対魔忍RPG  「そに子、対魔忍になりまうs♪」 制作雑感

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対魔忍RPGでは初めてのコラボイベントが始まった。

ニトロプラスさんの人気キャラクター「すーぱーそに子」とのコラボだ。

その割には、かなり好き勝手にストーリーを作らせてもらった。

もちろんニトロプラスさんには監修をして頂いている。

今回はこのコラボイベントについて色々と述べたい。

 

まず、いつもと違っていたのは、私への発注時にすーぱーそに子関係の素材がほぼ全て揃っていたことだ。

すーぱーそに子の対魔忍キャラデザ、SRユニットの絵、その差分、回想シーンのシナリオ、SDキャラによる戦闘エフェクトの概要、コラボガチャの若さくら、リーナ、ソニアの内容まであらかた決まっていて、あとはイベントを作るだけの準備万端の状態だった。

 

じゃあ、なんの準備ができていないかというと、私だ。

すーぱーそに子はもちろん知っていたし、YouTubeの動画なども見たことはあったものの、対魔忍と合わせたコラボのストーリーが作れるほどには、キャラや設定を把握してはいない。

まずは勉強しないといけないが、すーぱーそに子は恐ろしく色んなジャンルで展開されている。全部見たらきりが無い。

こういう時はやみくもに資料を漁るよりも、まずは一つ、しっかりした物を見るなり、プレイするなりして、すーぱーそに子とはこういうものだと、自分の中に確固としたイメージを作った方がいい。

 

というわけで、『そにアニ -SUPER SONICO THE ANIMATION-』を一気に見た。

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この手のアニメでは、すでに作品をよく知っている人でないと何が何やら分からないような完全にファン向けのものも多いが、さすがシリーズ構成・脚本の黒田洋介氏、むしろ全然知らない人が見てもキャラが分かり、かつ楽しめるように作られていた。渡りに船とはこのことだ。

おかげで、すーぱーそに子のキャラクターがざっくりと把握できた。

そして、そのストーリーも王道あり、ゾンビものあり、探偵ものあり、動物ものありと、すーぱーそに子がとても懐の広いコンテンツであることも理解できた。

これからコラボネタを考える側としては好都合だ。

 

制作の手順として、あらすじ、プロット、シナリオとニトロプラスさんの監修を適宜受けることになっていた。

なので、まだなんとなくしか分かっていない私がこれはOK、これはNGとか考えずに、とりあえず把握している範囲で自由に考えさせてもらい、よく分かっているニトロプラスさんにガリガリ直してもらうことにした。

今までの経験上、「これは大丈夫です。これはやっていいです」とOKのパターンを色々聞かされるよりも、「これは違う。これは絶対駄目」とやっちゃいけないことを言われた方がイメージを共有しやすかったりする。あんまりやりすぎると「こいつちっとも分かってねえ」と担当から外される恐れもあるが。

 

ともあれ、そういうつもりで改めて資料を読み直すと、気になる部分があった。

ストーリーの条件として、「学園で一日対魔忍をした回想シーンの内容とリンクさせる」とある。これは問題ない。

問題なのは次のこれだ。

「そに子は絶対に戦わない」

バトル物の対魔忍でなかなか厳しい条件だ。

確かに戦闘エフェクトでも、そに子は歌っているだけで、敵に攻撃をしかけるのはにゃんこさんたちだ。

そもそも一日対魔忍でコスプレをしているだけで、そに子は本物の対魔忍ではない。

 

しかし、この本物ではないという設定は使える。

だいたい私は、偽物が本物になる話が好きだ。

弁護士のふりをした売れない役者が法廷に立つ『合い言葉は勇気』とか、伝説の勇者のふりをした昆虫のサーカス団がアリの村を救う『バグズ・ライフ』とかそんな話だ。

めちゃくちゃ古いラノベだが、単に勇者に顔が似てるだけの主人公が異世界に召喚され、そこで成長し、やがて本物の勇者になって、実は悪堕ちしていた本物と対決する『ユミナ戦記』とか大好物だ。最後が駆け足で打ち切りみたいなのが残念だが。

そに子がそに子のまま「とりゃー!」と頑張って、本物の対魔忍になるような話が作れないだろうか。

さあて、どうしよう。

 

そもそも第一宇宙速度のギター&ボーカルだし、戦闘エフェクトでも歌を歌っている以上、やはりイベントでも重要な場面で歌わせたい。

戦闘中に歌うヒロインと言えば、まず頭に浮かぶのは『超時空要塞マクロス』のリン・ミンメイだ。

ただ、映画でもクライマックスでミンメイが歌いたくないとぐずっていたように、戦わないそに子を戦場に連れて行くのは難しい。というか、それはやったらダメだ。

かと言って、『マクロス7』の熱気バサラのように「わたしの歌を聞いてください!」と戦場に乱入してきたりはしないだろう。

 

なんとか自然な形で、対魔忍が戦っている場所にそに子がいて、かつストーリー上も無理なく歌うシチュエーションができないかと捻り出したのが、遊園地のヒーローショーで本当に敵が出てきてしまうという展開だ。

プリキュアとかでもあった気がする。まあ定番だろう。

都合の良いことに、私は『魔法少女フェアリーナイツ』で、遊園地のステージでお客さんに見られながら犯されるというシーンを書いていた。

なんでもやっておくものだ。だから遊園地の背景素材はある。

怪人の素材も探せばあるだろう。

 

まず、ふうま君には怪人になってもらって、着ぐるみ姿で最初からステージにいる。

そに子はそのまま対魔忍役。

ショーが進んでいくと本当に敵が出てきてしまうが、観客がパニックにならないように、あくまでもショーの出来事として倒すことにすれば、本物の対魔忍たちが助っ人役としてステージに上がっても問題ない。

 

そこでふと気がついたのが、いつものメンバー、ゆきかぜ、さくら、蛇子、鹿之助の対魔忍スーツの色だ。

レッド、イエロー、ブルー、グリーン。

すでに出来上がっていた対魔忍すーぱーそに子の色はピンク。

おお、なんとラッキーなことか。戦隊ヒーローにぴったりだ。

というわけで、「忍者戦隊タイマファイブ」が誕生した。*1

そこまで閃いたら、あとはもう楽勝だ。

パパパッと全体のストーリーが決まった。

 

オープニングはもちろん対魔忍ショーの始まりからで、すーぱーそに子が颯爽と登場する。

フハハと高笑いする怪人ザンギャック(『魔法少女フェアリーナイツ』から同名の敵キャラをそのまま使用)の中にいるのはふうま君。

そこから回想に入って、これこれこういうわけでと経緯を説明をする。

ちょうど『そにアニ』に、沖縄で特撮番組に出ることになるという都合のいい話*2があったので、「私もそういうことがあったんですよ」と、緊張するふうまをそに子が励ます形で使わせてもらう。

 

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回想から戻って、そに子がザンギャックの手下怪人ヒトデラー*3と戦っていると、さっそくハプニングが発生。

遊園地のマスコットロボット「くまったん」*4が暴走を始める。

それくらいの敵にすれば、それほど戦闘を大袈裟にしないですむ。

もちろん、そに子は戦えない。ふうま君もザンギャックなので動きが取れない。

さあ、ゆきかぜ以下、助っ人参上。

忍者戦隊タイマファイブの名乗り。

ババーン!!

しかし、お客さんにショーと思ってもらうために、あまり派手な忍法を使えない。

クライマックスは巨大マスコットロボット「ビッグくまったん」*5を倒すため、タイマファイブの必殺技にみせかけて、ゆきかぜがトールハンマーを使えるように、見ているだけで戦うことのできなかったそに子がお客さんたちの気を逸らすために勇気を出して歌い始める。

うん、それは本物の対魔忍だ。

  

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対魔忍は、生まれつき対魔粒子を持ってるとか持ってないとかいうミディ=クロリアン的なアレで決まるのでも、感度3000倍でアヘ顔を晒せるかどうかで決まるのでもない。

そう、女の子は誰でも対魔忍になれるんだ。

かどうかは知らないが、自分ができることを精一杯やるという、そに子のキャラにはバッチリ合っている。よし決定。

 

もともとの対魔忍ショーでもクライマックスで歌うようにしておけば、ご都合主義感も減るだろう。

というわけで、対魔忍すーぱーそに子は「音遁の術」の使い手で、敵と戦うことなく歌うことで、悪い心を良い心に変えて改心させるハピネスウェーブを使うという架空の設定をでっちあげた。

もちろんこれ、元ネタは『星雲仮面マシンマン』のカタルシスウェーブだ。

おかげでこれを作ってる間、そのテーマソングがやたらと頭の中を流れていた。

他にはなんたらファイブの元祖の『大戦隊ゴーグルファイブ』とか、シュシュっと参上の『忍風戦隊ハリケンジャー』とかも延々聞こえていた。

 

パロディなのでよくあるシーンも色々と盛り込んでいる。

ふうま君が思わずそに子を助けてしまい、ザンギャック役だったのに気づいて「勘違いするな。お前を倒すのは――」とかは、彼を筆頭に親の顔よりよく見たシーンだ。

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タイマレッドことゆきかぜがジェットコースターのレールに突っ立って登場するのも同じ。そういうのがよくあるからで、他に理由はない。

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タイマファイブの名乗りで、「深紅の稲妻! 赤忍タイマレッド!」みたいな口上を入れるかどうかは最後まで迷ったのだが、とっさにアドリブでやってるのにそれはできすぎているのと、『海賊戦隊ゴーカイジャー』みたいに昔ながらの名前だけのシンプルな名乗りの方が好きなのでやめておいた。

 

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コラボガチャのリーナとソニアをイベントに出すかどうかも悩みどころだった。

二人がショーの見物客としてなぜかいるというのはとても馬鹿馬鹿しいので、いくつかネタを考えてはみたのだが、リーナはただでさえ面白キャラが立ちすぎているし、ソニアも殺人鬼がこれを見に来ている時点で笑えてしまう。

今回はあくまでもそに子がメインであることだし、あまり欲張ると話がぼやけるので、ここはタイマファイブの一員である若さくらだけにしておいた。

 

とまあそんな感じで、ざっくりとあらすじをまとめて、ニトロプラスさんに見てもらったら、一発OKだった。いや、めでたい。

ただし追加として、『対魔忍すーぱーそに子』というアニメがすでに放送中という設定になった。

なるほど、それなら遊園地で対魔忍ショーをやるのも自然だ。さすが。

その後、プロット、シナリオと進んで、ようやくイベント開催となった。

 

対魔忍RPG初のコラボイベントはどうだったろうか。

いつもの対魔忍ワールドで、すーぱーそに子がちゃんと活躍していると感じてもらえたら嬉しい。色々と考えて作った甲斐があるというものだ。

 

最後に、こんなやりたい放題のコラボストーリーを許可してくださったニトロプラスさんに改めて感謝しつつ、作画担当の津路参汰氏の素晴らしい応援イラストを紹介して、今回の制作雑感を終わることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:もし色がダブっていたとしても、戦隊ヒーローにしたら面白いと気づいてしまったので、ちょうどふうま君が怪人だし、「赤が二人とかおかしいだろ」とゴレンジャイなツッコミを入れてでもやっていた気がする。危ないところだった。色がそろっていて良かった。色指定の人ありがとう。

*2:第3話「そに子、沖縄に行く」

*3:触装! 魔法少女ヒカル』から一番無難そうなデザインのを流用

*4:魔法少女ルキフェル桜花』のそれっぽいクマを使う

*5:これは新規デザイン

対魔忍RPGショートストーリー『舞と災禍とふうまの本』

 七瀬舞がふうま小太郎に声をかけたのは、そろそろ図書室の閉館のベルが鳴り出そうかという時だった。
 G・ヴェルガの短編集『カヴァレリア・ルスティカーナ』を読み終え、作者の故郷であるイタリアのシチリア島、そこに住む人たちの厳しくて切ない人生に想いを馳せて、心地よい読後感に浸っていたら、ちょうど帰ろうとしている彼の姿が見えたのだ。
「ふうまさん、帰るんですか?」
 舞が声をかけてきたことに少し驚いたような顔をして、ふうまは頷いた。
「もうすぐ閉館だからね。七瀬さんは?」
「私もそろそろ帰ります。これ読み終わりましたし」
「じゃあ上まで一緒に行く?」
「はい。ちょっと待ってください」
 舞は自分の本を鞄にしまい、それ以外の図書室の本を端から指先でひと撫でした。紙気の力で本は浮き上がって、それぞれ元の本棚に戻っていった。
「便利だよなあ」
 もう何度も見ているというのに、今日も羨ましそうな顔で言う。
「はい、便利です」
 ふうまと初めて言葉を交わした日、閉館ぎりぎりに慌てて本を戻そうとしていた彼が床で転んでしまって、彼ではなく投げ出された本を助けた時のことを思い出し、舞はくすりと笑った。今日は時間に余裕をもって、本をちゃんと自分で返したようだ。
「お待たせしました」
 図書室は校舎の地下にある。
 閉館時間が来るとすぐ鍵をかけてしまう、せっかちな司書の横を抜けて、エレベーターが来るのを待つ。
 こんな風にふうまと一緒に――と言っても正門を出たらすぐに分かれてしまうのだが――ともかく二人で図書室を出るようになったのは、ここ最近のことだ。
 それまでは図書室で見かけるくらいで、忍術書や歴史書が好きなようだけれど、でもたまに本を広げたまま居眠りしていたりして、忍術が使えない目抜けのふうまの噂どおり不真面目な人かと思って声などかけなかった。
 ふうまも舞には気づいていただろうが、向こうから声をかけてくることもなかった。
 それが彼に魔術書の調査を頼まれたのがきっかけで、今ではなんとなく普通に話すようになった。
 それだけではなく、ふうまのおかげで、眞田焔という普段なら絶対に知り合うことのなかった年上のちょっと素敵な先輩とお友達にもなれた。
「ふうまさんの周りには色んな人が集まってくるの。私もそこに入れたらいいなあって」
 とは、クラスメートの篠原まり、まりちゃん先輩の言葉だ。彼女がふうまに密かに憧れているその理由が少しだけ分かった気がした。
 舞自身はふうまに特別な気持ちは抱いていない。男の人だけれど、それほど緊張しないで話せるお友達といった感じだ。
 ただ、好きな本の話とかすると楽しいので、いつか一緒に神保町の古本屋街にでも行けたらいいなとは思っている。
 でも、それってなんだかデートみたいで誤解されそうだし、まりちゃん先輩に悪い気もするので、まだ誘うことはできていない。
 だから、エレベーターでふうまがこう言ってきたときは、ちょっとドキッとした。
「七瀬さん、今度の日曜って空いてる?」
 今までこういうことに縁のなかった舞でも分かる。というか恋愛物では定番のお誘いのセリフだ。
 でも、どうしてふうまさんがいきなり? 私をそういう目で見ていたんですか? えっ? えっ!?
「今度の日曜ですか? 空いてますけど……」
 突然の言葉に平静を装おうとして失敗した。声がちょっと強張ってしまう。表情も少し硬くなっていたかもしれない。ふうまはそんな舞に気づいて慌てた風に言った。
「いや、ごめん。変な意味じゃなくて。こないだのお礼にふうまの書庫とか見てみたくない? ってそういう話なんだけど」
「あ、そういうお話ですか……」
 ほっとしたような、ちょっと残念なような気持ちで答えながら、その意味に気づいていっそう驚いた。
「ええっ? ふうまの書庫を見せて頂けるんですか? 本当にいいんですか? そういうのって一族以外には閲覧禁止なんじゃないんですか?」
 すごく早口になってしまう。デートのお誘いなんかよりよっぽどドキドキする。
 ふうまはいきなりテンションの上がった舞を面白がっているような顔で答えた。
「そりゃ一般公開するわけにはいかないし、さすがに全部は見せられないけど、まあ大丈夫な範囲でならね。こないだのお礼ってことで、どう?」
「はい、行きます! 絶対行きます!」

 

 そして日曜日。
 待ち合わせは十二時に稲毛屋だ。
 舞が約束の十分前くらいに来ると、ふうまはまだ来ていなかった。
「ちょっと早かったかな」
 稲毛屋のガラス戸に写る自分の姿をなんとなく確かめる。
 デートではないけれど、男の子に誘われたことには違いないので、身だしなみとして、いつもより少しお洒落をしている。
 ふわっと軽めの白いワンピースに、首元と頭には青いリボン。手首には白と青とで色を合わせたシュシュをつけて、靴は思い切ってヒールを少し高めのものにしてみた。これも色はブルー。
 靴を除いて、今日の装いには秘密があるのだけれど気付くだろうか。
 なんだか心が浮き立つのを感じながら待っていると、ふうまは時間ぴったりに現れた。
「七瀬さん、待った?」
「今来たところです。書庫はふうまさんのおうちにあるんですか?」
「いや、別のところ。ここから少し歩くかな。案内するよ」
 そう言って歩き出す。
 やっぱり女の子の服とか気づかないかな?
 そう思った矢先、ふうまは並んで歩く舞を何度か見て、おやっという顔になった。
「七瀬さん、その服ひょっとして紙でできてるの?」
「分かりますか?」
「ちょっと質感が違う気がしたから。ってことは、もしかして自分で作ったとか?」
「はい。可愛い服とかは買うと高いですから。私が着る分には紙気の力で肌触りも布と同じにできますし。さすがに何度も洗ったりは無理ですけど」
「その時はまた紙で作ればいいのか」
「そういうの好きなんです」
「本当に汎用性に飛んでるな、紙気の力。便利だなあ」
 ふうまはうんうんと感心しながら、舞の紙服を興味津々で見ている。
 すぐに気づいた観察眼はさすがだけれど、逆に可愛いとか似合ってるとか、普通なら口にしそうなことは言わないのだった。
 それが彼らしいとおかしく感じながら、舞はわざと意地悪な口調で聞いてみた。
「ふうまさん、なにか言うこと忘れてませんか?」
「え……?」
 ふうまはきょとんとし、急に勘が鈍くなって三秒ほど考えてから慌てて言った。
「あ、すごく似合ってるよ」
「遅いです」
「ごめん」
「もしこれがデートだったらもう失敗ですね。女の子帰ってますよ。はあ」
「厳しいなあ」
 大げさに溜息を吐いてみせると、ふうまは困ったように頭をかいた。舞はくすくす笑った。
 つまり、ふうまも舞のことを別に意識してないということだ。ごく普通の友達。舞もそっちの方が気が楽だった。
 だから、その後はいつもと同じ調子で、最近読んだ本のこととか、焔さんと国会図書館に行ったこととかお喋りしながら歩いて行った。
 少し暖かくなってきた陽射しがぽかぽかと気持ち良かった。

 

 ふうま一族の書庫は五車学園からちょっと離れた山の中にあった。
 先代のふうま当主、つまり彼のお父さんの別宅という話だったが、外観はごく普通の日本家屋だ。ちっともそれっぽくない。
 という思いが顔に出たらしく、ふうまが振り返って言った。
「普通の家だろう? 昔あった本宅の方はもっと忍者屋敷っぽかったんだけどね。書庫は地下にあるんだ。どうぞ」
「お邪魔します」
 ふうまに扉を開けてもらって中に入ると、そこに一人の女性が待っていた。
「七瀬様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
 ものすごく綺麗な人に礼儀作法のお手本のような仕草で頭を下げられた。
「彼女はふうま災禍。この家と書庫の管理をしてもらってるんだ」
「こ、こんにちは」
 返事の言葉が少し上ずった。
 そういう人がいるとは聞いていたが、びっくりするほど素敵な人だ。
 細面で目鼻立ちの整った顔、背が高くて手足もすらりと長くて、サマーセーターに生成りのパンツというラフな格好がものすごく似合っている。お化粧は控えめで、長い黒髪もざっくり括ってあるだけだが、逆にそれができる大人の女性の休日という感じがする。
「七瀬様、どうぞ」
「ありがとうございます」
 さっと出してもらったスリッパに履き替えながら気づいた。玄関にはどう見ても今日生けたばかりという瑞々しい花が飾ってある。
「へえ、花なんか飾ったんだ」
 のんきな声を出すふうまに災禍が物腰静かに頭を下げている。
 ということは、やっぱりこの花は舞のために生けたのだ。そんなことをされたのは生まれて初めてだ。ちゃんとしたお客さんみたいで緊張する。
「俺たち書庫にいるから、飲み物となんか適当なお菓子でも持ってきてくれる? 俺はコーヒー。七瀬さんは何がいい?」
「わ、私も同じものを」
「かしこまりました」
 災禍はお淑やかでありながら、足音をまったく立てない、対魔忍の見本のような綺麗な所作で下がっていった。思わず目で追ってしまう。
「七瀬さん、どうしたの?」
「ものすごい素敵な人ですね」
「はは、そう? 言ってあげたら喜ぶよ。書庫は地下にあるんだ。こっちだよ」
 ふうまは軽く笑って階段を降りていく。舞の驚きが伝わっていないようだ。
 一緒に暮らしている時子先生もそうだけれど、ふうまの周りには年上の素敵な女性が多い。
 だからだろうか、独立遊撃隊を通して色々な女の子と知り合っているのに、特定の子と付き合っているという話は聞かない。
 これはまりちゃん先輩大変だなあなどと思いながら後をついて行く。
 だけど書庫に入った途端、そんな諸々の思いはいっぺんに吹き飛んでしまった。
「うわあーー」
 大口を開けてぽかんとしてしまう。
 そこは想像していた以上に立派な書庫だった。外は普通の家なのに、ここだけヨーロッパの大きなお屋敷の書斎のようだ。
 広さは十二畳くらい。四方の壁は全て本棚に囲まれている。天井がかなり高いので梯子付きの立派な本棚だ。壁と壁の間にも幾つもの本棚があって、それでも収まらない本が床から山積みになっている。
 それでいて狭苦しい印象はなく、立派な書斎机は大きくて使いやすそうだし、部屋の真ん中に置かれたテーブルもソファもゆったりとしている。天井近くの窓からは外の柔らかい日差しが差し込んできて、とても過ごしやすそうだ。
 ふうま一族の長い歴史を感じさせる沢山の本たちの香りが舞の鼻を素敵にくすぐってうっとりしてしまう。
「なかなか立派だろう?」
 ふうまはちょっぴり自慢げに言った。自慢したくなる気持ちは分かる。
「私ここに住みたいです」
「はは。俺も前はよく授業をさぼってここに来てたよ」
「いいなあ」
 舞は心の底からそう言い、ふうまと向かい合うようにソファに腰を下ろした。
「とりあえず七瀬さんが読みたそうなものを用意しておいたけど、他にもなんかあったら言って」
 そのふうまの顔も見られないくらい、舞は机の上の本から目が離せなくなっていた。名前しか聞いたことがないような本がずらりと並んでいる。
「『ふうま忍要秘記』に『ふうま忍法水鏡』に『忍術極意』。すごい。ずっと読みたかったんです。これオリジナルですよね。嬉しい。それでこっちは――えっ? ちょっと待ってください。『ふうま間諜目録』? これって現存したんですか? とっくの昔に失われたと思ってました!」
「俺もそう思ってたんだけどね、ちょっと前に虫干ししたときに本棚の隙間から見つかったんだ。これなんかもそうだよ。さすがの七瀬さんでも知らないだろう?」
「『乱波小太郎道中日記』? 知りません。聞いたこともないです」
「三浦浄心の『慶長見聞集』は知ってる? 江戸初期の随筆の。あれにふうまのことが書いてあるんだけど」
「知ってます。下総の盗賊の……ええと高坂甚内でしたっけ? 江戸のふうま一族が邪魔になって、同じ盗賊なのに幕府に密告したっていう」
「それそれ。史実では、というかうちの言い伝えでも、その時のふうま小太郎は幕府に捕まって処刑されたことになってるんだけど、実はそれを免れて幕府の追手や甚内の刺客と戦いながら、ふうまの里まで戻ったという、その日記」
「えっ!? そんなことが本当にあったんですか?」
 本当だったら歴史上の大発見だ。舞が目を丸くすると、ふうまは困ったような顔をしながら、
「いや、そういう体の小説っぽい。あまりにも荒唐無稽すぎるし、後になると武蔵坊弁慶とか那須与一の生まれ変わりとか普通に出てきて、悪霊として蘇った平将門と大忍術合戦を繰り広げたりするから。最後には江戸城が爆発炎上するし。それは嘘だろう」
「トンデモ架空戦記じゃないですか!」
 思わず突っ込んでしまう。
「そういうこと。これ書いたご先祖様はふうま小太郎と歴史上の豪傑をクロスオーバーさせたかったんだろうな。文才はあったみたいで馬鹿馬鹿しいけど面白いよ」
 そんなものが一族の書庫に残ってるなんて面白すぎる。今まで聞いたこともないから、きっとこの世にこれ一冊しかないに違いない。
 誰だかは分からないが、ふうまのご先祖様が趣味で書いてこっそり書庫に残しておいたのだ。子孫を面白がらせせるためか、ひっかけてやるためかは分からないけれど。
「忍者のかたわらオリジナル小説書きとは。ふうま一族やりますね」
「あんまり褒められてる気がしないなあ」
 神妙な顔で言うふうまに舞は吹き出していた。それを見てふうまも笑い出す。
「これ読むよね?」
「ぜひ読ませてください」
 舞は勢いよく頷いたが、いきなりそれから読み始めるのもおかしいので、まずは普通に『ふうま忍要秘記』を手にとった。
 年代物の和綴じの本を開くと、舞はすぐにその世界に没入していった。

 

 あ、いい匂い。
 コーヒーの芳香と共に甘い香りが漂ってきて、舞は読んでいた本から顔を上げた。
「お待たせしました」
 災禍が階段をしずしずと降りてくる。手に持ったお盆の上にはコーヒーと美味しそうなホットケーキが乗っていた。
「おっ、きたきた」
 ふうまは小さな子みたいに嬉しそうな顔になって、テーブルの本をいそいそと横に退けて空きスペースを作っている。舞も本を置いてそれを手伝う。
「ありがとうございます」
 災禍が持ってきたコーヒーとホットケーキを二人の前に並べた。
 最近流行りのふわふわのパンケーキではなく、昔ながらのしっかりとしたホットケーキだ。
 狐色にこんがり焼けた丸いホットケーキが二枚重ねられていて、その上に四角いバターがちょこんと乗っている。銀色のカップに入ったシロップまで添えられていた。
「わあ、万惣のホットケーキみたいですね」
 舞が思わずそう口にすると、ふうまは我が意を得たりとばかりに頷いた。
「やっぱり行ったことあるんだ」
「もちろんです」
 本好きの聖地、神保町。そのすぐ近くにある万惣は日本で初めてマスクメロンを扱った老舗の果物屋として有名だが、そこに併設されたフルーツパーラーのホットケーキもまた名物として知られている。
 舞の愛読書である『鬼平犯科帳』や『剣客商売』の作者、池波正太郎のエッセイにも何度となく述べられている。美味しいホットケーキを食べながら、神保町で見つけたばかりの本を読むのは幸せの一言だ。
「さすがに万惣さんには及びませんが、どうぞお召し上がりください」
「いただきます」
 うきうきしながら舞はホットケーキにバターを塗り始めた。ナイフが当たるカリカリと言う音が心地よい。
 バターを塗ったら、六等分してシロップを回しかけていく。急いではいけない。下の段までよく浸みこむように、ゆっくりたっぷりかけた。全部かけた。
 ホットケーキはこの食べる前の準備がたまらない。頬がどんどん緩んでしまう。
 そうしてからパクリとやると、外はカリカリ、中はしっとり、そこにシロップがじゅわっと染み込んだレトロな味が口いっぱいに広がっていった。
「ふあああ美味しい」
 思わず溜息が出てしまう。
「ありがとうございます」
 コーヒーもちゃんと豆をひいて煎れてくれたのだろう。ホットケーキによく合う。
「うん、美味いよ」
 舞の感激をよそに、ふうまはごく普通にパクパク食べていた。いつもの味で食べ慣れているのだ。こんな素敵なものを。ずるい。
 そんな彼を災禍は優しい目で見つめていた。ふうまの当主を見守る尊敬と慈愛に満ちた表情だ。
 素敵な人だなと思っていたら、机の脇に寄せていた本をふと見下ろした災禍がはっと顔色を変えた。
「わ、若様、いけません!」
「どうしたのいきなり?」
「どうしたのではありません。女性をお呼びするのに、こんな本を無造作に置いておくなんて!」
 災禍は舞を気にしつつ、ふうまを咎めるように、その“こんな本”を突き出した。
「あ、その本」
「七瀬さん、さっき読んでたよね?」
「はい、まだ途中でした」
「ええっ?」
 思わず口を挟んでしまった舞とふうまとのやりとりに災禍が驚く。
 その本は『ふうま流医心和合秘伝』。
 男女の交合によって養生を目指すための図解入りの技法書で、要するに房中術のガイドブックだ。
 今まで読んだことがなかったし、面白そうだったので、当たり前に広げていたが、よく考えたら少しはしたなかったかもしれない。
 そう思ったら、急に頬のあたりが熱くなってきた。思わず俯いてモゴモゴ言い訳してしまう。
「あ、あの、すいません。なんでもかんでも手当たり次第に読んでしまって。わたし本はなんでも読む方なので……」
「災禍は気を回しすぎだよ」
 ふうまが苦笑すると、災禍はぼっと火がついたように赤面していた。
「た、大変失礼いたしました。七瀬様、どうぞ続きをお読みくださいませ」
 と本を返してくれたが、そう言われてもすぐには読みにくい。
 災禍もあたふたしながら、その場を取り繕うようにこう聞いてきた。
「ええと、七瀬様は若様とどのようなきっかけでお知り合いに?」
「え? あ、はい。ふうまさんに本の調査を頼まれたのがきっかけです、はい」
「本の調査?」
「特殊な紙を使ってる魔術書でね。七瀬さんは紙気使いなんだよ。悪いけどちょっと見せてくれる?」
「あ、はい」
 とりあえずこの変な空気をなんとかしたい。
 舞は折り紙を取り出して、犬、ウサギ、それから蝶を手早く作ってみせた。
 指先で軽く紙気を送り込むと、犬はテーブルをトテトテと歩き出し、ウサギはぴょんぴょんと跳ね、蝶はヒラヒラと羽ばたき始めた。
「見事ですね」
 まだ顔は赤かったが災禍が感心したように言った。
「だろう?」
「素晴らしい術の制御です。さぞ鍛錬を積まれたのでしょう。感服しました」
「そ、そんな、私なんてまだまだです。でもありがとうございます」
 いきなり災禍に手放しで褒められて、舞は嬉しいよりも慌ててしまう。
「その本の調査でも七瀬さんの紙気の力に色々と助けられてね。それで今日誘ったってわけ」
「そうでございましたか。七瀬様、若様の力になっていただき、ありがとうございます。どうぞ今日はごゆっくりお過ごしくださいませ」
「は、はい」
 舞はこくこくと頷いた。
「災禍。またちょっと痛んでいる本があったから悪いけど早めに修繕しておいてくれる? そこに集めておいたから」
 ふうまは書斎机の本を指さして言った。
「かしこまりました」
 災禍はそう答えてから、ふと何かに気づいたように舞の方を見やって、ふうまに尋ねた。
「若様、お邪魔でしたらここではなく、上でやらせていただきますが?」
 躊躇いがちなその口調はなんだかまたすごく気を回されている感じだ。さっきの房中術の本のときの慌てぶりといい、ふうまとの仲を誤解されている気がする。
「別にここでやって構わないよ。七瀬さんはいい?」
「だ、大丈夫です」
 ふうまは全然気づいていないらしい。
 舞はまたこくこく頷くしかなかった。

 

 災禍が書斎に残って本の修繕を始め、ふうまと舞はまたそれぞれの本を読み始めた。
 最初は災禍の気配に緊張していたが、別にやましいことはなにもない。すぐにまた舞は読書に夢中になっていった。
 それからどれくらいの時間がたったろうか。
 向かいで本を読んでいたふうまがモゾモゾと動いたような気がして舞は顔を上げた。
 すると、いつの間にか寝てしまったふうまに災禍がタオルケットをかけているところだった。
「ふうまさん、寝ちゃったんですね」
「ここのソファは寝心地がいいらしくて。それにしても女性をお誘いしておいて居眠りとは、しょうがない若様ですね。七瀬様、申し訳ありません」
 そんな風に謝られて、舞は慌てて手を振った。
「ふうまさん、疲れているんじゃないでしょうか。独立遊撃隊の任務とかで。アサギ先生にも信頼されていて大変そうです」
「それは若様に仕える者として嬉しいことなのですが」
 あまり無理をして欲しくはない。災禍はそんな顔をしていたが、諦めたように小さく息を吐いて、また本の修理に戻っていった。
 舞はふと思いついて言った。
「災禍さん、よかったら本の補修のお手伝いをさせてくれませんか?」
「そんな。いけません。お客さまにそのようなことをさせては若様に叱られてしまいます」
「ふうまさんは寝ているから大丈夫ですよ。美味しいホットケーキをご馳走していただいたお礼です。それにわたし本を直すのはちょっと自信があるんですよ。紙気使いですから」
 机の上の折り紙、もう動かなくなっていたそれらに紙気を送る。犬とウサギと蝶はすぐに息を吹き返し、そうだそうだと言いたげにピョコピョコと動きだした。災禍が微笑んだ。
「分かりました。それではお願いします」

 

 書庫の本の大半は和紙で作られた和装本だ。
 和紙は世界一長持ちする紙と言われていて、現在出版されている本の主流である洋装本と比べて、その寿命は遥かに長い。千二百年以上前の正倉院の目録が当時とあまり変わらずに残っているほどだ。
 それでも長い年月のうちには、和紙が虫に食われたり、カビて弱くなったりする。本を閉じている糸が切れることもある。
 それで修繕を行うのだが、古い和装本はその内容だけではなく、本それ自体の形も含めて貴重な歴史的資料だ。
 だからなるべく元の形を変えないように、かつ安全な材料を使って修繕を行う。
 使うのも安全なものだけ、不純物や防腐剤が混じっていない和紙、小麦粉糊、絹糸、水、それくらいだ。セロテープやボンドなんてもってのほかだ。
 そして手間もかかる。
 例えば、虫食いを直すときは、まず本を閉じている糸を切ってバラバラにする。
 次に、直したい箇所にあった厚さ、色合い、風合いの和紙を選び、それを水で湿らせ、わざと手でちぎって、貼り付けるための小片を作る。
 それを虫食いの穴に合わせ、水で薄めた小麦粉糊で貼り、水分が完全に乾いてから、絹糸でまた製本し直すという、一箇所直すだけでも大変な作業となる。
 しかし紙気使いの舞は違う。
 そういったほとんどの過程を省略できる。
 穴にあった和紙を選んで補修片を作ったら、本をバラさず、水で濡らさず、糊も使わず、和紙の繊維を紙気で直に操ってくっつけてしまう。
 いい補修用の和紙が見つかれば、そこに虫食い穴があったことすら分からなくなる。
 手間は遥かに少なくて済むし、なにより水で濡らしたり、糊を使ったりしないので、補修をすることによる後のリスクもない。
 舞は災禍に手伝ってもらって次々と本を修繕していった。その鮮やかな手際に災禍はほとほと感心したように言った。
「さすが自信があると仰っただけのことはありますね。お見事です」
「ありがとうございます」
 舞はそう答えながら、補修用に予め様々な風合いの和紙を集め、それをリスト化し、その中から補修にぴったりのものをたちどころに見つけ出す災禍に深い尊敬の念を抱いていた。
 舞のは単なる補修技術だが、災禍のそれは書庫の管理人として、どれだけ誠実にやってきたかを示すものだからだ。ふうまが信頼するのも当然だ。
「七瀬様のおかげでもう少しで補修が終わりそうです」
「じゃあ終わったら一息入れませんか。またコーヒーでも。今度は災禍さんもご一緒に。ふうまさんはまだ寝てますし、お喋りもしたいですし」
「そうですか。ではお相手させていただきます」
 災禍は穏やかに微笑んだが、次の瞬間、はっとした顔で立ち上がった。
「急にどうしたんですか?」
 そこまで言って舞も気づいた。
 ふうまが寝ているソファの向こうの壁、黒くて鍵のかかった本棚から魔の気配が立ち上っている。
 その黒い本棚の本だけは悪いが見せられないとふうまは言っていた。一族だけの秘密と言うよりも、扱いの難しい魔界の本があるからだと。
 とすると、突然のこの気配の正体は、
「まさか妖紙魚(ようしみ)ですか?」
「おそらく。先の虫干しの際に紙魚は全滅させたつもりでしたが、どうやら生き残っていて、今この時に妖紙魚に変異したようです」
 災禍は険しい顔で頷いた。
 本を食べる虫、紙魚
 体長は1センチくらいで、フナムシのような姿をしたそれは、銀色の鱗で光ることから雲母虫(きららむし)とも呼ばれている。
 妖紙魚はその紙魚が魔性の本に挟まれているうちに自然変異したものと言われていて、滅多に見ないことからその実態も謎に包まれている。
 分かっているのは、紙を食べなくなったかわりに、その魔性の本に五年、十年と潜み続け、次に本を開いた人間の耳から脳に入り込んで、その記憶を食べてしまうということだ。
 一説には魔性の本が自らを読ませないように、ブービートラップとして紙魚を利用するためとも言われている。
 元の紙魚とは違って、動きは信じられないほど素早く、空まで飛んで、本を開いた人間が目で追うことは殆ど不可能らしい。
 舞も話には聞いたことがあったが、本物の妖紙魚も、それが潜んでいる魔性の本も見たことはなかった。しかし対処法は知っている。
「すぐ退治しましょう」
「もちろんです」
 知らずに本を開いてしまうとやっかいだが、逆に言えば本を開かなければ妖紙魚は出てこない。それが潜んでいる本ごと焼くのが最も確実とされていた。
 しかし、災禍は舞に驚くべきことを要求してきた。 
「七瀬様、紙の結界で私ごとあの本棚を包んでいただけますか?」
「どうするんですか?」
「本棚を開けて、妖紙魚が潜んでいる本を開きます」
「でも、そんなことをしたら閉じ込められた妖紙魚が災禍さんを」
「はい。襲ってくるでしょう。それを撃ち落とします。魔性の本とはいえ、ふうまに伝わる大切な宝、焼くわけにはまいりません。しかし万が一にも若様を危険にさらすわけにはいきません。ですから紙の結界内で私が始末します。どうかお願いします」
 言葉は丁寧だが、有無を言わさぬ口調だった。舞は口から出かけた反論の言葉を飲み込んでいた。
「分かりました。でも念のためこれを。妖紙魚は耳から脳に入るそうです。もしものときに災禍さんを守ってくれるはずです」
 舞は紙気の力を使って、災禍の両耳にぺたりと紙を貼り付けた。妖紙魚がどれだけの力を持っているかは分からないが、僅かなりともその侵入を防いでくれるだろう。
「ありがとうございます」
「ふうまさんは起こしますか?」
 舞はそうも尋ねてみた。災禍の答えは想像できたけれども。
「若様のお休みを邪魔するほどのことではありませんから」
 舞が想像した通りの言葉が、想像したよりもずっと素敵な微笑みとともに返ってきた。それで舞の気持ちも固まった。
 災禍は黒い本棚に近づき、懐から鍵を取り出して、その扉を静かに開けた。
「では、お願いします」
「いきます。紙気・防衛陣“封絶”」
 舞は常に持ち歩いている忍法用の短冊の束を放った。
 短冊はぱっといったん広がってから、災禍ごと本棚を一辺3メートルくらいの箱状に包み込むように、隙間なくびっしりと張り付いた。
「災禍さん、これでいいですか?」
「申し分ありません」
 災禍が紙箱の中から答えた。少しの緊張も感じられない。
 紙なので光を全く通さないということはないが、中は相当に暗いはずだ。ただでさえ動きの速いという妖紙魚をあの暗がりで捕らえられるのだろうか。そもそも武器も持たずにどうするのだろう。
 そんな舞の心を読み取ったかのように災禍が言った。
「ご心配なく。私にはふうまの眼と、それにこの足がありますから」
 災禍は本棚から一冊の本を取り出すと、躊躇うことなくそれを開いた。
 次の瞬間――。
 舞には何も見えなかったが、災禍の右脚が鋭く跳ね上がり、ピシッという微かな音が聞こえた。妖紙魚の気配が消えていくのが分かった。
「終わりました」
「え? もう倒したんですか?」
「敵の出どころが分かっていて、紙の結界内で私にだけ向かって来るとなれば撃ち落とすのは簡単です。もう紙を解いてくださって大丈夫です。ありがとうございました」
「は、はい」
 あまりの手際の良さに呆気にとられつつ、舞は紙の結界を解いた。
 凄まじい蹴りの風圧で生成りのパンツがボロボロになっている。その隙間から黒光りする足が見えた。
「鋼鉄の足……」
 そこで初めて舞は、災禍がサイボーグの義足をつけていたことを知ったのだった。
 それで蹴り潰された妖紙魚はもう影も形も見えない。
「ちょっと着替えて参ります」
 災禍は一礼して、何事もなかったかのように、一階への階段を上がっていった。
「本当にすごい人……」
 今日読ませてもらったどんな本よりも驚く舞だった。

 

 災禍が着替えて戻ってきた後は、本の修繕の続きをして、それがすんだら二人でお茶とお喋りを楽しんだ。
 『七瀬様』というのもやめてもらい、普通に名前を呼んでもらって、こないだの本の調査のこととか、今までにやった任務のこととか、大人っぽいお化粧のコツなんかも聞くことができた。
 それからちょっと気になっていたことも確認してみた。
「もし違ってたらごめんなさい。ひょっとして災禍さん、私とふうまさんがお付き合いしてるとか思ってませんか?」
「違うのですか? 若様がここに女性を連れてくるのは舞さんが初めてですから、私はてっきりそうなのかと……」
 災禍は意外そうな顔をする。ああ、やっぱり誤解してた。
「違います違います。全然そんなことありません。ただのお友達です。いえ、ただのって悪い意味じゃなくて、ごく普通のお友達ってことです。だからその付き合うとかどうとかは全然。あの、すいません」
 なぜか最後に謝ってしまう。
「申し訳ありませんでした!」
 災禍はまた気の回しすぎに赤面していたが、舞は誤解が解けて一安心だった。
「それで若様とお付き合いしている方はいるのでしょうか?」
 躊躇いがちに災禍はそうも聞いてきたが、舞は「いないとおもいます」とだけ答えておいた。
 災禍は残念なような、ほっとしたような顔をしていた。

 

「ふああ、よく寝た」
 ふうまが目を覚ましたのは、もう夕方にもなろうという頃だった。冬眠が終わった熊のようにのっそりとソファから身を起こす。身体にかけてもらっていたタオルケットが床にずり落ちた。
「あ、ふうまさん、起きたんですね」
「え? 七瀬さん? ――ああ、そうか。来てたんだっけ? ごめん、寝てた」
 寝起きでまだぼんやりしているふうまに災禍が眉をひそめる。
「若様、女性をほったらかしにして居眠りなんて失礼の極みです。それにいくらなんでも寝すぎです。もうこんな時間ですよ」
「ごめんごめん。なんか寝ちゃってさ。七瀬さん、悪かったね」
「いえ、私はゆっくり本を読ませてもらいましたし、災禍さんとお喋りもできましたから」
「そう? ならよかったけど……。災禍、これかけてくれてありがとう。あれ? なんでさっきとズボンが変わってるんだ?」
 床に落ちたタオルケットを拾って災禍に渡しながら、ふうまが尋ねる。
「少し汚れたので着替えました。それがなにか?」
「いや、別にいいけど……」
 ふうまは怪訝そうな顔をしたが、さすがに寝ている間に妖紙魚が出たことなど分かるはずもない。
「若様が寝ている間、舞さんと楽しい時を過ごさせていただきました」
 災禍はちょっぴりすまし顔で「女同士の秘密ですからね」と言いたげに舞にウインクした。
 それはドキッとしてしまうほどチャーミングだった。

 

(了)

 

 

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【制作後記】

 ブログに初めて小説を載せてみた。

  七瀬舞と眞田焔のイベント「ファイアー&ペーパー」の後日談だ。

 時期的には、やはり舞が登場しているイベント「期末試験とうさぎの対魔忍」よりは前にあたる。

 もちろん非公式だ。

 アクション対魔忍で舞のイベントを見たら、デートの待ち合わせで舞が一人で喋るだけという内容が良かったので、こっちも舞視点でなにか書きたくなったのだ。

 冒頭で舞が読んでいた「カヴァレリア・ルスティカーナ」は実在していて、意味は「田舎の騎士道」。

 対魔忍関係で大阪出張したさいに、古書街『阪急古書のまち』に寄り道して見つけ、タイトルの意味もわからないまま、なんとなく買った岩波文庫だ。

 読んでみたら、フランダースの犬の最終回が延々と続くような、かわいそうな話が目白押しで、それが妙に魅力的だったので、舞にも読んでもらった。

 神田の万惣フルーツパーラーは残念ながらなくなってしまった。ホットケーキももう食べられない。昔行った懐かしさも込めて、対魔忍世界ではまだ残っていることにした。

 また気が向いたら、勝手に小説なりシナリオなり書いて載せるかもしれない。

 ではまた。

 

対魔忍RPG 「ファイヤー&ペーパー」 制作雑感

イベント「ファイヤー&ペーパー」が開始された。

一月ぶりの更新になるが、今回も制作時のことについて色々と思い返してみる。


作ったのは昨年末、結構最近だ。

例によってストーリーはお任せで、報酬キャラが眞田焔であること、イベント内で七瀬舞を登場させることだけが決まっていた。

 

眞田焔は対魔忍RPGではプレイアブルキャラとして三回目の登場だ。

レアリティRの眞田焔、HRの【稽古初め】眞田焔ときて、ついにSRの【槍炎の戦闘狂】眞田焔と順調に出世している。

 

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そのわりに、これまでのイベントではあまり目立っていない。
今回の肩書きの通り、戦闘狂の困った対魔忍という噂話は色んな人がしているが、それで特に活躍するわけでもなく、それどころか蜘蛛の貴婦人に捕まっていたりと、良いところがまるでない。

しかし、同じく火遁使いの神村舞華には「姉御」と慕われていたりするので――そう書いたのは私なのだが――ともかく、戦闘狂だけではあんまりなので、もうちょっとまともな見せ場を作ってやることにした。

 

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もう一人の七瀬舞は、決戦アリーナには出ていたが、対魔忍RPGにはまだプレイアブルにもなっていない新キャラだ。今までのことなど考えなくていいので書きやすい。
しかも、紙を自在に操る紙気使いで、なんでも燃やしたがる焔とはいい感じに相性が悪そうだ。

というわけで、サブタイトルは「ファイアー&ペーパー」とし、性格も属性も相反する二人が、任務を通して仲良くなるという、実によくある筋立てになっている。

 

その仲立ちするのが我らがふうま君だが、初登場の舞と絡ませるには、ストーリー上でも面識がない方がいい。
じゃあ、どこで会わせようかと考えて、紙使い――じゃない紙気使いなら、当然本好きだろうと、設定書にそんなことは全然書いてなかったのだが、R.O.D読子・リードマン的にそう決めて、図書館で偶然会うことにした。

 

最近まで知らなかったのだが、対魔忍RPGより早くアクション対魔忍に舞が登場したので、R.O.DR.O.DでもTV版のアニタ・キングのように、紙は使うが本は嫌いとかいうキャラになっていたら、後発のこちらが矛盾してることになってやばかったのだが、好感度シナリオを確認したらそんなことはなかったので安心した。

ただ、アクションで舞が図書館はデート向きじゃないみたいなことを言ってるが、そんなことは全然ないと教えてあげたいところだ。
そういう意味では偶然はいえ、こっちのエピローグで焔と図書館に行かせていて良かったのだが、そうすると時系列的にRPGの後っぽいアクションとの矛盾がまた発生して―――まあいいか。気にしない気にしない。

 

ともかく、図書館で新キャラと出会うという導入は「忘れられた書斎」と同じだ。
シュヴァリエがらみの本の話というのも同じなので、家に帰るとさくらがいて、受け取ったシュヴァリエの手紙で呼び出され、向こうでまんまと罠にはまるという、前とそっくりの展開にわざとしている。

 

一つ違う点は、出発する前にふうま君のメンバー探しの場面が入るところだ。
RPGリプレイの第一回みたいでおかしいが、今まであまりやっていないだけで、いつもこんな風に任務にあわせてメンバーに声をかけているはずだ。呼んでもいないのに勝手に着いてくる人もいるが。

 

こんなシーンを挟んだのは、プロローグで舞の名前も分からないようにしたためと、焔も今までふうま君とあまり絡んでいなかったためだ。
舞は他に紙気使いがおらず、篠原まりと仲良しという設定があったので*1、その線から紹介してもらうとして、焔の出し方がちょっと難しかった。

 

火遁使いが必要になったとき、ふうま君がまず頭に浮かべるのは神村舞華のはずだ。今までのストーリーからすると、そうでないとおかしい。
それをさしおいて焔に登場してもらうためには、まず舞華に声をかけたが、駄目だったので焔になったという流れが自然だ。
自分が行けないので、姉御と信頼している焔を紹介するのであれば、舞華のキャラ的にも無理がなさそうだ。

 

というわけで、舞華には風邪をひいてもらった。ごめん。対魔忍だって風邪くらい引く。
時期的にコロナウイルスにやられたかと言われてるが偶然だ。きっとヨミハラで炎王の水流でも食らって身体が冷えたのだろう。
それにしても、すかさず風邪引き舞華の絵を上げてくれたSian氏には大感謝だ。枕が可愛いのが素晴らしい。

  

さて、シュヴァリエからの手紙には前回と同じくたちの悪い呪いがかかっている。
ふうま君とさくらも学習したようで、今回は呪いにかからずに済む。

ちなみに、仮に呪いにかかっていたとして、この二人が一人になったアンドロギュヌスとは、石井輝男の映画「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間*2に出てきた、男と女が背中同士でくっついているやつをイメージしている。

予告を見れば分かると思うがとてもヤバい。


江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 - 予告編


だから、こんな呪いの話を聞いたら真っ先に手を出しそうな黒田巴にはやめておけと忠告しておく。
せっかく蓮魔先生と一つになっても、肝心のチンポは表と裏にあるので、お互いに咥えることも、入れることもできない。切ないだけだ。
もともと二つのものが一つになるのがいいのであって、最初から一つになっては意味がない。男と女とはそういうもんだ。男と女じゃないけど。

 

話を戻して、ヨミハラに出かけたふうま君と舞、今まで話したことはなくても、お互いに図書館で姿は見かけているので、読んでいる本の話でようやく盛り上がる。
ここで出てくる本のタイトルは、実在するものと、しないものが入り混じっている。

 

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舞が昨日一日で読んだという本、これらは全て実在している。

私も全部持っているが、どれか一つ選べと言われたら、「時空の旅人」を推す。
あえてルビを振らなかったが「時空」は「じくう」ではなく「とき」と読む。
昨年末に亡くなられた眉村卓ジュブナイルだ。
そんなジャンルは聞いたことがない?
ライトノベルという言葉ができる前、スレイヤーズよりも、ロードス島戦記よりもさらに前に、少年少女向けにそういうジャンルがあったのだ。

 

アギノ・ジロという未来少年によって、生徒三人と教師一人がスクールバスごと過去に飛ばされてしまうというタイムトラベル物だ。
元々は「とらえられたスクールバス」というタイトルだったのだが、1686年に「火の鳥 鳳凰編」と一緒に劇場アニメ化するさいに改題されている。
当時から「時空」と書いて「とき」と読むのはダサいと思っていたし、今でもそう思っている。
もちろん私が持っているのは原題のほうだ。

 

次点として、初恋をあげておく。

同名の本は山ほどあるだろうが、ロシアの作家ツルゲーネフのものだ。

詳しい内容はあえて書かないが、思春期の女の子向けなタイトルとは裏腹にとんでもない話である。

「中学生のときに期待して読んだらすごいがっかりした」という知り合いの女性の言葉がとても印象に残っている。

それを聞いて私も読んだ。確かにすごかった。

 

それにしても、初恋といい、サランボーといい、オルメードの騎士といい、どれも恋が成就しない話だ。舞はそういうのが好きなのだろうか。たまたま昨日だけか?

 

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一方、ふうま君が繰り返し読んでいるという忍術書、これはかなり嘘が混じっている。
とはいえ、元になる忍術書がないわけではない。

 

まず萬川集海(まんせんしゅうかい、ばんせんしゅうかい)という本は実在している。
これは江戸時代になって書かれたもので、伊賀と甲賀の忍術をまとめた集大成と言われていて、実際に忍術の基本書である。

例えば、夜襲のやり方についてはこんな感じだ。

 

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この画像は現代語訳された完本からで、これを読めば対魔忍の世界がより深く分かる――なんてことはないだろうが、参考資料として私も持っている。

 

完本 万川集海

完本 万川集海

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 単行本
 

 

舞が正・続・続々と言っているのは、この萬川集海を正編として、さらに続編、続々編が書かれたという意味だが、ここが嘘だ。
対魔忍世界では現代に至るまで忍者が存在しているので、時代に合わせて新しいものが作られていったという含みを持たせている。


また井河国忍術秘法、甲河秘法口授之巻、この二つも実在しない。
だだし、読んだことはないが、伊賀国忍術秘法、芥子之秘法口授之巻というのはあるらしい。それっぽく字面を変えてみた。
こういうちょっとした嘘をでっちあげるのがシナリオ担当の楽しみだ。

舞が100回読んだというベルカメについては後ほど。
わかってる人はわかってると思うが。

 

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ふうま君と舞が打ち解け始めたところで焔が現れる。
ここでの登場の仕方は、なんでも燃やしたがる困った人という、噂話で聞いた通りの描き方をしている。
そう見せておいて実は――というのがセオリーだからだ。すでに悪いイメージがあるなら使わないともったいない。
一方、舞は表には出さないが焔にかなりムカついている。
「私の紙は燃えません」とか、ぼそっと言ってたりして、大人しそうで頑なな部分が垣間見える。

 

シュヴァリエの館へ行くと、ドラウグル・オーガストが鹿之助と連絡していることが判明したり、シュヴァリエお得意の――というか単に私が好きで使ってるだけだが、シェイクスピアの引用で罵倒されたりする。二人とも今までに出てきたキャラなので実に動かしやすい。

 

引用元の「尺には尺を」は、婚前交渉が禁止された厳格な街で、恋人を孕ませた罪で死刑が決まった兄クローディオを助けるため、その健気な妹イザベラが奔走するお話だ。セックス禁止のルールを決めた領主代理アンジェロに兄を助けてくれと願ったところ、「じゃあ今夜、俺のベッドに来い」と持ちかけられ、この野郎言ってることとやってることが全然違うじゃねえかと困ったイザベラが、かつてアンジェロに捨てられた婚約者マリアナを自分の代わりにベッドに送り込んで罠にはめようとする。

とまあそんな喜劇だ。

YouTubeに短くまとめたラジオドラマがあるので興味があったら聞いてほしい。

エンディングは結構驚愕である。
シェイクスピア「尺には尺を‐Measure for Measure‐」(ラジオドラマ)

 

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また、シュヴァリエのセリフのうち、この「馬には乗ってみよ、魔術にはかかってみよ」というのは、正しくは「馬に乗ってみよ、人には添うてみよ」ということわざで、彼女はそれをもじって使っている。
意味は「何事も自分で試してみないと分からない」といったところだ。
しかし、実のところ元のことわざとして私にとって馴染みがあるのはこちらの方だ。

 

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必殺のキン肉バスターをバッファローマンに返されたキン肉マンが、あえてもう一度それを使おうとしているシーンで、このあと新(ネオ)キン肉バスターが炸裂する。
当時は元の言い回しなど知らなかったため、いまだにこっちが先に頭に浮かんでしまう。

 

そんなこんなで、ふうま君、焔、舞の三人はわざと魔術トラップにかかって本の中に閉じ込められ、紙の敵の大群が現れて、炎も使えなくなって、焔と舞はふうま君とはぐれてしまう。
ここからが今回のキモだ。
さっきは対魔忍として助けたが、嫌いな人とは別に話したくないという、まだまだ子供の舞に、焔が自分は好かれてないと知りつつ、頑張って話しかけている。

 

傍迷惑な戦闘狂と言われていて、実際にそういう面もあるのだろうが、ちゃんと相手を認めて、ぎこちなくも自分からコミニュケーションをとろうとするあたり、さすが姉御といったところだ。
電話一本で舞華の頼みを聞いたりしているし、基本的には後輩思いの人なのだろう。
もしかたら学校に模擬戦をしに来るのも、後輩を鍛えてやるつもりなのかもしれない。
それはそれで面倒くさい先輩だが。

 

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ともかく、二人とも「ベルサイ湯の亀」、略してベルカメ好きということが判明して、一気に距離が近づく。
バックナンバーの話とかは、もはや単なる雑談である。ふうま君のことも忘れて盛り上がっている。困った連中だ。
ベルカメは読みたいが、国会図書館は自分の守備範囲ではないので、行くのをちょっと躊躇っている焔が可愛い。ここでは逆に舞が焔をリードしている。

 

ベルカメの元ネタはもちろん「ベルサイユのばら」と「ガラスの仮面」だ。
二つのタイトルを弄って合体させるとして、「ベルサイ湯」はすぐに決まったのだが、「仮面」をどうするかでふと思い出したのが、ドラえもんに出てきたこのパロディだ。

 

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銭湯の名前で「亀の湯」は定番中の定番だし、「ベルサイ湯」と合わせても座りがいい。なので使わせてもらった。ありがとう、ドラえもん

ちなみに、ガラスの仮面は実際に雑誌掲載時とコミックスとで内容がかなり違っていて、こんなところでネタにする以上、私も舞台を見に行く程度には好きなので、国会図書館まで読みにいったことがある。早く完結して欲しいのだが。

 

そして、ベルカメを通して仲良くなった二人の協力と、合流したふうま君の機転とで、ペーパーデーモンを倒す。
それまで本を燃やすのを嫌がっていた舞が、紙で作った鳳凰を燃やすのがポイントだ。
クライマックスの絵がないのが残念だが、アカシックバスターとか、カイザーフェニックスとかそれっぽいのを想像して欲しい。
私はもちろん科学忍法火の鳥だ。

いや、だってほら、これ対魔忍だし。

 

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エピローグは焔と舞が二人で国会図書館に行くシーンだ。

ふうまにはタメ口でと言っていた焔が仲良くなった舞の口調はそのままにさせている。タメ口が苦手な舞を尊重しているのだ。

きっと焔も舞も普段の交友関係とは違う、趣味で繋がった特別な友達として、会うときはなんとなく二人だけで末長く付き合って行くのだろう。
舞に初めて神保町に連れて行ってもらった焔が、ボンディのじゃがいもを先に食べ過ぎて、肝心のカレーが入らなくなったりするところとか想像すると楽しい。
二人とも仲良くやってくれ。

 

では、今回はこのへんで。

*1:まりちゃん先輩という奇妙な呼び方も設定書のまま

*2:以前は日本では売っていなくて、わざわざ北米版を取り寄せたのだが、最近は普通に売っている

対魔忍RPG 「ジューンブライド狂想曲」&「早く来い来いお正月」 制作雑感

あけましておめでとうございます。

 

対魔忍RPGのイベント「早く来い来いお正月」が開始された。
その名の通り、大晦日から元旦までのストーリーだ。

お正月にふさわしく、一年前の「迎春!猪パニック」、半年前の「ジューンブライド狂想曲」、その他諸々のイベントで登場したキャラ、そして初登場のキャラがお祭り騒ぎするストーリーになっている。

私が担当した「ジューンブライド狂想曲」とあわせて、今回の制作雑感も二本立てでお送りする。

 

ジューンブライド狂想曲

こんなブログを書いていて、企画当初からずっと制作に参加しているように思われるかもしれないが、実はちょくちょく現場から離れている。
お蔵入りなったBLとか、こちらは発売された「正義の変身ヒロインを支える俺と悪の女幹部 」とかをやっている間だ。

 

ジューンブライド狂想曲は、いきなりエロシーンを25人分ほど書いて抜け*1、しばらくして「雷撃の対魔忍」、「殺人鬼ソニア」、「稲毛屋のアイス」などを作ってまた抜けて、さらに1年ほとたってから作ったものだ。

 

その頃には、もう対魔忍RPGのサービスも始まっていたので、実際にどんなものか把握した上で設計できるようになったのが、それまでとの大きな違いだ。
今までに何度かこのブログでは、メインイベントで出していないキャラや場所を出さないようにするとか書いていたが、いざ蓋を開けてみれば単発イベントでキャラが初登場など普通にあったので、もう気が楽だった。

 

実際、このイベントでアンジェが初登場する。ウェディングドレス姿で。

それがこれだ。

【ジューンブライド】アンジェ

 

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作画はのぶしと氏。
エロゲ業界に入った当初からの長い付き合いで、お互い名前が少し違うがシルキーズの「肉体転移」、リリス作品では「魔法少女フェアリーナイツ」などで組んでいる。プロフィール画像のあぐらをかいて椅子に座っている私の絵は氏に描いてもらったものだ。

 

イラストは、アンジェがウェディングドレスの裾を握ってこちらに駆けてくるというもので、ダスティン・ホフマンの映画「卒業」のラストシーンを思わせるような可愛らしさだ。*2
ということで、イベントもふうま君とアンジェが一緒に五車町を逃げ回るような内容になった。

 

アンジェはそれまで書いたことがなかったが、決戦アリーナのエロシナリオはあったし、ウェディングドレスのイラストも色つきであったので、イメージの把握は容易だった。
なにより、まだイベントに出ていないだけで、プレイアブルキャラとしては登場していたので、ゲームを立ち上げるだけで、やる気があるんだかないんだか分からない、常にほわんほわんとしたキャラが一発で分かる。
やはり実際についた声を聞けるのは大きい。
奥義の回復技を使う時の「もうだいじょうぶ」という気の抜けた声が実にいい。

 

キャラが把握できたらストーリーを作るだけだ。

しかも、その条件として、
・【ジューンブライド】アンジェをイベント内で登場させること。
・アンジェ自体が初登場なので、まずローンチのアンジェを使ってキャラ紹介をしてから衣装チェンジすること。
・ウェディングドレスなのでコミカル展開が良さそう。

とまで指定してあった。至れり尽くせりだ。

 

私が考えたのは、どうしてウェディングドレスになるのか、その後のドタバタ、ラスボスとオチだけである。
それもたいして悩まなかった。

 

6月のイベントだから、ジューンブライドの婚姻の女神をボスにしよう。
そいつのせいでアンジェと結婚させられそうになってウェディングドレスに変身、誤解した連中に追いかけられる。
最後は婚姻の女神とバトルして解決。でも、やっぱり皆に責められるオチ。
せっかくだから、自分でシナリオを書けなかったクリアを出そう。

 

といった骨子はすぐに考えつき、後はそれを肉付けしただけだ。楽なものだ。

気を遣ったのはむしろ、ふうま君とアンジェのウェディングカップルを見て、蛇子、ゆきかぜ、若さくら、クリアがどんな反応をするかだ。
そこは各キャラのふうま君への気持ちも含め、じっくり考えた。

 

つまり、こんな風にだ。

 

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蛇子

昔からふうまちゃんが好きだが、距離が近すぎるので気持ちに気づいてもらえない。今すぐ関係をはっきりさせたいほど焦ってはいないが、最近、ふうまちゃんの周りに可愛い子が続々現れているのでやきもきしている。

 

 

 

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ゆきかぜ

まだはっきり好きというほどではないが、ふうまがちょっと気になっている。自分を飾らずに付き合える、今までにいなかったタイプの男子。知らない女の子とイチャイチャしているのを見るとイライラする。

 

 

 

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若さくら

異世界で一人ぼっちの自分が表面上は気楽にしていられるのはふうま君のおかげ。ちょっと好きになってきているが、いずれ自分は元の世界に帰るつもりだし、一線を越えるのはまずいよねと思っている。

 

 

 

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クリア

ふうまに近づく悪い女はくちくする。

 

 

 

 

 

エロシーンはさておき、メインストーリーにおける各キャラのふうまへの恋心が今ひとつはっきりしなかったのだが、この時点ではこれくらいだろうと思って書いた。
アフレコもないのでシナリオに注釈もいれなかったし、単に私がこんな風に考えて、一連のセリフをひねり出しただけだ。
シナリオにNGもでなかったので、当たらずといえども遠からずといったところか。
実際はどうだか知らないし、これが正解と言うつもりもない。

 

「はじめに気持ちがあって言葉がある」とは、「ガラスの仮面」の北島マヤの名セリフだが、そうやって出てきた言葉から受け手がどういうキャラの気持ちを想像するかは千差万別で、書いた私にもコントロールできないのが難しいところだ。

 

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それはそれとして、個人的には若さくらのポジションが好きだ。
結ばれた後の切ない別れを予感させるのがいい。
お別れのシーンは、ハクション大魔王の最終回とか、ドラえもんのび太の宇宙開拓史」とかでいきたい。
「あの若いさくらと会うことはもう二度となかった」
なんてふうま君のセリフで締めると決まるのだが、仮に今後そういう話があったとしても、その後でまたしれっと出てくるだろう。
そういうもんだ。


一方、恋人候補ではないが、ふうまとアンジェを見た大人さくらと紫の会話も気に入っている。
アミダハラ監獄」のときも書いたが、年齢的にそろそろやばいにもかかわらず、いまだに王子様願望があるさくらと、アサギ一筋なので婚期など気にしていない紫が対照的だ。

「恋の逃避行みたいで憧れる」というさくらに対し、「いい年して」と冷たく突っ込む紫、実に良いコンビだ。

 

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実はその後、こんなやりとりも書いてみた。

 

「でもムッちゃん、想像してみなよ。お姉ちゃんとムッちゃんとでお揃いのウェディングドレス着て、恋の逃避行とか憧れない?」
「わ、私とアサギ様がお揃いのウェディングドレス?? ―――うっ、ぶっはああああああ!!」

「うわああああああっ!! ムッちゃん、鼻血! 鼻血! すごいことになってるよ!!」
「お、お前がおかしなことを言うからだ! ペアルックで恋の逃避行とか……ぶっふううううう!!」
「だから鼻血! 鼻血!! 不死覚醒でも止まんなくなってるってば!!」
「と、止まるわけないだろ! 人を殺す気かあ!」

 

ムッちゃんが出した赤い煙幕のおかげで、ふうま君とアンジェが逃げおおせるといった展開だが、あまりにもふざけすぎな気がしてボツにした。

 

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さて、ボスキャラのジュノだ。

最初はもっとまともな女神を設定していた。
婚姻の女神にふさわしく、見るからに優しげで神々しくて、本当に善意でふうま君とアンジェを結婚させようと祝福する。

だが、二人がまったく結婚する気がないのを後で知って、私に祝福させておいてどういうことだと、優しい女神が激怒して襲ってくるという展開だ。

 

それが性悪ロリ女神になり、単なる悪意で結婚させられることになった。
結局、もうジューンブライドが終わっていて残念でしたという、だんだん一休さんじみてきたふうま君のとんちで危機を脱するのだが、ジュノを性悪にしたことでキャラが立ち、これを作った時点ではもちろん考えていなかったが、次の「早く来い来いお正月」でも出しやすくなった。

 

 

早く来い来いお正月

これもストーリーはおまかせだったが、やはり発注時にこの【初詣の魔女】リリスの絵が色つきで完成していた。

 

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旭氏はとんでもないものを描いてくれた。

かわいさ爆発だ。
巫女さんがいるのはもちろん神社。
イベントがあるのはお正月。

ということで、神社で新年のカウントダウンにまつわる話にした。


そして、お正月に家族や友人と久しぶりに会ったり、逆に初めての人と知り合ったりするように、今までのイベントに出てきたキャラやネタを拾いつつ、イベントには登場していないキャラも出して、新年らしい賑やかなストーリーを作ることにした。

 

導入はいつものメンバーで集まるところからだ。
つまり、蛇子、鹿之助、ゆきかぜ、若さくら、クリア、カラス(ヤタガラスの子供)だ。
クリアとカラスはレギュラー化を狙ってことあるごとに登場させている。
晦日の夜、みんなで待ち合わせて、わいわい喋りながら神社に行く。
実に学生っぽいイベントだ。

私にとっては大昔すぎて淡い思い出でしかない。
よく考えたら女の子と待ち合わせて新年のカウントダウンなんて経験もなかった。
まあいい。

 

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ともかくプロットでは、さくらの世界ではその神社がなくなっていて、いかにも事件が起こりそうな場所という情報を出すことしか決めていなかった。
それだけ話しておしまいというのも寂しいので、残りの会話はすべてシナリオの時に即興で考えたものだ。
友達同士で集まってとりとめなく喋っている感じにするため、ふうま君のモノローグは入れていない。セリフの掛け合いだけだ。
こういうストーリーの本筋とはまったく関係ない日常のやりとりは書いていてとても楽しい。
いつか女の子だけを集めてパジャマパーティーとかやってみたいものだ。

 

ところで、ふうま君がいない間、自宅の方で時子 災禍天音が盛り上がっているという話をちょっと書いたら、思った以上に反応があった。
というのも、天音はプレイアブルキャラでは出ているものの、これを作った時点でも、イベントが行われている現時点でもストーリーに登場していないからだ。
実際、里にいるかどうかも分からなかったので、まずかったら天音を消してくれと注釈をつけておいたら、そのままになった。どうやらいるようだ。

次は噂話ではなく、本人のイベント登場を期待したいところだ。


さて、山の上には神社がある。
対魔忍にとって由緒正しい神社で新年を迎えるのだから、対魔忍スーツで正装ということにした。

もちろん素材の使い回しのためだ。

 

素材の使い回しといえば、対魔忍RPGの背景はそれまでのリリス作品からもってきている。
対魔忍シリーズがそうであるように、リリスは近未来のSFチックな舞台でバトルヒロインが陵辱されるゲームを多く作ってきたので、神社なんて場所はあまり出てこない。

 

それでも探せばあるもので、というか私が手がけた「AYAME~人形婬戯~ 」、「雷光の退魔師ナナホ~淫神復活~」で神社に行っている。自分で発注資料を作ったので覚えていた。
だから、そのときの素材を使えばいいだろうと考えていたが、いざ手持ちの背景を確認してちょっと困ってしまった。

 

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これはAYAMEの神社。

田舎の神社という感じで悪くはないが、夜のバージョンを作っていなかった。

 

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ナナホの神社がこれ。
こちらには夜があるが、というか夜しかないが、境内の真ん中に淫神を呼び出すための怪しげな飾りがあって、すでに空間が歪んでいる。クライマックスにしか使っていないからだ。
猫魔神バステトが出てきてからならいいが、普通の状態では使えない。

 

そういえば、シナリオを手伝った「ゆずみなつ」でも神社に行ったなと調べてみたら、この縁日の背景しかなかった。

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さあてどうしよう。
AYAME神社の夜バージョンか、ナナホ神社の飾りなしを新たに作ってもらうか? 

でも、できればバンクでいきたい。

というわけで、自分が関わっていない作品も含め背景素材を総ざらいしてみたら、「クルースニク~催淫に悶える吸血鬼ハンター」にこんなのがあった。

 

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普通の神社だ。しかも昼と夕方のバージョンもあった。素晴らしい。
ありがたく使わせてもらうとして、ナナホからも篝火のある境内だけもってくることにした。それがこれ。

 

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よく見ると、ちょっと怪しげな霧が出たりしていて、雰囲気がいまいち合っていないのは元から作品が違うせいだ。
今後もそういうことがあるだろうが、そこは勘弁してもらいたい。

 

そんな神社には対魔忍がゾロゾロ集まってきている。

これも使い回しだからしょうがないが、モブ対魔忍がみんな戦闘体勢なのがおかしい。

 

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しかもよく見ると、1枚目と3枚目は男女で、2枚目だけ男同士だ。

プレイしてみて「そういう風に指定したっけ?」と気になったので、シナリオを確かめてみたら、私の指定は男同士、男同士、女同士だった。スクリプトのとき変更したらしい。

おかげで2枚目だけ意味深になってしまった。別にいいが。

 

ともかく、そんな対魔忍を大勢見てびっくりしているクリアに、ゆきかぜがお姉さんっぽい言葉をかけているのがいい感じだ。

このセリフはごく自然に出てきた。
自分で書いていて、キャラの成長を実感できる瞬間だ。

 

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神社には怪しいモブ対魔忍の他にも、今までのイベントで出てきたキャラが来ている。

ここで誰を出すか迷ったが、あまり大勢いても手に負えなくなるので、
・ふうまと関わりがあったキャラ
・五車学園の生徒
・こういう集まりに来そうな子
といった条件で考えて、篠原まり秋山凜子喜瀬蛍鳳朱華というラインナップにした。

だから、アサギを始めとする先生たち、柳六穂星乃深月といった卒業生、「そんなちゃらいことができるかよ」とか言いそうな神村舞華などは来ていない。

もっとも、六穂と舞華は「蜘蛛の貴婦人」で仲良くなったので、どこかで一緒に初詣をしているだろうし、舞華はひそかに可愛い物好きなので、とっておきの晴れ着になって、知り合いが誰もいない神社にでも行っているはずだ。

 

ふうまの知り合いのうち、篠原まりだけは上級生トリオとは別に、自分の友達と一緒に来ている。
友達はモブ対魔忍の女子。やはり妙な絵面だ。

 

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そして、ふうま君とは直接話すことがなく、遠くから目を合わせて挨拶するだけだ。
修学旅行とか夏祭りとかでグループ行動をしていたら、仲良くなりたい子が別のグループにいるのを見つけて、なんとか話したかったのだがタイミングが合わなかった。

そんな感じの青春の一幕だ。

 

ただし、まりはふうま君のファンなので、
「来年はわたしもふうまさんと一緒に来たいな。よし、頑張らなきゃ」
とか心の中で思っているはずだ。

また、つい最近知ったのだが、まりは清水神流磯咲伊織と仲がいいようだ。
二人とも設計の時点で絵があったので、ここでまりの友達として顔見せしても良かったかなと今では思っている。

 

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一方、先輩トリオの秋山凜子、喜瀬蛍、鳳朱華は一緒に来ている。

そのうち、凜子と蛍は「その名は峰舟子」で強化外骨格にとどめをさすコンビとして出しているし、私の担当ではないが「カンザキ食堂」で休日に二人で食べ歩きに行くような仲だとも分かっていた。

 

この二人と一緒に来るのは誰かと考えて、最初は“対魔忍に二凜あり”の紫藤凜花を思いついた。
ただ、できればまだ交友関係の分からない先輩キャラを入れて、キャラ同士の繋がりを膨らませたかった。
そこで、凜花については、凜子が誘っても「夜も寒いのもイヤ」と平気で言うくらいの遠慮のない仲であることを示しつつ、「呪いの鏡」で出てきた鳳朱華をメンバーに加えることにした。

 

誘ったのは人付き合いの良い蛍だろう。
朱華は「生真面目であまり遊びにも興味を持たない」というキャラなので、自分から一緒に行きたいと言ったりはしない。
おそらく凜花が誘いを断ったのを横で聞いていて、朱華がちょっと興味をもったのに蛍が気づいて、すかさず声をかけたといったところだ。
朱華は「別に夜は得意じゃない」とか「いま何時?」とか、いかにもつきあいで来ていて退屈しているような素振りだが、内心では「クラスの子と夜中に出歩くなんて初めて♪」と浮かれていたに違いない。


先輩と言えばもう一人、我らがきらら先輩がいる。
もちろん出すことは考えたが、葵渚氏渾身のキャラだけあってあの人は目立ちすぎるし、時にイベントのメインとして、時にふうま君の変わり身として何回も出ているので、今回は遠慮してもらった。

多分、蛇子あたりに声をかけられたものの、一緒に行く面子を聞いて、そうなると自分はみんなの先輩をしなければならないし、本当はふうまと二人っきりで行きたいけれど、そんなことは口が裂けても言えないので、つい用があるからと誘いを断ってしまった。
で、大晦日の夜に、
「やっぱり一緒に行けば良かった~~~! 私のバカバカバカ~~~!」
と、一人ベッドでジタバタしている。
そんな姿がよく似合う。


そうこうしているうちに、ようやく巫女姿のリリスが登場する。

とんでもなく可愛い。

最初、「誰の知り合いだ?」とふうま君が気づかないのは、半ば私の気持ちでもある。
トレードマークの帽子をとって、口を閉じるだけで、えらい美少女になる。
喋りだすといつも通りなのだが。

 

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リリスは「魔女だってクリスマス」以来の登場だ。
巫女の格好でポーズを決めつつ、いつもは大魔女らしい格好云々と言っているが、あの時はサンタだったので、実はふうま君、リリスの普通の魔女姿を見ていない。
そのあたりを突っ込ませて、
「それじゃ、いつもの姿をお見せしますね。ピピルマピピルマ~~~!」
てな感じに魔女姿に戻って、また巫女姿にチェンジという展開を考えなくもなかったが、鹿之助やクリアが「魔女っ子だ!」と大騒ぎしそうだし、すでにシナリオが長くなってきているのでやめておいた。

 

なお、先代リリスの友達でアミダハラに住んでいるノイとは、鋼鉄の魔女アンネローゼに出てきたこの人のことだ。

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多分、ミリアムとも知り合いだろう。
世界観が同じなので、アンネローゼ共々そのうち出てくることもあるはずだ。


そんなこんなでカウントダウンが始まり、新年の一秒前で時間が止まる。

その後は、猫魔神バステトの襲来、また猪に戻ったふうま君、呼び出される三人の猫キャラ、見物しにくるジュノ、助っ人のウェディングドレストリオと目まぐるしい展開になる。

 

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最初のアイデアは「子年だから昔話の猫が恨んで出てくることにしよう」だった。

そこから猫魔神のバステトを考え、まだイベントで出ていない猫耳キャラはいないかなと検索をかけたら、ちょうどクラクルメルシーカノンと三人いた。

トリオで都合が良い。*3

 

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相手が魔神なので、こちらも知り合いの神様のジュノにまた登場してもらうことにする。前にジュノを倒さなくて正解だった。

もちろん性格は相変わらずで、助けてもらうために、実は神殺しの古代龍であるベリリクの友達になってもらった。

 

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ジュノが絡めば当然ウェディングドレスになる。

前回からの繋がりで【ジューンブライド】アンジェは出すとして、他に出せるウェディングドレスのキャラを調べると四人いる。

【射止める花嫁】弓走颯

【二丁拳銃の花嫁】アイナ・ウィンチェスター
【純白と黒翼】ミナサキ
【幻影の花嫁】水城不知火

猫キャラが三人なのでこちらも三人にしよう。
不知火はゆきかぜ絡みの話もあるのでやめておく。
ミナサキも呪いのドレスという設定が面倒なのでパス。*4

アンジェ、颯、アイナにすれば、みんなふうま君と会ったことがあるので紹介もいらなくて楽だ。

 

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また、向こうは知らない連中、こっちは知り合いばかりと対比になる。

ふうま君は去年の始めに猪になっているので、時の止まった世界で動ける言い訳にまた変身してもらおう。

猪だから今年しか使えなかった。ラッキー。

 

といった感じで、たまたまプレイアブルにいたキャラ、たまたまウェディングドレスでは出ていないキャラ、たまたまあった前のイベントやキャラと、色々な偶然をより合わせるようにして、このイベントは作られている。
お正月用のイベントだからか、幸運が味方してくれたようだ。

 

一番の幸運といえば、猫年があったことだ。
ジュノ同様、バステトは倒せないことに決めていたので、じゃあどうやって帰ってもらうかを考えて、何か干支や猫にまつわる気の利いた話でもないかと検索していたところ、ベトナムに猫年があることが分かった。
すでに猫年があるのなら、無理やりならなくてもいいよねという、今回のイベントにぴったりの事実だ。
ありがたく使わせてもらった。

 

猫以外にもいくつか違っているので、日本のものと比較して並べておく。

 

日本
鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪

ベトナム
鼠、水牛、虎、、龍、蛇、馬、山羊、猿、鶏、犬、

 

兎が猫になる他、牛が水牛に、羊が山羊に、猪が豚になっている。

ベトナム以外でも、チベット、タイ、ベラルーシなどで、やはり卯年が猫年に変わっている。

さらにブルガリアでは、虎年が猫年になっていて一年早いようだ。

ふうま君はこちらを思い出すべきだったが、話を考えた時点で私が気づかなかったのでしょうがない。

 

また、最初のアイデアでは猫年があることを教えただけでバステトは帰ってくれたのだが、三年もあるのでやはりもう一つ理由が必要だろうと、サーモンの寒風干しのネタがつけ加えられた。
そんなわけで、冒頭でいきなりサーモンを持ってきているゆきかぜが恐ろしく唐突だ。

もっとも今回のイベント、どこもかしこも唐突なので、それでいいことにした。

 

最後はいつものパターン。

ふうま君が女の子みんなに責められて、リリスが新年の挨拶をして終わる。

この一言のためのドタバタだった。

 

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ということで、今年もよろしくお願いします。

 

*1:以下の通り。

SR 
【最強の対魔忍】井河アサギ、水城ゆきかぜ、ナーサラ、リリム、志賀あさつき、沙耶NEO、神村舞華、紫藤凜花

 

HR 
【駆動武装】八津紫、井河さくら、八津紫、高坂静流、リリス・アーベル・ビンダーナーゲル、リーナ、クルミ・S・坂崎、ミラベル・ベル

 

R 
【死霊騎士】ウィスプ、【パーティ】仮面の対魔忍、ふうま災禍、イーオ・オライオン
グラン、上原燐、四條如月、由利翡翠、雪那・グレイス

*2:映画は結婚式を抜け出してバスに乗ってからは暗いムードだが。

*3:実はもう一人、エリカ・ブラックモアが検索にひっかかる。「必要なら猫を被ってあざとく振る舞う」からだ。それで召喚されたら馬鹿馬鹿しくて面白いので出そうか出すまいか迷ったが、やはり長くなるので断念した。

*4:こいつもジュノに呼び出されたものの「時間が止まってるならイタズラしなきゃ」と勝手にどっかに飛んでいってしまう展開を考えたが以下略。

謎の対魔忍「秋山達郎」を追え!! ゆきかぜの元彼、消滅の危機!?

あなたは彼を知っているだろうか?

この絵はおそらく現存する唯一の全身画像だ。

彼こそは、対魔忍世界から消えようとしている秋山達郎、その人である。

 

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昔の怪しいUFO特集みたいな始まり方だが、この前の記事でもちょっと触れた、水城ゆきかぜの恋人にして、秋山凜子の弟でもある、秋山達郎についての記事だ。

 

対魔忍もゲームから始まり、決戦アリーナ、対魔忍RPG、そしていずれ始まるアクション対魔忍と世界がますます広がっている。

 かつてメインの看板だった「対魔忍アサギ」、それに続く「対魔忍ユキカゼ」の両ゲームシリーズ。

私は「対魔忍アサギ3」、「対魔忍ユキカゼ」、「対魔忍ユキカゼ2」のメインライターとしてシナリオを担当している。

 

エロゲーはシナリオが多いため、キャラごとに別のライターが執筆、あるいはエロシーンだけ助っ人が入ることがよくあり、実際にアサギ3はそのパターンなのだが、ユキカゼの二作については全部一人で書いている。*1

 

今までヒロインのゆきかぜや凜子について、かなり書いてきたことになるが、ここまで対魔忍ワールドが大きくなると、もう私以上に彼女たちを担当している方もいるはずだ。

そもそも、エロシーンが山ほど増えた決戦アリーナではあの二人をあまり書いてない。対魔忍ユキカゼ2とのコラボの他は二つ三つくらいだ。ゲーム担当者としてはちょっと寂しい。

一方、ゲームの男主人公だった達郎については、それ以外のメディアでほぼスルーされているだけに、今のところ私がもっとも彼のことを書いているに違いない。

 

しかし近年、達郎の存在がどんどん小さくなっていっている。

設定では、ゆきかぜの幼馴染で友達以上恋人未満の思い人、いやもっと恋人くらいだったにも関わらずだ。

 

例えば、対魔忍RPGにおいて、初期の【雷撃の対魔忍】水城ゆきかぜなどでは、

 

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「勝ち気で負けず嫌い、プライドの高さが玉にキズで唯一心許せる存在が幼馴染の秋山達郎。彼となかなか恋愛関係に進展できないのが悩み」

と、一応プロフィールでは言及されているが、現時点まで一切登場していない。

 

また、近日スタートのアクション対魔忍でも、

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「彼となかなか恋愛関係の進展できないのが悩み」

と彼はいるらしいが、達郎とは書かれなくなった。

 

そしてついに、対魔忍RPG【雷撃のクリスマス】水城ゆきかぜでは、

 

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「勝ち気で負けず嫌い、プライドの高さが玉にキズ」

と、達郎どころか、彼についての文章そのものが消えてしまった。

着実にいなくなっている。

これではプロフィールに「ふうまのことが気になるのだがどうしても素直になれない」とか書かれるのも時間の問題だ。

 

前置きが長くなったが、盛り上がる対魔忍ワールドとは裏腹に、いつの間にかいないことにされそうな達郎のために、なりゆきとはいえ彼を一番書いてきたライターとして、色々と思い返してみることにした。

今となっては、ネタとして達郎のことを知っている人はいても、彼をプレイした人の方が少なくなっている気がするので、まずは最初のゲーム、「対魔忍ユキカゼ」(以下、ユキカゼ1)から見てみよう。

 

対魔忍ユキカゼ

 

 これはオフィシャルサイトのプロフィールだ。 

 

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一応、本作の主人公と書いている。

しかし紹介文はこれだけだ。絵もない。*2

達郎のデザインが存在しないわけではない。冒頭のラフがそれだ。

 

全身像はラフしかないが、ゲームには顔のアップが登場している。

それがこれ。

 

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視線の先には、他の男にやられているゆきかぜの絵が入る。


『寝取られの対魔忍』こと秋山達郎の誕生だ。
この絶望顔はなかなか便利で、右側にゆきかぜと他の男の適当な絵をコラするだけで、新しい寝取られ画像ができあがる。

手元にないのだが、最近だとふうま君とゆきかぜが並んでいるのをよく見る。

 

この顔から分かるように、ユキカゼ1の達郎は単なる寝取られ男だ。それ以外の役割はないといっていい。

一応、主人公なので、プロローグでゆきかぜ、凜子ともに作戦に参加しているが何もやっていない。二人の活躍を横で見ていただけだ。

 

その後、任務に行く前のゆきかぜと普通にキスしてみたり、

 

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凜子にいきなり「SEXしてくれと」と言われたりして(結局しないのだが)、

 

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こいつは寝取られ男ですという伏線を張られ、所々でその役割を果たす以外は基本的に物語上なにもしていない。
二人が任務先で奴隷娼婦になっていることなどつゆしらず、五車の里でのんきに訓練などしている。

 

この訓練で、達郎の忍法を決める選択肢があるのがちょっとおかしい。

 

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ユーザーの選択によって、さくら先生との模擬戦の内容が変化して、それぞれの忍法を生かした戦闘描写など面倒だったのだが、最終的にはどれを選んでも変わらない。*3

 

達郎がどんな忍法を使おうが、奴隷娼婦になったゆきかぜや凜子を助けることは叶わず、五車の里に引きこもって、Y豚ちゃん、R子ちゃんのエロ動画を見ながら、一人寂しくオナニーすることになる。
達郎の出番はそれだけだ。

 

 

対魔忍ユキカゼ2

 

 ユキカゼ1ではさんざんな結果に終わった達郎。

それに比べると、ゲーム二作目「対魔忍ユキカゼ2」では、寝取られ役がメインではあるものの、達郎もストーリーにもちゃんと絡んでいる。

 

オフィシャルサイトのプロフィールも少し文章が増えた。

 

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なんとセリフもついている。

「ゆきかぜを守れる男になるよ!」ときた。

明日を救えバルディオスと同じように、この手の言葉は実現しないことが多いのだが、後述するようにハッピーエンドでは実際に助けているからびっくりだ。

 

相変わらず絵はないが、忍法は風遁の術と決まったようだ。おめでとう。
ここで注目すべきは、達郎の強さのレベルだ。
プロフィールにはこうある。

 

達郎の力は未熟で真空の刃で斬り裂く〝疾風斬”や風を操って盗聴する ”風聴の術”などの初歩的な風遁の術しか使えない。

 

真空斬りといえば、かの赤胴鈴之助も使っていた由緒ある主人公の必殺技だ。
懐かしのウィザードリィ小説「風よ。龍に届いているか 」でも、ずばりニンジャの主人公が素手で、マスターレベルの肉体を限界まで駆使して、ようやく小さな真空刃を出している。

その真空斬りを使える達郎が、未熟だ初歩的だと言われるのだから、いかに対魔忍の戦闘力が人間離れしているかが分かる。

 

ただ、そのわりに達郎はユキカゼ2の本編中、対魔忍として結構活躍している。

ゆきかぜと凜子に先行する形で、高坂静流とコンビで敵地に潜り込み、ジョジョのワムウのように風を身に纏って監視をくぐりぬけたり、自分の声を風で変調して音声認識を突破したり、隠し金庫に罠がないか風で調べてみたり、自分の風では倒せないサイボーグ蜘蛛をその特性を見抜いて上手くあしらったりしている。

 

このへんの活躍、プロットに元から書かれていたものもあれば、私がシナリオでつけ加えたものもある。

忍法も風遁の術と決まったことだし、先行部隊として敵地に潜入する以上、ある程度有能でないと困るので、しっかり描写させてもらった。

 

もちろん、年上で色っぽい静流に遊ばれてオロオロしているのだが、自分にできる範囲の力でちゃんと彼女の役に立ち、対魔忍として信頼もされている。
自信満々で敵地に潜入して、これくらいは大丈夫と思っていたら、いつも罠にどっぷり嵌っている二人組よりましだ。

 

こうしてみると、達郎は戦闘より諜報の方が向いているのだろう。
自分がまだ未熟だと自覚しているので無茶もしない。下調べを重視する。
同じく諜報の静流とうまくいっていたのもよく分かる。

 

この静流とは、敵の媚薬にやられた彼女を救うためという名目ではあるが、なんと童貞まで喪失して、しっかり彼女をアヘらせている。
静流はエンディングによって実は悪堕ちしていたとも、そうでなかったともとれるのだが、どっちの場合でも達郎を気に入っている風に書いている。

 

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このセリフは、静流がイタズラでいきなり背後から声をかけたとき、敵だと思って即座に殺そうとした達郎を受けてのものだ。優しい性格とか設定に書かれてるわりには、殺しを躊躇わないあたりちゃんと対魔忍している。

 

ちなみに、静流が達郎を気に入っているという描写は、対魔忍RPGで私が担当した静流のエロシーンにも入っている。
パイズリ勝負に負けたふうま君が泣き出したのを見て、達郎君の友達だからとおまけで今度一緒に任務をさせてあげるという場面だ。
もっとも、この静流のエロシーン、ごくごく初期に書いたものなので、ふうま君のキャラも違っている。

 

話をユキカゼ2に戻すが、静流にとって達郎は 「頑張り屋さんの可愛い男の子」というポジションだ。
達郎はそんなふうに見守ってくれている年上の女を相手にした方がうまくいくと思う。
この人に認められたいと思って頑張っているうちに、いつの間にか対等の男女の関係になっているというパターンだ。
アサギもそうだが、今までしっかりした年上の顔をしていた相手が、ただの女の顔をする瞬間というのは実にいい。
「男の子だと思ってたら、ちゃんと男の顔になってるじゃない。やだ、甘えたくなっちゃう」とかそういうのだ。私は好きだ。

 

達郎があくまで同年代のゆきかぜを目指すとすれば、「対魔忍としてゆきかぜを守れるように」とか面倒くさいことを考えず、単なるオスとしてもっとガンガン行くべきだろう。
寝取られルートで、ゆきかぜは達郎のことをさんざん「情けないチンポ」とか貶しているが、あれは単に見たことがないか、子供の頃に一緒にお風呂に入ったくらいの記憶から言ってるだけだ。

達郎が静流を本気でアヘらせる都合上、実はなかなかの巨根、普通に犯せば女を堕とせるマジカルチンポ持ちということになっている。
だから、ゆきかぜでも凜子でも思い切って押し倒してしまえば普通に即堕ちする。凜子は姉の自分は二番でいいと思っている節があるので、両手に花であっさりうまくいくだろう。
まあ、それができないから達郎なのだが。

 

さて、ユキカゼ2、ハッピーエンドルートのクライマックス。
ここでようやく達郎、ゆきかぜ、凜子、静流が一緒に行動している。
達郎はチームリーダーとして3人を敵の本拠地に案内し、護衛の配置を考慮しつつ、なるべく敵に合わないように、かつどこかで一網打尽にできるように誘導している。
 

ゆきかぜはそういった達郎の能力や気配りに全く気づいていない。出てくるセリフがこれだ。

 

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すっかり達郎を信頼していた静流に、これこれこういうわけと指摘される始末だ。

凜子はさすがに気付いていたが。
このあたりも、普段はともかく、任務のときには脳筋の彼女をもってしまった達郎の苦労が伺える。

 

ちなみに、このときの会話でゆきかぜが達郎のことを「敵を罠にはめて倒すゲームが得意だった」とも言っている。
タイトルは出していないが、このゲームはテクモの「影牢」シリーズをイメージしていた。
予めトラップをいくつも配置しておいて、敵が一つトラップにハマったら次から次へとトラップを発動させてコンボを繋げ、こちらは遠くから無傷で敵を倒す、その卑劣なやりくちがたまらないデームだ。

シリーズの二作目、PS1の「影牢~刻命館 真章~」がシンプルで一番趣味にあっていて、今でもときおり思い出してはプレイすることがある。

 

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その後、達郎はこの敵を罠にはめる力で、自分を上回る強さの中ボスを一人で倒している。
さらに、大ボスとのラストバトルでは、もう攻撃力は役に立たなくなっていたものの、ゆきかぜを一番よく見ていた達郎が、その大したことのない風遁の力で彼女を救って、大ボスに大ダメージを食らわせることに成功する。

 

この達郎の活躍はプロットにはなく、シナリオで私が書き加えたものだ。
プロットでは、達郎は完全に観戦モードで、ゆきかぜと凜子が二人で勝手に大ボスを撤退させていた。
しかし、達郎視点で書いている以上、いくらなんでもそれはあんまりだと思ったので、「ここで達郎が活躍するのはなし」というリテイクを覚悟して書いたら、そのまま通ってしまった。

 

この結果、大ボスは達郎のことも警戒して去っていく。
いずれユキカゼ3があるとして、邪魔なゆきかぜと凜子のウィークポイントとして、敵が積極的に達郎を狙ってくる伏線にも使えると思っていた。

 

さて、ここまで読んで、対魔忍RPGをプレイしている方なら分かるだろうが、この気づきによって敵を罠に嵌めて勝つ力、ふうま君そのものである。
ゲームが趣味という設定もよりピックアップされ、ゆきかぜもまたゲーム好きという設定が追加されて、二人で仲良くゲームなどしている。
そりゃ、達郎の出番もなくなるわけだ。


このようにユキカゼ2では、ためしに書いてみた達郎の出番がそこそこ残ったわけだが、今度は残らなかった達郎について述べてみる。
つまりシナリオに書いたものの、最終的にカットになったものだ。
対魔忍アサギ3にそんな場面がある。

 

対魔忍アサギ3は時系列的にはユキカゼ2の後にあたるが、発売されたのはユキカゼ1とユキカゼ2との間だ。
私はユキカゼ1を担当したのち、アサギ3を執筆したのだが*4、アサギ3がユキカゼ1の数年後ということで、こんなやりとりを入れていた。

山本部長がアサギ、さくら、紫を集めての会話だ。
当時のシナリオから抜粋する。

 

山本「他の幹部連中はどうした? 紫、九郎は?」
紫「兄上は任務で海外にまだ……申し訳ありません」
さくら「ユッキーや凜子ちゃんは潜入任務中だし……二人ともまた娼館だっけ?」
紫「そうだ。だから時間がかかる」
さくら「あーー、じゃ達郎君はまたヤキモキしてるのか。っていうか、いつになったらケリつけるんだろね、あの三人」
紫「知らん。興味もない」
さくら「つまんないの。ムッちゃん、ほんと人の恋バナどうでもいいよね」
紫「さくらが好き過ぎなんだ。そんなことばっかりやってるから、いつまでたっても恋人の一つもできないんだぞ」
さくら「ぎゃーー、そういうこと言う? 言う? それ言ったらムッちゃんだってず~っと一人じゃん」
紫「わ、私はいいんだ、別に」
アサギ「二人とも馬鹿話は後で」
アサギ「部長。今集まれるのはこの三人だけよ。他は全て任地で指揮を執ってるわ」

 

これが製品版ではこうなっている。

 

山本「他の幹部連中はどうした? 紫、九郎は?」
紫「兄上は任務で海外にまだ……申し訳ありません」
さくら「ユッキーや凜子ちゃんは潜入任務中だし……?」
アサギ「部長。今集まれるのはこの三人だけよ。他は全て任地で指揮を執ってるわ」

  

まるごとカットだ。
ゆりかぜと凜子がまた娼館に潜入とか、達郎がそれを知っていて、かつ三角関係ができあがっていることを匂わせるなど、こんなとこでちょっと書くにはやりすぎだ。カットもやむを得まい。


それからこのシーン。

五車町が急襲を受けたときに、アサギ3のもう一人のヒロイン、甲河アスカ視点のシナリオで、彼女は一人の対魔忍と会っている。

  

対魔忍「アスカちゃん、さくらさんと紫さんはどこかにいるずだ。どうか二人を救出してくれ」
 脱出を率いている対魔忍がアスカに声をかけてきた。
 里きっての剣の達人だが、彼もかなりの手傷を負っている。
アスカ「分かってます、秋山さん。さくら姉たちのとこに、あの馬鹿弟をさらったフュルストとかいう奴もいるんですね!」
対魔忍「そうだ。浩介くんもまだ無事なはずだ」
アスカ「無事じゃなきゃ許しません。ほんと超ド級のウルトラ馬鹿なんだからっ!!」
対魔忍「君たちは変わらずだな。じゃあ、後を頼む」
アスカ「秋山さんもお気を付けて。さっき教えたルートが一番手薄なはずです。でも油断しないでください。敵は恐ろしく綿密に今回のことを計画しています」
対魔忍「そのようだね。こんなに簡単に里が墜ちるとは油断したよ。だが、まだ負けた訳じゃない」
アスカ「ご武運を」
対魔忍「お互いにね」

 

アスカから見て年上の男、名字が秋山、里きっての剣の達人ときて、分かる人には成長した達郎と分かるようになっている。

 

これが製品版でどうなったかというと、セリフはそのまま、一カ所だけ変わった。

 ※『』は私が追記。

 

里きっての剣の達人だが、『彼女』もかなりの手傷を負っている。

 

一字変わって大違いだ。
ボイスも女性になっていた。
私も製品版をプレイするまで知らなかったので驚いた。


ただ、さくらたちの噂で相変わらず情けない達郎の話があって、女性関係はともかく対魔忍としては一人前になったということで達郎を出しているので、さっきのがカットになった以上、こっちの変更も妥当だろう。

 

とはいえ、ここのアスカは昔ちょっと憧れていた近所の対魔忍のお兄さんと会って、「ほら私も一人前の対魔忍になれたんですよ」的な嬉しい気持ちを抑えつつ、背伸びして普通に話しているという、やたら細かいことまで考えてセリフを作ったので、なくなって残念といえば残念だ。

 

前述したように、時系列的にアサギ3はユキカゼ2の後にあたり、その頃、あるいはもっと後に、ゆきかぜたちがどうなっているかはまるで分からないのだが、その点に関して、葵渚氏がインスピレーションを刺激しまくりの素晴らしい絵をツイートしてくれている。

 

 

この絵を見た瞬間、達郎が原因でこんな風になったのだと私は思った。

 

似合う台詞は「私があなたを終わらせてあげる」だ。

 

これが凜子。

 

 

ゆきかぜを守れるような男になりたいという思いの果てに、達郎は禁断の力に手を出してしまう。

凜子は達郎を止めたいと思いつつも、悪の力に飲み込まれた弟のそばから離れることができず、ついに対魔忍からも離反してしまった。

ゆきかぜは二人を追う。好きだった達郎を止めるために。

悪堕ちした達郎の目の前で、ゆきかぜと凜子はついに戦うことになる。

しかしそれこそが淫魔王の企みであった。

三人の愛憎の果てになにが起こるのか。

みたいな話だ。

ま、絶対に違うだろうが。

 

さて、妄想はこれくらいにして、この達郎特集もそろそろ終わりにしよう。

せっかくなので、達郎とゆきかぜとのラブラブなシーンを最後に付け加えておく。
これは妄想ではなく、ちゃんとオフィシャルであったものだ。
ユキカゼ2で、前述したように達郎のフォローで大ボスを撤退させたあとのやりとりだ。

 

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ゆきかぜ「やった~~~~、達郎っ!!」
 ゆきかぜが両手を広げて駆け寄ってきた。
達郎「はは、やったな、ゆきかぜ」
ゆきかぜ「うん、やった、やったよ。達郎っ!」
 ゆきかぜは俺の首にぶら下がるように抱きついてきて、まずキスをしてきた。
 今、ほかにすることはないという感じで強く唇を押しつけてくる。
ゆきかぜ「んっんっんっんん~~~~~~~~~っっ♪」
静流「こら、あなたたち、なにやってるの。一応まだ作戦中よ」
ゆきかぜ「あ……えへへ、ごめんなさい……」
 ゆきかぜは恥ずかしそうに俺から身体を離した。
ゆきかぜ「もうダメだよ達郎、いくら私が恋人で、いくらあんな化け物に勝って嬉しいからって、こんなときにキスとかしたら」
達郎「自分からキスしといてそれはないだろう」
ゆきかぜ「ええ、わたしからじゃないよ」
ゆきかぜ「わたしはちょっと抱きついただけ。達郎が先にキスしてきたんだよ。こういうときだけ大胆なんだから」
達郎「なんでそういう嘘を言うかな?」
ゆきかぜ「嘘じゃないってば! 達郎が先にキスしてきたの! そうなの!」
達郎「お前、顔真っ赤だぞ」
ゆきかぜ「そ、そういうこと言わない。さっきのは自分でもちょっとアレだったかなって思ってるんだから、もうなしなし」
達郎「アレって?」
ゆきかぜ「だ、だから、なんかほら映画のラストシーンみたいな。あるでしょ。最後にヒロインとキスしてハッピーエンド的な――ってなに言わせるのよ、バカ、エッチ!」
達郎「そこでエッチとか言われてもなあ」
ゆきかぜ「いいの! 達郎はエッチなの! エッチに決まってるの!! エッチ!! バカバカ!!」

 

ずいぶんと可愛く書いたもんだ。
ツンデレ娘のデレ爆発だ。ゲームだと声がつくのでさらに破壊力が増す。

達郎も結構ゆきかぜをリードしているのが驚きだ。
消えかけている今とは別人のようだ。

最近はスマホアプリ版もあるようだし、できれば実際にプレイしていただきたい。
 

こんな世界もあったねということで、望み薄だが、達郎の今後のがんばりに期待している。

ではまた。

 

 

 

*1:おかげで凜子を代表する頭の悪いセリフ「い、いきなりこんなチンポっっ!! これがプロかあっ!!」も考えることができた。

*2:対魔忍アサギ3で似たようなポジションにあった浩介にはラフがある。しかし色は付いていない。

*3:と書いたが、コメントで指摘していただいたとおり、実はグッドエンド条件に関わっていたのだった。だから2で風遁の術を使うのか。ごめん、達郎。

*4:もちろん将来ユキカゼ2があることなど知らない。

対魔忍RPG 殺人鬼ソニア & 稲毛屋のアイス 制作雑感

「殺人鬼ソニア」の復刻イベントが開始された。

これも記事を書くなら開催中だろうと、さっくりとまとめてみた。

いつもより少し短いのと、作ったのが同じ時期なので、今回は「稲毛屋のアイス」と二本立てでお送りする。

 

同じ時期と書いたが、以前紹介した「雷撃の対魔忍」、それから「殺人鬼ソニア」と「稲毛屋のアイス」は一ヶ月くらいの間に続けて作っている。

2018年の初め頃、まだまだ制作の初期でなにをしていいのか、なにをしてはいけないのか、今ひとつはっきりしないまま話を作っていたころだ。


ということで、今回もメインクエストと矛盾が起きないように、まだ出ていないキャラを出さない、行ってない場所に行かないという方針でやっている。
別にクライアントからそういう指示が出ていたわけではない。単にそう決めた方が余計な不安がなくて私が楽だからだ。

 

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まず「殺人鬼ソニア」は、メインクエスト7章までクリア済み、ボスがNo.16ソニア*1と言う条件で、ストーリーの方はおまかせだった。


「雷撃の対魔忍」は3章までだったので、4章で出てきた高坂静流が出せるようになったのがありがたい。
対魔忍ユキカゼ2で書いているのでキャラは把握しているし、ちょうどソニアが殺人鬼なので、その抑え役として登場させている。

 

物語は、アサギに呼ばれた主人公がソニアと任務に行くことを命じられて、こいつは死んだはずの殺人鬼云々と語り出すところから始まる。

今だから言うが、これあまり上手くない導入だ。
シナリオのテクニックでいうと、「聞いたか坊主」と呼ばれるもので、例えば、

 

「ねえ聞いた聞いた? 今度越してきたあそこの奥さん、元対魔忍なんだって」
「えっ? 対魔忍ってあの感度3000倍の?」
「そうそう。いやよね、そんな人が近くにいるなんて、子供の教育に良くないわ」
「どうりで引越しの挨拶してきたとき、妙にいやらしい感じだったわ。元対魔忍じゃあね」

 

こんな感じで、噂話の形でキャラの設定をだーっと説明してしまう。

聞いたか坊主の由来は、歌舞伎で幕あきに「聞いたか聞いたか」「聞いたぞ聞いたぞ」と言い合いながら登場し、やはり色々と説明してくれる小坊主からきている。
見たことはないのだが、「道成寺」とか「鳴神」で出てくるらしい。

 

歌舞伎は演目の約束として決まっているからいいが、普通は「消防士を出すならまず火事を起こせ」という鉄則どおり、キャラの設定はだらだら説明するのではなく、出来事で具体的に描写したいところだ。特に登場場面は。

 

例えば、「踊る大捜査線」は、主人公の青島が「昔の刑事ドラマ」まるだしの取り調べをするところから始まっている。
しかも取り調べの練習とすぐにわかり、犯人役をしていたヤクザ顔の先輩刑事に駄目出しされる。
青島のキャラをこれ以上ないくらい分りやすく描写するとともに、 これはそういうメタ視点を含んだギャクもあるドラマですよと、作品の方向性も一発で示す、実にうまい導入だ。

 

こう考えると、ソニアが殺人鬼ぶりを発揮しているところから始めたい。
ただ、手持ちのサンプルは基本的にふうま君視点のみで、それ以外の視点はごくたまに、ふうま君があれこれしていた裏でこのキャラは―――くらいの描写だったので、いきなりソニア視点の虐殺シーンから始めるのもどうかと思ったので、ここは聞いたか坊主で始めている。

 

それでも、冒頭の打ち合わせでソニアが出てきてしまうと、「なんだこいつ普通に話ができるじゃないか」と殺人鬼のインパクトが薄れるので、登場は現地に行ってからにして、出たらすぐにヤクザの事務所に乗り込んで理不尽な殺しを始める展開にしている。
ちょっと遅れたが、噂通りの殺人鬼ぶりをまずアピールしてもらったわけだ。

 

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このヤクザ皆殺し場面を冒頭に持ってきて、「俺がなぜこの殺人鬼と一緒にいるかというと」と回想を挿入することもできなくはなかったが、これはこれでよくある始まり方だし、静流が登場したメインクエスト4章でやったばかりなのでやめた。


ちなみに、後に毒使いの柳六穂が出る「毒も過ぎれば薬となる!?」という話を作っているが、このときは対魔忍RPGのサービスが開始していて、主人公以外の視点もOKとわかっていたので*2、六穂が単独でターゲットを毒殺するところから始まり、毒使いという紹介もすんたので、その後の主人公とアサギとの打ち合わせにも参加している。

 

ヤクザを皆殺しにして噂通りの殺人鬼とわかったあとは、主人公との触れ合いを通して、それだけではないソニアの別の一面が明らかになっていく。
といっても、人を傷つけるだけでなく、自分が傷つけられる痛みも好きな変態、さらに気に入った男とは殺し殺されるの関係になりたいド変態というのが分かるのだが。

 

殺し殺されるの関係については、ソニアをボスにするという条件からだ。
任務を通して主人公と仲良くなるのはいいとして、それからどうやってボスにするかで悩んでいた。


最初は体内に埋め込まれていたなにかで米連に操られて、やむを得ず戦うことになり、
「あんたは私が初めて気に入った男なんだ。そのあんたを殺したくない」
とか、ソニアらしくないセリフを言う展開を考えたりもしたが、殺人鬼というキャラにちょっと合っていない気がした。

 

そこで、本気で気に入ったので、単に楽しみのために殺すだけでなく、より楽しむために自分も殺される関係に格上げということに相成った。

快楽心中とでも言うのだろうか。
正直、意味が分からないし、ふうま君にとってはいい迷惑なのだが。

 

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ソニアはエロシーンは担当していないが、気に入っているキャラだし、他にいないタイプで使いやすいので、前述した「毒も過ぎれば薬となる!?」でゲスト出演している。
同じくそちらでゲスト出演した歴戦のオーク傭兵のおっさんとの関係が気になるところだ。
ちなみに、このおっさんの名前をいまだに知らない。

 

 

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次は「稲毛屋のアイス」についてだが、これもストーリーはおまかせで、ラスボスがクリア・ローベルという依頼だった。

ゆきかぜ、ソニア、クリアと、三つ続けてそのイベントのヒロインがラスボスでそろそろ話を作るのがキツくなってきたのを覚えている。

 

ところで、このイベント、私はプロットしか担当していない。シナリオは飯田和彦氏の担当だ。

それでいてプロットを作ったのは「殺人鬼ソニア」より前という、ややこしいことになっている。
プロットを作って、さあシナリオにかかろうという段になって、先にソニアの方をやって欲しいということになり、それが終わったらまた別の急ぎの依頼が来てとやっているうちに、シナリオまでやれずじまいになってしまった。

 

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とはいえ、クリアの愛称じぽちゃんの元になったこのセリフなど、私の言語感覚からはまず出てこなかったし、

 

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クライマックスでのふうま君のこのセリフも、プロットではもっと冷静な感じにしていたので、ここまでウェットに変えてきたシナリオを見て、「うまい! やられた!」と思っている。

 

また、このイベント、アイデアは「殺人鬼ソニア」と並行して考えていたので、ちょうど裏表のような関係になっている。

あっちは恐ろしい殺人鬼だと思っていたソニアが実は……というパターンで、*3
こっちは可愛らしい女の子と思っていたクリアが実は……というパターンだ。

 

実は恐ろしい刺客というのはありがちだが、ソニアが最初から最後まで血生臭いので、クリアは真相が分かるまでぼのぼの路線、ストーリーの展開よりも、一緒にアイスを食べたり、フリスビーで遊んだりと、 とにかくクリアを可愛らしく描写することに力を注いでいる。それでいいのだ。

 

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それにしても、ロリキャラと仲良く原っぱで遊ぶとか、私にとっては、「Flutter of birds~鳥達の羽ばたき~」の美浜つばさ以来だ。シナリオライターとして最初にキャラを考え、プロットを作り、シナリオを書いたキャラ*4である。

発売はなんと2001年。その後しばらくして制作雑感を書いていたが、それすら10年以上前だ。時の経つのが早すぎる。

 

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分かる人には一発で分かる特徴的なこの絵は、ストーリー重視のエロゲーの元祖ともいえる「同級生」シリーズを手がけた竹井正樹氏によるものだ。

私にとっては初めて会った、そして仕事をさせてもらったプロの絵描きで、とにかく早くて上手い人で、その両輪においていまだに竹井氏を超える人に会ったことがない。

 

さて、エピローグでクリアはゆきかぜの家に引き取られることになる。

これ最初はふうま君の家ということにしていた。
しかし、単発のイベントでそれをやると、影響が大きすぎるということで変更になったのだが、それでも影響は十分すぎるほどあった。


クリアはレギュラーのゆきかぜにくっついて、その後も色々なイベント、さらにメインクエストでも顔を出すようになったのだ。

対魔忍ワールドでロリキャラは珍しいので、マスコット的なポジションを確保したようだ。
また、ゆきかぜが意外と面倒見がいいこと、しっかりお姉さん役をやっていることなど、クリアを通してゆきかぜの新たな個性も表現できた。いや、めでたい。

 

私も、アンジェが主役の「ジューンブライド狂想曲」でクリアを登場させて、ようやくセリフを書くことができた。

 

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ふうま君は鈍感なのでスルーしてしまっているが、いつの間にか決め台詞が変わってるところがポイントだ。

 

カラスちゃんという相棒もでき、このカラスちゃんが決戦アリーナのような進化を遂げてからのことも楽しみだ。

ミナサキと同じくヤタガラス族の困った本性を発揮しはじめた元カラスちゃんが、クリアとだけは昔と変わらず仲良し。そんな関係を期待している。

 

最後に、そろそろクリアに私服を与えてやりたい。

鉄板のガーリーなワンピースとかも捨てがたいが、ここはあえてボーイッシュなサロペットデニムを推しておく。そして頭には可愛く結んだバンダナ。

 

*1:ナンバー付きが正式名称

*2:「まりの大冒険 闇の町の怪紳士」がその形式

*3:「実は優しい心の持ち主」とかではないのだが

*4:物語上のハッピーエンドで死なせたおそらく唯一のキャラでもある。当時は泣きゲー全盛期だった

対魔忍RPG 「降ったと思えば土砂降り」制作雑感

アスカが主役のイベント「降ったと思えば土砂降り」が始まった。

久しぶりにストーリーを最初から考えたイベントで楽しみにしていた。

ということで、まだイベントの途中だが色々と思い返してみる。

 

 

その前に、この絵はイベントが始まったすぐ後に、旭氏がツイートしてくれたものだ。

素晴らしすぎる。

 

さて、このイベント、もともとは特定の季節や新規キャラとは関係なく、いつでもやれるストック用で、内容もお任せということで、その時点であった素材を使って、好き勝手に考えさせてもらった。

 

サブタイトル「降ったと思えば土砂降り」は英語のことわざ、

「When it rains, it pours.」

の和訳で、日本のことわざでいうと「踏んだり蹴ったり」、「泣きっ面に蜂」と言ったところだ。

 

当初は「間違えられた女 アスカの災難」というサブタイトルを考えていた。

こちらの元ネタはヒッチコックの映画、人違いで酷い目にあう「間違えられた男」、重大事件にも拘わらず登場人物が次々とボケをかましていく「ハリーの災難」だ。

まあ、そんなイメージで話を作った。

 

主人公をアスカにしたのは、本編でふうま君とたびたび接点はあるが、いつも任務ばかりなので、それ以外のアスカの日常を書きたかったためだ。

 

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休みの日に外に出たら、変な連中が次から次へと現れ、いつもはふうまを振り回しているアスカが同じ目に会い、戦闘用の手足もないので困ったなという展開だ。

 

ただ、日常用の手足で苦戦していたところを、ついに戦闘用の手足に換装して「でんでんでんでん♪」と腕組みして登場みたいなシーンは欲しかったので、クライマックスで換装ボックスが基地から飛んできて地面に突き刺さり、そこに入って変身、あるいはアイアンマンみたいに手足自体がぶっ飛んきて次々とチェンジというのを提案したのだが、無理がありすぎるということでボツになった。さもありなん。

 

なので、アスカは日常用の手足のまま、それまで自分を振り回していたリーナや黒田巴と協力して勝つことになった。

リーナが「イングリッド様が聞いたら驚くな」と喜んでいるように、米連、魔族、対魔忍の共闘というのがいい。

 

このトリオ、オープニングでぶっ放しているようにアスカもたいがい非常識だが、そのアスカが基本前のめりのリーナと、思い込みが激しい巴に振り回されている姿は書いていて面白かった。

 

その前のDSO本部での女の子同士のお喋りも、ふうま君視点ではまずできないので、外伝ならではのお楽しみだ。

ジューンブライド狂想曲」以来のアンジェに加えて、まだ登場していなかったアルベルタドナ・バロウスをひょいと出せたのが嬉しい。

 

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適当にキャラを選んだわけではなく、アンジェはDSOからの連絡員として五車に時々来ている、アルベルタは魔族だがDSOの協力者、ドナはDSOではないがアンドロイド・アームがアスカの予備をカスタム化したものと、これまでのイベントや設定にそっている。

 

ところでこの話、報酬は新規キャラの黒田巴だが、目立っているのはリーナのほうだ。

それも当然、最初はアスカとリーナの二人だけだった。

元がありもの素材のストーリーなので、新規報酬キャラの巴が出てくるわけがない。

それがプロットができたくらいの段階で、巴を報酬にするイベントにするから、ちょい役で出してほしいという依頼があり、今のような形になった。

 

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リーナを相棒に選んだのは、今までのイベントで何回か出番があり、SRキャラにもなってるわりには、ふうま君を勘違いで襲ってきたり、強すぎる相手にすぐやられてしまったりと、ポンコツな面ばかりが目立っていたので、魔界騎士として本当は強いというのを見せてあげたかったからだ。

 

この娘、魔族としては魔力が弱く、角も小さくて、周りから白い目で見られてきたという、なかなか重めの過去があったりするのだが、それを努力でカバーしてイングリッドに認められるまでの強さになったという、一昔前の主人公みたいないい娘なのである。

 

そんないい娘のリーナを、以前のシナリオでプロットには「腕をひねる」とだけあったのに、アドリブで脱臼までさせてしまったおわびだ。

 

というわけで、今回のリーナは基本はポンコツなものの、いざ戦いになれば魔界騎士としてかなり強いという描写をしている。犬を除いて。

 

お気に入りのシーンは、弁慶にやられそうな巴のピンチを救った後に、自分もバック転しながら桜の目眩しで身をかわすところだ。

決め台詞の「華麗に軽やかに」を地で行く場面だ。

それでいて、「とおっ!」という、昔の仮面ライダーみたいなセリフが出るのもリーナらしい。

 

犬が苦手という設定は、逆にリーナのピンチを巴が助ける場面を作りたかったのだが、強いリーナにしてしまった手前、さてどうやってピンチにしようと、それまでの展開、今までの資料やシナリオを見返していたところ、ふとインディ・ジョーンズの蛇のように、すごく強いがこれだけは苦手というのがあったら個性になるなと、このイベントでいきなり設定をプラスしたら通ったものだ。

 

なにが苦手かは、絵の素材があればなんでもよかったのだが、ちょうど考えているときに、やはり旭氏がツイートしたこの絵を見て、ビビッと来た。

 

 

「お屋敷の怖い番犬に吠えられてトラウマ、これだ!」

 

そして「犬な苦手なキャラ」と思って、すぐこの歌詞が浮かんだ。

 

 ずっこけなんだ、あわてんぼなのさ。

 いつも失敗ばっかりしてるんだよ。

 だけど犬にはとっても弱いんだってさ。

 

言わずと知れたと言いたいところだが、さすがに古すぎて分からないユーザーも多く、ちょっと反省の「新オバケのQ太郎」の主題歌だ。

なにしろ「新」といいつつ放映は1971年、私だってリアルタイムでは見ていない。

後年、モダンチョキチョキズがカバーしているが、それだって1992年だ。

 

しかも、上の歌詞はうろ覚えで、一番と二番が混ざっている。

正しい歌詞はYouTubeのここで見られるが、

ずっこけで、あわてんぼで、失敗ばかりして、だけど犬に弱い。

だけどもなにも、悪口しか言っていない。

しかし、リーナによく合う……あ、いや、違った。

「だけど犬以外にはとっても強いんだってさ」だ。

語呂が悪いな。

 

一方、リーナを最大のピンチから救った巴。

それ以外では、アスカたちを犯人と決めつけて襲ってきたり(これは当初の“間違えられた女”からだが)、弁慶に自分から突っ込んで二度も殺されそうになったりと、強力な技を使うわりにあまり良いところがない。

 

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後から追加のちょい役だったせいもあるが、ただでさえリーナが大活躍しているので、さらに新キャラの巴まで無双しては焦点がぼやけると、ここは脇役に徹してもらった。

 

今回はリーナを犬から助けたファインプレイで十分。

いずれ巴がメインになるイベントで本来の実力を発揮してくれるはずだ。

 

巴といえば、蓮魔先生とのヤバい関係がポイントだ。

イベントではイングリッドの写真を欲しがるリーナに共感したりして一見まともそうに見えるが、エロシーンではえらいことになっている(担当はしてないが、資料は見た)

 

IFでない本編でもアレがあるのかないのか気になるところではある。

この先、巴がその強さを発揮する場面があったとして、その理由がこのイベントではまだ生えていなかったアレが生えたからだとしたら、ちょっとイヤだ。

 

ボスの千住院弁慶についても述べておこう。

このキャラも最初は別人で、レディ・スマッシャー(粉砕屋)という元傭兵の女サイボーグを考えていた。

 

戦場で身体を失うたびにサイボーグ化していって、顔以外の生身はほとんど残っていない。

回転する爪、マシンガン、ミサイルなど全身が武器で固められ、現地改修を繰り返したのでパーツもバラバラ。
だから、見た目が綺麗なサイボーグであるアスカを憎悪するというキャラだった。
趣味がもろに出ている。

 

その後、巴の追加と同じくして、ボスを超人に変更するということになり、完全な生身でサイボーグと互角に戦う怪人を考えた。
僧兵姿にしたのは、倒したサイボーグの頭を数珠つなぎにしているというビジュアルをやりたかったためで、分かりやすく名前も弁慶にした。

 

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ちなみにこの人、サイボーグ狩りとは別に宿命のライバルがいたりする。

イベントにはまるきり反映されてないが、設定には書いた。
自分と同じくらいに強靱な肉体を持ちながら、鍛錬ではなくドーピングで強くなろうとする、サイボーグ以上に許しがたい男。

 

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そう、マッスル団のボス、マッスルジョーその人だ。

ファイトスタイルも対照的で、生身にこだわるくせに武器は山ほど使う弁慶と、ドーピングしまくりだが戦いは素手で行うマッスルジョー。
この二人の決闘はさぞ盛り上がると思うのだが、そんな男同士の熱い関係など知らぬまま、二人ともアスカが倒してしまった。

 

 最後に、仮面の対魔忍へのおすすめプレゼントについて。
アロマやハーブティや入浴剤については、特にこれといった実在の商品イメージはないのだが、お菓子だけはちゃんと考えていた。
イベント中には名前を出してないが、せっかくなのでここに書いておく。

 

まず羊羹はとらや
老舗中の老舗だ。

でかいのを一本買うと結構な値段がするが、この一口サイズの詰め合わせとかは5本で1400円ほど。数は好きに増やせるし、ちょっとしたプレゼントにもいい。

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とらやカフェとかでも売っている、あんペーストなんかも楽しい。

私はこしあん派だ。

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そしてチョコレートは、この店「La Maison du Chocolat: ラ・メゾン・デュ・ショコラ」のをイメージしている。

 

一番オーソドックスな、この16個入りで5400円。はっはっは。f:id:masaki_SSS:20191201143604p:plain
しかし、アスカの言う通り、高いけれど本当に美味しい。

美味い美味いと口に放り込むとあまりにもったいないので、一日一つか二つ、コーヒーや紅茶と一緒にじっくり味わいたい。

あげて嬉しい、もらって嬉しいプレゼントだ。