シナリオを書いてからゲームができるまでの待ち時間

エロゲのシナリオライターの仕事は、もちろんエロゲのシナリオを書くことだ。
だから、ある仕事に関わって、そのシナリオを書き上げてしまうと、もう仕事が終わった気分になる。
メーカーの社員であれば、終わりどころか、その後にアフレコやらスクリプト*1やらデバッグやらといった、やたらと細々としていて神経も使う仕事がごっそり控えていて、それが発売まで延々と、下手をするとその後も続いてしまうのだが、フリーだとそういうこともない。
シナリオが終わって、メーカーからめでたくOKがもらえたら、基本的にはノータッチ。
後は、ゲームが発売されるのを待つばかりとなる。


この待ち時間は、作品の規模やスケジュールによって長かったり短かったりと様々であるが、自分の書いたシナリオがどうゲームに反映されるのか気になるのは、どれも共通している。
シナリオにOKをもらったとはいえ、その段階ではゲームの素材の一つにすぎず、それが100%そのまま、一字一句違えずにゲームになることはまずない。
その後の制作過程で、シナリオの文章は大きなことから、小さなことまで、色々と手直しをされる。


一番良くある例が、キャラの口調の統一だ。
複数のライターがシナリオに関わっていると、どうしても書き手によって、同じキャラでも口調に若干の違いが出てしまう。
シナリオを書く前にはそれ相応のサンプルがあり、個々のライターはそれに従って書くのだが、書き手の癖というものはある。
締め切り間際で焦っていると、つい慣れた文体になるのも良くある話だ。喘ぎ声とか特に。


それ以前の話として、サンプルを書いたメインライターがいざ自分の担当シナリオを書いてみたら、他のライターに渡したサンプルと既に口調が違っているというパターンもある。
自分のことも含めて、サンプルの段階では、メインライターも曖昧模糊とした状態で書いていることが多いので、しょうがないといえばしょうがない。
その場合、メインライターはサンプル通りに書かれた他のシナリオを弄るか、ノリと勢いで書いた自分のシナリオを修正するかという、あまり嬉しくない二者択一を迫られることになる。自業自得だ。


自分が書いた文章を弄られるのが好きなライターはどこにもいないが、シナリオがゲームの素材の一つである以上、そういった細かい修正が加えられるのはやむを得ない。


その一方で、シナリオの一部がまるまる削られたり、変えられたりといった、書いた人間からすると、ただただ残念でしかないケースもたまにある。
例えば、そのシーンがソフ倫的あるいはメディ倫的にNGになりそう。
これは削るしかない。ゲームが出なかったり、回収になったりしたら一大事だ。
それから、ネタのかぶり。「それ前に聞いた」という奴だ
複数のライターがたまたま同じネタをやっていたりすると、どちらかを削ったり、変更したり*2ということになるだろう。
プロットの段階からネタがかぶっていたなら、発注者のミス*3だが、プロットにない、ライターの裁量で書いた部分がたまたま被っていて、それを削られると結構寂しい。そういう場面は、ライターもノッて書いていることが多いから。


その他、諸々の理由で、素材として渡したシナリオは、ゲーム完成までに色々と手を加えられる。
最初にも書いたが、フリーのシナリオライターとして仕事をする場合、OKが出た後はノータッチなので、シナリオのどこを直しますだの、どこを削りますだのといったことはいちいち教えてもらえない。
商品を見て初めて、変えられているのが分かるだけ。残念は残念だ。
そのくせ、自分がメインライターの時は好き勝手に弄るのだから、勝手なものである。


そんなライターの視点の話を抜きにしても、単にシナリオがアップした段階では、その文と同時に表示されるCGも出来てはいないし、声はまだ録ってないし、BGM、SEもない。
文章、絵、声、音……その他諸々の全てを合わせたゲームがどうなっているかは、そのゲームを動かしてみないと分からない。
ゲームが来るまでの待ち時間。
期待半分、不安半分である。


初めてのデート。その待ち合わせ場所で、相手をソワソワしながら待っている。あのときの気分に似ている。
その後の展開、最初から最後まで全て上手くいったか、まあまあだったか、微妙なとこだったか、二度と行きたくないか、そういったことも含めて。
最悪なのは、相手が来ないというケース。
それだけはまだないのが、ありがたい。

*1:シナリオをゲームで実行できる形式のデータに直すこと。各種演出も含まれる

*2:時系列から見て後の方をネタ2回目にするとか

*3:かつ気づかなかったライターのミス