対魔忍RPG 未来IFショートトーク 『恋人たち』

二人の週末

「たっだいまー!」
「って誰もいないけどね。おかえりなさーい。とりあえずお風呂、お風呂!」

 シャワシャワ~~~

「いまのキミは~~ピカピカに光って~~♪ 呆れかえるほど~~ふふふん♪」

「ふう、さっぱりした」
「さてさて、今日の私のスタイルはっと……ん? んん? ちょっーとお腹が……いや、出てない出てない、気のせい気のせい」
「でもお風呂上がりのビールはやめとこ。ここは普通に炭酸水で――ごくごくごくごく、ぷはーっ、美味し。お水が一番」

「さってと、ご飯どうしよっかな。今日はもう作るのめんどいし、なんかあったかな? 」

「冷凍チャーハンみーっけ。これと……唐揚げも発見。残り4個か。じゃ全部食べちゃおっと。あとなんか野菜野菜……洋風野菜パックは……んーないか。また買っとかなきゃ。じゃインゲンのおひたしでいっか」

 ちーん

「できたできた。それとわかめスープでいいかな。いっただっきまーす」
「もぐもぐ、もぐもぐ、うん上出来、最近は冷凍チャーハンもほんと美味しくなったよね。唐揚げもジューシー」

 ブーブーブー

「あ、なんかメール来てる。……えっ? 『今からそっち行く』 嘘! 帰るの明日って言ったじゃん。まずいまずい。えとえと『コンビニに寄ってなんか新しいスイーツ買ってきて。あと悪いけどナプキンもお願い。羽付きで夜用のやつ。ごめんね』 はい送信」
「これで少しは時間稼ぎができるはず。男がコンビニで生理用品買うとか普通はできないもんね、にひひ」

 ブーブーブー

「うわっ、もう返信きた。『これだっけ?』 ちょっ、なんで私が使ってるやつ知ってんの? もうドン引きだよ。『それでおねがい、ありがと』  ああもうどうしよどうしよ。もろすっぴんだし、お化粧してる時間なんかないし、とりあえず服替えなきゃ服、このダサい下着も!」

 ぴんぽーん

「はいはいはい」
「よう、来ちゃった」
「来ちゃったじゃないよ。約束は明日だったでしょ。来るなら来るって先に言ってよ」
「悪い悪い。任務が意外と早く終わってさ。これお土産。『濃厚なクリームで仕立てずっしりプリン』 こんなんで良かったか?」
「あっ、なんかおいしそ。ありがと」
「あとこれも。急に始まっちゃったのか?」
「違うよ。予備がなくなりそうだったから念のため頼んだの。ありがとね。そっちの包みは?」
「牛丼。飯まだでさ。俺の分、用意してないだろうし」
「してないよ。明日買い物に行くつもりだったんだから。まあいいから入って」
「おじゃまします。なんだそっちも飯の最中か」
「食べてたとこ」
「じゃあちょうど良かったな」
「お茶入れる? お味噌汁とかの方がいい? インスタントだけど」
「お茶がいいな。緑茶」
「了解」
「さて、そっちの夕飯はと、冷凍のチャーハンにこれも冷凍の唐揚げか。ははは、女子力ゼロって感じだな」
「影遁ぱーんち!」

 ぼかっ

「痛いって」
「いきなり来といてそういうこと言う? 言う? 今日は作るのめんどくさかったの」
「せめて野菜くらいはつけろよな。健康のために」
「ついてるじゃん。ほらそこ。インゲンのおひたし」
「これっぽっちじゃな。俺なんか生野菜付きだぞ」
「牛丼屋のサラダくらいで偉そうに。はいお茶!」
「サンキュー。じゃ食べようぜ。いっただっきまーす」
「いただきます」
「ぐぁっ、ぐぁっ、くうぅ美味い。やっぱ一仕事終えた後の牛丼は最高だよな」
「そんなものばっか食べてるとメタボになるよ。任務の方はどうだったの? 今回はアスカちゃんと一緒だったんだっけ?」
「そうそう、現場で会うのは久しぶりでさ、任務自体は問題なく終わったんだけど、あいつも俺も今や先生だからな。そのへんの苦労話でなんか盛り上がったよ」
「ふふん、ようやくチミもあの頃の私の苦労がわかったようだね。ただお気楽極楽でやってたわけじゃないんだよ、先生は」
「今更ながら感謝してます」
「にひひ、素直で結構」
「でも半分くらいは地だったろ?」
「あはは、まあねー。私はいくら頑張っても『最強』にはなれないからね。その分開き直ってたとこはあるかな。でも嬉しいな。やっと私と同じ立場になってくれて」
「そんなに気にしてたんだ?」
「するよー。するに決まってるよ。やっぱりほら教師と生徒ってとのは一線を越えちゃった感あるし、さすがの私でもちょっとは体裁とか考えるし、まあ秘密の恋って感じであれはあれでドキドキしたけど、オープンにできる今の方がやっぱり楽」
「そうか」
「後はあれだね、そろそろ私が引退できるようなちゃんとした理由が欲しいかなーって」
「俺に一人前の先生になれと?」
「まあそれもあるけどお」
「けど?」
「もうわかってるくせに」
「いや分からないなあ」
「嘘ばっかり。じゃあ身体で分からせちゃおっと。一日早く来たってことはそういうつもりなんでしょ? 私だって今日明日はばっちり危ない日なんだからね。むふふふふ」

 

 

髪を切った彼女

「ごめんなさい、待った?」
「いや、俺も今来たとこ。ってその髪型?」
「ちょっとね。イメチェンしてみたんだ。どうかな?」
「……ああ、似合ってるよ」
「そう? よかった。思い切ってやってみて」
「…………」
「どうしたの? なんか変な顔してる。そんなビックリした? やっぱりイメージ違いすぎ?」
「いや、そういうことじゃなくてな」
「ん?」
「懐かしいなって」
「なにそれ? ショートにしたの初めてだけど?」
「ああ、でもそんな感じのお前を見たのは初めてじゃない」
「???」
「そうだな。もう言ってもいいか。実はな――」

 

「ふうん、そんなことがあったんだ」
「あんまり驚いてないな」
「そりゃね。私たち今まで何度も何度も訳の分からないトラブルに巻き込まれてきたし」
「そりゃそうだ」
「でもそれで一つ納得した」
「なにが?」
「あのころ、あなたが私を見る目がなんか変だった理由。気を遣ってるっていうか、どう接したらいいか迷ってるっていうか、ひょっとして告白でもしてくれるのかなって思ってたけど、別にそんなことなくて、いつの間にか普通に戻ってたじゃない?」
「じゃないと言われても、そうだったか?」
「すごくそうだった。まああの頃は色々と大変だったし、またなんかあったんだろうなって、私なりに気を利かせて気づかないふりしてたけど」
「そりゃ、どうもありがとう」
「どういたしまして。そっかー。別世界の未来の私かあ、そんなに似てる? 今の私と?」
「ああそっくりだ、と言いたいところだが、よく見るとやっぱりちょっと違うな」
「まさかそっちの私の方が胸がおっきかったとかなんとか」
「ははは、そこは同じだな。もうまったく――」
「はぁ!?」
「いや、なんでもない。そういうことじゃなくてな。彼女はもっとこう厳しい表情をしてたよ」
「そりゃそうでしょ。今聞いた話だと、なんかすごい絶望的な未来からやってきたんでしょ。こっちの過去を変えるために。そりゃ厳しい顔にもなるわよ」
「それもあったろうけどな、自分の素直な気持ちを無理に抑えつけてるって、そんな気がしたよ。時々、一人ですごく寂しそうな顔してたしな、彼女」
「彼女、ふーん、そうなんだ、へー」
「なんか言いたげだな?」
「その彼女となんかあったでしょ?」
「いや、なんにもないよ」
「うそ! 今一瞬、目逸らした。なにがあったその未来の私と! さあ白状しろ!」
「な、なにもしてないって!」
「じゃあ、あっちがしたのね! そうでしょ!」
「な、なんでそんなことわかるんだ!?」
「分かるわよ! だってそれ私だもん!  そんな悲しい気持ちをひた隠しにして、未来ではずっと前に死んでたあなたに会いに来て、なんにもしないで帰るわけないでしょ! 私なら絶対しない! 押し倒すくらいのことはするわ!」
「そ、そこまではされてない。ただ、帰り際にちょっと、な」
「ちょっとなに!?」
「だ、たからその、さよならってキスをな。いや、勘違いするなよ。俺からしたわけじゃないぞ。気がついたらされてたんだからな。ほんとだ。嘘じゃない」
「むっふーーー、さよならのキスとかほんとにもうその私は。私が知らないと思って!」
「そんなに怒るなよ。もうずいぶん昔の話だし」
「昔とか今とか関係ないわ! あっ、ちょっと待って! ってことはなに? 私よりその私と先にキスしたってこと? そうでしょ? だってその頃私たちまだ付き合ってなかったし、そうなんでしょ!」
「ま、まあそういうことになるかな、ははは」
「はははじゃないわよ! なんなのよそれ、信じらんない!」
「そ、そんなに興奮するな。今日はそういう話をしようと思って来たわけじゃない。その髪型を見てふと思い出しただけだ。すまん。ちょっと気持ちを切り替えてだな、これ受け取って欲しいんだが……」
「はあ? なによ? 物なんかで釣られなんだからね! ……えっ? 嘘、それって。え? 待って待って、今日ってそれで呼び出したの?」
「まあ、その、そういうことだ。なんか変なタイミングになっちゃったが、受け取ってくれるか?」
「……うん。ありがと。付けてみてもいい?」
「もちろん」
「うわあ、素敵。嬉しい。すごく嬉しい。ありがとう」
「そうか。よかった」
「あっ」
「どうした?」
「えっと、えっとね。別にこれくれたから言うわけじゃないし、私も変なタイミングになっちゃったんだけど、一つサプライズいいかな?」
「なんだ?」
「今日ね、午前中ね、ちょっと時間があったからお医者さん行ってきたんだけど、その……3ヶ月だって」

 

 

TEN YEARS AFTER

「なんかこういうの久しぶりね」
「直に会うのは半年ぶりくらいか」
「そのくらいかな? モニタ越しにはちょくちょく顔合わせてるから、あんまり会ってないって感じはしないけど」
「お互い現場にはあんまり出なくなったしな」
「そっちはそうだろうけど、私は結構現場に出てるわよ。『鋼鉄』の二つ名は未だ健在ってとこね」
「その二つ名もそろそろレトロになってきたがな」
「ちょっと。人のこと旧式のロートルみたいに言わないでよ」
「でもDSOでも開発のメインはニューロノイドだろ?」
「そうだけど、こっちだってまだまだ現役なんだから。アップデートもしてるし、やっぱり今までの蓄積ってものがあるもの。そうだ聞いてよ。こないだ養成機関を首席で卒業した新人三人がうちに来たのよ」
「その噂なら聞いたよ。鼻っ柱をへし折ってやったんだろ?」
「あっ知ってた? そうそう、うわべは丁寧だけど人のこと旧式の御局様って思ってる生意気な態度がぷんぷんだったから、挨拶代わりに三対一の模擬戦でかるーく捻ってやったわ」
「いい薬になったろう。しかし普通に意地悪な御局様だな」
「いいの。こっちは時間もお金もかけて訓練してるんだから、あれくらいで調子に乗って、現場ですぐにやられたらたまったもんじゃないわ」
「そのあたりはうちでも苦労してる。新人は危なっかしくてな。ようやくあの頃の先生たちの気持ちがわかってきたよ」
「そういえばあの人、未だに現場に出てるの?」
「たまにな。さっきの話じゃないが『最強』の名は健在だよ。本人曰く、全盛期の半分くらいの力だそうだけどな」
「うそうそ。裏でしっかり鍛錬してるに決まってるわ。まったく年寄りの冷や水なんだから、いい加減引っ込めばいいのに」
「それ俺たちも言われてそうだな。実際もう若くはないしな」
「やめてよね。あなたにそういうこと言われると本気でグサッと来るから」
「悪い悪い。お前自身はニューロノイドに換装する気はないのか? そっちの方が楽だろう?」
「んーー多分しないかな。そりゃメンテの手間は大幅に省けるし、日常用と戦闘用を使い分けなくていいけど、私的にはその一手間が逆にオンとオフをスパッと切り替えられていいのよね。ほら普段は適当な格好してても、決める時はビシッと決めるみたいな」
「なるほど。これまでのイメージもあるしな」
「そうそう、それにさ……」
「ん?」
「あなた、好きでしょ? この身体」
「まあな」
「じゃあ変えない」
「可愛いな」
「当然」
「しかし、さすがに最近はこのあたりがふっくらと」
「なんか言った?」
「なんでもないなんでもない」
「もう。これでも維持しようと頑張ってるの」
「分かってるよ」
「まあ多少はね。昔とは違うし」
「確かに違うな。今の方がずっと魅力的だ」
「ふふ、ありがと。あなたもお世辞がスマートになったわね。昔はそういうことちーっとも言ってくれなかったし」
「そりゃすまなかったな。まあ色々あって今の俺たちってことだしな」
「まあね、家の方どうなの? 彼女と上手くやってるの?」
「ぼちぼちってとこかな。そっちこそどうなんだ。未来ちゃん5歳だっけ? 」
「もう生意気生意気。『ママなんでおじちゃんと結婚しないの? 略奪婚だよ、略奪婚』って、やるわけないでしょそんなこと」
「女の子はませてるなあ。どこでそんな言葉覚えてくるんだ?」
「知らないわよ、まったく」
「昔のこと言ってないのか?」
「言ってない言ってない。なんでとかどうしてとかあれこれ聞かれて面倒じゃない。まあ結局は若かったってことだけど、それだけじゃないしね」
「…………」
「どうしたの黙っちゃって?」
「後悔してるか?」
「今更それ聞くんだ? そりゃまあちょっとはね。でもあれがあったから、お互いにちょうどいい距離が分かったんだし、そういう意味ではやっといて良かったのかなって。あんまり褒められた関係じゃないけど、私たちにはそれがいいのよ、多分ね」
「そうだな」
「あっでも、あの子が大きくなって、ちゃんと結婚でもして、私一人になったら、また誰かと一緒にいたいなあとか思ったりするかもね。それがあなたかは保証しないけど」
「まいったな。じゃあそんな将来のことを考えつつ」
「続き、しよっか?」

  

 

【制作後記】

バレンタインイベントも終盤。

ふとこんなものが作りたくなって、この先のどこかの未来かもしれない、三組のカップルの短い会話を考えてみた。

あえてセリフのみにし、誰が喋っているか名前を付けず、名詞もなるべく省いて、いったい誰と誰の会話なのか、二人はどんな関係で、どんなシチュエーションなのかはっきりさせていない。あれこれ想像して読んで欲しい。

なお、三つはそれぞれ独立した別の未来の話である。念のため。