対魔忍RPGショートストーリー『甲河アスカ強化計画』

「あーもう、やってらんない!」
 甲河アスカは米連防衛科学研究室、通称DSOの日本支部にあるシミュレーションルームで一人癇癪を起こしていた。
 アスカが見ているのは、彼女がある対魔忍と戦った場合の戦闘シミュレーションプログラムの結果だ。
 いわく勝率3%。奇跡でも起こらなければ勝てないというありがたいお達しだ。
 しかも、色々と条件や戦法を変えてシミュレーションを行ったうち、これが一番が高いときている。まさか二桁にも届かないとは。うんざりだ。
 その他にも、シミュレーターによる戦闘分析という御託がああだこうだと書かれていたが、もう読む気にもなれなかった。
「やっぱり基本的な技術レベルで負けてるのが痛いなあ。こっちの動きも全部読まれてるっぽいし、アクセルモードを使っても平気で対応しそうだし。未来人かあ」
 アスカは溜息をつき、ついでに頬肘もついた。戦闘用アンドロイド・アームのひんやりとした感触が頬に気持ちいい。
 その未来人、成長した水城ゆきかぜがシミュレーションの相手だった。
 アルサールとか言う変な奴にふうま小太郎と上原鹿之助が殺されたあげく、世界征服までされている未来から、この世界を救うためにやってきたという昔のSF映画みたいな女だ。
 実際には現在の直接の未来ではなく、未来に相当する異世界ということらしいが、そんなことはどうでもいい。
 大切なのは鋼鉄の死神、米連最強のサイボーグと呼ばれる彼女が手も足も出ず、手玉に取られたという事実だ。
 未来テクノロジーの塊のようなスーツを身にまとい、雷遁を完璧に使いこなす戦闘力はもう完全に別人だった。あとすごい美人になっていた。スタイルはあまり成長してなかったけど。
 ちょっとした誤解――でもないけどやりあって、その後なんだかんだで共闘して、諸悪の根源のアルサールを倒し、その力の源のテセラックという遺物を壊して、この世界のふうまと鹿之助も死なずに済んでめでたしめでたしと思ったら、あの女、ことのついでにふうまにキスして未来に帰っていった。
 最後のは別に気にしちゃいないけれど、あっさり負けたのはやっぱり悔しい。
 悔しいからどうにかして勝てる方法がないかと、シミュレーションで色々試していたのだが、結果はこのざまだ。
「これはもう私がパワーアップするしかないわね! そうよ、パワーアップよ!」
 アスカはすっくと立ち上がり、鋼鉄の拳を握りしめた。

 

「パワーアップ計画?」
 DSO日本支部主任上級研究員の小谷健司は研究室に突然やってきたアスカに怪訝そうな顔をした。
 いつもボサボサの髪、ださいメガネ、おきまりの白衣とギークを絵に描いたような人物だが、これでもDSO日本支部の技術方のトップ、専門は素粒子論で対魔粒子の研究に関しては世界でも三本の指に入る。
 アスカのアンドロイドアーム&レッグの開発にももちろん携わっていて、必殺の対魔超粒子砲はその研究の成果の一つだ。
 エリート科学者にありがちな偉ぶったところがなく、付き合いも長いので、アスカにとっては近所にいる冴えないけど天才のお兄ちゃんという感じだ。
 全くモテなさそうな外見のわりに、キャサリンというすごい綺麗な奥さんがいる。アメリカ人にしては珍しいふわっとした印象の優しい女性だ。「アスカとは大違いだろ?」 余計なお世話だ。
 5歳になる娘さんは愛ちゃん。活発な子で絵本を読んであげるよりも、外で一緒に遊んであげるほうが喜ぶ。アスカちゃんみたいな格好いい手足が欲しいそうだ。将来有望だ。
「なんだいそのパワーアップ計画ってのは?」
 小谷はもう一度言った。
「私を今よりもっと強くする計画に決まってるでしょ。ほら見て見て、私書いてきたんだから」
 アスカは天才のくせに察しの悪い小谷に計画メモを差し出した。
「えーなになに? 甲河アスカのパワーアップのために。その1、加速装置?」
「ほらよくあるじゃない、奥歯のスイッチをカチッと入れると、いきなりマッハで動けるとかそういうの」
「アニメの見過ぎだよ。だいたい君にはアクセルモードがあるじゃないか。通常の1000倍の早さで動けるんだ。マッハどころの話じゃない」
「だってあれ不便なんだもん、5秒しかもたないし、一度使ったら後でオーバーホールだし、もっとこう手軽に超加速を使えるようにならないの? 加速装置! ピキーンっ感じで」
「無理だね。だいたいあれはアンドロイドアーム&レッグの機能で実行しているというよりは、基本は君の対魔粒子による力技だからね。君の並外れた濃度の対魔粒子をチャージ、そして一気に解放することで、手足を限界以上の超高速で動かし、かつ奇跡的に破壊せずに済ませていると言った方が正確かな。だから君以外は一人だってまともにやれていない。ほんの数倍の加速でもメカニズムが耐えられずにバラバラに吹っ飛ぶ有様だ。全身サイボーグですらそうだ。君は正体不明の対魔粒子の力で本来なら不可能なことをなぜか実現していると理解して欲しいね」
「長い」
 駄目な理由をまくし立てられアスカは眉をひそめたが、小谷はどうも乗ってきてしまったようで気にせず続ける。
「それから、その2の対魔超粒子砲のピストルモードの搭載とかいうの。あのねえ」
 それは大人のゆきがぜが銃も使わずに高精度の雷撃を撃ちまくっているのを見て書いてみたのだが、
「はいはい、それもまだ私しか撃てない正体不明のビームだっていうんでしょ。そんなの分かってるわよ。それももうちょっと便利に使えないかなって思ったの。くどくど言わなくていいから」
 アスカはむくれたが、小谷はやっぱり少しも構わずにペンをクルクル回しながら続けた。
「そうだなあ、アクセルモードにしろ対魔超粒子砲にしろ、アスカが今よりも高い精度で対魔粒子の制御ができたら、もう少しコントロールできるかもね」
「高い精度ってどれくらい?」
「今、君は四段階くらいで対魔粒子の出力制御をしているだろ? 手加減、本気、ちょっと気合いを入れる、フルパワーくらいで」
「まあそんなもんじゃない?」
「それを100段階くらい、せめて50段階くらいで制御してくれればね。もちろん君の気分とかに関係なく、常に正確な出力になるようにね」
「そんなの無理に決まってるでしょ。私これでも人間なんだから」
「そうなんだよなあ。君は人間なんだよなあ。対魔粒子のことも含めて、そこがロボットとは違う君の驚異的な強さの理由なんだが、君が人間であるばかりに出来ることと出来ないことがあるんだよなあ。ただこのフルアーマー化ってのは面白いな。でもこれならむしろアスカ自体を中枢ユニットと見做して、より大型の武装と装甲を強化した拡張ユニットを、いやそうすると肉体と機械のマッチングが難しいな、そこは――」
 小谷はぶつぶつと一人で喋り始めた。どうやら自分の世界に入ってしまったようだ。
 ここに奥さんがいたら「こうなると話にならないからほっときましょう」と言うところだ。
「またなんかあったら来るわ。ありがと」
 アスカは諦めて小谷に背を向けた。

 

 次にアスカが捕まえたのは喫茶室にいたドナ・バロウズだった。
 彼女はDSOの所属ではなく、米連特殊部隊の兵士だが、右腕のアンドロイドアームが元はアスカの予備パーツだったものなので、メンテナンスやらなにやらでよく本部にやってくる。
 右腕を機械化した影響で味覚が変わってしまい、やたらと辛い物とか甘い物とか苦い物とかちょっと言葉にできないような変な味の物を好むようになったのだが、ここの喫茶室のチョコレートケーキは普通に美味しいらしく、むしろそれが来る目的という気がする。今日も一人で三つも頼んでいた。太るぞ。
「でね、小谷っちに手足のパワーアップができないか相談してみたんだけど、なんか難しいとか言われちゃってさ」
 アスカは苺のミルフィーユにフォークを突き刺しながら言った。クリームとパイの層が崩れないように丁寧に。実はさっさと横に倒してしまうのが正しいらしいが、見た目に綺麗じゃないのでやらない。戦闘用のアンドロイドアームはこういう精密動作が苦手だけれど……うん、うまくできた。美味しい。
「特訓をしたらどうだ? 手足をもっと上手く使えるようになれば戦闘力の底上げになるぞ」
 ドナが言った。生真面目な彼女らしい堅実な意見だ。
「って言ってもね、私、米連の全アンドロイドのなかで生身と機械のマッチングが最高なのよね。まあ自慢なんだけど。駆動速度は余裕で理論値以上だし、脳が手足に命令してから実際に動き始めるまでの反応速度とか生身の人間以上なんだから」
「そうなのか。さすがだな」
「まあねー」
 素直に感心するドナにアスカは鼻高々でミルフィーユのイチゴをパクリとやった。
 手足の関節の可動摩擦面に微小の風遁を施すことで抵抗を減らし、滑らかな動きを実現するアスカならではの技だ。小谷は対魔粒子の制御が雑みたいなことを言っていたがそんなことはない。もちろん今も普通に行っている。
「だてに“鋼鉄の対魔忍”は名乗ってないってこと。だからそっちの方のパワーアップはできないことはないけどって感じね」
「新必殺技を作れば?」
 後ろから別の声がした。
 アンジェだ。さっきそこに座ったのは気づいていたが、こっちの会話に参加する気になったらしい。唐突な入り方はいつものことなので気にしない。
 和菓子好きな彼女らしく、目の前にはお団子が置かれていた。あんこにみたらしに磯辺。どれも美味しそうだ。
「新必殺技か。いいわね。それなら特訓のしがいもあるし。アンジェ、付き合ってよ。暇だったらドナも」
「いいよ」
「私も今日は用事がすんだから付き合おう。お前たちとの訓練は私のためにもなる」
「ありがとっ。 すいませーん、ここお団子追加でー」
 アスカはウエイトレスに向かって片手を上げた。


「やあ、テンタクルストーム」
 お馴染みの気の抜けるようなアンジェの声と共に、それとは全く裏腹のストーム、嵐のような触手の乱打が襲ってきた。
「はあああっ!」
 アスカは風を纏わせた左右のブレードでそれを次々と弾いていく。
 アンジェの触手は機械とは思えないほど滑らかな動きをし、彼女の捉え所のない性格を反映しているかのように、思わぬ場所から突然切り込んでくる。
 アスカと言えども無数の触手を捌くのに手一杯で、その場に釘付けにされる。
 そうやって彼女を足止めし、アンジェの後ろにいたドナが急速に迫ってくる。アンジェをブラインドにして奇襲するつもりだ。
 右? 左? それとも上?
 意外! それは下っ!
「なんて思うわけないでしょ!」
 ひょいとジャンプしたアンジェの足元からドナがスライディングしてきたが、アスカはそれを読んでいた。
「いけえっ!」
 風を使った跳躍でグラビティの薙ぎ払うような一撃をひらりと躱し、頭上から真空刃をぶちかます
「しまった」
「大丈夫」
 アンジェは体勢を崩したドナにさっと触手を伸ばすと、それを細かく振動させて空気の障壁を作り出し、ドナを真空刃から守っている。
 さすが。でもそれも計算のうち。分かるわよね、アンジェ?
「あっ」
 気づいたようだ。まずいという顔になるがもう遅い。
 アスカは風を操って二人の背後に軽やかに降り立つと、アンドロイドアームをきりりと構えた。
 後は滅殺マシンガンでも皆殺しミサイルでも撃ち放題、二人に躱す術はない。
「はい、私の勝ちー!」
「やられた」
「2対1を逆手に取られたな」
 ニッコリ笑うアスカに、アンジェはいつもの淡々とした顔に戻って、ドナは感歎した様子で白旗を上げた。
 三人がいるのは、本部の外にある演習場だ。おやつの後、アスカが二人をここに連れてきた。
 シミュレーションルームの横にある室内演出場でも良かったのだが、さっき行ったばかりだし、外で身体を動かしたかったのだ。
 屋外演習場といっても特にこれといった施設があるわけではない。
 アスカがマシンガンをぶっ放したり、ミサイルを飛ばしたり、竜巻を起こしても周囲に被害がでないくらいのだだっ広い空き地だ。
 室内演習場と違って、立体映像とドローンを組み合わせて各種戦闘環境を再現するようなことは出来ないが、実際に外で試してみないと分からないことも多い。
 それ以前に外で身体を動かすのはやっぱり気持ちがいい。
「ん~~~いい天気」
 アスカはアンドロイドアームを大きく上げて伸びをした。
 冬の空気は肌寒いが澄み切っていて、水色の絵の具を一面に流したような青空が広がっている。
「こういう日は動きがいい」
 アンジェが出しっぱなしにしていた触手をシュルシュルとくねらせて背中にしまった。確かにいつもより攻撃に切れがあった。
「私は寒い日は苦手だ」
 ドナが言った。
「やっぱ右腕の動きがちょっと悪くなったりする?」
「それもあるがグラビティの重力核の反応が鈍くなる。寒いのが嫌いなようだ」
「へーそうなんだ」
 それは初めて聞いた。
 アスカはドナの重力制御兵器グラビティを覗き込んだ。
 今の言い様はグラビティがまるで意思を持っているかのようだったが、それもそのはず重力核は重力を操るとある魔族の身体の一部だ。グラビティはその重力核を拘束具で封じ込めただけの代物で、本体には制御装置すらついていない。
 ならどうやって力を制御しているかというと、ドナがアンドロイドアームで無理やり操っているという思い切り力技だ。
 アスカも試させてもらったことがあるが、重力核がうまく反応しなかった。使い手の影響も受けるらしい。事実上、彼女専用だ。
「必殺技の開発に協力する話だったが、普通に訓練をしてしまったな」
 ドナが今さら思い出したように言う。アスカは笑った。
「いいじゃない。そんな必殺技なんてすぐにできるわけないし、私もムシャクシャしてて身体動かしたかったし、ちょっとすっきりした、ありがと」
「ならいいが、いったい誰を相手にしようとしていたんだ? 新必殺技などと言うからには相当な相手だろう?」
「それは私も知りたい」
 二人は興味津々に聞いてくる。まあ無理もない。あんまり話したくはないのだが。
「誰かは機密だから言えないんだけど、生身のくせに私と同じレベルで動けて、離れても近づいても自在に戦えて、対魔超粒子砲に匹敵する大技も持ってて、装備の基本スペックは私よりずっと上で……はあ、そうね、言いたかないけど私より余裕で強い女。手加減されて捻られたわ」
 投げやりに言うアスカに二人とも驚きを隠さない。
「すごい」
「にわかには信じ難いな」
「でしょ? やんなっちゃうわよね」
 こないだの負けっぷりを思い出し、アスカは肩をすくめた。


「パワーアップ?」
 アスカは最後に行ったのはDSO日本支部の長、仮面のマダムの所だった。
 アスカ以外にただ一人、大人のゆきかぜの実力を肌で知っている人物だ。
 本来なら一番最初に相談すべき相手だが、なんとなく話の展開が予想できたので躊躇っていたのだ。
「ほら、こないだあの大人のゆきかぜがやって来たとき、私ちょっと不覚を取ったじゃない?」
「手玉にとられてたわね」
「そこまで酷くないわよ。ちょっと油断しただけ。ふうまたちの知り合いの未来の姿とか聞かされちゃ、さすがの私もちょっと本気になれないし」
「まあ、そういうことにしておきましょうか。それで?」
「でね、あいつがまたこの時代に来るか分かんないけど、やっぱりやられっぱなしってのは悔しいし、ちょっとパワーアップとかしたいなあって」
「それは感心ね」
 マダムは腕組みして先を促す。なんだかお説教されているような気分になってくる。
「んで、さっき小谷っちに相談したんだけど、手足の大幅な機能強化とかは難しいって言うし、新必殺技なんかもすぐにはできないじゃない? で、どうしたらいいかなってマダムに聞きにきたんだけど……やっぱいい、やめとく」
 仮面の下でマダムの顔が呆れていくのが分かって、アスカはくるりと踵を返した。きっとこれはお説教モードだ。
「待ちなさい、アスカ」
「……!」
 声が怖い。
 日本支部の長としではなく、小さい頃からのお目付役としての声だ。アスカは首をすくめて振り返った。
「本当は自分でも敗因に気づいてるわよね?」
「えーっと、やっぱ相手は未来人だから基本的な技術レベルで負けてる的な?」
 アスカは人差し指をピンと立てて笑顔で誤魔化そうとしたが、マダムはふうと溜息を吐いた。
「それがないとは言わないけれど、なによりもあなたの心の問題ね」
「あーー」
「またかって顔しないの。心技体っていうでしょ? あなたは技も体も優秀なのにいつも心が欠けてるの。いい? この際だから言うけど――」
 マダムの長い長いお小言が始まった。


「でさあ、座禅とか言って古臭い山寺に十日も修行に行かされちゃった。もうやってらんないわ」
「その愚痴を言いにきたのか?」
「はあ? 何言ってんのよ。ふうまが私になにしに来たとか聞くから、今までの経緯を話してやったんじゃない」
「その割には長かったな」
「長うございましたな」
 ふうまとその御庭番の対魔忍ライブラリーが二人揃って疲れたような声を出した。なんで?
 ここは五車町、ふうまの家、その庭先だ。
 マダムの命令で山寺に籠らされた後、結局なんの悟りも得られなかったアスカは、やはり大人ゆきかぜを一番よく知っていそうなふうまを尋ねたのだった。
 二人はちょうど庭で稽古をしていたので、縁側でお茶しながらこれまでの話をしていたところだ。
 出されたお菓子は“もろこし”という干菓子。秋田銘菓だそうだ。硬いのに口の中でサラサラと溶けて緑茶によく合う。
「まあ、経緯は十二分に分かったが、それで俺にどうしろというんだ?」
 ふうまは面倒くさそうに聞いてきた。それを隠そうともしないのが癪にさわる。
「なんかパワーアップのいいアイデアはないかなって。やっぱ未来人なんて非常識なのを相手にするには普通とはちょっと違う発想がいる気がするのよ。そういうの得意でしょ?」
「いきなりそんな格好で来て得意でしょとか言われてもな」
 ふうまは戦闘用の手足をつけてきたアスカを見てぼやいた。
 だけど、人から物を頼まれて嫌とは言えないお人好しなのは分かっている。そういう話が嫌いじゃないのも。なによりアスカが直接訪ねてきたのだ。断れるわけがない。ふうまはちょっと考えて口を開いた。
「そうだな、お前が言ってた使いやすいアクセルモードとか対魔超粒子砲ってアイデアは悪くない。必殺の一撃は一撃として、よりコンパクトに使いたいってのはよく分かる。武器はそうやって発展してきたんだしな」
「でしょでしょ? 偉い人にはそれが分からんのですよ」
「アニメの見過ぎだ」
「あ、ばれた?」
 元ネタを分かってくれたふうまにアスカはおどけたように笑った。
「だってメンテのときとか暇だし。何時間とか下手すると半日くらい動けないんだもん」
「どんなの見てんだ?」
「どんなのって、最近ハマってるのは……サイボーグ009
「ぶはははははは、それで加速装置か、影響受けすぎだろ」
 さすがにちょっと恥ずかしくてゴニョゴニョと言ったら、ふうまのやつ爆笑した。
「そ、そんなに笑わなくたっていいでしょ」
「ちなみに誰推しだ? やっぱ009か? いや違うな。004だろ? 全身武器なあたりが誰かさんとそっくりだしな」
「わ、悪い!」
 ズバリ指摘され、アスカは赤面した。そしたら、そばに控えていたライブラリーまで軽く吹き出した。
「あーー笑った。自分もサイボーグのくせして笑った!」
「……いや、これは失礼いたしました」
 などと謝りながら俯いてプルプル肩を震わせている。もう。
「いやまあ、サイボーグとか存在自体がアニメだけどな」
「余計なお世話」
「お前、パンチとか飛ばさないのか? 定番だろう?」
 ふうまは飛ばせ鉄拳のポーズを取った。もう真面目にやる気がないらしい。しょうがないから馬鹿話に付き合ってやる。
「あれ試したことあるけど意外と使いにくいわよ」
「あるのかよ」
「ま、一応ね。けど腕のロケットだけで飛ばすには反動もきついし初速も足りないし、全身で踏み込んで打てばやれなくもないんだけど、結局それで出るのがパンチだけでしょ? だいたい私、普通に飛び道具持ってるし、風神の術も使えるしさ」
「ルストハリケーンな」
「ルストはないわよ。強酸の風とか面白いけど使いにくそうだし」
 アスカは溜息を吐いた。さっきからアニメの話しかしていない。
「あのさ、ちょっとは真面目に考えてくんない? わざわざ来たんだから」
「悪い悪い」
 ふうまは一応謝ってから、この前の戦いを思い出しているのか、視線をつと上に向けた。
「しかしなあ、装備でも技量でも経験でも負けてたしなあ。しかもあっちは手加減してたし、少々のパワーアップでこれをひっくり返すのは難しいんじゃないか、真面目な話」
「はっきり言ってくれるわね」
 アスカはブスッとした。
 悔しいがこの男の目は確かだ。だからこそ尋ねてきたのだが、そう言われて嬉しくはない。
「いっそ逸刀流でも学んだらどうだ?」
「マダムに聞いたけど免許皆伝クラスだってさ。追いつくまでどんだけかかるのって話よ」
「ライブラリー、なんかいいアドバイスとかないか?」
 ふうまは経験豊富な御庭番を見やった。さっき笑った彼はしごく真面目な口調で、
「アスカ殿、彼を知り己を知れば百戦殆うからずと申します。徒に対決しようとはせず、まずは相手を良く知り、勝てそうであれば戦い、そうでなければ戦わぬことをお考えになるのが肝要かと」
「でも自分より強くて逃げられない相手だっているじゃない? おじさんもそういうことあったでしょ?」
「もちろん何度も御座いました。そのような時こそ生き残ることを第一に考え、今に至っております。それが忍びの務めかと」
 特に力を込めているわけでもないが、その言葉にはベテラン対魔忍の自負と、それでも生き残れないことはあるという覚悟を感じさせた。ふうまも何か思うところがあるのか頷いている。
「めちゃくちゃ普通ね。まあ結局それが正しいんだろうけど」
「恐れ入ります」
「と結論が出たところで、少し稽古でもしていったらどうだ? 手ぶらで帰るのもあれだしな。ライブラリー、ちょっとアスカの相手をしてやってくれるか?」
「かしこまりました」
「やっぱりあんた真面目に考える気ないでしょ? しかも部下に丸投げとか」
 文句を言いつつも、アスカは縁側から中庭に降りた。
 ふうまの御庭番、対魔忍ライブラリー。教えてくれないが、その正体は知っている。先代当主ふうま弾正の腹心だった佐郷文庫だ。
 ふうま一族の反乱がらみで色々あって、つい最近まで特務機関Gに所属していた。
 そしてやっぱり色々あって、今は五車町の最新サイボーグ、対魔忍ライブラリーとしてかつての主人の息子に支えている。
 DSOとGとはなにかと対立しているが、幸か不幸かG時代の彼と直接やり合ったことはない。お互い噂だけは聞いていると言ったところだろう。
 その対魔忍ライブラリーはごく自然な佇まいでアスカの向かいに立っていた。その立ち姿になんとも言えない風格がある。
 見ただけで分かる。強い。
 こういう雰囲気を出せるのはアスカの知り合いで言ったらマダム、井河アサギ、こないだの大人ゆきかぜからも感じた。
「ひとんちであんまり派手なことはしたくないし、飛び道具はなしってことでどう?」
「ご随意に」
 アスカが構えると、ライブラリーも半身になって両手をすっと上げた。そのままピタリと静止する。
 光沢のほとんどない黒鉄色の身体は最初からそのように作られた彫像のようだ。
 二人ともまだ武器は出していない。まずは素手で。といってもアスカの鉄拳はコンクリート隔壁くらい簡単に粉砕する。きっと向こうも同じだろう。
 拳を握ったアスカに対して、ライブラリーはそれを受けとめようとするかのように掌を軽く開いていた。
 隙がない上に、いつでもお好きにどうぞという感じだ。そっちがそのつもりなら、
「はっ!」
 アスカは迷わず自分から踏み込んで左右のワンツー。パンパンと軽やかに払われる。
 まあこれが当たったら話にならない。けれど四肢の駆動は相当に滑らかだ。
 動きを止めずに、そのまま左のロー。お手本通りに膝を上げてガードされた。お手本通りと言っても、そこらのサイボーグなら抑えきれずに足が砕けているところだ。
 アスカはそのまま踏み込んで、ボデイに右の肘。それも柔らかく止められた。でも予想通り。肘から上を跳ね上げて裏拳を顔面に――と思ったら、いつの間にかその腕を決められそうになっている。やばい。
「っとお!」
 アスカはその手を外す方向に側転して逃れる。回ったついでに蹴りで頭を狙ったが、ライブラリーはサッと身を引いて躱した。
 と思ったのも束の間、アスカが体勢を整えようとするタイミングで死角から踏み込んできた。
 右の直突き。疾い。
「やばっ!」
 アスカは斜め後方へと飛んで逃れた。ライブラリーは追撃のために自分も跳躍しようとしている。
 かかった。
「たあっっ!!」
 アスカは足裏に風の壁を作り、それを蹴飛ばして、反転の急降下キック。
「むっ!」
 ライブラリーは素早く腰を落とし、それを十字ブロックで受け止めた。
 鋼鉄の体同士がぶつかり合う重苦しい音が響く。ライブラリーの身体がググッと深く沈んだが、惜しい。うまく威力を殺された。
 アスカは妙なことをされないうちに、相手を踏み台にして後方にジャンプ。距離をとって構え直す。
 ここまでが最初の攻防だ。
「おじさんやるわねー。ボディのバランスはいいし、なによりおじさん自身が超達人って感じね」
「恐れ入ります。アスカ殿もさすがですな」
「だてに“鋼鉄の対魔忍”は名乗ってないし。じゃ第二ラウンド。私について来れる?」
 アスカはボディの光学迷彩を作動させた。その身体がすーっと周囲の光景に溶け込んでいく。
「しからば」
 ライブラリーは慌てず騒がす自分も姿を消した。
 アスカの光学迷彩とは消え方が違う。多分、身体を結晶化させるかして、光を素通りさせている。忍法だ。
 見えなくなったのはお互い様。
 それに相手の動きが捉えれられなくなったわけじゃない。
 アスカは風を読む。
 身体が動くときの僅かな空気の震え、そして常人には聞こえないほどの音が相手の位置を、動きを正確に教えてくれる。
 ほらきた。左から踏み込んできて右の拳。疾い。左手で弾いて、こっちもボディに右。ガードされた。
 ってことは、どういう手段か分からないが、あっちも“見え”てる。そうなくっちゃ。
 試しに右に左に素早くステップして、見えてるならのジャブをフェイントで入れてからの足払い。ほらちゃんと避けられた。やる。
 っと感心してる場合じゃない。今度は向こうからの攻撃。
 左、右と矢のような突き。続いて対角の左下から抉り込むようなフックが来る。どれもこれも早くて重い。もちろんこっちだって全部防ぐ。最後の右膝は左膝で受け、その反動を使って距離をとる。ふふん、どうよ。
「二人とも見えない同士でバシバシやってるのはアニメみたいだが、俺は何も分からないぞ」
 ふうまが呑気そうに言った。まだアニメがどうとか言ってる。あのバカ。
「お館様はああ言ってるけど?」
「確かにお互いに見えているのと変わりなければ姿を消す意味がありませんな」
「まあねっ!」
 別にふうまに見せるためという訳ではないが、アスカとライブラリーは正面からガシンとぶつかり合い、お互いに手を組んだ状態で姿を現した。プロレスで言う手四つ、力比べの体勢だ。
 アスカのアンドロイドアーム&レッグと、ライブラリーのフルアンドロイドボディがミシミシと軋んだ音を立てる。
「パワーも互角のようですな」
「って思ったなら甘いわ、おじさん!」
 アスカは力比べを拮抗させたまま、さらに両手両足のパワーバランスを超高速で変化させた。
「むっ」
 ライブラリーが僅かに唸る。
 彼女の四肢の駆動速度にボディがついてこれない。重心がぐらりと崩れる。いける。
「やあっ!」
 アスカは柔道で言うところの隅落とし、別名空気投げの要領でライブラリーを捻り投げた。
 つもりだったが、その身体が綿のように軽い。自分から飛んでわざと投げられている。ミスしたときのフォローが早い。
 アスカは追撃を加えようとしたが、地面に手をついたライブラリーの身体がぶうんと旋回し、カポエイラのような蹴りで彼女を牽制しながら、その動きで素早く身を起こしている。
「ふうまの古武術がベースかと思ったら、そんなダイナミックな動きもできるんだ。ほんとやるわね。でもボデイの制御にかけちゃ私の方が一枚上みたいね」
「感服しました」
「まあねー」
 アスカは自慢げに言ったが、内心では戦々恐々としていた。
 まっずいわね。
 この“感じ”、マダムや大人ゆきかぜとやったときとよく似てる。
 なんかこっちの動きが読まれてるっぽい。先手をとってもそれで防がれちゃう。そんな分かりやすい動きしてないんだけど。キャリアの差かあ。
 身体の制御はまだ私の方が上みたいだし、思い切って組んでみたんだけど、今の投げで決められなかったのは痛いなあ。さあてどうしよう。
 アスカにしては珍しく次の攻め手に迷っていると、ライブラリーの背中側にいるふうまがアスカに視線を送ってきていた。
 え? なに?
 その手が細かく動いている。ふうまが部隊を指揮するために使っているハンドサインだ。この前の一件でも見せていた。
 その時は読み方が分からなかったが、ふうまが大人ゆきかぜに「忘れてないだろうな?」と聞いて、彼女が「忘れるわけないでしょ」と言った顔がものすごく嬉しそうで可愛くて、「あ、いいな、羨ましい」と思って、もちろんそんなこと言わなかったけど、後で教えてもらったのだ。
 それはともかく、私に味方してくれるんだ。で、作戦は――ふうん、面白そうじゃない。
「ふうま! 飛び道具はなしって言ったけど、家とか壊さなかったら別にいいわよね!」
「おいちょっと待て! 何するつもりだ!」
「すぐに分かるわ!」
 アスカは両手からブレードを出し、さらに風の力で宙に舞った。
 ライブラリーも腕のブレードを出し、上空からの攻撃に備える。
「それでどうなさいます?」
「こうするのよ、陣刃!」
 ブレードを勢いよく振り下ろす。圧縮した風の刃を上から叩きつける。
「ふむ」
 ライブラリーのブレードが一閃した。見えない刃が両断される。風が割れるときのボシュっという奇妙な音が響き渡る。
「一発でダメなら、陣刃乱舞!!」
 アスカは二発、三発と立て続けに陣刃を繰り出した。
 ライブラリーはそれらを全て捌いていく。逃げようと思えば逃げられるだろうが、そうすると庭が傷ついてしまう。御庭番としてそれはないと踏んだ。
 案の定、その場に止まってアスカの陣刃を一つ一つ切り捨てている。飛び散った風で地面に幾つもの亀裂が走ったが、家屋はもちろん植木などは無事だ。流れ弾が飛んで行かないようにちゃんと気を遣っている。これも予想通りだ。
「急に攻撃が雑になりましたな」
「もうチマチマやりあうのが面倒になったの! でやああ!」
 アスカは一際大きな陣刃をぶちかまし、それを防ぐために身動きが取れなくなったライブラリーに急降下攻撃を仕掛けた。
「甘い!」
 ライブラリーの気がぐんと膨れ上がった。
 赤熱したブレードで風の大刃を両断し、アスカの蹴りを寸前で躱して、カウンターを決める。
 つもりだったのだろう。分かる。でもさせない。
「む!?」
 ライブラリーが足を取られていた。いや、取られたというほどじゃない。本来の動きよりほんの少しだけ遅くなった。
 理由は風だ。
 アスカが上からばら撒いて、全部切られた風の残りが練達の足捌きをこっそり邪魔したのだ。
「風神・空裂嵐!」
 虚をつかれたライブラリーにアスカの旋風蹴りが炸裂する。
 さすがに直撃は防いだものの、さっきと違ってその威力を殺しきれず、ライブラリーはたたらを踏んだ。その喉元にブレードを突きつける。
「勝負ありね」
「参りました」
「やったあ」
 ガッツポーズをするアスカにふうまがいきなり文句を言う。
「お前やりすぎた。庭がえらいことになってるぞ」
 確かに最後の大陣刃と空裂嵐の余波で地面のあちこちが抉れている。庭木もちょっと折れたりしていた。
 あ、まずいかなーと思ったアスカだったが、ここは腕組みして強く出る。そもそも、
「ふうまがああしろって指示したんじゃない。わざと風を防がせてこっそり足止めしろって。技の廃物利用とかセコいやり口がいかにもふうまね。でもちょっと参考になったわ、ありがと」
「ここまでやれとは言ってない。すまん、ライブラリー。庭を直すのは手伝う。もちろんアスカもだ」
「えーー、私もやるの?」
「当たり前だ」
 結局、アスカはそれから数時間、ふうまと二人、庭の修復を手伝う羽目になったのだった。


「よし、これでだいたい元通りっと」
 アスカは手足についた土埃をパンパンと払って庭を見渡した。
 ごっそり抉れていた地面を元に戻し、折れていた庭木を専用の接着剤でくっつけたり結んだりと、その修繕の後は残っているが、ぱっと見は元通りだ。
「まあ、こんなもんだな」
 ふうまがとんとんと腰を叩いていた。年寄り臭い。でも一人だけ生身だから多分一番疲れている。ちょっと悪いことしたなあと思いつつ、アスカは彼でなくお庭番に言った。
「ライブラリーのおじさん、ごめんなさい。今度はやるときはもっと広いとこでね」
「それがいいようですな。お二人ともお疲れ様でございました。ご協力に感謝いたします」
「じゃあ私、帰るわ。ふうま、今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかった」
「なんだ。飯くらい食っていけよ。腹減ったろ」
「ありがと。でもやめとく。手足汚れちゃったからちゃんと洗いたいし」
「そうか、またな」
「またお越しくださいませ」
「うん、じゃあね! とおっ!」
 アスカは風神の術を使って浮かび上がり、そのままびゅーんと飛び去って行った。
 颯爽と言えば聞こえはいいが、大胆すぎる帰還にふうまが呆れた声を出す。
「せめて歩いて帰れよな」
「あれでは002ですな」
 ライブラリーが真面目な顔で言う。
「実は結構好き?」
「私にも少年時代はございましたから」
「ごもっとも。ところでさっきの模擬戦、ひょっとして俺たちの作戦に気付いてたんじゃないか?」
「お館様同様、未来ある若人を導くのは年長者の務めにございますれば」
「ライブラリーには叶わないな」
 一礼する御庭番にふうまは苦笑し、アスカが飛んでいった夕焼け空を見上げた。

 

(了)

 

 

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【制作後記】

 本作は“鋼鉄の対魔忍”こと甲河アスカのショートストーリーで、大人ゆきかぜをヒロインにした『雷神の対魔忍』の後日談になっている。

 彼女の初出は、私がメインシナリオを担当したゲーム『対魔忍アサギ3』からで、マッハパンチに風神ブレード、滅殺マシンガンに皆殺しミサイル、そして必殺のアクセルモードに対魔超粒子砲と戦闘は一人で全部こなし、光学迷彩で隠密行動もお手の物、ジェットスクランダーもなしに空を飛ぶというスーパーガールで、ゲームではアスカルートの主人公もつとめている。

 ただ、その一人で何でもできるキャラが災いしてか、作中では単独任務についていることが多く、チームプレイが基本の対魔忍RPGでは今ひとつ出番がない。出てもちょい役で、イベント新キャラのサポートに回ることが多い。

 彼女視点のイベントとなった『降ったと思えば土砂降り』でも、プライベート用の武装のない手足をつけて能力を制限している。それでも竜巻とか普通に起こすのだが。

 そんな彼女が『雷神の対魔忍』では大人ゆきかぜに負けるという珍しい展開になった。せっかくなのでその後日談を作ってみた。

 むろん、非公式であり、アクセルモードや対魔超粒子砲の設定その他は適当である。本編と違っていても勘弁して貰いたい。

 2021年はその本編の方でもアスカが活躍することを期待している。

 

対魔忍RPG 『二人の魔界騎士』 制作雑感

メインクエスト31章『二人の魔界騎士』はタイトル通り、魔界騎士のリーナとイングリッドにスポットをあてたイベントだ。
リーナを主人公として、今まで語られてこなかった彼女の過去、特に尊敬するイングリッドとの関わりを描いている。
いずれどこかでやりたい話だったので、オフィシャルで担当することができて嬉しい。

 

リーナとイングリッド 、二人の運命的な出会い。それは忘れもしない――おっと焦りすぎだ。まずはリーナの日常からお話は始まる。
これまで私は、『降ったと思えば土砂降り』において、リーナのプライベートでの謎の行動を描いたことがあり、また『魔界騎士と次元の悪魔』では、ヨミハラ全土を揺るがした危機に敢然とブロマイドを差し出すリーナを描いたこともある。

その一方で、普段あの子がヨミハラで何をしているかはまだちゃんと書いていなかった。

ただ、他のイベントなどにちょくちょく出没しては、治安維持のために頑張ったり勘違いしたりずっこけたりしているので、導入としてその仕事ぶりを少し丁寧に見せることにした。

それを通してリーナとヨミハラの住人たちとの関係も描こうという目論みだ。

 

最初に出てくるのは凄腕オーク傭兵のアルフォンス。彼ももうお馴染みだ。
リーナとも知り合いで、他の傭兵にもイングリッドとは少し意味合いが違うが、魔界騎士としてしっかり恐れられている。

以前、アスタロトにあっさりやられたりしているリーナだが、あれは『ファイブスター物語』の一巻でデコースくんが神様トリオにボコられたようなもので、獄炎の女王を相手にしてドリフの爆発オチで済んでいる時点で相当の強者のはずだ。

 

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この変な歌はノマド節。

大正時代に流行した『東京節』またの名を『パイノパイノパイ』の替え歌だ。

トロールのラップも考えたのだが、なにか違う気がしたのでこちらにした。

ちょっと前にはアニメ『大正野球娘。』の中で歌われていたし、昔からロッテのパイの実のCMでやはり替え歌として使われているので、耳にしたことがある人もいるはずだ。

パイノパイノパイは別にオッパイのことではなく、原曲からあるフレーズで、単なる囃子言葉らしく意味はないようだ。ただリーナも脱いだらすごいので、オッパイのことだと考えても差し支えはない。自分で歌うのはどうかと思うが。

一応、ちゃんと歌えるようになっているので、YouTubeから原曲を張っておく。元の歌詞にある「すし、おこし、牛、天ぷら、スリに、乞食に、カッパライ」とカオスな大正時代の東京がヨミハラを思わせなくもない。

 


東京節(パイノパイノパイ)

 

一曲歌い終えると、街中で起こっている喧嘩を発見する。

ここのトラブルはなんでも良かったのだが、まずはドンパチ以外のことにしたかったのと、まだイベントに登場していないキャラを出したかったので、設定ではヨミハラにある中華料理屋の看板娘、陳春桃(チンシュンタオ)が店先で揉めていることにした。
中華は火が命なので、喧嘩の相手は火の用心のためになにかと登場している炎王にお願いした。ヨミハラの安全のため、いつも前のめりで頑張っているという点ではリーナの仲間だ。

 

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その後に出てくるメルシーケイリーナーサラとの絡みは、先に実施された『ある日のヨミハラ 』の内容を受けたものになっている。
あちらは私の担当ではないが、公開時期が近かったので、その後の話ということで取り入れている。
特にケイリーはリーナに傘を貸してもらったというとても良いエピソードであり、それをわざわざ返しにくることでケイリーのキャラも見せられる。アスカという共通の知り合いもいるので話も膨らませやすい。出さない手はない。
『ある日のヨミハラ』では、ケイリーの戦う場面がなかっことだし、せっかくなので飛び入りで戦闘に参加させた。
エレクトリックパンチというストレートすぎるネーミングはアスカ譲りのセンスだろう。感電パンチとかいって、上りと下りがありそうな必殺技を使わないだけマシだ。
そのアスカが持っている対魔忍の男の子の写真とは言うまでもなくふうま君だ。
『怒れる猫と水着のお姉さま』の時と同じく、またしても本人のいないところでふうま君への好意をバラされている。前回の記事でいずれ埋め合わせをと書いたそばからやってしまった。アスカごめん。そのうちな。

 

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そんな感じでパトロールを無事に終えてノマド基地に帰還すると、イングリッドのところにドロレスが来ている。
彼女は『ヨミハラ大納涼祭』以来の登場なので、その時に二人で撮ったイングリッド の写真で盛り上がってもらった。
また出てきたリーナお手製のブロマイド、さらには部屋の大パネルと、さすがの最強の魔界騎士ももう諦めている。
このへんのくだりは書いてて楽しかったが、もちろんこれは繋ぎのワンクッションで、イングリッド組のブレーンのエレーナが飛び込んできて事態は急変する。

ヒュドラの出現だ。

 

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今回の話のメインとなる二人の過去とは別に、現在の方でもヒュドラが出ました、倒しましたではあんまりなので、リーナにとって因縁の相手ということにしている。
憧れのイングリッドと共に最初に戦った相手、しかも己の未熟さのために倒すことができなかった相手だ。そりゃ焦りもする。
画面ではいつもと同じ桜嵐舞闘のドヤ顔をしているが、いつもとは別人のような険しい顔をしているのである。そこは心の目で見てもらいたい。

 

そんなこんなで、リーナが焦って自分の身を傷つけてしまったところから過去シーンへと入っていく。
ここはイングリッドとの出会い、修行時代、再会と三部構成になっている。
書こうと思えばいくらでも書けるが、あまり盛り込むとバランスが悪くなるので、今回は「魔界騎士に私はなる!」というテーマに絞っている。

導入はイングリッドと出会う前、リーナが雑種と呼ばれて蔑まれていた頃からだ。
何気に重い設定だ。この子、設定だけなら普通に主人公をやれる。
実はかつての英雄の子だったとか、すごい隠し能力があったとかでもないので、主人公は主人公でも一昔前のタイプだ。
こういう子の成長譚には敬愛する師匠との別れが鉄板なのだが、それを考えると悲しくなってしまうのでやめておこう。

 

ともかく、リーナが貴族のお屋敷でこき使われていて、意地悪なお嬢様の相手をさせられている境遇にするとして、そのお嬢様をどうしようか迷っていた。
ビジュアル的にはもちろん立ち絵が欲しい。しかし悪役だし、ここ一回の回想のために新キャラを作ってもらうのも気が引ける。
誰かいい人いないかなあと、今までのキャラを端から見ていったら、ぴったりなのがいた。
セルヴィア・ローザマリーだ。
その頃はまだ実装されていなかったが、元名門貴族のお嬢様で、下級貴族の反乱によって家が滅び、一人だけ生き残ってお家再興のために頑張っている努力家。しかもリーナの苦手な犬を連れている。ちゃんと絵にも犬がいる。

素晴らしい。まさにリーナの過去のために作られたようなキャラだ。

 

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セルヴィアが貴族のお嬢様でいられた頃、リーナに色々やっていたことにしよう。
ネームドキャラなので、ただの意地悪なお嬢様というのはやめて、リーナのことを馬鹿にしつつも、内心ちょっと気にしていて、家に転がっていた風の魔剣を与えたりもする。
そして家が滅んで一人になってから、風の噂でリーナが魔界騎士になったことを聞き、あの子には負けられないと努力している――てな感じで、後半は妄想だがリーナの過去に絡めたセルヴィアの話もできそうだった。
特に風の魔剣の出どころをどうするかは悩みどころで、過去シーンで使うリーナの立ち絵では持っているが、そんなものおいそれと手に入れられるはずがないので、セルヴィアの気まぐれでもらったということにできてラッキーだった。
そういうわけで、過去シーンはリーナのモノローグから入り、セルヴィアがあれしろこれしろとわがままを言っている場面に続き、その流れで剣をもらってからリーナの立ち絵が出てくるようになっている。

なお、セルヴィアの口調はこれが過去で、かつ使用人相手ということもあり、現在のそれとはちょっと変えている。

 

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そして、晩餐会。
リーナとイングリッド、運命の出会いだ。
自分を馬鹿にせず、剣の稽古をつけてくれて、今までにない視点と魔力の使い方を教えてくれて、すごい技を見せてくれて、魔界騎士になりたいという願いを認めてくれて、いつか共に戦おうと励ましてくれた。
自分で書いておいてなんだが、てんこ盛りにもほどがある。これで憧れなかったら嘘だろうという大盤振る舞いだ。
もしかしたら、実際はこんなにキラキラしておらず、イングリッドにしてみれば、退屈して外に出てみたら、ちょっと面白い子がいたので、少し相手をしただけなのかもしれない。
しかし、これはリーナの回想なので端から端までイングリッドが光り輝いていていいのだ。
まんが道』で、初めて主人公たちが手塚治虫に会った時も、先生は宇宙まで背負ってキラキラしていたではないか。憧れとはそういうものだ。

 

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回想の二つ目はリーナの武者修行時代だ。
小さな傭兵団の女剣士、荒くれ者どもの中で頑張っている。実力もついて仲間として認められているが、魔界騎士を目指していることは笑われている。いつかイングリッドに再会する日を夢見ている最中、彼女が魔界騎士にあるまじき行動をしたという噂を聞いた。
そんな感じのつなぎの話であるが、ここでもネームドキャラを出したくなった。
さあ誰にしようか。できれば、今まで絡ませたことのない意外な人物がいい。
志を同じくする剣士、ライバルとかでもいいなと探していたら、とんだ盲点のキャラがいた。
リーナと同じく旭氏が作画を担当していて、決戦アリーナのころから氏の二枚看板とも言えるキャラクター、リリス・アーベル・ビンダーナーゲルその人だ。

 

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対魔忍RPGのイベントでもしばしば登場しているが、実はこの二人、まだ本編中で絡んだことがなかった。
そのわりに、なんとなく二人はとても仲良しというイメージがすでにある。一緒にコタツで蜜柑食べてるとか。

私も今さら二人の出会いを書いて、「あなたのお名前なんてえの?」とかソロバン片手にやるのもなあと思っていた。
そこに渡りに船のリーナの過去だ。
もう本編が始まる前からずっと知り合いだったことにしてしまおう。
二人ともまだ未熟だが、リーナは魔界騎士、リリスは偉大なお婆さまの名を次ぐ二台目と、なりたい自分になるために頑張っている。
互いに励まし合う心の友、それでいいじゃないかということで、リリスの登場となった。

それと個人的には、冒頭でリーナを褒めている傭兵団の団長がいぶし銀でちょっと気に入っている。

 

回想の最後はイングリッドとの再会だ。
リーナは傭兵団を出て、リリスとも別れ、一人修行を続けている。
もうこの時点で一線級の実力で、千突きやヴァニッシュといった技を使いこなし、たった一人でならず者たちを蹴散らせるほどだ。
現在のリーナを見ていると、常にノリと勢いで行動しているようだが、今回の過去エピソードで、実は様々な経験を積んでいる百戦錬磨という側面を追加した。
というより、雑種と呼ばれる存在から最強の代名詞である魔界騎士にまでなったのだから、そこらのエリート魔族とは比べ物にならない経験を積んでいるに決まっている。残念ながらそれがあんまり表に出てこないだけだ。

 

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ともあれ、イングリッドとの再会は劇的なものにしたかったので、いきなり自分の技に炎がプラスされるという登場の仕方になった。リーナにとってはまたキラキライングリッドだろう。
彼女と同じくヒュドラを倒しに来たイングリッドに同行して(今と違ってイングリッドが先を歩いてるのがミソだ)、リーナは実戦で初めて見たその強さに感激し、イングリッドもリーナの成長に満足して、二人でヒュドラに挑むものの、頑張りすぎたリーナのミスで撤退を余儀なくされる。このへんはまあオーソドックスな展開だ。

 

このシーンのキモは、イングリッドが魔界騎士としての自分の確たる思いをリーナに告げて、それに感銘を受けたリーナがイングリッドに助けられた後、彼女のそばで自分なりの魔界騎士を目指そうと決意するところなので、ヒュドラは因縁の相手ではあるが完全な脇役だ。

脇役なので、神格級の魔獣という肩書きには申し訳ないが、ラストバトルではヒュドラにあっさりやられてもらった。
だいたい、リーナとイングリッドの二人を相手にしたときも結構苦戦していたのに、その頃より力を増した現在の二人に加えて、エレーナ、ドロレス、その他ノマドの女戦士たちを揃えた精鋭チームに勝てるわけがない。

 

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最後はリーナの見せ場だ。
初めて出会ったあの夜、イングリッドに教えてもらった技を長年かけて必殺技まで昇華させた、名付けてセブンズ・ハリケーンが炸裂する。

上の画像はそのモチーフ、決戦アリーナで最後に実装されたリーナのカード、【七衆の嵐】リーナだ。

イングリッド様直伝の技」という口上から始まって、自分で「超必殺」と言いつつ、とどめはイングリッドに任せるあたり、とてもリーナらしくなったと思う。
次あたりでリーナの新ユニットの奥義にならないだろうか、期待している。

 

エピローグは、セルヴィアが実は死んでおらず、リーナも既にそれを知っていて、これから彼女のお茶会にリリスも来る予定という仲良し関係を示して終わりだ。
そうそう、現在のセルヴィアはいかにもお嬢様っぽい口調で喋っているが、リーナに対してだけは昔と同じように接していると思う。
もちろん内心では、本当に魔界騎士になったリーナを尊敬していて、昔のことも謝りたいが、素直にそれができるような性格ではなく、無理して昔通りわがままに振る舞っている。リーナも別にそれを気にしておらず、今も普通にお嬢様扱いしてくれるので、ますます引っ込みがつかなくなって、謝るタイミングを逃して心の中がグルグル状態。
そんなセルヴィアを想像すると楽しい。

 

最後になるが、今回のリーナイベントでは旭氏による同人誌『対魔忍アサギ設定アリーナ』から色々なネタを使わせてもらっている。ここで感謝の意を示させていただく。


これは素晴らしい本で、風の魔剣の謂れなどそのまんまだ。銘を刻まずに布を巻いたまま使っているという設定など実にいい。
なぜ自分の銘を刻まないのか?
セルヴィアの形見だから。

とても大切な剣なので、彼女が生きていると分かった今でも、もらったそのままの形で使っている。
てな感じで、一本の剣の設定からリーナらしいエピソードができあがった。
この本だけでなく、旭氏のTwitter画像やpixivなどから色々なイメージをもらっている。
このIFリーナなどは最高だ。 

 

ポンコツを捨て、哀しみを背負った黒翼の魔界騎士。

けれどイングリッドはもういない。腰には形見の魔剣ダークフレイム。

てな感じで、大人ゆきかぜの世界に出てきそうだ。

 

そしてとどめのこれ、イベント実装後に素晴らしい絵を描いてくれた。

感無量とはまさにこのことだ。

  

 

しかもこれよく見ると、風の魔剣にもう布を巻いていない。

つまり、

「なに私がやった時のままで使ってるのよ。

 魔界騎士になってもリーナはリーナね。ダメダメなんだから。

 さっさとよこしなさい。しょぼい名前くらい私が刻んであげるわよ」

 で、かつては使えなかった家伝の秘術「ローザ・プリズム」を駆使してそれを刻み、そんなことはおくびにも出さず、さも適当にやったという顔をして、

「ほら、あなたの剣よ。さっさと持っていきなさい」

 と昔は放り投げた剣をちゃんと手渡しする。

「ありがとうございます、お嬢様!

 うわあ、私の名前がこんなに華麗に!!」

 え? ほんと、嬉しい、頑張った甲斐があったわ。

 と顔が緩みそうになるのを無理して堪えて、

「当然でしょ。この私がやってやったんだもの。感謝しなさい。

 あ、あとね……その……昔あなたに色々しちゃって……ご、ごめ……(超小声)」

「え? なんですかお嬢様?」

「な、なんでもないわよっ!」

てな感じのエピソードまで、あの絵だけで想像できるではないか。

実に楽しい。

そんな風にいつもキャラを魅力的に描いてくれる旭氏に改めて感謝しつつ、今回の制作雑感を終えることにする。

ではまた。

 

 

 

対魔忍RPG 『雷神の対魔忍』 制作雑感

『雷神の対魔忍』はついに登場の大人ゆきかぜが主役となるイベントだ。
その元ネタは葵渚氏がTwitterで公開したこのラフだ。

 

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トレードマークのツーテールをばっさり切っていることといい、なんという冷たい目をしているんだ、この世の地獄をすべて見てきたような目といい、あれこれ想像を逞しくするにあまりある素晴らしい一枚だ。
私も以前、このゆきかぜで話を作るとしたらという妄想を書き連ねてみたりしていたので、イベント担当になってとても嬉しい。
そんな思い入れもある上、ストーリー自体が私の好きな王道話なので語り出すと止まらなくなってしまう。
というわけで、どのへんを特に重視して書いていったかを中心に語っていきたい。

 

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まずは大人ゆきかぜのクールな強さだ。
強い。絶対に強い。
ライトニングシューターがもはや必要ない*1なんてのは序の口で、レーザーみたいな雷撃をぶっ放すわ、雷の剣で逸刀流を使いこなすわと、未来のアドバンテージがあるとはいえ、今のアスカを手玉に取っている。

どれくらい強いかというと、覚醒アサギはどうだか分からないが、現在のノーマルアサギよりは強いくらいのつもりで書いている。

手元の資料には、葵渚氏による技のラフデザインもあり、こっちはこっちで例えるなら多くの女たちの哀しみを背負った夢想転生状態というか、そりゃもう痺れるほどカッコいい。
そしてカッコいいだけでなく、その繰り出す技を会得するに至った過去(未来だが)をあれこれ想像させる代物になっている。
なぜ逸刀流を使えるのかとか、アスカ以外の対魔忍はどうなったのかとか色々書きたくなってしまう。シナリオでもそれを匂わすようなセリフを散りばめてみた。

 

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大人ゆきかぜの積もり積もったふうま君への想いも重視したところだ。
最初は思わず抱きついたりしてるが、その後は感情をひた隠しにしてクールな未来戦士として振る舞い、だけど最後にはかつての熱い想いを取り戻して大勝利、そして別れのキス。
いやもう王道すぎて本当に書きがいがあった。

「さあ行くんだ、その顔をあげて」てなもんだ。いいよね、ああいう別れのシーン。


今までのエピソードから「私はふうまの銃」というとっておきのセリフも使えたし、お正月イベントで実は写真を撮っていたという話も追加できた。私は運良く元のシナリオを両方とも担当しているので感慨もひとしおだ。
写真の回想シーンではふうま君の姿がないと間が抜けてしまうので、去年のお正月の時点ではなかったふうま君の立ち絵があってよかった。
古びた写真だけを残していくというのは、やはり悲惨な未来からのタイムトラベル物の基本『ターミネーター』へのオマージュといったところだ。

 

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そして、大人ゆきかぜの心情に関連して、彼女にとっての過去のエピソード、つまり鹿之助やふうま君が殺されてしまう場面や、未来から出発する場面なんかを断片的に書いている。
そういう過去があったのは最初から決まっていたが、それをどう表現するかは指定されていなかったので、アルサールに会った瞬間に想起した大人ゆきかぜの回想風にしてみた。
大人ゆきかぜの視点になってるところがミソで、彼女がふうま君にはあえて語らないことをプレイヤーだけには伝えている。
そうすることで、大人ゆきかぜの気持ちに寄り添ってもらうのが狙いだ。回想ってのはこういう風に使いたい。

 

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とはいえ、冷たくなっているふうま君を前にしたゆきかぜ、さくら、蛇子のセリフを考えるのは結構辛かった。それぞれたった一言だけなのに書いててちょっと凹んだ。
一方、訳もわからず鹿之助が最期に口にするのが、ふうま君と姉ちゃん(上原燐)というのは、私の中からごく自然に出てきた。姉ちゃんはいいとして、ふうま君のほうは別にBL展開とかではない。なんとなくだ。

 

ところで、未来で大人ゆきかぜと話しているアスカの姿が出てこない。なぜか?
絵がないからという身も蓋もない理由はおいておいて、ここはあえて姿を出さなかった、姿を出せない理由があったと思いたい。
例えば、すでに対魔粒子コンピュータ内だけに存在する人格*2だとか、ちょうどスーパー改造中で動けないとか、なにか大人ゆきかぜとは一緒に行けない理由があるのを匂わせるつもりで、アスカのセリフは普通の「  」ではなく、『  』を使っている。
もっとも、もし未来編をやることになったら、アスカにもちゃんと出てきて欲しい。そのときの整合性? 知らん。

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未来アスカについても葵渚氏が色々とツイートしている。魔族ロリ ロボその他、どれも書き甲斐がある。個人的には魔族化がいい。

 

一緒に行けないといえば、クリアも東京キングダムに行くのを大人ゆきかぜに止められている。
最初はふうま君を呼んでくるだけだったが、あの流れで留守番というのはあり得ない。絶対に行きたがるはずだ。
行かないなら行かないだけの理由が必要だろう。そのへんを考えてドラマを盛り上げるのがシナリオの醍醐味でもある。
というわけで、大人ゆきかぜに母性全開で止めてもらった。
アニメなら、クリアを抱きしめている大人ゆきかぜを出崎統ばりのハーモニー処理でビシッと決めたい場面だ。

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ここらへんの会話で、大人ゆきかぜがジュノを懐かしがっているが、別にジュノまでアルサールに殺されたとかではない。

神様のジュノは、良くも悪くも覚えている人間のふうま君が死んでしまったので、わざわざ出てこなくなっただけだ。婚姻の誓いどころじゃないしね、未来。

そういう神様がらみのドタバタも起こらなくなり、今思えばあれはあれで楽しかったなといった気持ちで、大人ゆきかぜは「懐かしいな」と言っている。

 

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さて、大人ゆきかぜの洗練された強さを見せつつ、実はいきなり死ぬことになっていた鹿之助のピンチを救って、三人で東京キングダムに行くことになる。

まずは、ふうま君と大人ゆきかぜのトークタイムだ。
未来のことを話させようとするふうま君に対して、大人ゆきかぜは素っ気ない。

一緒に東京キングダムに来たのが実は初めてであること、今と未来の街の変わりようなど、ふうま君は色々と水を向けるのだが、あいまいな返事しかしてくれない。

その会話も、年齢のこととか聞いたせいでいきなり終わってしまう。

SF的にどれだけ未来かはとても重要なので、ふうま君の気持ちはよく分かるが、「いまいくつなの?」とか聞いて答えてくれるわけがない。

しかし、実はいい線をついていた。

ふうま君は「なんにも話す気がなさそうだな」とか言っているが、違う。
懐かしい馬鹿話に胸がいっぱいになり、つい話してしまいそうになって離れたのだ。
だから直前でむっふーー顔をしている。そこに気づかないとは、つくづく鈍感な男だ。

 

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そして休憩タイムになると、大人ゆきかぜは自分からとっとと消えてしまう。ふうま君と話すと決意が鈍りそうでヤバいからだ。

ほったらかしにされた二人のおやつのくだりは、シナリオのときにアドリブで追加した。

鹿之助がゆきかぜに疑念を抱いていて、ふうま君がその迷いを解くというやりとりはプロットのままだが、書いていてセリフだけでなく何か具体的なアクションが欲しくなった。

それが隠れてしまったゆきかぜにおやつを分け与えるという行動だ。同じ釜の飯を食った仲間というあれだ。

これまで任務中のおやつシーンなどやっていなかったが、逆にやってないのをいいことに、実は裏でおやつを食べてましたということにしている。忍者なんだから行動食くらい持ってるだろう。

ゆきかぜが甘納豆を好きという元ネタは、新田次郎の山岳小説『孤高の人』だ。
そのモデルにもなっている登山家、加藤文太郎が行動食としてやたらと甘納豆を食べている。
ゆきかぜはああ見えていいとこのお嬢さんなので、スーパーで売ってるような安い甘納豆でなくて、『銀座鈴屋』あたりの高い甘納豆を食べているに違いない。
私もたまにしか買わないが好きだ。上品でいてしっかりとした甘さもさることながら、彩りも綺麗で楽しいので贈り物としておすすめだ。

 

今回のメンバーにいないので書いていないが、さくらは輸入食材店で見たことのない変なお菓子を買ってきて、そのつど当たりだの外れだの大騒ぎしている気がする。
蛇子はバレンタインの一件でも分かるように、味覚がちょっと変わっているようなので、練乳チューブを直にチューチュー啜っていたりすると面白い。
きらら先輩はふうまのためにクッキーを作ってみたりするが、色々考えすぎてまだ一度も持っていけていないとかがよく似合う。
アスカはサイボーグ専用のとてもまずい固形食糧とかを持っていそうだ。そしてふうま君に味見させて喜んでいる。

 

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おやつのあとは米連の秘密基地に突入だ。
ここで大人ゆきかぜがアスカ、仮面の対魔忍と連戦することになる。
あそこのバトル描写にはちょっと気を使った。
大人ゆきがぜが圧倒的に強いのは大前提として、その上で他の二人があまり弱く見えないようにしている。
そこで、強さの形にも色々あり、
戦闘力の数値なら、大人ゆきかぜ、アスカ、仮面の対魔忍の順。
パワーやスピードといった基本スペックなら、アスカ、大人ゆきかぜ、仮面の対魔忍の順。
戦いの年季なら、仮面の対魔忍、大人ゆきがぜ、アスカの順。
といったイメージで戦闘シーンを組み立てている。

 

大人ゆきかぜが仮面の対魔忍に使って避けられた『浦波』は、凜子先輩が主役のイベント『奪われた石切兼光』で、逸刀流の剣士が使っていた技だ。

今回は名前だけであまり細かく描写していないが、要するに忍法を併用した佐々木小次郎燕返しだ。「とりあえずぶっ放せ」のゆきかぜがこんな技を使うようになるとは感慨深い。

アスカは戦闘用の立ち絵が色々あるし、仮面の対魔忍の空蝉はドローンで表現できる。
そして、大人ゆきかぜが使う完璧超人の最大の秘密兵器サンダーサーベルときて、画面の見た目もスペシャル回に相応しいものになったと思う。

 

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その後は、いよいよ新生アルサールの登場だ。
さっきの強さの分類で言ったら、こいつは基本スペックだけが異常に突出していることになる。
そして、ただそれだけの人類を舐めているバカなので、バトルの展開はあえて単純なものにし、ふうま君の策略にまんまと引っ掛かってやられている。
その前座となるパズズ軍団も新規デザインであるにも関わらず、大人ゆきかぜと鹿之助のコンピプレイで瞬殺するという贅沢な使い方だ。

ここの見せ場は、大人ゆきかぜが『ふうまの銃』であったことを思い出し、懐かしいハンドサインに歓喜して、アスカとダブルで大技をぶちかますところなのでそれでよい。

ターミネーター2』のように凍らされたアルサールが、「貴様たちはなんなんだ!」と、今度は『プレデター』のように絶叫するのに対し、ふうま君が「俺たちは対魔忍だ」と答えるところなどは書いていて楽しかった。
最近、感度3000倍のネットミームみたいになってきている対魔忍だが、そういうワードをここぞという場面で使うのは気持ちがいい。
蛇子が言うところの「ふうまちゃんって、たまにカッコいいこと言うよね」というやつだ。

 

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そして、キスからのお別れ。
最初にも書いたように、大人ゆきかぜは色々な想いをふっきって帰っていく。

目の前でキスを見せつけられ、鈍感男子二人にその心情を説明する羽目になって、今回もアスカごめんという感じではある。いつか埋め合わせをしてあげたい。

イベントはそこで終わっているが、翌日すぐまた現れて、
「ふうま、一緒に来て欲しいの!」
「どこへ?」
「未来へよ!」

てな感じで、稲妻と共に二人が消えていくという『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なオチはやっぱり考えた。
それをやると、To Be Continuedになってしまうので自重したが。

今後、ふうま君が未来に行くかどうかはさておき、ダイジェストですませていた未来の過去話はちゃんとやりたいところだ。
今回、プレイして思い出した方も多いだろうが、ドラゴンボールのTVスペシャル『絶望への反抗!!残された超戦士・悟飯とトランクス』みたいな形がいい。期待している。

 

さて、五車祭でいよいよ大人ゆきかぜが実装されることになった。

そのエロシナリオも私が書いている。

笹山氏がツイートしている通り、イベントの後日談だ。

このイベントをやっておいて、後日談が書けないのはやはり寂しいので、担当できてとても良かった。

そして、ユニットの戦闘アクションで、イベントでは絵なしだったトールハンマー・ネイキッドの真の姿が明かされるはずだ。

実はイベントで披露したのはトドメの一撃で、幕の内一歩のデンプシー・ロールがそれ単体ではなく、リバーブローガゼルパンチのコンビネーションから繰り出されることで完成するように、トールハンマー・ネイキッドもその前段階となる技があって、それは冒頭でも述べた大人ゆきかぜの過去を想起させるものになっていると思う。

いつものことだがとても期待している。

後はガチャで当てるだけだ。

 

では、今回はこのへんで。

*1:あれは大きすぎるゆきかぜの力を抑えるためのリミッター

*2:漫画版の仮面ライダー1号状態

対魔忍RPG 『コーデリアのふたり姫』 制作雑感

メインクエスト27章「コーデリアのふたり姫」はlilithのゲーム「監獄戦艦2」を元にしたイベントだ。
発売は2010年。その時はメインでシナリオを書いている。その縁で今回の担当になったのだろう。
お題は、ふうま君が監獄戦艦2の世界に行って色々あって、戻って来たら夢か現実か分からなかったということで、その色々の部分を考えさせてもらった。
ヒロインのマヤとアリシアは『対魔忍アサギ 決戦アリーナ』にもゲスト出演していたが、その時は担当していないので、さすがにどんなキャラだか忘れていた。
そこでまずは昔の資料や自分が書いたシナリオを読み返すことになった。

 

ところがゲームでは、最初こそ宇宙戦闘シーンがあったりするものの、それが終わればもう調教シーンで、そこでは「このケダモノ!」のように主人公*1を罵倒するか、「んほおおお!!」とアヘ顔を晒すのが主な仕事で、それ以外の日常でなにをやってるのかまるで分からない。おまけに二人とも洗脳的なことを受けているので、もはや日常どころではない。

しょうがないので、今回のイベントは時系列的に監獄戦艦2より前だというのをいいことに、基本的な性格や口調はなぞりつつ、それ以外は10年越しの後出しでどんどん決めていった。マヤの虫嫌いとかその典型だ。

 

ふうま君が監獄戦艦ワールドに行く理由は、リリムのイタズラ、ブレインフレーヤーの仕業、ジュノの嫌がらせとなんでもよかったのだが、話はマヤにキスされてお別れといった風に綺麗にまとめたかった。
要するに、長編アニメの劇場版やゲーム版なんかでよくある、結構な事件のわりに本編にたいして影響しない一夏の思い出的なお話だ。
例は山ほどあるが、パソコンゲームの『サイレントメビウス』で、プレイヤーキャラの考古学者が本編ヒロインの香津美とちょいといい関係になって最後にキスしてお別れしたり、セガサターンの『新世紀エヴァンゲリオン 2nd Impression』で黒髪メガネで大人しい系という狙いすぎなゲストヒロインの山岸マユミとシンジがちょいといい関係になって、こっちはキスしたかどうか忘れたが、やっぱり最後にお別れするみたいなやつだ。両方とも古いな。

 

ともかく、ふうま君にとって新しい世界、新しいキャラときて、このイベントだけでヒロインといい関係になるためには、「なんだこの世界は? どうやったら元の世界に戻れるんだ?」とかやってる暇はないので、最初から仮想世界のつもりで行ってもらうことにした。
戻ってから、「もしかして仮想世界じゃなかったのか?」と気づくパターンだ。
ギャルゲー的お約束イベントが連発するのも、ふうま君にこれは現実ではないと思ってもらうためだ。あと私が書きやすいからね。

 

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てなわけで、対魔忍バーチャルシミュレーションシステム、通称TVSSといういかがわしい装置を動かすところからお話は始まる。
ゆきかぜが用もないのについてきて、シナリオではゲーム好きだからと説明していたが、メタ的に言えば声がマヤのひむろゆりさんと同じだからだ。
そのわりに、最後に目を覚ましたときに、
 「ふうま! ふうまってば!」
 「うう……姫様……」
 「だ、誰が姫様よ、あんた寝ぼけてんの!?」
 「なんだ……ゆきかぜか……」
みたいなシーンを入れ忘れていた。

 

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TVSSをスタートさせると、いきなりマヤとアリシアの前にいる。まさにゲームのオープニング、それもドラクエとかのレトロなやつだ。
お約束通り、初対面ではマヤに気にいられず、彼女の使い魔、じゃない従者にさせられて、そのまま貴族学校までついて行く。この貴族学校も元のゲームにはない。

10年も前のゲームだし、プレイしていないユーザーも多いだろうから、まずは近代史の授業という名目で世界観を説明している。このあたりは元のゲームからのコピペだ。
必要な説明だがあまり長いと退屈なので、装甲機というロボットの説明はマヤにやってもらった。
ついでに、マヤは授業にも積極的に参加する優等生だが、アリシアのことになるとちょっと暴走しがちで、そのあたりも好意的に受け止められていることも示しておく。

やはり親しみを持てる姫さまの方がいい。

 

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それが終わったら、お約束の嫌味な貴族の登場だ。
いくらシミュレーションのつもりとはいえ、イキっているふうま君がちょっと恥ずかしい。なので嫌味貴族をあっさり蹴散らし、調子に乗ったところをマヤにビシッと叱ってもらった。
ここでのマヤは、絡んできた貴族を叱責し、それ以上にふうま君の見苦しい振る舞いを叱るという、誇り高い姫様の見本のようなキャラになっている。
その一方で、変わりものの平民がお姫様に気に入られるというのは、この手の話のパターンなので、ふうま君も1日でマヤの従者を首にならずに済む。
家に帰ったらアリシアに報告だ。
そうでもしないと、姫姉さまの出番が少なくなってしまうので、毎晩ちょこちょこ会話をさせている。

 

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2日目は虫イベントから始まる。
二人の距離をぐっと縮めるために、なにかお約束なラッキースケベをやりたかったのだが、新しいイベント絵は使えないし、元のゲームのものはエロすぎて使いまわせないので、使える素材からただ出るだけでもちょっと嬉しい下着の立ち絵をもってくることにした。
今までエロシーンはともかく、通常イベントで下着姿を披露したキャラはいなかったはずので、少しは特別感があるはずた。
実際にプレイして気づいたのだが、下着のマヤが出てきたとき、上の画像のようにメッセージウィンドウが絶妙の位置で邪魔していてパンティがちょうど見えない。

みんなウィンドウを消して見てくれただろうか。私は見た。
その一操作にちょっとしたイタズラ感があって面白かった。

 

学校日に行くと、また嫌味貴族たちと一悶着あるわけだが、ここでのバトルは戦闘シミュレーション中の出来事ということになっている。
ふうま君の格闘能力は昨日見せたので、今日は実戦仕込みの知略をマヤに披露したいのだが、本物の危機を出すにはまだ早いのでこのような形を取った。
エピソード自体は『銀河英雄伝説』で学生時代のヤンが首席のワイドボーンをシミュレーションで破ったあれが元ネタだ。
もっとも、ヤンは正攻法でないとはいえ、ちゃんとシミュレーション内だけで勝っているのに対して、ふうま君はハンニバルの「トラシメヌス湖畔の戦い」のように、待ち伏せして敵を隘路に引きずりこむ戦術を使ってはいるが、メインはシミュレーター外の猿芝居なので、それに付き合わされたマヤがむくれるのも無理はない。

 

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そのあたりをアリシアに報告すると大喜びされて、晩餐会に連れていかれる羽目になる。
アリシアのちゃんとした出番はこの晩餐会だけだ。
それほど長くないストーリー内でマヤとキスまでするためには、姫姉さまにはサポート役になって貰わざるを得なかった。ごめん。
ここでのアリシアは、多少強引で人を面倒ごとに引っ張り込むが、なにか楽しいことをやらかしてくれそうな魅了的な女帝として描いている。

まだまだ自分のことで精一杯のマヤと違って、晩餐会に慣れないふうま君へのフォローもしっかりしている。

イメージは、カエサルアントニウスを引き連れて先頭でガンガン戦クレオパトラといったところか。

ただ、今回はマヤの保護者としてのアリシア、王者としてのアリシアしか出せなかったので、そうやって普段は強い女をやっているアリシアが、気を許した相手だけふと見せる弱さ、その心の隙間につけこむ、おっと違った、心を慰めることで、マヤも知らない一人の女としての顔を描いてみたいものだ。そういう話は好きだ。

 

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ところで、晩餐会には脈絡なく怪しい奴が登場している。
ディノ・デイラッソこと監獄戦艦シリーズの主人公ドニ・ボーガンだ。ゲームでマヤやアリシアに色々するのはコイツだ。
包茎巨根の卑劣漢だが、ろくでなし軍団の信頼は厚く、目的のためなら自ら身体を張るダークヒーローでもある。あとよく肋骨を折る。
この立ち絵はゲームの使い回しのようで実は初登場だ。昔の素材に線画はあったものの、男キャラの悲しさで色がついてなかったので、10年越しで塗ってもらった。

いかにも胡散臭い調子で出てきたが、出てくるだけで特に何もしていない。マヤを襲った刺客たちを差し向けたわけでもない。単なる顔出しだ。
ふうま君が壁の花になっているときに誰かと話させたかったので、どうせならということで来てもらった。
場面のモチーフは、またしても『銀河英雄伝説』で、キルヒアイスがオーベルシュタインに初めて会うシーンだ。なので台詞回しも似せている。
「地球から来たばかりのテラ正教会助祭」と言っているのは、監獄戦艦2の時点ですでに大司教になっているので、このイベントがそれより前の出来事というのを示すためだ。
ちなみに、テラ正教会という名前は今回考えた。ゲームのシナリオを調べたら名前がなかったのだ。それくらい書いとけ、10年前の私。

 

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3日目はマヤとの楽しいデートと、ついに訪れる本当の危機だ。
ただ、デートに着ていくマヤの服がないのには困った。
ゲームの素材で使いまわせるのは、ずっと着てる姫様服、2日目に出てきた下着、あと素っ裸もあったが、さすがに初デートでヌーディストビーチはない。ゲームでは浜で露出プレイとかあったはずだが。
しょうがないので、一張羅のマント付きをそのまま使って、お忍びでそれは明らかにおかしいだろうという電車のシーンを入れた。
マヤは世間知らずという設定なので、みんなにジロジロ見られて、ようやく場違いだと気づく天然振りを発揮してもらっている。

 

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さてジュクハラ地区という、新宿だか原宿だかわからない繁華街につくと、まずは私の好きな食事シーン、それもお姫様と庶民の物を食べるという、お約束にも程がある場面になる。
マヤも言っているが、一緒に食事をするのはここが初めてにしたかったので、従者だから今まで食事は別にとっていたということにした。
真面目なマヤはちゃんとデート先の下調べをしているし、ハンバーガーの食べ方までチェックしている。
いくら世間知らずでもハンバーガーくらい食べたことあるだろうとかは言いっこなしだ。
アン王女はジェラートを食べ*2、ミネバ様はホットドックを食べ*3、マヤはハンバーガーを食べる。それでいいのだ。

 

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食後には刺客が現れる。
ふうま君からそれを聞いて、マヤはいきなり迎え撃つことを決める。姫様りりしいね。
ただ今回、パートナーがふうま君だからよかったが、そうでなかったらアヘ顔一直線だ。危ないところだった。
前座のチンピラは二人で蹴散らし、ラスボスは科学という指定で、ゲームのイベント絵を使い回して装甲機を出したかったので、それよりは小さいやつで、ふうま君が知恵と勇気でなんとかできる相手ということでパワードスーツにした。

作中で言ってる通り、あのダーマは達磨からきている。未来なので米連のやつとかより洗練されたデザインにしてくださいと頼んだら、三澤螢氏が見事に形にしてくれた。

似たようなずんぐりむっくりロボットで、『∀ガンダム』のスモーというネーミングセンスが好きなので、禅宗から「ゼン」という名前を考えたが、ちょっと分かりにくい気がしたので、ストレートにダーマにしておいた。

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ダーマとの一騎打ちは対魔忍ではちょっと珍しい、異能にまったく頼らない、目抜けのふうま君ならではの戦いだ。
異世界に来ても別にいつもより強くなったりせず、 たまたまやって来た工事現場のワイヤーや資材を利用し、SF武器のレーザーガンも借り物というあたりが、ふうま君らしくて気に入っている。これで日常品を使うようになれば冒険野郎マクガイバーだ。
そうそう、マヤのマントも役にやってくれた。立ち絵の差分にマントの”あり”と”なし”があったのでこの戦法を思いついた。デート用の私服がなくて正解だった。

 

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しかし、その工事現場クラッシュで倒せないのも当然の展開で、とどめはヒロインのマヤにさしてもらった。
その勝利の鍵になるのは、ふうま君と出会ったことによるマヤの成長だ。なんかハリウッド脚本術まんまな作りだが、そういうのが好きなのだ。
そして、ご褒美のキス。元の世界の連中と違ってえらく積極的だ。姫様やるね。
でも、そこで目が覚めてしまうのだった。

 

以上、今回のイベントについて色々と述べてきたが、昔のギャルゲーによくありそうな事件がやたらと起きている。
メインヒロインになってもらったマヤも元のゲームの性格をなぞっているとはいえ、書いてみたら古典的なツンデレお姫様だ。
そして気がついたら、ストーリーは異世界転生の基本中の基本『ゼロの使い魔』の1巻とそっくりになっていた。懐かしい気分になるはずだ。
 

さて、今度の五車祭でいよいよ二人が実装されることとなった。

いつものことだが、どんな戦闘アクションになったのかとても楽しみにしている。
アリシアの奥義”装甲機一斉射撃”は、その名の通り普通に装甲機が現れてドカドカ撃つのだろう。それは分かる。
気になるのはマヤの”サザンクロス”だ。

まず連想するのは『北斗の拳』でシンがユリアのために作った街の名だが、マヤの人形が出てきたりしたら嫌なので、ここは『キン肉マン』のクロスボンバー、友情のクロスラインのようなタッグ攻撃を考えたい。

フーマが颯爽と現れて、マヤと一緒に攻撃をしかけ、とどめに二人の斬撃が十字を描いたりするととても嬉しい。もうSDキャラもあることだし、彼との連携攻撃は今まで誰もやってないので、ちょっと期待している。

ついでに、ご褒美にマヤがキスしようとしたら、「誰よ、その女!」とゆきかぜを始めとした連中がワラワラ現れて、フーマがボロボロになるとかだったら最高だ。

後は二人を当てるだけだ。
ちなみに、今まで鹿之助、なお、舞などはどれも復刻までゲットできていない。ゼロレンジのアイナなどいまだに持っていない。

つまり経験上、キャラに思い入れがあると大抵残念なことになっているのだが、時すでに遅しだ。

 

※追記

なんとか二人ともゲットした。

*1:シリーズの主役ドニ・ボーガン

*2:ローマの休日

*3:機動戦士ガンダムUC

対魔忍RPG 『怒れる猫と水着のお姉さま』  制作雑感

『怒れる猫と水着のお姉さま』は、2020年の水着イベントの第二弾だ。

第一弾の『渚の魔女と小さな騎士』はちょっと切なくていい話だったが、こちらは切なくもなんともない与太話になっている。

さくらとのアルバイト、それを監視している時子、その周りで色々と事件が起きて、ラスボスはクラクルという軸は決まっていたので、他に誰を出して何を起こすかを考えていった。

 

「誰」については、まず新しい水着キャラはとにかく出すことにした。

ラクル、時子、エレーナ、レーベ・サフリーの4人だ。

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※左から、クラクル、時子、エレーナ、レーベ・サフリー

さらに、プレイアブルになっているが、まだイベントに登場していない水着キャラも登場させると決めた。

制作時期が同じくらいだったため、水着イベント第一弾のキャラは被らないように除外することにして、アイナ・ウィンチェスターは『危ないサマービーチ』で出ているのでこれも除き、残っているのはイングリッド 、ドナ・バロウズ、由利翡翠の3人だった。

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※左から、イングリッド、ドナ・バロウズ、由利翡翠

水着キャラ総勢7人。

おっと、さくらも水着になるから8人。これは豪華だ。

後は適当にキャラを組み合わせて、話を作っていくだけだ。

 

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まずは、米連繋がりでドナ・バロウズとレーベ・サフリー。

ドナは『勇者(エインフェリア)の憂鬱』でふうま君ともう会っているので、新キャラのレーベとの仲立ちを頼むことにする。知り合いがいると話が早い。

ドナとレーベのペアについては、ドナは生真面目、レーベは戦闘狂と性格は全く違うが、二人とも兵士として己を高めようとしている点が共通しているので、気の合う者同士として登場してもらった。偶然だが、二人とも水着なのに武器を持っているので見た目も揃っている。

だから、この二人が出てくる時の敵は、己を高めようとしていない米連のバカ兵士になった。

鬼神乙女イベントからの流れで、ドナにはその後のことや、アスカへのバレンタインのお返しについて話してもらった。

先のエピローグでは、ふうまのお返しに文句を言おうとしていたアスカだが、実はドナには自慢していたり、その箱まで大切にとっているのがバレている。

そういうアスカは可愛いと思うが、もうちょっと素直になった方がいいと思う。

 

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エレーナとイングリッドは、もちろんノマド繋がりだ。

この二人だけで海に泳ぎにくるという状況はちょっと考えられなかったので、ノマドの慰安旅行で来ているということにした。

『魔界騎士と次元の悪魔』で、ノマドの少なくともイングリッド組はそんなことをしてもおかしくなさそうなフレンドリーな軍団に描いておいたのが役に立った。

もっとも、連中がどうやって海に来たのかは気になるところだ。

みんなで電車に乗ったのか、誰かが運転するマイクロバスでも使ったのか、どっちにしても妙な絵面だ。

そのせいか今回、イングリッドも妙に気が抜けた感じで、生徒同士の旅行になぜかついてきている先生のようになってしまった。

 

エレーナをどう扱うかだが、コミカルイベントだし、敵としてふうま君やさくらと直に戦うような展開は避けたかった。

ただ、海で偶然に出会って、そこに誰かが絡んできて共闘というのはドナとレーベでやったばかりだ。それとは違う形にしたいところだ。

そこで、エレーナは魔界で仲間と逸れていたのをノマドに救われたという過去から、一人ぼっちになるのを恐れているという設定を使った。

ちょうど羊の浮き輪を持っている絵だったので、海でプカプカ遊んでいたら流されてしまい、気がついたら一人でパニックになって、つい召喚魔法を使ってしまったという流れになった。

モンスターが現れた原因ではあるが、敵にはならない、むしろ助ける相手という落とし所だ。

もっとも、せっかくSDキャラがあるので、三番目の相手として戦闘場面には出てもらっている。

 

エレーナが呼び出すモンスターは、使い回しの雑魚であれば何でもよかったのだが、今回どこかで海らしい敵を出したかったので、異次元クラゲ事件で接点のあった魚とイカを使うことにした。

それでさらにパニックに陥るエレーナを助けるのが、やはり異次元クラゲ事件で出会ったキャラ、つまりさくらだ。若い方だが。

一人ぼっちでいるところに見覚えのある人が現れれば、エレーナが思わず泣きついてもおかしくない。

イベントの蓄積があると、本当に話が作りやすい。

 

エレーナを助けた後、ふうま君とさくらとで仲間のところに連れていくことになるわけだが、ノマドのみんなで来ていることにしたので、イングリッド先生の他に誰か出したくなった。

引きこもりのドロレスは海になど来ないだろうし、ここはやはりリーナの出番だ。

しかし水着がない。

私服っぽいのは、【a.k.a 嵐騎】リーナのみだ。

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a.k.a.嵐騎】リーナ

これは、すーぱーそに子コラボ『そに子、対魔忍になりまうs♪』の時に使わなかった素材だ。つまりイベント初登場となる。

なんという幸運、フレーバーセリフでラップがどうのこうのと言ってるから、浜辺のラップ大会にでも出てることにするか。

なんて軽く考えたのが運の尽き。おかげでえらい目にあった。その話は後ほど。

 

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一方、ふうま君とさくらが色々とトラブルに巻き込まれている後ろで、その二人を監視していた時子もナンパ男に絡まれている。

監視に夢中の時子が無意識にナンパ男を倒していたからという理由だが、そいつらにどんな絵を使うかが悩みどころだった。

ここも既存のモンスターを使い回すとして、水着イベント第一弾でタツヤ先輩という金髪、日焼け、サングラスのいかにもなナンパ男が出てきたので、それと同じような見た目にはしたくない。

お馴染みのチンピラでも使うか、でももう少し面白い素材がないかなと探していたら、『対魔忍アサギ~決戦アリーナ~』に【南の島】忍熊という、忍熊が麦わら帽子とアロハを付けているという愉快なキャラがいた。これはいい。

そこで似たような感じで、オークみたいなナンパ男、トロールみたいなナンパ男と差分キャラを作ってもらった。

 

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※左から、クマオ、ケンジ、ジュンヤ

この差分三人組も含め、シナリオ中ではナンパ男たちに対して、忍熊、オーク、トロールといった言葉は一度も使っていない。そこは気を使った。

元になった忍熊のクマオも「浜で一番毛深い男」と自慢するだけだ。

もっとも、人間とも言及していないが。

 

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残った水着キャラは翡翠とクラクルだ。

ラクルは毎回のセクションでちょこちょこ登場していて、ラストで大きく絡ませるつもりなので、ここで翡翠とのペアでは出せない。

しかし、翡翠はもともと一人でいることが多いという設定なので、一人で出しても全く問題ない。いやありがたい。

敵をどうするかだが、ドナとレーベは人間、エレーナは海の生き物、時子はモンスターみたいなナンパ男ときて、この後のクラクルは猫軍団と決めていたので、なんでもいいから違う見た目にしたかった。

翡翠の設定を見ると、森で野鳥と戯れるのが好きとある。イベント初登場なのでもちろんこのネタは使ってない。

じゃあヒッチコックの「鳥」みたいにバサバサ出そうかと思ったら、肝心の鳥素材がない。

それっぽいものと言えばハーピーだけだ。

というわけで、怪しい鳥笛でハーピー大襲来という展開となった。

 

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ラストはクラクルの出番だ。

最初はライフセーバーのバイトとして、ビーチの平和を守るため、ふうま君たちの前に立ち塞がるだけだった。

それがドタバタの締めということで、猫仲間のカノンとメルシーが助っ人に現れ、『鋼鉄の魔女アンネローゼ』からの流用で猫又もやってきて、時子とナンパ男たちも乱入し、戦闘画面では戦うがストーリー上はふうま君たちそっちのけで大乱闘になるというオチに決まった。

 

こんな感じで、使える水着キャラを全部出すという素材先行のコンセプトで始めたが、今までの蓄積やら、たまたまのキャラ設定やらを使ってなんとか一つの流れにしている。

ただ、色んな水着キャラが次から次へと出てきてドタバタするだけだと物足りないので、もう一本軸を作ることにした。

 

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それがふうま君とさくらの仲の良い光景だ。

海の家で一緒に働いているシーンから始まって、タイマファイブごっこでふざけあったり、イングリッドの水着を喜ぶふうま君にプンスカしたり、ケバブを食べ歩きしたりと、ごく自然に仲良くしている。

時子が「二人だけにしたら過ちがあるのでは?」と不安になるのも無理はない。

 

このあたりのイチャイチャ、半分くらいはプロットで決めていたが、後の半分はシナリオの時に即興で書いた。

先日、"「ゲームシナリオライターはプロットをガチガチに指定されているから自由に書けない」のは本当か? - Togetter”という記事がちょっと話題になり、私もレスを入れたが、このさくらとのやりとりのように本筋にあまり関係ない部分はシナリオで自由に書きやすい。

プロットで脇の話を細かく書きすぎると本筋の流れが見えにくくなるので、プロットではわざとさらっと書いておいてシナリオで詳しく書くこともあるし、プロットのちょっとした一文をシナリオの時にアドリブで膨らませることもある。

例えば食べ歩きの場面、プロットでは「そのへんの屋台で串焼きなど買って囓りながら帰る」としか決めていなかったのだが、楽しいやりとりになりそうだったので、そこまで書いてきたノリでシナリオにした。

もともと私は食事のシーンが好きで、なにを食べるか、どう食べるかでそのキャラらしさが出せると思っている。

対魔忍RPGでも、稲毛屋のアイスをはじめとして、おにぎり*1、おはぎ*2ハンバーガ*3と色々出してきたし、以前このブログで公開した七瀬舞のSSでもホットケーキを食べている。

ここでも、さくらから一口ちょうだいと言いだし、ふうま君の食べかけを普通に齧り、お返しにふうま君も食べさせてもらい、もうそれでいちいち間接キスだの言い出したりしない今の二人の関係がいい感じで描けたと思う。

ちなみに、蛇子だったらやっぱり気にしないが内心ではちょっと喜び、ゆきかぜだったら食べる前に一言文句を言い、きららだったら「そんなの気にしないのが大人の女」と無理をして後で赤面し、アスカだったら食べてから「私と間接キスできて嬉しい?」と回りくどくアピールするといった反応になるだろうか。

 

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最後に、リーナのラップについて述べておこう。

今回、水着キャラがメインなので、リーナはチョイ役、エレーナをイングリッドのところに連れていったら、ちょうどラップ大会で鐘一つになっていたという展開だ。

だから、それっぽいフレーズが一言二言あればいいかくらいに考えていた。

ところが、あらすじを見てもらったところ、「ラップを収録して流しましょう」という反応がきた。

えらいことになった。

収録するからには、一言二言ではどうしようもない。ある程度の量がなければダメだ。

ラップなど今まで作ったことはないが、自分から振ったのでやるしかない。

YouTubeでラップを探して聞いてみたり、歌詞の作り方のABCを調べたり、泥縄で夏のビーチっぽいラップを一つ二つ作ってみた。

しかし、どうもしっくりこない。

多分、下手くそなラップになっているのだろうが、それはリーナが作ったということでいいとして、全体的にちっともリーナっぽくない。なにか違う。

さあて困った。

「リーナっぽいラップ」がなんなのか分からない。

どうしようかと考えながら、そのころ気分転換に最初から見直していた『勇者王ガオガイガー』をぼんやり眺めていたら、「ガガガ・ガガガ・ガオガイガー!」とオープニングで連呼していた。

あ、そうか、これでいけばいいんだ。

リーナに魔界騎士である自分のことを歌わせればいい。

どんなラップになろうが、それは間違いなくリーナらしい。

今までのフレーバーから聴き慣れたセリフを持ってきて、必殺技も連呼して、強引だろうがなんだろうが無理やりラップぽく繋げてみよう。

てな感じで生まれたのが、この『魔界騎士だぜヘイチェッケラ!』だ。

 

  ヨー、魔界騎士、ヤバイ意思
  嵐騎のパッション、本気のアクション
  たぎる衝動、唸る戦場
  どんな敵でもイェイ上等
  とくと拝みな、桜嵐舞闘(ろうらんぶとう)
  バシュッと鞘走るサウザントバニッシュ
  ステルス暗ますブロッサムステップ
  ひらりひらり躱してチェリーフラーリィ
  やつらにカマすぜサクラにアラシ
  今の限界
  越えてオーライ
  無理なんてない
  飛べフライハイ
  イェイ華麗に、イェイ軽やかに
  サクラブロッサムで道を開く
  魔界騎士だぜヘイチェケラ

 

 

こんな妙なものを歌ってくれたリーナ役の烏丸そらさんには本当に感謝している。

リーナにもイベント中で全部歌わせてあげられなくて悪いことをしたので、この後日談フェンリルと一緒に思い切り歌ってもらった。

 

ということで、今回はこの辺で。

 

*1:ジューンブレイド狂想曲

*2:勇者(エインフェリア)の憂鬱

*3:コーデリアのふたり姫

対魔忍RPGショートストーリー『魔界騎士とラップと大きな犬』

「ヨー魔界騎士、ヤバイ意思か……はぁ」
 魔界騎士リーナ、またの名を【a.k.a.嵐騎】リーナは、夕闇迫る地上の川のほとりで一人ため息をついていた。
 ここはノマドの日本支部がある地下都市ヨミハラからもほど近く、リーナの故郷である魔界のレーヌ川に雰囲気が似ていなくもないので、色々と失敗したり落ち込んだときに気持ちを慰めるのにちょうどいいのだった。
「まさか鐘一つとは。イングリッド様も期待してくださっていたのに。なんという不覚、うう」
 先日、ノマドの面々と海水浴に行った際、リーナは浜のラップ大会に出場したのだが、とっておきのラップ『魔界騎士だぜヘイチェッケラ!』があろうことか鐘一つという結果に終わってしまった。
 魔術師のエレーナはもちろん、他の仲間たち、それから敬愛するイングリッドも頑張ったと言ってくれた。
 けれど、ひょっとして優勝してデビューしてしまうかもしれない、そしたらジャケ写はこんなポーズにしようとか、いや待て自分は誇りある魔界騎士だ、趣味ならばともかくプロのラッパーになるわけにはいかないとか、あれこれ色々考えていただけに、まさかの鐘一つは本当に本当にショックなのだった。
 リーナはこんな時に似合う仕草、つまりしゃがんで川に石を放り投げながら、なぜ駄目だったのかを考えていた。
「やっぱり私自身を歌ったのが良くなかったのか? 確かに凛々しくてカッコいいイングリッド様を称える歌なら優勝は間違いなしだったろうが、魔界騎士としてイングリッド様に遠く及ばぬ私がそれを歌うというのは……うう、駄目だ。そんな恥知らずなことはとてもできない。イングリッド様に呆れられてしまう。ああっ、私がもっと魔界騎士として勇名を馳せていればっ、私自分が情けないっ、くそおおお!!」
 とまあ、リーナが悶えながらやたらめったら石を投げていると、
「ぐるるる……」
 うるせえなあという感じの低い唸り声がすぐそばでした。
「はっ!!」
 リーナの身体が強張った。
 この嫌な声はまさか、まさか……。
 声がした方に恐る恐る顔を向けると、

「うわあああ! すごく大きな犬っ!!」
 身の丈10メートルはあろうかという巨大な犬がそこに居座っていた。
 銀色の身体のあちこちに太い鎖を絡みつかせた凶悪極まりない顔つきの犬だ。
 なにが嫌いと言って、犬ほどリーナの嫌いなものはない。
 イングリッドに出会うずっと前、今よりずっとずっと弱かったリーナはある高位魔族の家でメイドをしていた。
 そこにはとても意地悪で凶暴な犬がいて、そいつに吠えかけられた恐ろしさ、何もできなかった悔しさが身体に染みついてしまった。
 だから犬などより遙かに強くなった今でも、その姿を見るだけで、その声を聞くだけで身体が竦んでしまう。
 まして、いつのまにかそばにいたそいつは、 今まで見たことのないような巨大な犬だ。
「わっわっわあああああああ!!」
 リーナはアタフタと立ち上がろうとするが、みっともなく足を絡ませ、その場にべたんと尻餅をついてしまう。
 大きな犬はそんなリーナにのっそりと近づいてきた。
 吠えられる! 噛まれる!
 怖い怖い怖い!!
「うわああああ、来るな、来るなああああっ!」
 だけと、そいつは吠えもしないし、噛みもしなかった。
 ジタバタするリーナに前足をちょこんと伸ばすと、背中をポンと押して身体を起こしてくれた。
「ふえっ?」
 リーナはキョトンとした。
 こんな大きくて凶悪そうな犬がこんなことをしてくれるなんて信じられない。
「ぐるる……」
 そいつは「驚かせてごめんな」という感じの唸り声を出して、リーナから離れていった。
 そして、さっきまでの彼女と同じように川辺にぺたんと座り込んだ。
 その横顔と背中がなんとなく寂しげだ。尻尾もだらんと力なく垂れている。見れば、右の前足を怪我していた。爪のあたりに包帯が巻かれている。
「お、おい、そこの犬、お前、もしかして落ち込んでいるのか? それとも足の傷が痛むのか? だ、大丈夫か?」
 リーナはその大きな犬に恐る恐る声をかけてみた。
 犬は苦手だが、苦しんでいる者を助けるのは魔界騎士の務めだからだ。
 もちろんそばまで寄ることはできないので、遠巻きからそっとという感じだったが。
「ぐる?」
 大きな犬は座ったまま顔だけこちらに向けた。やはり悲しそうな顔をしている気がする。
 少なくとも、リーナがただ道を歩いているだけで通りの向こう側から激しく吠えかけてくるような、まったく意味の分からないそこらの犬とは違う――と思う。
 とはいえ相手は犬だ。なにをするか分からない。
 急に凶悪な本性を現しても逃げられるように、刺激しないように言葉を選んで、穏やかに話しかける。
「ここは私のお気に入りの場所だが、し、しばらくならそこにいてもいいぞ、うん」
「くーん」
 通じたのか通じないのか分からないが、大きな犬はやはりちょっと元気のない声で返事をした。
「そっちも元気ないの?」と聞かれた気がした。
「わ、私か? 私はラップ大会で尊敬するお方の期待に応えることができずに、まあ落ち込んでいたんだ。ちょっとだけだけどな」
「ぐるる?」
 犬の声の調子が少し変わった。
 リーナは反射的にビクッとしたが、別に噛みつこうとかしたわけではないようだった。
 なんとなくだが、ラップについて詳しく聞きたがっているようだ。
「私自身を歌ったラップなんだ。自信作だったけど、大会ではあえなく鐘一つだった。情けない限りだ」
「ぐる、ぐるるる?」
「なんだ? もしかして聞きたいのか?」
 リーナが尋ねると犬はこくんと頷いた。どうやら人語を解するようだ。
 確かにこれだけの大きさ、銀色の見事な毛並み、身体に巻かれた曰くありげな鎖、なにより犬とは思えない気配り、ただの犬ではなさそうだ。
「よ、よし、ここで会ったのも何かの縁だ。歌ってやろう。心して聞くんだぞ」
 リーナはスーッと息を吸って、大会では最後まで歌うことのできなかった曲を歌い始めた。
「ヨー、魔界騎士! ヤバイ意思っ!
 嵐騎のパッション! 本気のアクション!
 たぎる衝動っ! 唸る戦場っ!
 どんな敵でもイェイ上等!
 とくと拝みな、桜嵐舞闘イェーイ!」
「ぐるっ、ぐるっ、ぐるぐるぐるっ」
 犬は大きな身体でリズムをとり始めた。萎れていた尻尾もツンと立って、右に左に心地よさそうに揺れ出す。
 喜んでいるらしい。
 リーナは嬉しくなった。
「なんだお前、私のラップが分かるのか? 犬にしては見上げたやつだな。よーし、私についてこいっ!」
 リーナは大きな犬に言うと、全身でフロウを決め、ライムを刻み始めた。
「バシュッと鞘走るサウザントバニッシュ!
 ステルス暗ますブロッサムステップっ!
 ひらりひらり躱してチェリーフラーリィ!
 やつらにカマすぜサクラにアラシっ、わお!!」
「ぐるぐるくーん! くくんくーんっ!」
 大きな犬も身体をフリフリ、尻尾をぶんぶん、すっかりノリノリだ。
「今の限界、越えてオーライっ!
 無理なんてない、飛べフライハイっ!
 イェイ華麗にっ! イェイ軽やかにっ!
 サクラブロッサムで道を開くっ!
 魔界騎士だぜヘイチェケラ!
 いぇーい!!」
「きゃうんきゃうきゃうん!」
 大きな犬はいきなり身体をぐりぐりとリーナに擦り付けてきた。
「うわわわわわわっ!」
 反射的に身体が竦んでしまうが、この犬が楽しくてじゃれついているのはさすがに分かる。
「は、はは……そ、そうか、そんなに気にいってくれたか。う、うん、私も嬉しいぞ。せっかくだから身体を撫でてやろう、よ、よしよし」
 リーナは恐々とだが、生まれて初めて犬を、その大きな犬を撫でてやったのだった。
 ごわごわしてるように見えた銀色の毛はまるで絨毯のように柔らかで、今まで嗅いだことのない優しい匂いがした。

 

 いつのまにか夜の帳が降りていた。
 けれど落ち込んでいたリーナの気持ちはすっかり晴れていた。
 この大きな犬と一緒に思いっきり歌ったおかげだ。
 向こうもどうやら元気になったようだった。
 今はリラックスした様子で大きな身体をリーナのそばに横たえている
 彼女のラップがよほど気に入ったらしく、尻尾がまだフリフリとリズムを刻んでいた。
「よし、そろそろ帰るか!」
 リーナはすっくと立ち上がった。
「くーん?」
 大きな犬は「もう帰るの?」と言いたげなちょっと甘えた顔をしたが、
「お前にもその包帯を巻いてくれた主人がちゃんといるのだろう。帰るのが遅くなって心配させてはいけないぞ。私も戻ってイングリッド様に改めて私のラップを聞いていただくつもりだ。観客などイングリッド様お一人で十分だからな!」
「くくーん、わん!」
 大きな犬も分かってくれたようだ。最後に一声鳴くと、ビュンと風のようにどこかへ走り去っていった。
 さっき嗅いだ不思議な匂いがしばらくの間、川のほとりに残っていた。

 

「あっ、リーナさん……おかえりなさい」
 ヨミハラの闇の宮殿に戻ると、なんだか騒がしい。
 大部屋のテーブルに山のような服を置き、姿見をずらりと並べて、大勢で服をとっかえひっかえワイワイ騒いでいる。
「エレーナ、これは何事だ?」
「こ、衣替えです」
 魔術師のエレーナがなんだか疲れたような顔で言った。
「衣替え?」
「な、夏で暑いというので、みんなで衣替えしようと……わ、私も着せ替え人形にされて……すごく疲れました」
「でも、それはいつもと同じ服だな」
 そう指摘すると、エレーナはビクッとして一歩後ずさった。
「こ、これはしょうがないんです……魔術師のローブはそれ自体、魔力を高めるためのものですから……あ、暑いからといって、その……着替えるわけには……」
「うむ。それは私も同じだ。というか、心頭滅却すれば火もまた涼し。魔界騎士たる者、暑いからといってチャラチャラ衣替えなどするわけにはいかないからな」
 リーナは今日も自分でコーディネートした魔界騎士らしい格好だ。
 白いブラウスに赤いチェックのミニスカート、黒のガーディガンは彼女の魔力を具現化したものだ。
 太ももとおへその露出はもちろんイングリッドのセクシーでカッコいい姿を意識している。誰も気づいてくれないが。
「はあ……そうですか」
 エレーナは頷いたが、ふいに「あれっ?」という顔になった。
「リーナさん、その守りはどうしたんですか?」
「守り? なんのことだ?」
「い、いえ……リーナさん、不思議なオーラで守られてます。ちょっと失礼しますね」
 エレーナはリーナに向かってちょいちょいと杖を振った。なにかを調べているようだ。
「やっぱりリーナさん、守られてますね……魔法じゃないみたいですけど……多分、しばらくの間、リーナさんとその周りにいる人を……ええと石化から守ってくれるはずです……なにかあったんですか?」
 エレーナは不思議そうだ。
 だが、リーナにはまるで心当たりはない。
 もしかしたら、あの大きな犬と一緒にラップを歌ったせいだろうか? そんなことがあるのか?
「あっ、リーナ! どこ行っていたの? あなたにもお洒落な夏服を用意してたんだから。ほらこれ可愛いでしょ、ねえ着てみて!」
 衣替えに夢中だった仲間たちがリーナに気付いてやってきた。両手にいっぱい服を抱えている。
「な、なんだこの服は? こんなが、がーりーな服を私が着れるわけがないだろう、私は魔界騎士だぞ!」
「いいからいいから。ほら、着替えさせてあげる。みんな手伝って!」
「ひゃっ、なにをする?? わわわっ、やめろーーーーっ!!」
 リーナはノマドの女子軍団にズルズルと引きずられていった。
「リーナさん、頑張ってください……」
 さっきまで彼女たちの玩具になっていたエレーナは同情するように言った。
「あれ?」
 リーナがいた場所にキラキラした細いものが落ちている。それを拾った。強い魔力を感じる。
「これは……もしかしてフェンリルの毛? じゃああの守りも?」
「ど、どうせ着るならイングリッド様みたいにしてくれ! 私はクールでスタイリッシュな服が好きなんだ! うわわわわわわ!」
 詳しく尋ねようにも、リーナは揉みくちゃにされて着せ替えの真っ最中だ。
 石化を防いでくれる守りも着替えからは守ってくれないのだった。

 

(了)

 

【制作後記】

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【サマーストーム】リーナが実装された。

ガーリーなポニーテールがとんでもなく可愛いのだが、それだけではなく「部隊全体の石化耐性」という驚くべき能力を備えている。

「リーナがなぜそんな能力を?」という疑問から思いついたショートストーリーだ。

イベント「勇者の憂鬱」と「怒れる猫と水着のお姉様」の後日談でもあり、とばっちりで酷い目にあわせてしまったフェンリルと、ラップ大会で鐘一つにしてしまったリーナへのちょっとしたお詫びだ。

前にアップした舞のショートストーリーと比べると量もずっと少ないし、ワンアイデアの小品なので、軽い気持ちで読んでもらえると嬉しい。

ではまた。

 

【追記】

旭氏がこんな素晴らしい絵をアップしてくれた。感無量。ありがとうございます。

 

 

対魔忍RPG 『勇者(エインフェリア)の憂鬱』 制作雑感

 

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『勇者の憂鬱』は、鬼神乙女(ワルキューレ)のブリュンヒルドが初登場となるイベントだ。

彼女は決戦アリーナでも実装されていて、この異形の変身ヒーローみたいな姿がそのまま全裸という、デザイン面でトップクラスに突き抜けているキャラだ。

それでいて決戦アリーナでは結構な人気者であり、対魔忍RPGでも初登場にしてガチャSRキャラとなった。

私は決戦アリーナでは担当していなかったが、ずいぶんと昔にルネソフトの『戦乙女ヴァルキリー2「主よ、淫らな私をお許しください…」』に関わったことがあり、久しぶりのワルキューレを楽しく書かせてもらった。

 

今回、イベントを設計するにあたって、このブリュンヒルドと、報酬キャラのドナ・バロウズを出す以外に一つ要件があった。

それは、自分より強い男としか生殖しない種族のブリュンヒルドがふうまの子種を狙ってくるような展開にして欲しいということだった。

 

エロゲではよくある話だが、これはなかなか難しい。

なにしろ、ふうま君とブリュンヒルドはまだ出会ってもいない。

知り合いのゆきかぜやアスカあたりだったら、呪いとかの適当な理由で「自分が一番強いと思う男の子種を手に入れなければならない」という強制ミッションでも与えて、とっとと子種争奪戦を始めることができる。

ふうま君はとんちで戦うタイプなので、単純な戦闘力だけならふうま君を圧倒しているヒロインが「自分とは違う強さを持っている男」と認識していてもおかしくない。

というか、今のところそういう流れで、ふうま君は人脈をやたらと広げている。

 

この流れでいくと、ブリュンヒルドも出会ってしばらくはふうま君のことを弱いと思い、イベントの出来事を通して自分にはない強さをもった男であることに気付き、その子種を欲しくなるという展開が一番オーソドックスだ。

ただそれだと「子種を狙ってくるような展開」ではなく、その前段階の「結果、子種を狙うことになる展開」になってしまう。

せっかく、子種を求めて三千里という内容なのでもう少しはっちゃけたい。

 

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そこで、出会いとか認識の変化とか面倒くさいことはやめて、ふうま君にはいきなり「子種男」になってもらった。それはそれでエロゲらしい。

鬼神乙女が天帝の言うことにはよく従うという設定が役に立った。

神様のお告げならしょうがない。

ということで、100年に一度の勇者(エインフェリア)という設定をいきなり作った。

また、鬼神乙女という種族からして初登場なので、ブリュンヒルドだけでなく、他の鬼神乙女にもわんさか出てもらって、そういう変わった連中だとまず示すことにした。

決戦アリーナで普通の鬼神乙女のイラストがあったのが助かった。

さすがに絵なしでは間がもたないし、やったとしても男に免疫のない女学生みたいな鬼神乙女たちがワイワイやっている面白さは半減してしまったろう。

 

ついでに、あるキャラを立てるには、そのキャラが所属するグループの中ではちょっと変わっていることを示すのがてっとり早い。

チーム物で言うと、「俺はまだお前をリーダーと認めたわけじゃねえ」みたいなニヒルな奴だ。

てなわけで、予想外のお告げに議論百出な鬼神乙女たちに対して、ブリュンヒルドが一人だけ違うことを言い出すという導入になった。

 

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このプロローグ、元々は鬼神乙女たちが弱い人間を普通に嫌がっていて、ブリュンヒルドだけが冷静にその資質を見極めようとしているニュアンスのつもりで書いた。

ところが、全体を仕上げてから見直したら、最初から子種ゲットする気満々の鬼神乙女たちが、人間だからとケチをつけることで抜け駆けしようとしているのを、ブリュンヒルドが一人だけ空気を読めていないみたいな印象に変わっていた。

調子に乗って鬼神乙女をキャピキャピに書きすぎたせいだ。

予定外だったが、ブリュンヒルドがみんなと違うことが示さればいいし、かえって面白かったのでそのままにしておいた。

 

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場面変わって、合同訓練のシーンになる。

出てくるのはドナ、アスカ、奈々華だ。

ドナは今までドナ・バロウズ【ビーチウォリアー】とユニット化されていたが、【試験兵装】として初めてのイベント登場となる。

彼女もふうま君とは初対面なので、その仲立ちとしてアンドロイドアーム繋がりのアスカに出てもらった。

以前に、アスカが主役となる『降ったと思えば土砂降り』で、ドナをちょっと出しておいたのが役に立った。

せっかくなので、アスカには今までイベントでは使っていなかった【支援型兵装】の絵を使い、続く模擬戦でも後方からの支援に徹してもらっている。

 

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同じ理由で、『不死の兵士』で既にアスカと知り合っている奈々華も参加している。

今回、アスカのバレンタイン話にもけりをつけるつもりだったので、ドナにはアスカが愚痴っているだろうし(だからふうま君に教えている)、奈々華もその件は知っているので、説明の手間が省けてちょうどいい。

むろんそれはこっちの事情で、物語的にはアスカが「もう一人くらい対魔忍に参加して欲しいわね。じゃあこの前会ったあの子にしよっと」てな感じで呼んだのだろう。

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このバレンタインのお返し話については、別に今回のイベントでなくとも、ふうま君がアスカと再会したときにやろうと思っていた。

だから今回やったのは偶然なのだが、ちょうど恋愛関係で直球すきる鬼神乙女たちが出てきたので、逆に周りくどすぎるアスカといい対比になっている。

このタイミングで子種ゲットという馬鹿馬鹿しい恋愛イベント要件があってラッキーだった

 

オチに使ってしまってアスカには悪いことをしたが、二人の関係からすると今さらメル友というのは悪くない。

アスカにとってのふうま君は米連の仲間とも、戦いとは関係ない学校の普通の友達とも違う相手だ。

「鋼鉄の対魔忍」という自分の正体を知っていて、だからといって特別扱いもせず、そんなにしょっちゅう会うわけでもない、それでいてなんか気を許せる異性だ。

だから、他の人とはしにくい話がふうま君とだけはできて、それを続けるうちに、気がついたらお互いのことをすごく深く知っていた。あとはもう既成事実だけというルートが狙えるかもしれない。

そうなるといいな。頑張れアスカ。

 

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一方、アスカが「何にも考えてない」と評したように、お返しをアスカと同じ店で買うのはふうま君らしい適当さだが、その選択は大正解ではないが、大失敗でもないと思う。

そういう店では大抵、ホワイトデーフェアと称して期間限定品を売っているし、「一番好きな店」というアスカの台詞を忘れなかったのはえらい。変に工夫を凝らしてガッカリされるよりはマシだ。

アスカも口では文句を言いつつ、「あいつ、あの店までわざわざ行ってくれたんだ。えへへ」とか内心でニヤついてるに違いない。

ちょうどこれの次の担当イベント『怒れる猫と水着のお姉さま』で、水着キャラということでまたドナを出せたので、そのへんの後日談を語らせている。

 

本筋に話を戻して、ふうま君が戦っているのをもう少し見たいという鬼神乙女たちの希望により、フェンリルパピーがけしかけられる。
もちろん、そんな希望は叶えさせたくはないので、ふうま君はドナを連れてとっとと逃げ出す。

アスカと奈々華にはそろそろ退場してもらって、ドナと二人っきりにするためでもある。
ドナの試験兵装がその名の通りまだ完全ではない、すぐオーバーヒートするという設定が役に立った。
ドナがまだ動けないから、残る三人で一番戦闘力の低いふうま君が安全な場所に連れて行く。実に自然だ。
それでいて、事情を知らない鬼神乙女たちからは「なんだあいつ!?」ということになる。
ついでに、初登場のドナにお姫様抱っこというサービスもしてあげられる。

いいこと尽くめだ。

もっとも、アスカはふうま君に抱き抱えられてるドナを見て内心ビキビキしていただろう。

 

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そこからは鬼神乙女たちの独壇場だ。
まずは決闘を申し込んでわざと負ける女だ。
ふうま君が一対一で鬼神乙女と戦うという展開は最初から考えていたが、それをどう処理するかはちょっと悩んでいた。
叶うわけがないのは最初から分かっている。

しかし、とんちでなんとかするのは早い。
まだ中盤。ここで別の強さをアピールしてもらっては困る。

 

そもそも子種云々はともかく、自分より強い相手としか付き合わないというヒロインはそれほど珍しくない。
また例が古いが、私にとっては『サクラ大戦』の桐島カンナ、『to Heart』の来栖川綾香あたりだ。
ただ、このへんのちゃんと勝負をするイメージに引っ張られていたらしく、ふうま君にどうさせるかではなく、鬼神乙女が「しきたりは守らないといけないので、わざと負ける」というのを思いつくまで少し時間がかかった。
とてもバカバカしい展開で、これでイベントの方向性がばっちり決まった。

そのお礼の意味で、彼女にはオペラ『ワルキューレ』のメインキャラ、ジークムントの妹にして妻でもあるジークリンデの名前をプレゼントした。
ついでに、抜け駆けをするなと乱入するもう一人の鬼神乙女テューレは、北欧神話の軍神テュールをもじっている。勇敢な神だそうだ。

 

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抜け駆けコンビから逃れ、ふうま君とドナはひとまず洞窟に隠れる。

仲間と連絡もとれないし、ここで二人をちょっと良いムードにする手もあったのだが、もうお姫様抱っこで照れさせているし、まだそれほどの仲ではない。

というわけで、ふうま君が冷静にドナと話していると、横でこっそり聞いていたブリュンヒルドが我慢できなくなって勝手に出てくるという展開にした。

自分で書いておいてなんだが、こいつ全然理知的じゃない。困ったもんだ。
後は私も私もと鬼神乙女がゾロゾロ出てきて、ふうま君とフェンリルとが一騎打ちをする羽目になる。

 

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このフェンリルは今回のイベントで一番可哀想な役回りだ。全然悪くない。

こんなことになったのも、鬼神乙女たちをよくあるワルキューレ像からちょっとずらしたためで、それに合わせてフェンリルもデザインからバトルの展開までオーソドックスなものをあえて外している。

作画担当の三澤螢氏のデザインは絶妙で、精悍なフェンリルがちょこんとお座りしているポーズといい、なんとなく切なそうな目付きといい、実にいい味を出している。

そこから繰り出される、やる気の無い前足の攻撃も愉快だ。

戦闘シーンの攻撃エフェクトは私も実装されるまで分からないことが多いので、いつも楽しみにしている。

 

ところでフェンリルの登場に前後して、鬼神乙女たちのふうま君に対する気持ちが変化している。

鬼神乙女の名前の由来から、一族を残したい気持ちに応えてやりたい云々というあたりだ。

当事者ではないドナが「お前いい奴だな」と口に出して言い、鬼神乙女たちは胸キュンのあまりしばし無言、天帝に決められた子種男だからではなく、乙女回路が動き出して、そこからいきなり名前と技のアピールを始めるという描写にしたのだが、少し伝わりにくかったようだ。

 

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今考えると、これは『鉄道員(ぽっぽや)』で高倉健が雪の中で一分くらい無言で突っ立ってるみたいに、人物をじっと見せても間がもつ実写映画とかのやり方で、フレームも変わらずに同じ絵がずーっと出ているゲームでは合っていなかった。

ここはもっとオーバーに、

 

鬼神乙女「なにこの感じ? なんだか胸が締め付けられる」

鬼神乙女「私もだ。戦いの緊張とは違う。違うぞ!」

鬼神乙女「こんな感覚初めて。でも嫌じゃない」

鬼神乙女「ああ駄目、勇者の顔を見ていられない。恥ずかしい」

ブリュンヒルド「これが勇者の力……トキメキ!」

  (BGM:君の神話 ~ アクエリオン第二章) 

 

てな感じに、盛り上がる鬼神乙女たち、鈍感太郎のふうま君はポカーン、呆れるドナとかの方が良かったように思う。そこが少し心残りだ。

とはいえ、みんなでふうま君を応援して、気持ちも伝えてスッキリしたので、一緒に仲良く帰っていく鬼神乙女たちは絵面も妙だし、とても可愛くできたので満足している。

 

この連中、ブリュンヒルドはもちろん、一人一人がものすごい能力をもっているので、シリアス話にちょっと出しづらいのだが、またの登場を期待したいところだ。

 

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