」
「そのあたりはうちでも苦労してる。新人は危なっかしくてな。ようやくあの頃の先生たちの気持ちがわかってきたよ」
「そういえばあの人、未だに現場に出てるの?」
「たまにな。さっきの話じゃないが『最強』の名は健在だよ。本人曰く、全盛期の半分くらいの力だそうだけどな」
「うそうそ。裏でしっかり鍛錬してるに決まってるわ。まったく年寄りの冷や水なんだから、いい加減引っ込めばいいのに」
「それ俺たちも言われてそうだな。実際もう若くはないしな」
「やめてよね。あなたにそういうこと言われると本気でグサッと来るから」
「悪い悪い。お前自身はニューロノイドに換装する気はないのか? そっちの方が楽だろう?」
「んーー多分しないかな。そりゃメンテの手間は大幅に省けるし、日常用と戦闘用を使い分けなくていいけど、私的にはその一手間が逆にオンとオフをスパッと切り替えられていいのよね。ほら普段は適当な格好してても、決める時はビシッと決めるみたいな」
「なるほど。これまでのイメージもあるしな」
「そうそう、それにさ……」
「ん?」
「あなた、好きでしょ? この身体」
「まあな」
「じゃあ変えない」
「可愛いな」
「当然」
「しかし、さすがに最近はこのあたりがふっくらと」
「なんか言った?」
「なんでもないなんでもない」
「もう。これでも維持しようと頑張ってるの」
「分かってるよ」
「まあ多少はね。昔とは違うし」
「確かに違うな。今の方がずっと魅力的だ」
「ふふ、ありがと。あなたもお世辞がスマートになったわね。昔はそういうことちーっとも言ってくれなかったし」
「そりゃすまなかったな。まあ色々あって今の俺たちってことだしな」
「まあね、家の方どうなの? 彼女と上手くやってるの?」
「ぼちぼちってとこかな。そっちこそどうなんだ。未来ちゃん5歳だっけ? 」
「もう生意気生意気。『ママなんでおじちゃんと結婚しないの? 略奪婚だよ、略奪婚』って、やるわけないでしょそんなこと」
「女の子はませてるなあ。どこでそんな言葉覚えてくるんだ?」
「知らないわよ、まったく」
「昔のこと言ってないのか?」
「言ってない言ってない。なんでとかどうしてとかあれこれ聞かれて面倒じゃない。まあ結局は若かったってことだけど、それだけじゃないしね」
「…………」
「どうしたの黙っちゃって?」
「後悔してるか?」
「今更それ聞くんだ? そりゃまあちょっとはね。でもあれがあったから、お互いにちょうどいい距離が分かったんだし、そういう意味ではやっといて良かったのかなって。あんまり褒められた関係じゃないけど、私たちにはそれがいいのよ、多分ね」
「そうだな」
「あっでも、あの子が大きくなって、ちゃんと結婚でもして、私一人になったら、また誰かと一緒にいたいなあとか思ったりするかもね。それがあなたかは保証しないけど」
「まいったな。じゃあそんな将来のことを考えつつ」
「続き、しよっか?」

  

 

【制作後記】

バレンタインイベントも終盤。

ふとこんなものが作りたくなって、この先のどこかの未来かもしれない、三組のカップルの短い会話を考えてみた。

あえてセリフのみにし、誰が喋っているか名前を付けず、名詞もなるべく省いて、いったい誰と誰の会話なのか、二人はどんな関係で、どんなシチュエーションなのかはっきりさせていない。あれこれ想像して読んで欲しい。

なお、三つはそれぞれ独立した別の未来の話である。念のため。

 

 

対魔忍RPGショートストーリー『甲河アスカ強化計画』

「あーもう、やってらんない!」
 甲河アスカは米連防衛科学研究室、通称DSOの日本支部にあるシミュレーションルームで一人癇癪を起こしていた。
 アスカが見ているのは、彼女がある対魔忍と戦った場合の戦闘シミュレーションプログラムの結果だ。
 いわく勝率3%。奇跡でも起こらなければ勝てないというありがたいお達しだ。
 しかも、色々と条件や戦法を変えてシミュレーションを行ったうち、これが一番が高いときている。まさか二桁にも届かないとは。うんざりだ。
 その他にも、シミュレーターによる戦闘分析という御託がああだこうだと書かれていたが、もう読む気にもなれなかった。
「やっぱり基本的な技術レベルで負けてるのが痛いなあ。こっちの動きも全部読まれてるっぽいし、アクセルモードを使っても平気で対応しそうだし。未来人かあ」
 アスカは溜息をつき、ついでに頬肘もついた。戦闘用アンドロイド・アームのひんやりとした感触が頬に気持ちいい。
 その未来人、成長した水城ゆきかぜがシミュレーションの相手だった。
 アルサールとか言う変な奴にふうま小太郎と上原鹿之助が殺されたあげく、世界征服までされている未来から、この世界を救うためにやってきたという昔のSF映画みたいな女だ。
 実際には現在の直接の未来ではなく、未来に相当する異世界ということらしいが、そんなことはどうでもいい。
 大切なのは鋼鉄の死神、米連最強のサイボーグと呼ばれる彼女が手も足も出ず、手玉に取られたという事実だ。
 未来テクノロジーの塊のようなスーツを身にまとい、雷遁を完璧に使いこなす戦闘力はもう完全に別人だった。あとすごい美人になっていた。スタイルはあまり成長してなかったけど。
 ちょっとした誤解――でもないけどやりあって、その後なんだかんだで共闘して、諸悪の根源のアルサールを倒し、その力の源のテセラックという遺物を壊して、この世界のふうまと鹿之助も死なずに済んでめでたしめでたしと思ったら、あの女、ことのついでにふうまにキスして未来に帰っていった。
 最後のは別に気にしちゃいないけれど、あっさり負けたのはやっぱり悔しい。
 悔しいからどうにかして勝てる方法がないかと、シミュレーションで色々試していたのだが、結果はこのざまだ。
「これはもう私がパワーアップするしかないわね! そうよ、パワーアップよ!」
 アスカはすっくと立ち上がり、鋼鉄の拳を握りしめた。

 

「パワーアップ計画?」
 DSO日本支部主任上級研究員の小谷健司は研究室に突然やってきたアスカに怪訝そうな顔をした。
 いつもボサボサの髪、ださいメガネ、おきまりの白衣とギークを絵に描いたような人物だが、これでもDSO日本支部の技術方のトップ、専門は素粒子論で対魔粒子の研究に関しては世界でも三本の指に入る。
 アスカのアンドロイドアーム&レッグの開発にももちろん携わっていて、必殺の対魔超粒子砲はその研究の成果の一つだ。
 エリート科学者にありがちな偉ぶったところがなく、付き合いも長いので、アスカにとっては近所にいる冴えないけど天才のお兄ちゃんという感じだ。
 全くモテなさそうな外見のわりに、キャサリンというすごい綺麗な奥さんがいる。アメリカ人にしては珍しいふわっとした印象の優しい女性だ。「アスカとは大違いだろ?」 余計なお世話だ。
 5歳になる娘さんは愛ちゃん。活発な子で絵本を読んであげるよりも、外で一緒に遊んであげるほうが喜ぶ。アスカちゃんみたいな格好いい手足が欲しいそうだ。将来有望だ。
「なんだいそのパワーアップ計画ってのは?」
 小谷はもう一度言った。
「私を今よりもっと強くする計画に決まってるでしょ。ほら見て見て、私書いてきたんだから」
 アスカは天才のくせに察しの悪い小谷に計画メモを差し出した。
「えーなになに? 甲河アスカのパワーアップのために。その1、加速装置?」
「ほらよくあるじゃない、奥歯のスイッチをカチッと入れると、いきなりマッハで動けるとかそういうの」
「アニメの見過ぎだよ。だいたい君にはアクセルモードがあるじゃないか。通常の1000倍の早さで動けるんだ。マッハどころの話じゃない」
「だってあれ不便なんだもん、5秒しかもたないし、一度使ったら後でオーバーホールだし、もっとこう手軽に超加速を使えるようにならないの? 加速装置! ピキーンっ感じで」
「無理だね。だいたいあれはアンドロイドアーム&レッグの機能で実行しているというよりは、基本は君の対魔粒子による力技だからね。君の並外れた濃度の対魔粒子をチャージ、そして一気に解放することで、手足を限界以上の超高速で動かし、かつ奇跡的に破壊せずに済ませていると言った方が正確かな。だから君以外は一人だってまともにやれていない。ほんの数倍の加速でもメカニズムが耐えられずにバラバラに吹っ飛ぶ有様だ。全身サイボーグですらそうだ。君は正体不明の対魔粒子の力で本来なら不可能なことをなぜか実現していると理解して欲しいね」
「長い」
 駄目な理由をまくし立てられアスカは眉をひそめたが、小谷はどうも乗ってきてしまったようで気にせず続ける。
「それから、その2の対魔超粒子砲のピストルモードの搭載とかいうの。あのねえ」
 それは大人のゆきがぜが銃も使わずに高精度の雷撃を撃ちまくっているのを見て書いてみたのだが、
「はいはい、それもまだ私しか撃てない正体不明のビームだっていうんでしょ。そんなの分かってるわよ。それももうちょっと便利に使えないかなって思ったの。くどくど言わなくていいから」
 アスカはむくれたが、小谷はやっぱり少しも構わずにペンをクルクル回しながら続けた。
「そうだなあ、アクセルモードにしろ対魔超粒子砲にしろ、アスカが今よりも高い精度で対魔粒子の制御ができたら、もう少しコントロールできるかもね」
「高い精度ってどれくらい?」
「今、君は四段階くらいで対魔粒子の出力制御をしているだろ? 手加減、本気、ちょっと気合いを入れる、フルパワーくらいで」
「まあそんなもんじゃない?」
「それを100段階くらい、せめて50段階くらいで制御してくれればね。もちろん君の気分とかに関係なく、常に正確な出力になるようにね」
「そんなの無理に決まってるでしょ。私これでも人間なんだから」
「そうなんだよなあ。君は人間なんだよなあ。対魔粒子のことも含めて、そこがロボットとは違う君の驚異的な強さの理由なんだが、君が人間であるばかりに出来ることと出来ないことがあるんだよなあ。ただこのフルアーマー化ってのは面白いな。でもこれならむしろアスカ自体を中枢ユニットと見做して、より大型の武装と装甲を強化した拡張ユニットを、いやそうすると肉体と機械のマッチングが難しいな、そこは――」
 小谷はぶつぶつと一人で喋り始めた。どうやら自分の世界に入ってしまったようだ。
 ここに奥さんがいたら「こうなると話にならないからほっときましょう」と言うところだ。
「またなんかあったら来るわ。ありがと」
 アスカは諦めて小谷に背を向けた。

 

 次にアスカが捕まえたのは喫茶室にいたドナ・バロウズだった。
 彼女はDSOの所属ではなく、米連特殊部隊の兵士だが、右腕のアンドロイドアームが元はアスカの予備パーツだったものなので、メンテナンスやらなにやらでよく本部にやってくる。
 右腕を機械化した影響で味覚が変わってしまい、やたらと辛い物とか甘い物とか苦い物とかちょっと言葉にできないような変な味の物を好むようになったのだが、ここの喫茶室のチョコレートケーキは普通に美味しいらしく、むしろそれが来る目的という気がする。今日も一人で三つも頼んでいた。太るぞ。
「でね、小谷っちに手足のパワーアップができないか相談してみたんだけど、なんか難しいとか言われちゃってさ」
 アスカは苺のミルフィーユにフォークを突き刺しながら言った。クリームとパイの層が崩れないように丁寧に。実はさっさと横に倒してしまうのが正しいらしいが、見た目に綺麗じゃないのでやらない。戦闘用のアンドロイドアームはこういう精密動作が苦手だけれど……うん、うまくできた。美味しい。
「特訓をしたらどうだ? 手足をもっと上手く使えるようになれば戦闘力の底上げになるぞ」
 ドナが言った。生真面目な彼女らしい堅実な意見だ。
「って言ってもね、私、米連の全アンドロイドのなかで生身と機械のマッチングが最高なのよね。まあ自慢なんだけど。駆動速度は余裕で理論値以上だし、脳が手足に命令してから実際に動き始めるまでの反応速度とか生身の人間以上なんだから」
「そうなのか。さすがだな」
「まあねー」
 素直に感心するドナにアスカは鼻高々でミルフィーユのイチゴをパクリとやった。
 手足の関節の可動摩擦面に微小の風遁を施すことで抵抗を減らし、滑らかな動きを実現するアスカならではの技だ。小谷は対魔粒子の制御が雑みたいなことを言っていたがそんなことはない。もちろん今も普通に行っている。
「だてに“鋼鉄の対魔忍”は名乗ってないってこと。だからそっちの方のパワーアップはできないことはないけどって感じね」
「新必殺技を作れば?」
 後ろから別の声がした。
 アンジェだ。さっきそこに座ったのは気づいていたが、こっちの会話に参加する気になったらしい。唐突な入り方はいつものことなので気にしない。
 和菓子好きな彼女らしく、目の前にはお団子が置かれていた。あんこにみたらしに磯辺。どれも美味しそうだ。
「新必殺技か。いいわね。それなら特訓のしがいもあるし。アンジェ、付き合ってよ。暇だったらドナも」
「いいよ」
「私も今日は用事がすんだから付き合おう。お前たちとの訓練は私のためにもなる」
「ありがとっ。 すいませーん、ここお団子追加でー」
 アスカはウエイトレスに向かって片手を上げた。


「やあ、テンタクルストーム」
 お馴染みの気の抜けるようなアンジェの声と共に、それとは全く裏腹のストーム、嵐のような触手の乱打が襲ってきた。
「はあああっ!」
 アスカは風を纏わせた左右のブレードでそれを次々と弾いていく。
 アンジェの触手は機械とは思えないほど滑らかな動きをし、彼女の捉え所のない性格を反映しているかのように、思わぬ場所から突然切り込んでくる。
 アスカと言えども無数の触手を捌くのに手一杯で、その場に釘付けにされる。
 そうやって彼女を足止めし、アンジェの後ろにいたドナが急速に迫ってくる。アンジェをブラインドにして奇襲するつもりだ。
 右? 左? それとも上?
 意外! それは下っ!
「なんて思うわけないでしょ!」
 ひょいとジャンプしたアンジェの足元からドナがスライディングしてきたが、アスカはそれを読んでいた。
「いけえっ!」
 風を使った跳躍でグラビティの薙ぎ払うような一撃をひらりと躱し、頭上から真空刃をぶちかます
「しまった」
「大丈夫」
 アンジェは体勢を崩したドナにさっと触手を伸ばすと、それを細かく振動させて空気の障壁を作り出し、ドナを真空刃から守っている。
 さすが。でもそれも計算のうち。分かるわよね、アンジェ?
「あっ」
 気づいたようだ。まずいという顔になるがもう遅い。
 アスカは風を操って二人の背後に軽やかに降り立つと、アンドロイドアームをきりりと構えた。
 後は滅殺マシンガンでも皆殺しミサイルでも撃ち放題、二人に躱す術はない。
「はい、私の勝ちー!」
「やられた」
「2対1を逆手に取られたな」
 ニッコリ笑うアスカに、アンジェはいつもの淡々とした顔に戻って、ドナは感歎した様子で白旗を上げた。
 三人がいるのは、本部の外にある演習場だ。おやつの後、アスカが二人をここに連れてきた。
 シミュレーションルームの横にある室内演出場でも良かったのだが、さっき行ったばかりだし、外で身体を動かしたかったのだ。
 屋外演習場といっても特にこれといった施設があるわけではない。
 アスカがマシンガンをぶっ放したり、ミサイルを飛ばしたり、竜巻を起こしても周囲に被害がでないくらいのだだっ広い空き地だ。
 室内演習場と違って、立体映像とドローンを組み合わせて各種戦闘環境を再現するようなことは出来ないが、実際に外で試してみないと分からないことも多い。
 それ以前に外で身体を動かすのはやっぱり気持ちがいい。
「ん~~~いい天気」
 アスカはアンドロイドアームを大きく上げて伸びをした。
 冬の空気は肌寒いが澄み切っていて、水色の絵の具を一面に流したような青空が広がっている。
「こういう日は動きがいい」
 アンジェが出しっぱなしにしていた触手をシュルシュルとくねらせて背中にしまった。確かにいつもより攻撃に切れがあった。
「私は寒い日は苦手だ」
 ドナが言った。
「やっぱ右腕の動きがちょっと悪くなったりする?」
「それもあるがグラビティの重力核の反応が鈍くなる。寒いのが嫌いなようだ」
「へーそうなんだ」
 それは初めて聞いた。
 アスカはドナの重力制御兵器グラビティを覗き込んだ。
 今の言い様はグラビティがまるで意思を持っているかのようだったが、それもそのはず重力核は重力を操るとある魔族の身体の一部だ。グラビティはその重力核を拘束具で封じ込めただけの代物で、本体には制御装置すらついていない。
 ならどうやって力を制御しているかというと、ドナがアンドロイドアームで無理やり操っているという思い切り力技だ。
 アスカも試させてもらったことがあるが、重力核がうまく反応しなかった。使い手の影響も受けるらしい。事実上、彼女専用だ。
「必殺技の開発に協力する話だったが、普通に訓練をしてしまったな」
 ドナが今さら思い出したように言う。アスカは笑った。
「いいじゃない。そんな必殺技なんてすぐにできるわけないし、私もムシャクシャしてて身体動かしたかったし、ちょっとすっきりした、ありがと」
「ならいいが、いったい誰を相手にしようとしていたんだ? 新必殺技などと言うからには相当な相手だろう?」
「それは私も知りたい」
 二人は興味津々に聞いてくる。まあ無理もない。あんまり話したくはないのだが。
「誰かは機密だから言えないんだけど、生身のくせに私と同じレベルで動けて、離れても近づいても自在に戦えて、対魔超粒子砲に匹敵する大技も持ってて、装備の基本スペックは私よりずっと上で……はあ、そうね、言いたかないけど私より余裕で強い女。手加減されて捻られたわ」
 投げやりに言うアスカに二人とも驚きを隠さない。
「すごい」
「にわかには信じ難いな」
「でしょ? やんなっちゃうわよね」
 こないだの負けっぷりを思い出し、アスカは肩をすくめた。


「パワーアップ?」
 アスカは最後に行ったのはDSO日本支部の長、仮面のマダムの所だった。
 アスカ以外にただ一人、大人のゆきかぜの実力を肌で知っている人物だ。
 本来なら一番最初に相談すべき相手だが、なんとなく話の展開が予想できたので躊躇っていたのだ。
「ほら、こないだあの大人のゆきかぜがやって来たとき、私ちょっと不覚を取ったじゃない?」
「手玉にとられてたわね」
「そこまで酷くないわよ。ちょっと油断しただけ。ふうまたちの知り合いの未来の姿とか聞かされちゃ、さすがの私もちょっと本気になれないし」
「まあ、そういうことにしておきましょうか。それで?」
「でね、あいつがまたこの時代に来るか分かんないけど、やっぱりやられっぱなしってのは悔しいし、ちょっとパワーアップとかしたいなあって」
「それは感心ね」
 マダムは腕組みして先を促す。なんだかお説教されているような気分になってくる。
「んで、さっき小谷っちに相談したんだけど、手足の大幅な機能強化とかは難しいって言うし、新必殺技なんかもすぐにはできないじゃない? で、どうしたらいいかなってマダムに聞きにきたんだけど……やっぱいい、やめとく」
 仮面の下でマダムの顔が呆れていくのが分かって、アスカはくるりと踵を返した。きっとこれはお説教モードだ。
「待ちなさい、アスカ」
「……!」
 声が怖い。
 日本支部の長としではなく、小さい頃からのお目付役としての声だ。アスカは首をすくめて振り返った。
「本当は自分でも敗因に気づいてるわよね?」
「えーっと、やっぱ相手は未来人だから基本的な技術レベルで負けてる的な?」
 アスカは人差し指をピンと立てて笑顔で誤魔化そうとしたが、マダムはふうと溜息を吐いた。
「それがないとは言わないけれど、なによりもあなたの心の問題ね」
「あーー」
「またかって顔しないの。心技体っていうでしょ? あなたは技も体も優秀なのにいつも心が欠けてるの。いい? この際だから言うけど――」
 マダムの長い長いお小言が始まった。


「でさあ、座禅とか言って古臭い山寺に十日も修行に行かされちゃった。もうやってらんないわ」
「その愚痴を言いにきたのか?」
「はあ? 何言ってんのよ。ふうまが私になにしに来たとか聞くから、今までの経緯を話してやったんじゃない」
「その割には長かったな」
「長うございましたな」
 ふうまとその御庭番の対魔忍ライブラリーが二人揃って疲れたような声を出した。なんで?
 ここは五車町、ふうまの家、その庭先だ。
 マダムの命令で山寺に籠らされた後、結局なんの悟りも得られなかったアスカは、やはり大人ゆきかぜを一番よく知っていそうなふうまを尋ねたのだった。
 二人はちょうど庭で稽古をしていたので、縁側でお茶しながらこれまでの話をしていたところだ。
 出されたお菓子は“もろこし”という干菓子。秋田銘菓だそうだ。硬いのに口の中でサラサラと溶けて緑茶によく合う。
「まあ、経緯は十二分に分かったが、それで俺にどうしろというんだ?」
 ふうまは面倒くさそうに聞いてきた。それを隠そうともしないのが癪にさわる。
「なんかパワーアップのいいアイデアはないかなって。やっぱ未来人なんて非常識なのを相手にするには普通とはちょっと違う発想がいる気がするのよ。そういうの得意でしょ?」
「いきなりそんな格好で来て得意でしょとか言われてもな」
 ふうまは戦闘用の手足をつけてきたアスカを見てぼやいた。
 だけど、人から物を頼まれて嫌とは言えないお人好しなのは分かっている。そういう話が嫌いじゃないのも。なによりアスカが直接訪ねてきたのだ。断れるわけがない。ふうまはちょっと考えて口を開いた。
「そうだな、お前が言ってた使いやすいアクセルモードとか対魔超粒子砲ってアイデアは悪くない。必殺の一撃は一撃として、よりコンパクトに使いたいってのはよく分かる。武器はそうやって発展してきたんだしな」
「でしょでしょ? 偉い人にはそれが分からんのですよ」
「アニメの見過ぎだ」
「あ、ばれた?」
 元ネタを分かってくれたふうまにアスカはおどけたように笑った。
「だってメンテのときとか暇だし。何時間とか下手すると半日くらい動けないんだもん」
「どんなの見てんだ?」
「どんなのって、最近ハマってるのは……サイボーグ009
「ぶはははははは、それで加速装置か、影響受けすぎだろ」
 さすがにちょっと恥ずかしくてゴニョゴニョと言ったら、ふうまのやつ爆笑した。
「そ、そんなに笑わなくたっていいでしょ」
「ちなみに誰推しだ? やっぱ009か? いや違うな。004だろ? 全身武器なあたりが誰かさんとそっくりだしな」
「わ、悪い!」
 ズバリ指摘され、アスカは赤面した。そしたら、そばに控えていたライブラリーまで軽く吹き出した。
「あーー笑った。自分もサイボーグのくせして笑った!」
「……いや、これは失礼いたしました」
 などと謝りながら俯いてプルプル肩を震わせている。もう。
「いやまあ、サイボーグとか存在自体がアニメだけどな」
「余計なお世話」
「お前、パンチとか飛ばさないのか? 定番だろう?」
 ふうまは飛ばせ鉄拳のポーズを取った。もう真面目にやる気がないらしい。しょうがないから馬鹿話に付き合ってやる。
「あれ試したことあるけど意外と使いにくいわよ」
「あるのかよ」
「ま、一応ね。けど腕のロケットだけで飛ばすには反動もきついし初速も足りないし、全身で踏み込んで打てばやれなくもないんだけど、結局それで出るのがパンチだけでしょ? だいたい私、普通に飛び道具持ってるし、風神の術も使えるしさ」
「ルストハリケーンな」
「ルストはないわよ。強酸の風とか面白いけど使いにくそうだし」
 アスカは溜息を吐いた。さっきからアニメの話しかしていない。
「あのさ、ちょっとは真面目に考えてくんない? わざわざ来たんだから」
「悪い悪い」
 ふうまは一応謝ってから、この前の戦いを思い出しているのか、視線をつと上に向けた。
「しかしなあ、装備でも技量でも経験でも負けてたしなあ。しかもあっちは手加減してたし、少々のパワーアップでこれをひっくり返すのは難しいんじゃないか、真面目な話」
「はっきり言ってくれるわね」
 アスカはブスッとした。
 悔しいがこの男の目は確かだ。だからこそ尋ねてきたのだが、そう言われて嬉しくはない。
「いっそ逸刀流でも学んだらどうだ?」
「マダムに聞いたけど免許皆伝クラスだってさ。追いつくまでどんだけかかるのって話よ」
「ライブラリー、なんかいいアドバイスとかないか?」
 ふうまは経験豊富な御庭番を見やった。さっき笑った彼はしごく真面目な口調で、
「アスカ殿、彼を知り己を知れば百戦殆うからずと申します。徒に対決しようとはせず、まずは相手を良く知り、勝てそうであれば戦い、そうでなければ戦わぬことをお考えになるのが肝要かと」
「でも自分より強くて逃げられない相手だっているじゃない? おじさんもそういうことあったでしょ?」
「もちろん何度も御座いました。そのような時こそ生き残ることを第一に考え、今に至っております。それが忍びの務めかと」
 特に力を込めているわけでもないが、その言葉にはベテラン対魔忍の自負と、それでも生き残れないことはあるという覚悟を感じさせた。ふうまも何か思うところがあるのか頷いている。
「めちゃくちゃ普通ね。まあ結局それが正しいんだろうけど」
「恐れ入ります」
「と結論が出たところで、少し稽古でもしていったらどうだ? 手ぶらで帰るのもあれだしな。ライブラリー、ちょっとアスカの相手をしてやってくれるか?」
「かしこまりました」
「やっぱりあんた真面目に考える気ないでしょ? しかも部下に丸投げとか」
 文句を言いつつも、アスカは縁側から中庭に降りた。
 ふうまの御庭番、対魔忍ライブラリー。教えてくれないが、その正体は知っている。先代当主ふうま弾正の腹心だった佐郷文庫だ。
 ふうま一族の反乱がらみで色々あって、つい最近まで特務機関Gに所属していた。
 そしてやっぱり色々あって、今は五車町の最新サイボーグ、対魔忍ライブラリーとしてかつての主人の息子に支えている。
 DSOとGとはなにかと対立しているが、幸か不幸かG時代の彼と直接やり合ったことはない。お互い噂だけは聞いていると言ったところだろう。
 その対魔忍ライブラリーはごく自然な佇まいでアスカの向かいに立っていた。その立ち姿になんとも言えない風格がある。
 見ただけで分かる。強い。
 こういう雰囲気を出せるのはアスカの知り合いで言ったらマダム、井河アサギ、こないだの大人ゆきかぜからも感じた。
「ひとんちであんまり派手なことはしたくないし、飛び道具はなしってことでどう?」
「ご随意に」
 アスカが構えると、ライブラリーも半身になって両手をすっと上げた。そのままピタリと静止する。
 光沢のほとんどない黒鉄色の身体は最初からそのように作られた彫像のようだ。
 二人ともまだ武器は出していない。まずは素手で。といってもアスカの鉄拳はコンクリート隔壁くらい簡単に粉砕する。きっと向こうも同じだろう。
 拳を握ったアスカに対して、ライブラリーはそれを受けとめようとするかのように掌を軽く開いていた。
 隙がない上に、いつでもお好きにどうぞという感じだ。そっちがそのつもりなら、
「はっ!」
 アスカは迷わず自分から踏み込んで左右のワンツー。パンパンと軽やかに払われる。
 まあこれが当たったら話にならない。けれど四肢の駆動は相当に滑らかだ。
 動きを止めずに、そのまま左のロー。お手本通りに膝を上げてガードされた。お手本通りと言っても、そこらのサイボーグなら抑えきれずに足が砕けているところだ。
 アスカはそのまま踏み込んで、ボデイに右の肘。それも柔らかく止められた。でも予想通り。肘から上を跳ね上げて裏拳を顔面に――と思ったら、いつの間にかその腕を決められそうになっている。やばい。
「っとお!」
 アスカはその手を外す方向に側転して逃れる。回ったついでに蹴りで頭を狙ったが、ライブラリーはサッと身を引いて躱した。
 と思ったのも束の間、アスカが体勢を整えようとするタイミングで死角から踏み込んできた。
 右の直突き。疾い。
「やばっ!」
 アスカは斜め後方へと飛んで逃れた。ライブラリーは追撃のために自分も跳躍しようとしている。
 かかった。
「たあっっ!!」
 アスカは足裏に風の壁を作り、それを蹴飛ばして、反転の急降下キック。
「むっ!」
 ライブラリーは素早く腰を落とし、それを十字ブロックで受け止めた。
 鋼鉄の体同士がぶつかり合う重苦しい音が響く。ライブラリーの身体がググッと深く沈んだが、惜しい。うまく威力を殺された。
 アスカは妙なことをされないうちに、相手を踏み台にして後方にジャンプ。距離をとって構え直す。
 ここまでが最初の攻防だ。
「おじさんやるわねー。ボディのバランスはいいし、なによりおじさん自身が超達人って感じね」
「恐れ入ります。アスカ殿もさすがですな」
「だてに“鋼鉄の対魔忍”は名乗ってないし。じゃ第二ラウンド。私について来れる?」
 アスカはボディの光学迷彩を作動させた。その身体がすーっと周囲の光景に溶け込んでいく。
「しからば」
 ライブラリーは慌てず騒がす自分も姿を消した。
 アスカの光学迷彩とは消え方が違う。多分、身体を結晶化させるかして、光を素通りさせている。忍法だ。
 見えなくなったのはお互い様。
 それに相手の動きが捉えれられなくなったわけじゃない。
 アスカは風を読む。
 身体が動くときの僅かな空気の震え、そして常人には聞こえないほどの音が相手の位置を、動きを正確に教えてくれる。
 ほらきた。左から踏み込んできて右の拳。疾い。左手で弾いて、こっちもボディに右。ガードされた。
 ってことは、どういう手段か分からないが、あっちも“見え”てる。そうなくっちゃ。
 試しに右に左に素早くステップして、見えてるならのジャブをフェイントで入れてからの足払い。ほらちゃんと避けられた。やる。
 っと感心してる場合じゃない。今度は向こうからの攻撃。
 左、右と矢のような突き。続いて対角の左下から抉り込むようなフックが来る。どれもこれも早くて重い。もちろんこっちだって全部防ぐ。最後の右膝は左膝で受け、その反動を使って距離をとる。ふふん、どうよ。
「二人とも見えない同士でバシバシやってるのはアニメみたいだが、俺は何も分からないぞ」
 ふうまが呑気そうに言った。まだアニメがどうとか言ってる。あのバカ。
「お館様はああ言ってるけど?」
「確かにお互いに見えているのと変わりなければ姿を消す意味がありませんな」
「まあねっ!」
 別にふうまに見せるためという訳ではないが、アスカとライブラリーは正面からガシンとぶつかり合い、お互いに手を組んだ状態で姿を現した。プロレスで言う手四つ、力比べの体勢だ。
 アスカのアンドロイドアーム&レッグと、ライブラリーのフルアンドロイドボディがミシミシと軋んだ音を立てる。
「パワーも互角のようですな」
「って思ったなら甘いわ、おじさん!」
 アスカは力比べを拮抗させたまま、さらに両手両足のパワーバランスを超高速で変化させた。
「むっ」
 ライブラリーが僅かに唸る。
 彼女の四肢の駆動速度にボディがついてこれない。重心がぐらりと崩れる。いける。
「やあっ!」
 アスカは柔道で言うところの隅落とし、別名空気投げの要領でライブラリーを捻り投げた。
 つもりだったが、その身体が綿のように軽い。自分から飛んでわざと投げられている。ミスしたときのフォローが早い。
 アスカは追撃を加えようとしたが、地面に手をついたライブラリーの身体がぶうんと旋回し、カポエイラのような蹴りで彼女を牽制しながら、その動きで素早く身を起こしている。
「ふうまの古武術がベースかと思ったら、そんなダイナミックな動きもできるんだ。ほんとやるわね。でもボデイの制御にかけちゃ私の方が一枚上みたいね」
「感服しました」
「まあねー」
 アスカは自慢げに言ったが、内心では戦々恐々としていた。
 まっずいわね。
 この“感じ”、マダムや大人ゆきかぜとやったときとよく似てる。
 なんかこっちの動きが読まれてるっぽい。先手をとってもそれで防がれちゃう。そんな分かりやすい動きしてないんだけど。キャリアの差かあ。
 身体の制御はまだ私の方が上みたいだし、思い切って組んでみたんだけど、今の投げで決められなかったのは痛いなあ。さあてどうしよう。
 アスカにしては珍しく次の攻め手に迷っていると、ライブラリーの背中側にいるふうまがアスカに視線を送ってきていた。
 え? なに?
 その手が細かく動いている。ふうまが部隊を指揮するために使っているハンドサインだ。この前の一件でも見せていた。
 その時は読み方が分からなかったが、ふうまが大人ゆきかぜに「忘れてないだろうな?」と聞いて、彼女が「忘れるわけないでしょ」と言った顔がものすごく嬉しそうで可愛くて、「あ、いいな、羨ましい」と思って、もちろんそんなこと言わなかったけど、後で教えてもらったのだ。
 それはともかく、私に味方してくれるんだ。で、作戦は――ふうん、面白そうじゃない。
「ふうま! 飛び道具はなしって言ったけど、家とか壊さなかったら別にいいわよね!」
「おいちょっと待て! 何するつもりだ!」
「すぐに分かるわ!」
 アスカは両手からブレードを出し、さらに風の力で宙に舞った。
 ライブラリーも腕のブレードを出し、上空からの攻撃に備える。
「それでどうなさいます?」
「こうするのよ、陣刃!」
 ブレードを勢いよく振り下ろす。圧縮した風の刃を上から叩きつける。
「ふむ」
 ライブラリーのブレードが一閃した。見えない刃が両断される。風が割れるときのボシュっという奇妙な音が響き渡る。
「一発でダメなら、陣刃乱舞!!」
 アスカは二発、三発と立て続けに陣刃を繰り出した。
 ライブラリーはそれらを全て捌いていく。逃げようと思えば逃げられるだろうが、そうすると庭が傷ついてしまう。御庭番としてそれはないと踏んだ。
 案の定、その場に止まってアスカの陣刃を一つ一つ切り捨てている。飛び散った風で地面に幾つもの亀裂が走ったが、家屋はもちろん植木などは無事だ。流れ弾が飛んで行かないようにちゃんと気を遣っている。これも予想通りだ。
「急に攻撃が雑になりましたな」
「もうチマチマやりあうのが面倒になったの! でやああ!」
 アスカは一際大きな陣刃をぶちかまし、それを防ぐために身動きが取れなくなったライブラリーに急降下攻撃を仕掛けた。
「甘い!」
 ライブラリーの気がぐんと膨れ上がった。
 赤熱したブレードで風の大刃を両断し、アスカの蹴りを寸前で躱して、カウンターを決める。
 つもりだったのだろう。分かる。でもさせない。
「む!?」
 ライブラリーが足を取られていた。いや、取られたというほどじゃない。本来の動きよりほんの少しだけ遅くなった。
 理由は風だ。
 アスカが上からばら撒いて、全部切られた風の残りが練達の足捌きをこっそり邪魔したのだ。
「風神・空裂嵐!」
 虚をつかれたライブラリーにアスカの旋風蹴りが炸裂する。
 さすがに直撃は防いだものの、さっきと違ってその威力を殺しきれず、ライブラリーはたたらを踏んだ。その喉元にブレードを突きつける。
「勝負ありね」
「参りました」
「やったあ」
 ガッツポーズをするアスカにふうまがいきなり文句を言う。
「お前やりすぎた。庭がえらいことになってるぞ」
 確かに最後の大陣刃と空裂嵐の余波で地面のあちこちが抉れている。庭木もちょっと折れたりしていた。
 あ、まずいかなーと思ったアスカだったが、ここは腕組みして強く出る。そもそも、
「ふうまがああしろって指示したんじゃない。わざと風を防がせてこっそり足止めしろって。技の廃物利用とかセコいやり口がいかにもふうまね。でもちょっと参考になったわ、ありがと」
「ここまでやれとは言ってない。すまん、ライブラリー。庭を直すのは手伝う。もちろんアスカもだ」
「えーー、私もやるの?」
「当たり前だ」
 結局、アスカはそれから数時間、ふうまと二人、庭の修復を手伝う羽目になったのだった。


「よし、これでだいたい元通りっと」
 アスカは手足についた土埃をパンパンと払って庭を見渡した。
 ごっそり抉れていた地面を元に戻し、折れていた庭木を専用の接着剤でくっつけたり結んだりと、その修繕の後は残っているが、ぱっと見は元通りだ。
「まあ、こんなもんだな」
 ふうまがとんとんと腰を叩いていた。年寄り臭い。でも一人だけ生身だから多分一番疲れている。ちょっと悪いことしたなあと思いつつ、アスカは彼でなくお庭番に言った。
「ライブラリーのおじさん、ごめんなさい。今度はやるときはもっと広いとこでね」
「それがいいようですな。お二人ともお疲れ様でございました。ご協力に感謝いたします」
「じゃあ私、帰るわ。ふうま、今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかった」
「なんだ。飯くらい食っていけよ。腹減ったろ」
「ありがと。でもやめとく。手足汚れちゃったからちゃんと洗いたいし」
「そうか、またな」
「またお越しくださいませ」
「うん、じゃあね! とおっ!」
 アスカは風神の術を使って浮かび上がり、そのままびゅーんと飛び去って行った。
 颯爽と言えば聞こえはいいが、大胆すぎる帰還にふうまが呆れた声を出す。
「せめて歩いて帰れよな」
「あれでは002ですな」
 ライブラリーが真面目な顔で言う。
「実は結構好き?」
「私にも少年時代はございましたから」
「ごもっとも。ところでさっきの模擬戦、ひょっとして俺たちの作戦に気付いてたんじゃないか?」
「お館様同様、未来ある若人を導くのは年長者の務めにございますれば」
「ライブラリーには叶わないな」
 一礼する御庭番にふうまは苦笑し、アスカが飛んでいった夕焼け空を見上げた。

 

(了)

 

 

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【制作後記】

 本作は“鋼鉄の対魔忍”こと甲河アスカのショートストーリーで、大人ゆきかぜをヒロインにした『雷神の対魔忍』の後日談になっている。

 彼女の初出は、私がメインシナリオを担当したゲーム『対魔忍アサギ3』からで、マッハパンチに風神ブレード、滅殺マシンガンに皆殺しミサイル、そして必殺のアクセルモードに対魔超粒子砲と戦闘は一人で全部こなし、光学迷彩で隠密行動もお手の物、ジェットスクランダーもなしに空を飛ぶというスーパーガールで、ゲームではアスカルートの主人公もつとめている。

 ただ、その一人で何でもできるキャラが災いしてか、作中では単独任務についていることが多く、チームプレイが基本の対魔忍RPGでは今ひとつ出番がない。出てもちょい役で、イベント新キャラのサポートに回ることが多い。

 彼女視点のイベントとなった『降ったと思えば土砂降り』でも、プライベート用の武装のない手足をつけて能力を制限している。それでも竜巻とか普通に起こすのだが。

 そんな彼女が『雷神の対魔忍』では大人ゆきかぜに負けるという珍しい展開になった。せっかくなのでその後日談を作ってみた。

 むろん、非公式であり、アクセルモードや対魔超粒子砲の設定その他は適当である。本編と違っていても勘弁して貰いたい。

 2021年はその本編の方でもアスカが活躍することを期待している。